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53話 勤労青年の鏡

「よし…… いくぞ」


巨大廃墟の集合体にして、犯罪者ギルド『べヒモス』の本拠地である「継接ぎの哭城ジグソー・パズル」。


その目の前に今、総勢485人の男達が集う。


その男達とは……


「殴り込みだ……」


星屑組の組長たる俺と……


「……………殺す」


その若頭である緋色。


『うぉぉぉぉぉおおおおおおあああああああッッ!!!!』


そして以下構成員483名。


星屑組総出での討ち入りである。


今……


この一大スラム街ギリアン地区で、かつてない大抗争が勃発しようとしていた。



「お前等………」


僕は「ツギハギの哭城ジグソー・パズル」の入口を開ける直前で、小さく呟く。


魔力を用い、小さい声でも全員に聞こえるよう、精神に直接響くようにしてささやく。


「覚悟は出来てるんだろうな……」


僕はゆっくりと振り返り、『気高き悪魔の矜持ノブレス・オブリージュ』を併用しながら「殺る気満々」な感じを演出して、組員達を見やる。


「ここから先は後戻りできないぞ」


そして組員達の意思を確認するようにしてそう問いかけた。


「……………………………………ふっ」


そして…… 組員達の顔を一通り見まわした後、僕は小さく微笑む。


「いい面構えするようになったな…… お前等」


まぁ……


本当は野郎共の面なんて興味ないんで、違いとか全く分からないんだけど。


とりあえずそう言っておく。


こういうのは、こういう時に言っておく事に意義があるのだろう。


うん、雰囲気作りは大事だ。


「……………僕の背中は任せたぜ」


そして僕は、最後にとりあえずそれっぽい事を言って扉へと向き直るのだった。


すると……


「聞いたかお前等………」


その直後に緋色が声を出す。


いつも通りの、良く通る、そして良く響く声で喋り出す。


「俺らは大将の背中を預かってんだ…… 恥ずかしい戦いすんじゃねぇぞ」


緋色はその愛らしい恰好からは想像もできない程の迫力と、鋭い眼光を伴ってそう言う。


「無様に生きるな派手に散れ……… 行くぞてめらぁぁ!!!!」


そして叫ぶようにして、そう言うのだった。


………………いやぁ、僕にあれだけ無様に負けた人が、良く言うなぁ。


『ぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!』


………………それでも様になるんだから、主人公体質って凄い。


ホント、煽り上手だよ。


同じカリスマでも、こういうのはユエより向いてるよな、緋色は。


くふふ……


さて、それじゃあ攻め込むとしようか。


「………いくぞ」


僕は目の前にある、大きな扉に手を掛け、それを開くのだった。








「………………………お?」


そして開いた瞬間……


僕の目に映ったのは、無数の光。


千、二千、いや……… 万に届くであろう無数の光。


巨大廃墟内の無数の隙間から、輝く星々の様に光が瞬いていた。


そして……


「………随分歓迎してくれるんだな」


その光全てが、奇襲用攻撃アイテム『閃光魔弾』の発動光であった。


「………っ!!」


それを目撃した直後、僕の背後で緋色が息を呑む音が聞こえた。


数々の修羅場を超えた緋色でも、この状況はさすがに予想外だったのだろう。


まぁ、それも無理は無い。


なにせ『閃光魔弾』は発動速度も攻撃力も弾速も一級の、高額アイテム。


それをこれだけ揃えて来たのは、さすがの僕も予想外だ。


ふむ……… 『べヒモス』も相当に必死なのだろう。


「ッ…………ぁッ!!!! 全員退避だぁぁぁああああああッッ!!!」


僕の背後で緋色が大声を上げる。


さすがの緋色も、これだけの火力には恐れを成したようだ。


まぁ実際、これだけの攻撃をまともに食らったら、いくら強くとも人間であれば間違いなく吹き飛ぶであろう。


だから、退却と言う選択しは至極正しい。


というか、回避しか選択肢はないだろう。


