55話 集大成に行くまでの
「ふふ…… 形になって来たじゃないか」
「モウスグ、デキル、スグ、デキル」
僕は今、ギリアン地区の地下にいる。
ギリアン地区の地下に建設された、巨大な地下街の中央でドヴェルグと会話をしている。
「アト、スコシ…… アト、スコシダ」
ちなみにこのドヴェルグって奴は蛆虫が進化した闇の精霊で…… まぁ、簡単に言えば闇落ちしたドワーフみたいな奴である。
そしてこのドヴェルグはドワーフと同様、高い建築技術や工芸技術をもっているのだ。
前の世界の伝承にあるドヴェルグとは設定が少し違う気がするけど、細かい事はどうでもいいだろう。
この世界ではこういうものなのだ。
とにかく、今の僕にとって非常に都合の良い存在であることには変わりはない。
「くく、楽しみだ」
で…… なんで僕がそのドヴェルグを使役しているのかと言うと、それは僕がこいつらに、この地下街を作らせているからだ。
闇市を開くべくして造った、この巨大地下街を建設させているからなのだ。
「テナントは全部埋まっているし、後は開店を待つばかりだな」
そう……
この闇市に出店する店は、いまや全てが決定している。
僕がべヒモスから受け継いだ商売に、レヴィアタン、ジズから強制的に誘致をさせた店舗……
そして、マスタング陣営からの店舗誘致により現在この闇市に空き店舗は存在しない。
実に、素晴らしい。
いやしかし、まさかここまで完璧にマスタング陣営を引き込めるとは正直思っていなかった。
なにせユエは何の問題も起さず、丸ごとマスタング陣営を味方に引き入れてしまったのだから。
正直、もう少しいざこざが発生すると思っていただけに以外の一言である。
だがそれもこれも全て、長期にわたるユエの入念な根回しのおかげなのであるが。
何というか……
今回のユエの篭絡の方法は、正に鮮やかの一言だった。
もう、素晴らしいを通り越して恐ろしい程である。
と言っても……
始め、僕はユエが何をしているのか全く分っていなかった。
何せユエは商売とは無縁そうな人物との面会を繰り返したり、良く分からない商品アイディアのサンプルを無数に造ったり、NPO法人みたいな団体を発足させたりと……
一見、関係のない行動をとり続けていたのだから。
だから僕は、計画の遂行にはまだ時間がかかるのだろうと思っていた。
そろそろテコ入れでもした方がいいかと、余計な事を考えていたほどだ。
しかし……
そんな僕の考えは杞憂に終わる。
なぜなら、この結果と通り、ユエは完璧に仕事をこなしたのだから。
ほんの一週間前の事である。
今までずっと無関係な行動をとり続けていると思っていたユエであったが、ある日それを一転させ、一気に核心へとせまる行動をとり始めた。
そう……
動きだしたユエは動きだした直後の一瞬でマスタング経営傘下の主要企業全てを懐柔したのである。
ほぼ一日のうちに、主要企業全てを同時に懐柔し、ユエとの協力関係体制を作り上げたのだ。
そして、マスタング自身が協力せざる得ない状況を作り出したのだ。
本当に……
見事な手際だった。
全てが終わってみてようやく分かった事なのだが…… ユエが行っていた行動は全て、マスタング傘下主要企業のトップ一人一人にターゲットを絞った懐柔作戦であったようなのだ。
ある会社の運営に必要な備品の生産を行っていたり、ある社長の趣味活動にかかわってくるNPO法人であったり、ある会社の評判を上げるボランティア活動であったり…… と。
そう、ユエの行動には全て、恐ろしい程に練りこまれた懐柔作戦であったのだ。
懐柔の対象を企業全体とせず、トップのみを攻略対象とした行動……
トップ達が協力せざるを得ない状況と条件を提示し、かつその攻略を複数人同時にバランスよく行う。
それぞれを個別に、均等に攻略する。