が………


正直もう遅い。


もう、退却には遅いのだ。


すでに魔法の発動は完了しているし、そのうち幾つかはもう発射されている。


このまま行けば、あと0.5秒後には初弾が着弾し、その0.3秒後にはこの入口ごと、周辺が消し飛び、無数の消し炭と放射状に広がる火の海が出来上がることだろう。


状況はすでに詰んでいるのだ。


「もちろん……」


僕がいなければの話だが。


「くふ……」


さて、ちょっと本気出すか。


まず……


『閃光魔弾』の正確な起動数を捕捉確認… 総数8900を確認、うち既に発射されているものは2355発… いや2366~2399発の間と推定、そのなかで被弾圏内にまもなく到達するものは850から±30発… その程度なら余裕でさばける、…圏内到達まで0.05秒、0.04、0.03、0.02、0.01、迎撃開始、両手両足に魔力装填済み、【命中】の大気捕捉により周辺大気を掌握、圧縮空気弾投擲開始、僕から離れた魔弾を優先して迎撃、…命中、命中、命中、命中……以下連続命中、第一波迎撃終了、続けて0.02秒後第二波到来、数1800±100発、少しキツイがまだいける、力が半減してなければ楽勝だったな… 弾装填完了、第二波迎撃開始……ッ! 3発打ち漏らしを確認、内一発は危険区域方向に進行、フォローの空気弾を射出、…オールグリーン、続けて第3波、0.02秒後に圏内到達、現時点で全弾発射を確認、到達区分は第4波まで、第4波は500~800程度と推測、…第三波、およそ5000。現時点から最大危険区間に突入、全力全霊をもって対処にあたる、迎撃再開 …およそ500まで迎撃、…およそ1500まで迎撃、……周辺空気枯渇、これより肉体の細分化により自身の肉片を弾丸として投擲を開始、…およそ2000まで迎撃。…ぐ、およそ2300まで、およそ2700 ……っしぁッ!3200!!これで外側からの攻撃は全て捌いた! …後は真正面からの僕に直撃ルートのみ。


残りは…


「そのまま受けるッ!!」


………その直後、無数の閃光が僕を襲う。


僕の視界の全てのを、眩い光が覆い尽くす。


「ぁ……………… 兄きぃいぃいいいいいいい!!!」


無数に弾ける着弾音に紛れて、かすかに聞こえる緋色の悲鳴。


「ぅ……ぉぉおおおおおおおぁぁあああああ!!!!」


僕は緋色の絶叫と響く爆音をかき消すように咆哮をあげ、同時に魔力を展開して、魔弾の全てを受け止める。


「っっッ………ッぁあしゃああああああ!!」


そして僕は『閃光魔弾』を弾き飛ばして誘爆させ、その余波をもって第4波も消し去ったのだった。





「……………………………はぁ」


よし… 予定通り全部を受けきれた。


ふむ…… 傷者は無しだな。


これで舞台は整った。


さぁ、ここからだ…… ここからが演出の見せ所。


全てをまとめ上げる「星屑劇場」の…… 開幕だ!



「くッ……!」


「兄貴っ!?」


弾丸を受けきった直後。


僕は苦し気な声を上げながら崩れ、地面に片膝をつける。


すると、すぐさま緋色が駆けより心配そうに声を掛けた。


「だ……… 大丈夫だ」


僕はそんな緋色を手で制する。


「ぐ…… ぐはぁッ」


「あ、兄貴ぃ!!」


そしてそのまま、体内に仕込んでおいた血液を吐血しておく。


苦し気に胸元を押さえて、咳込むようにして大量の血液を地面にぶちまける。


「兄貴!! 兄貴!? だ、大丈夫なの!!??」


すると手で制したにも関わらず、緋色は僕のそばに寄り添い、そして泣きそうな声を上げた。


「だ、大丈夫だ…… ぐふ…」


僕はそんな緋色の事を再度制し、そして震えながらゆっくりと立ち上がる。


くふふ……


ボロボロな姿の僕に…… 敵も味方も注目している。


皆が注目している。


よし…… ここが、第一の見せ場だな。


「僕はいい、それより……」


僕は顔色を青く変色させ、荒く乱れた呼吸を演出しながら言う。


正に瀕死の状態といった感じで、必死に立ち上がったといった感じで、でも…… 「まったく問題ない」といった気迫を『気高き悪魔の矜持ノブレス・オブリージュ』で演出しながら言う。