水面下で活動し続け、全員のトップが落とせる段階になってから…… トップ達を同時に突き落とす。
怖くないように、「みんなも同じだから」とでも言うように…… 安心させて突き落とす。
一瞬で迅速に全員を落とし、そして余計な詮索や対策をさせないうちにマスタングすらも篭絡する。
緻密な下準備からの高速篭絡作戦。
僕からのユエへの「極力マスタングに気づかれずに下部組織を懐柔する」という要求を、「一気に切り崩して、気づいた後の対応をさせない」と言う結果で答えたのだ。
いや…… 本当に恐れいる。
なんと言うか、ユエが味方で本当に良かった。
とにかくそんなユエの努力のかいあって、今やこの地下街はこの国最大規模の大市場になろうとしている。
そして…… なによりこの闇市は奴隷市を兼ね備える。
べヒモスから奪い取り、レヴィアタンとジズから巻き上げた奴隷市を統合した最大の奴隷市。
この国唯一にして、世界最大規模の奴隷市を兼ね備えるのだ。
くふふ………
もうすぐ出来る。
一般企業と裏企業と奴隷市がひしめく混濁にして混沌の闇市。
実に僕らしく、そして素晴らしい闇市だ。
ああ…… 完成が実に楽しみだ。
「オイ、ヤクソク、ワスレルナ」
僕が闇市を見つめながら恍惚としていると、ドヴェルグがそんな僕を見上げる。
「ああ、勿論約束は守るさ、全部の作業が終わったらな」
「ナラ、イイ」
ちなみにこの大量のドヴェルグ。
どうやって契約しているかと言うと、それは僕の魂を対価に契約をしている。
地下街の建設と、ギリアン地区改装に必要な建築材の作成を対価に、高位の悪魔たる僕の魂を差し出す契約をしているのだ。
なにせ地下街の建設までは、計画の進行上、秘密裡に建設をする必要があったため、人が使えずドヴェルグを使うしかなかったのだ。
だが、マスタングを引き込んだ今、最早そこまで隠す必要もない。
ここからは大々的に売って出れるから、建設に人が使える。
だからここからのギリアン地区の開発には、一般の人間を使う。
その方が宣伝にもなるしな。
ドヴェルグと違って、人間は不眠不休では働かせられない為、スピードは落ちるが仕方ない。
まぁ地下街と違って、上はメイン商品を扱うから、外装内装にもこだわらないといけないからな。
どのみち、馬鹿なドヴェルグ達には任せられないか。
今後ドヴェルグ共はサポートメインで使って行くとしよう。
まぁ、ドヴェルグ達に作らせた建築材があるし、既存の建物を元に建設するから、ここからの工事はそこまでかからないだろう。
それに、金はあるから、人を大量に投入できるしな。
つまり、ここからは加速度的に完成へと向かって行くという事だ。
「それじゃあ僕は行くよ…… 後は任せた」
「ワカッタ」
一通り建設セクションを視察した僕は、そう言って次のセクションへと向かう事にするのだった。
「……約束ねぇ」
因みに、ドヴェルグ達との契約だが……
「そんなの守る訳ないだろう」
勿論、ドヴェルグ達を皆殺しにして反故にするつもりである。
因みに奴らとの契約書には「気に食わなかった場合、皆殺しにしてはいけない」とは書いてない。
加えて、「一切の殺害等を禁ず」との契約事項もない。
そして悪魔との契約は「確認しない方が悪い」が鉄則である。
だから……
「皆殺しでもしょうがないよね? くふ……」
さて……
これで「地区開発セクション」はもう大丈夫だろう。
――――
「元締め…… こちらがとんこつらーめんの試作四号になりやす、どうぞお召し上がりくだせぇ」
「うむ」
ギリアン地区のべヒモス本拠地跡地こと現星屑組本拠地の一角にて、僕は今、ラーメンを食べようとしていた。
「見た目は完璧だな」
僕の目の前に置かれてあるそのラーメンは、白濁色のスープに、厚切りのチャーシュー、煮卵、ネギ、メンマが置かれてた、実に美味しそうな豚骨ラーメンである。
匂いもとんこつ特有の、かぐわしく芳醇な香りで申し分ない。