そして……


「お前等は……… 怪我は無いか」


僕はキメ顔でそう言うのだった。


「ぁ………」


口から血を滴らせ、顔面蒼白で、だけど少しだけ微笑んでそう言う僕に、緋色は口を開けて絶句する。


そして、しばしの沈黙の後に……


『あ、兄貴ぃぃぃぃぃぃぃッ!!!!!』


緋色以下483名は、ユニゾンして感涙の声をあげるのだった。


くふふ…… 完全に心を掴めたな。


完璧な演出ちゃばんだ。


「よし…… 無事みたいだな」


僕はそんな緋色達を一瞥した後、「べヒモス」の軍勢の方に向き直り、そして歩き出す。


痛そうに苦しそうにしながら、辛そうにして歩きだす。


「あ、兄貴!! 無茶だ! そんな体で戦おうっていうのか!? 」


するとすぐに緋色が僕の元に駆けより、少し涙ぐんでそう言う。


「当たり前だ…… 」


僕は緋色の方を見ずに、前を向きながらそう言う。


「だめだ!! 絶対だめだよッ!! そんな体で戦ったら兄貴が死んじゃうよぉ!!」


そんな僕に緋色は、懇願するようにそう言うのだった。


「緋色……」


「え……?」


僕は緋色の頭に手を置き、そしてなだめるように声を掛ける。


「しっかりしろ…… 動揺するな、 お前は星屑組のナンバー2だぞ」


緋色の目をしっかりと見つめて、真剣な顔でそう言ってやる。


「僕は大丈夫だ、僕はお前を置いて死んだりはしない…… それに」


そして、少しだけ微笑んで……


「もし本当にやばかったら、今度はお前が僕を守ってくれるだろ?」


僕は緋色にそう言ってやるのだった。


「…………………………………ぐすっ」


緋色はぽろぽろと泣きながら僕を見つめたあと、服の袖で目元をごしごしと拭った。


「………………ぅん」


緋色は再び顔を上げ、僕の事をしかと見つめる。


まっすぐで、そして熱い眼差しで僕を見つめてくる。


「………兄貴は絶対に俺が守るから」


そして緋色は、気迫あふれる声でそう言いきったのだった。


「よし…… 行くぞ緋色、弔い合戦だ!」


「うん!! ………いくぞてめぇらぁ!!! 」


『おっっぅぉッッ!!!!』


そして僕らは雄たけびを上げる。


全員が前を向き、そして「べヒモス」へと向かって行く。


一瞬で相手を食らいつくさんばかりの気迫で、突撃をしていく。


士気は十二分。


あとは相手を倒すだけ…… と。


「…………え?」


皆がそう思っていたその時。


「緋色!? 危ないっ!!」


僕らの前方から黒い高速の影が迫りくる。


遠距離から、放たれた矢のように飛来し、一瞬で僕と緋色の前に現れたそれは、その勢いのままに斬撃を緋色へと浴びせた。


「ぇ?」


そして…… それに緋色は全く反応出来ていなかったのだった。


「がぁ!?」


「兄貴っ!?」


だから僕は、身を呈して緋色を庇う。


緋色の目の前に立ち、その凶刃から緋色を守ったのだった。


「ぐ……ぅ…」


僕の肩口に深々と刀身が突き刺さり、それにより血液がどくどくと流れる。


「兄貴!! ど、どうして!!」


その血まみれの光景に、再び激しく動揺する緋色。