「へぇ、元締めの指示通りに致しやした…… さ、冷めないうちに」
「頂こう」
僕はおもむろにレンゲを手に取ると、それで白くかぐわしいスープをすくい上げる。
それを口元へともって行き、ふぅふぅと二回ほど息を吹きかけて冷ます。
その間にも、香ばしい豚骨の香りが鼻腔に広がっていく。
そして僕は…… スープを口にした。
「うん……」
口の中に広がるこの味は……
「いかがでしょうか……?」
極上の醤油ラーメンである。
「……………上手い、完璧だ」
「ありがとうごぜぇやすッ!!」
その後、僕はその醤油ラーメンを速攻でかきこみ、席を立つ。
「上手かったぜ……」
そして僕はそう言い、テーブルに金を置いた。
「も、元締め? そ、そんなお代なんて、それもこんなに…… あっしらは十分な禄を頂いておりやす」
すると、料理長は少し慌てた様にそう言った。
「いや、これは僕からの謝礼だ…… この豚骨ラーメンでメイン商品はコンプリートだからな、この金で皆で酒でも飲んでくれ」
そんな料理長を一瞥してそう言うと、僕は席を後にするのだった。
「ぁ………ありがとうごぜぇやすッ! このまま甘味の方も頑張らせていただきやす!!」
僕の背中にお辞儀をしながら、叫ぶようにそう言う料理長。
「ああ、頼む」
僕は、振り返らず手だけを上げて、それに答えるのだった。
「おい! てめぇらぁ!! 元締めをお見送りして差し上げろ!!」
『へぃッ!! 元締め、ありがとう御座いましたぁ!!』
僕が立ち去ろうとすると同時に、そろって大声を上げる料理人共。
料理人と言えども堅気でないこいつらは、全員が全員、実にいかつい顔をしている。
うん…… 実にムサイな。
早く退散しよう。
「また三日後には視察に来る、それまでに形にしておけ」
『へいぃッ!!』
僕は彼らにそう言い残して立ち去るのだった。
「……………………ふむ、ちゃんと出来るもんだな」
僕は調理場を後にして、しばらく歩いた後、ふと呟く。
先ほど食べた、「見た目とんこつの醤油ラーメン」を思い返してそう言う。
「適当にやってたのに……… なんとかなるんだな」
あの、見た目がとんこつラーメンなのに味は醤油ラーメンと言う、実に奇怪なラーメン。
あんなおかしな料理が出来たのには勿論理由がある。
そして、その理由とは当然、僕が作らせたからである。
僕が、ギリアン地区の商業開発に伴い、「この地区限定の食べ物を作ろう」と思い、前の世界の料理を再現させるべく作らせた物なのである。
だが勿論、僕が作らせたかったのは普通の醤油ラーメンであって、あんなとんこつラーメンの見た目をしたラーメンでは無い。
普通の醤油色をした、あの茶色のスープのラーメンを作らせたかったのだ。
では、何故そうなってしまったのか。
それは実にシンプルで、そして実にどうしようもない原因に帰結する。
こんなおかしな料理が出来てしまった理由。
そう、それは……
僕が料理を出来ないからである。
そう、僕は全く料理ができない。
と言うか料理などした事が無いのだ。
そして料理が出来ないと言う事は、料理に対して興味がないと言う意味を含んでおり、加えて食材に対しての興味も無い事も意味している。
つまり、何が言いたいかと言うと「僕は料理に関する一切の知識を持っていない」と言う事である。
まぁ…… さすがに醤油や味噌が大豆から出来てる事とか、米を水田で育てる事とか、そう言う事は知っている。
だが、僕が知っている事はその程度だ。
醤油や味噌がどういった過程で醗酵していくのか、米を水田でどうやってそだてるのかは全くもってしらない…… そう言った細部はまるで知らないのだ。
よくラノベで出てくるような主人公は、やたらとそっち系の知識が豊富だったりするのだが、あいにく僕はそう言った事には疎い。
つまり、僕はどうやって料理を再現したらいいのか、その手段が全く分からないのだ。