「狼狽えるな、緋色ぉッ!!」


「ぅ…ッ」


だから僕は緋色を一喝して、落ち着かせた。


「心を乱すな、前を見ろ…… ぐはぁ…ッ」


そして……


僕から刃を引き抜く、目の前の黒騎士を見やる。


僕の血で真っ赤に染まった剣を正眼に構え、ただならぬ殺気ぶつけてくる目の前の敵を、僕は見据えた。


「今の僕じゃこいつには勝てない…… お前の力が必要なんだ」


「ぅ……くっ… わ、わかった」


僕が黒騎士を睨み付けながら僕がそう言うと、緋色は動揺しながらもそれに従い、必死で自分を落ち着けながらそう返すのだった。


僕は満身創痍、そして緋色は調子をみだしている。


状況は…… 最悪と言ったところである。




「ふふふ…… ふはははっはぁぁあああああ!!!」


するとそこで、一人の男が登場をする。


継接ぎの哭城ジグソー・パズル」の奥から、楽しそうに高笑いをした長髪の男が現れる。


「無様だな…… 実に無様だ!! あの『邪影龍殺しハイドドラゴンころし』が見る影もないなぁ!!」


その男はつい先ほど、交渉の席で会ったばかりの男……


つまりは「べヒモス」の首領であった。


「くくく…… 実に良い格好だよ『邪影龍殺しハイドドラゴンころし』、私はずっとこの光景を夢見ていた」


首領は歪な笑顔で僕を見やり、心底楽しそうに僕を指さす。


「いつもいつもいつも、お前が無理やりここに乗り込んでからいつも、お前は高圧的な態度で、まるで私たちを奴隷か何かの様に扱った…… 俺のべヒモスを、我が物顔で……」


僕を指さしたままに、ぶつぶつと語り出す首領。


そして……


「俺は心底お前にムカついてたんだよ…… 本当に…… 殺してやりたいほどになぁ!!」


そして首領は怒りを露わにしてそう叫ぶのであった。


ふむ……


なんか大分鬱憤溜まってるみたいだな。


まぁ、そう仕向けたのは僕なんだけどね。


僕は…… 「べヒモス」に攻め込んでからそれ以降、ずっと彼らを馬鹿にし続けた。


シルビアの一件で乗り込んで以来、僕はここに訪れる度に奴らを侮辱しつづけた。


僕に歯向かわない奴らを侮辱し、僕に歯向かうやつを打倒して侮辱し、さらには「情けない奴らしかいない」と全体を侮辱し、「部下がこの程度では首領もたかが知れる」と首領はも侮辱してやった。


それはもう陰湿に執拗に、これでもかと言うほどに侮辱してやった。


ハイドドラゴンの牙を売りに来る時だけでなく、定期的に足を運んでは侮辱したのだった。


その結果がこれ……


「ふはははははぁぁはっはぁぁ!! 殺してやる、殺してやるぞぉぉぉ!!」


完璧な仕上がりである。


僕の狙い通り、首領は僕に対して深い憎しみを抱いてくれた。


黒騎士と言う「切っ掛け」を手にした途端に、すぐ僕に「報復」を開始するほどに……


報復をどうにも我慢できないほどに憎んでくれたのだ。


くふふ…… やっぱり僕は人の神経を逆なでる天才だな。


「さぁさぁさぁあああああッ!! これで終わりだよお前! さっさと死ねよ! 無様に切られてここでくたばれよ!! そして死体になって俺に詫びろ!! 俺がその死体をゴミダメに捨ててやるからよぉぉおおおお!!」