醤油ラーメンを作ろうにも、醤油の作り方も知らなければ、麺の作り方もメンマの作り方も、チャーシューの作り方も、醤油以外に何を入れてスープを作るのかも…… 何もしらないのだ。
この世界に似たような食材や材料があれば別なのだが、生憎とこの世界の料理にはラーメンもなければ寿司もトンカツも存在しない。
いや、もしかしたらどこかには存在するのかもしれないが、僕の『悦覧者』では調べられないのだ。
「醤油っぽいの」とか「寿司っぽいの」みたいなニュアンスで検索したくても、そもそも「醤油」も「寿司」が存在しないこの世界では、そんなフレーズでは検索ヒットしないのだ。
これで、「実は過去にも異世界トリップの人がいて日本料理作ってました」、みたいな展開だったら、そう言った検索でも引っかかるのだろうけど、生憎それもない。
故にお手上げである。
当たり前であるが、この世界に存在しない知識や単語は調べられない。
それが僕の『悦覧者』の限界なのだ。
そしてそれはつまり、料理の再現の不可能を意味している。
いくら、この「新生ギリアン地区」の名物料理として元の世界の料理を出したくても……
寿司とかすき焼きとかラーメンを再現したくとも出来ないのだ。
そう、僕には出来ない、情報が足りないのだから。
だが……
僕はそれでも作らせた。
見た目が違うとは言え、ちゃんとした醤油ラーメンを作らせたのだ。
この状況下でそれに成功したのだ。
だがまぁ、当然それは……
「僕が頑張った訳じゃないんだけどね」
僕が「前の世界の料理の再現」に用いた方法。
それは……
料理人達への丸投げである。
そう、僕はその全てを料理人達に丸投げしたのである。
この、「裏社会における新生大組織の首領」と言う地位をフルに活用し、「新しい商業地での正規雇用」を条件に、明らかに堅気ではないはみ出し者の料理人達を集めて雇用し、そしてあとはそいつらに丸投げしたのだ。
具体的にどう丸投げしたのかと言えば……
この醤油ラーメンに関して言えば「しょっぱい味の出汁が効いたスープに、麺が入っている料理を作れ」と言って丸投げしたのだ。
『悦覧者』を用いて、この世界の料理の情報を出せるだけ出して、それを書面にまとめて参考資料として渡し、あとは全て丸投げしたのだ。
そして同時に「全て違う味で100個作れ、ただし、一つでも不味いのがあればぶっ殺す」と言ったのだ。
僕がべヒモスを潰したと言う実績を、彼らが承知していることを前提に『気高き悪魔の矜持』でプレッシャーをかけながらそう命じたのだ。
そして、生るか死ぬかの環境の中で作らせた100個のラーメンもどきの中からそれぞれ「一番醤油ラーメンっぽいの」、「一番とんこつラーメンっぽいの」、「一番味噌ラーメンっぽいの」をチョイスして、それをベースにそれぞれのラーメンを研究させたのだ。
その結果、今回の「とんこつの様な見た目の醤油ラーメン」の様な物が出来たと言う訳である。
そして……
僕はこれと同じ要領で他の料理の再現も成功している。
まぁ、「醤油ラーメン」と同じ様に見た目は違うものがほとんどだが、味は限りなく再現できていると言って過言ではないだろう。
寿司に関しては姿自体も完璧な再現と言っていい。
シャリの握り方は、なぜか少しアクロバティックで独特だが、品自体の再現率は完璧と言っていいだろう。
わさびに関しても「もっと爽やかな感じのマスタードみたいなの探してこい」と言う命令で、本当にわさびっぽい食材の発見に成功している。
そして、今回でようやく成功した「醤油ラーメン」の「醤油味」の開発成功によりさらに料理の再現率が高まる事だろう。
濃縮して加工すれば、「なんちゃって醤油」が作れるのだから。
これで寿司もすき焼きの再現も完璧に近づける筈だ。
「くふふ…… 早く食べたいな」