高い所から僕を見下し、興奮気味にそう叫ぶ首領。


ふふ……


完全に舞い上がってるな。


僕と同じようにハイドドラゴンの牙を売りを持ってきた…… つまり「僕と同等」の力を持つ黒騎士を配下に収めたのが相当に嬉しいと見える。


しかしあれだな……


いくら僕へのイライラが募っていたからとは言え、良くこんな怪しい男を仲間にしたもんだよ。


仮にもギルドの長なのになぁ。


首領とは言え、所詮は裏社会でしか生きられない半端者と言うことか。


まぁ…… 黒騎士との面接の時、判断力を低下させる薬を一服盛ったってのもあるんだけどねw


「これで終わりだ『邪影龍殺しハイドドラゴンころし』ぃ!! やれぇぇぇえええ、黒騎士ッ!!」


ふふ……


本当に良く仲間にしてくれたものだよ。


こんな怪しい黒ずくめの鎧男を……


てか、ぶっちゃければ僕の分身体をwww


「ぐはぁあああッ!!」


「あぁぁぁ、兄貴ぃぃ!!」


黒騎士こと僕の分身体が、僕の腹部に刃を突き立てる。


それにより舞い散る血しぶきを目にして、緋色がまた泣いて叫び出す。


自分の無力さに涙をする。


まぁ、無理もない。


きっかり力を半分に割った僕の分身体のレベルは600相当。


200レベルそこそこの緋色では対処のしようがないのだろう。


しかし……


本当に動揺しまくりだな、緋色は。


初めて出来た自分の「大切な人」が失われてしまいそう…… その恐怖に、初めての恐怖に曝されているってとこか。


まぁ…… 自分で言うのも何だけど、緋色にとって僕は唯一無二の存在だからな。


そうなるよう仕向けたのは僕だし、無理もないが……


やはり緋色はここぞという時に脆い。


大事な局面を緋色に任せるのは、今後もやめた方がよさそうだな。


やはり、一番使えるのは「悪魔との契約を躊躇なく踏み切る」度胸と、「少女の身でありながら大会社を興した」実力を兼ね備えるユエなんだろう。


まぁ、緋色も十分使えるのだが…… 使い所の問題って奴だな。


「兄貴、あにきぃ…… 血が、血がこんなにでてるよぉ……」


緋色が、刃の刺さっている僕の腹部に手を当てて、その血を止めようとする。


ふぅむ……


泣きながら手を添えるその姿はいじらしくて可愛いけど、なんの意味もない行為だよね、それ。


てか、ぶっちゃければこの刺さってる剣も含めて『束縛無き体躯(フリーダム)』で変形した僕の分身体の一部で……


つまりはこの剣も僕の体の一部であって、刺さった所で何のダメージもない代物なのだ。


まぁ、そもそも僕スライムだし。


斬撃とかあんま効果ないし。


当然、必要以上にでてるこの血も演出だし。


ああ…… 苦しそうな演技って難しいなぁ。


さて……


「ぐぅぅ…… ぐおおおおお!!」


そこで僕は、腹部に剣が刺さったままさらに一歩踏み込み、黒騎士との距離を詰める。


「兄貴!?」


「な…… 何を!?」


自殺行為にも見えるそれに、驚きの声を上げる緋色と首領。


「うぉぉぉおッ!!」


僕は黒騎士の剣を自らの体に深く突き刺し、そのまま黒騎士の腕を掴んで捉える。


そして……


「今だ緋色ぉぉぉ!!!! こいつをやれぇぇぇ!!!」


そこで僕は緋色にそう叫んだのだった。


「ぅえ!? で、でも!! でもでも…… 兄貴の傷がぁ! ち、治療しないとぉ!!」


しかし、今だ激しく動揺している緋色。


頬を涙で濡らし、膝をがくがくと震えさせながら、おろおろとしている。


「ぐぅ…… ぐああああああ!!!」


「あ、兄貴ぃぃ!!」


しかし緋色が慌てふためく間にも、黒騎士が突き刺した剣から電撃の様な物を放ち、体内から僕を苦しめる。


まぁ、当然これも演出なのだが。


てか、これ客観的に見るとなんなんだこれ?


自分で自分に攻撃して、電撃浴びせるとか……


何? 一人SM?


なんだそれ……


どんだけ高度なオナニープレイだよ。


「ぐ……… はぁはぁ…… ひ、緋色」


「ぁ…… 兄貴ぃ」


僕は黒焦げになりながら、虫の息で緋色に語り掛ける。


緋色はそんな僕を「どうしたらいいの?」と、すがるようにして見上げた。


「お、お前は…… 僕の弟だ」


「あにき……」


「大切な…… 家族だ」


「ぁぅ……」


「だか……ら…」


僕はそんな緋色を見つめ、ボロボロの姿で……


「………信じてるぞ」


優しく微笑んであげたのだった。


「…………あにきぃ」


緋色はそんな僕の笑顔に、顔をくしゃっと歪ませて、ぽろぽろと涙をこぼす。


息を呑んでぶるぶると体を震えさせる。


悲しさと嬉しさと切なさが入り混じった泣き顔を見せる。


「ぐわぁああああああああ!!」


「兄貴ぃ!!」


しかし、そんな僕に容赦なく電撃を浴びせる残忍非道な黒騎士(笑)


このまま星屑はやられてしまうのかw


…………と思ったその時!!


「ぁ…… 兄貴をこれ以上いじめめるなぁぁぁ!!!!!!!!!」


緋色が叫び…… そしてついにブチ切れる。


体から朝焼けの様な美しい「緋色」のオーラを立ち昇らせ、焔の用に燃え上がる。


黒色のオーラを顕現させる「ラグナロクモード」とは別の姿へと変貌する。


くふふ…… やったぞ。


実験は成功だ。


予想通りの結果だ。


緋色の製造段階の情報を元に、緋色が寝てる間、僕のスライムを流し込む形でコツコツと改造した成果が出たみたいだ。


緋色の製造工程で失敗していた「未完成」の部分を、スライムによる「機能補填」で完成させた成果が……


おかげで緋色の「自己進化能力」は失われてしまったけど……


あれは僕にとって「不安要素」でもあったから丁度いい。


とにかく…… 実験のおかげで緋色は「兵器」として完成した。


感情が引き金となる緋色の力をうまく引き出す事ができた。


これこそが緋色の本来あるべき姿。


緋色に輝く夜明け色の戦士……


その名も『星屑そそぐスカーレット闇夜に続く朝デイブレイク』だ。


ふ…… 誰だラグナロクモードなんて名前付けた奴。


ダセェッ!!