そして甘味に関しても、同じ要領で進行するだろう。
まぁ、この世界はスイーツ自体は意外と豊富みたいだから、ラーメンよりは進行が格段に速いことだろう。
あんこみたいな物も、一回食べた事あるしな。
とにかく…… これでもう「調理セクション」は大丈夫だ。
視察のたびに『魅惑』を発動し、加えて「褒めるときは褒める」を実践し続けた結果、料理人達との関係も良好だしな。
さぁ…… 次の視察へと行こうか。
――――
「それで、マリア…… 進行はどうだい?」
僕は膝の上にマリアを乗せ、その頭を優しく撫でながらそう問いかける。
「うん、問題なく進んでるよ」
するとマリアは撫でられて満足そうにしながら、僕に背中をあずけて自らの後頭部を僕の胸元にこすりつける。
そんな、二人きりの時はやけに甘えんぼなマリアである。
「あたしが連れてきた人達も、ちゃんと働いてるしね」
そう言って、少し自慢げに僕を見上げ「ほめて」とばかりに微笑むマリア。
ああ……
可愛いなぁ。
最近、むさい野郎ばかり相手してたから、特にそう感じる。
やっぱり幼女は格別だぜぇ。
「とにかく計画の進行は完璧だよ!」
そしてマリアは、ふんと息をはいて僕にドヤ顔を決めるのであった。
「そっか、さすがマリアだなぁ」
「えへへ、もっと褒めてくれてもいいよ」
そんなマリアを僕はきゅっと抱きしめ、褒めてあげる。
マリアは僕の腕の中で、幸せそうに微笑むのであった。
そうか計画は順調か。
まぁ……
そんなのは始めから知っているのだけどね。
僕はこの「メイン商品開発セクション」に一番必要な人材のスカウトをマリアに任せ、そしてその人材の管理をマリアに任せた。
僕の手持ちの駒の中では、マリアが一番その任務に適していたからだ。
まぁ…… 本当は僕自身がやるのが一番であるのだが、そうも言ってはいられない。
勿論、このセクションは「メイン商品」を扱う重要なセクションである為、当然僕自身も管理運営はする。
だが、僕は全体を見ないといけないと言う立場上、ここにかかりきりと言う訳にもいかないのだ。
故に、このセクションを管理でき、加えて信頼の置ける人材は必須なのだ。
ただ…… マリアの場合、信用はともかくその能力にいささかの不安が残る。
ユエは経営と交渉の天才で、シルビアはああ見えて錬金術のエキスパート、そして緋色は高いカリスマ性をもつ。
だが、そんな中で……
そんな天才的な人材の中で、マリアだけはただの下級悪魔でしかない。
つまり…… マリアだけは基本的に有能な人材ではないのだ。
基本スペックで大きく劣るのだ。
だから正直な所、マリアが管理する事には少しだけ不安を覚えていた。
勿論、対策は講じている……
マリアとの悪魔契約の内容をいじくり、マリアへの力の供給を強め、さらにマリアを上級悪魔である僕の、その直属の第一眷属に設定することでマリアの能力を根本的に底上げしている。
とは言え、所詮は下級悪魔。
下級は下級であり、それ以上では無い。
まぁ、マリアを根本から変えて性能を格段に向上させる術はある。
だが、それをしてしまうと、マリアと言う人格に影響を及ぼしかねない。
つまり、マリアがマリアで無くなってしまうかもしれないのだ。
故に、それをする訳にはいかない。
いくら有能な人材が欲しくとも、それだけはいけない。
そう、人の人格とは唯一無二でありとても尊く、無暗やたらに手を加えて良いものではないのだ。
いかな理由があろうとも、それを害する行為はしてはならないのだ。
…………ちなみに、僕にとって人格として認めるのはロリである事が前提であり、加えて僕を好きに成る様への人格改変は例外であると付け加えておこう。
とにかく……
マリアは、セクションの管理者としての実力が危ぶまれるのだ。
だから、僕は先ほど試した。
僕自身が見たセクションの状況と、マリアが感じているセクションの状況に誤差がないか、マリアの管理者としての見識が根本的にズレたりはしていないかを確かめたのだ。
そして、その結果は「問題なし」である。
マリアの管理者としての認識は他とはズレていない。
このセクションの人材の意識調査でも、マリアの管理に問題は無いとなっている。
どうやら、全ては僕の杞憂だったようだ。
マリアはサキュバスの癖に基本が真面目かつ勤勉であり、仕事が丁寧でむらが無い。
加えて僕の施した能力強化が上手くはまった様で、実力的にも問題は無い様だ。
どうやらマリアは意外と管理職に向いているらしい。
……………管理職に向いてる幼女サキュバスって。
まぁ色々と突っ込みを入れたいところではあるが…… とにかく良かった。
もし、マリアがダメそうだったら僕自身が仕切らねばならないと心配していただけに、本当に助かる。
これでもっと他の事に時間が使える。
より早く、計画が進める事ができる。
……………より早くエルーを助けてあげられる。
「じゃあマリア、引き続き頑張ってくれ」
「うん! あたしに任せてよ!」
僕はマリアに微笑んで、そして優しく撫でながらそう言ってやるのだった。
よし…… 「メイン商品開発セクション」問題なし。
――――
「よし! いくよ、みんなぁぁぁ!!!!!!!」
『うぉおおおおおおおおおおッッす!!』
僕らの現在の本拠地である、元べヒモス本拠地「継接ぎの哭城」こと、現「星屑組総本部」の演習場にて、ロリータファッションに身を包んだ緋色と、スーツに身を包んだ紳士共が声を張り上げている。
一部の隙すら感じられない、完璧な統制の元に、少しの乱れもない動きで、今日も訓練に励んでいる。
この見た目美少女ロリの男の子と、スーツに身を包んだ屈強の紳士共の、軍隊よりも統制のとれた集団。
これこそが現在の星屑組の姿である。
あれから……
あの「べヒモスへの討ち入り」を得て、星屑組は凄まじい変化を遂げた。
圧倒的戦力と男気を見せた僕への忠誠心をベースに、緋色のカリスマ性を遺憾なく発揮する事でそれを盛り上げ、更にそれを彼らの食事に混ぜ続けた僕特性のMLS因子によって仕上げたのだ。
そして、その結果がこれ。
全員が全員、悟りきったような精悍な顔つきをしていて、一人一人が丁寧で洗練された動きをしている。
僕の新事業の運営に必要な能力を全て叩き込み、「運営スタッフ」としての凄まじい完成度を誇る、この完璧な紳士軍団の完成である。
本当に、その完成度たるや正に感嘆の一言であり「よくぞここまで」と言わざるを得ない。
いや…… 本当に凄い。
まさかここまでに仕上がるとは思っても見なかった。
まさかMLS因子がここまでの効果を発揮するとは思わなかったのだ。
実に嬉しい誤算である。
「もっとお腹から声だしてぇ!! いくよっ! 星屑組六ヶ条唱和ぁ!!」
『うぉぉぉぉおおおおおっすッ!!』
ふむ…… どうやらいつものが始まるようだな。
そう……
僕の生き様を見た組員達が、いつの間にやら考え出して始めた、この「星屑組六ヶ条唱和」。
これこそが星屑組の完成度を象徴するものであろう。
その凄まじさは正に、究極にして至高と言わざるを得ない。
それこそがこれ……
「星屑組六ヶ条ォォォォオオオ!!」
『おおおおおおおぉぉぉぉおおっすッ!!』
「一つ! ロリコンは病ではなく!」
『生き様ですッ!』
「一つ! 愛するではなく!」
『愛でるのだ!』
「一つ! ロリコンと言う名の!」
『紳士たれッ!』
「一つ! 触るのではない感じるんだ!」
『YESロリータNOタッチ!!』
「一つ! 全く幼女は!」
『最高だぜぇぇぇぇ!!!!!!』
「一つ! いつも心に!」
『輝けロリ魂!』
「We are Lolita!!」
『compleeeeeeeex!!!!』
これこそが星屑組六ヶ条である。
うん……
どうしてこうなった?
「……………………正直ドン引きだな」
どうやら、MLS因子が効果覿面過ぎたようだ。
そう…… まったく(M) ロリは(L) さいこうだぜ(S)因子の効果が効きすぎた様だ。
僕の記憶因子を元に作り出した、嗜好性癖誘導因子含有のスライム。
それがMLS因子の正体だ。
全員の意思を統一するために、全員の気持ちを同じくするために、そして僕自身に尊敬と親しみを持たせるために摂取させたこのMLS因子なのだけど……
正直効きすぎな感がある。
そっちの意味で完成度が半端ない。
うん……
まぁ、性癖と人生観が安定し、加えて自身の人生における迷いがなくなった事で、精神的にも成熟し全員が達観した紳士に成長したからいいんだけど。
性癖はともかく、紳士となった彼らのスペックは非常に高く、運営スタッフとしての仕事は完璧だからいいんだけど。
全員が同じ正義を共有する事で、組の結束力は異常に高くなり、また僕自身が生粋であるため、そこに確かな信頼関係を築けているからいいのだけど。
緋色自身もロリが大好きになり、自身のロリ姿を愛でるナルシスト系ロリに変化してしまったが、積極的に男の娘へなろうとしている為問題は無いのだけど。
うん。
全て上手く行っているから良いのだけど……
「なんだろう、このやっちゃった感……」
深く考えるのはやめよう。
全て上手く行っているのだから、良いじゃないか。
何の問題もないな、うん。
とにかく、これで「運営セクション」も大丈夫……
………だよね?
――――
「ホムンクルスの研究は上手く行ってるようだね」
「あ…… ご主人様ぁ」
ギリアン地区地下の研究施設。
僕は、そこで研究に明け暮れているシルビアへと声をかける。
「えへへぇ…… みて、ご主人様、大分形になってきた」
僕が声をかけると、シルビアは途端に笑顔を見せて僕の元に駆け寄ってくる。
そしてにぱぁと微笑みながら、僕に実験体の披露をする。
「ほぉ…… 凄いな、これはもう完成じゃないのか?」
僕の視線の先には、巨大な円筒の水槽の中に入った、一体のホムンクルスがいる。
「ううん、必要な臓器はそろってるけど、まだそれが機能してないの…… でもあと少しで上手く行きそう」
シルビアはそんな僕の事を見上げて、自慢するようにしてホムンクルスの説明をする。
「そうか、ありがとうシルヴィ、これからも頑張ってくれ」
「うん、シルビア頑張るよ」
僕はそんな笑顔のシルビアの頭を撫でながら、そのホムンクルスを見つめるのだった。
「くふふ…… すべてが完成しつつあるな」
運営セクションは仕上がり、調理セクションも佳境、メイン商品開発セクションはほぼ完了していて、地区開発セクションも完成間近、おまけに研究も順調。
そして市場誘致セクションはユエに任せておけば間違いは無い。
よし……… いいぞ。
もうすぐ集大成だ。
エル―の解放も……… 近い。
御宮星屑 Lv1280
【種族】 カオススライム 上級悪魔
【装備】 なし
〔HP〕 7050/7050
〔MP〕 3010/3010
〔力〕 7400
〔魔〕 1000
〔速〕 1000
〔命〕 7400
〔対魔〕1000
〔対物〕1000
〔対精〕1100
〔対呪〕1300
【眷属】
マリア(サキュバス)
【契約奴隷】
シルビア
【契約者】
ユエルル・アーデンテイル
【従者】
エルヴィス・マーキュリー
【舎弟】
御宮緋色
【スライムコマンド】
『分裂』 『ジェル化』 『硬化』 『形状変化』 『巨大化』 『組織結合』 『凝固』 『粒子化』 『記憶複製』 『毒物内包』 『脳内浸食』
【称号】
死線を越えし者(対精+100) 呪いを喰らいし者(対呪+300)
暴食の王(ベルゼバブ化 HP+5000 MP+3000 全ステータス+1000)
龍殺し(裏)
【スキル】
『悦覧者』 『万里眼(直視)』 『悪夢の追跡者』
『絶投技』 『火とめ焔れの一夜』
『味確定』 『狂化祭』 『絶対不可視殺し』
『常闇の衣』 『魔喰合』 『とこやみのあそび』
『喰暗い』 『気高き悪魔の矜持』 『束縛無き体躯』
『完全元属性』 『魅惑』