「うぁあああああああッ!! 兄貴を! これ以上、傷つけるなぁぁ!!」


緋色は爆発するように黒騎士へと飛びかかり、花火のように緋色の閃光をまき散らして猛攻を仕掛ける。


凄まじいスピードの打撃共に放たれる閃光は、まるで燃え広がる様に周囲に拡散していく。


「兄貴を傷つける奴は………」


そして、辺り一面が弾ける閃光で満たされると……


「俺が! 絶対に許さない!!」


緋色がそれを掛け声と共に、黒騎士へと集約させる。


「兄貴は俺が守るんだぁぁ!!」


そして火山の用に吹き上がる緋色の閃光。


その中心に黒騎士を捉えたそれは、光の柱となって天を突き抜け、中の人間を焼き尽くす。


まぁ……


実際はその程度の攻撃で僕の分身体は死なないので、経過に合わせて焼死体に変形させてるだけなのだけど。


ぐ…… でも結構痛いな。


これ300レベル相当の攻撃力は出てんじゃないか?


まぁ、とにかく……


これで話のオチはついたな。


おおむね筋書通りだ。



「はぁはぁはぁ……」


泣きながら相手を滅した緋色が、力を使い果たし元の姿へと戻る。


「ぁ…… あにきぃ、やったよ… 俺、がんばったよ」


そしてふらふらとしながら僕に縋り付く。


「あにき… 大丈夫? 大丈夫なの?」


先ほどの攻撃で相当に疲れたのだろう。


意識を朦朧とさせながら、僕に語り掛ける。


「ああ、僕は大丈夫だ…… 緋色、良くやったぞ」


僕はそんな緋色の頭を撫でて、優しく微笑んでやる。


「ほんと…? 死ななぃ……? 俺をおいて死なない?」


緋色は僕を見上げて、すんすんと泣きながらそう問いかける。


「ああ…… こんな事もあろうかと」


僕はそこで、懐から薬瓶を取り出す。


緋色とべヒモスの首領、その両方に見せつけるようにそれを取り出す。


「全身回復の霊薬を…… んくんく… っぷぁ… 用意していたからな」


そして体を発光させ、一瞬で回復して見せたのだった。


勿論、ただ体の変形を戻しているだけで、そんな都合の良い霊薬などは存在しない。


ついでに、その時の光に紛れて、消し炭だけを残し分身体も回収しておく。


ふぅ…… これで元通り、と。


「……本当に大丈夫なの?」


そんな僕を見上げ、涙ぐんだ瞳で見上げる緋色。


「ああ…… お前を守るためなら霊薬だっておしくない」


僕は緋色を安心させるように微笑んだのだった。


「……………………ぅ」


そして緋色はふにゃりと安心したように微笑むと……


「よかった……」


そう言ってくたりと寝てしまうのだった。


「お疲れ…… 緋色」








さて……


「さぁ…… べヒモスの首領さん」


僕は緋色を抱き上げながら立ち上がり、そして首領の方を見やる。


「あんたの切り札は燃え尽きたみたいだけど…… 覚悟はできてるよな?」


満面の笑みで、高い所で僕を見下ろす首領を、見上げて見下す。


「ぁ…………… ま…… ぅ……嘘だろ?」


首領はそんな僕を見て、がくがくと震えながらそう呟く。


僕はそんな首領に……


「やだなぁ首領さん……… これが現実だよ」


僕は極めて明るい口調でそう答える。


勿論超笑顔でだ。


あぁ……


やっぱこの瞬間が最高だなぁ。


頑張って色々仕込んだかいがあったぜぇ。


「……は、……話し合おう」


首領が情けない顔でそう言う。


「無理」


僕は歩きながらそう言う。


「わ…… わかった、組は全部お前にやるから、献上するから!」


首領は後ずさりをしながらそう言う。


「いらない、潰して勝手に奪いとる」


僕は首領に迫りながらそう言う。


「で、では、何が望みだ!? お前が望むものを用意させよう!!」


首領は気持ちの悪い作り笑いでそう言う。


「…………望むもの?」


僕は立ち止まってそう言う。


「そっ…… そうだ! お前の望む物…… なんだって用意する!!だから… 」


首領は…… 一瞬安心した表情になる。


だから僕は、そんな首領に微笑みかけた。


「………僕はあなたの破滅を望むよ」


自分の表情は自分で見えないけど、 多分これは悪魔の笑みって奴だ。


だって僕、悪魔だもの。


「ぁ……… がぁ…っ…」


そんな僕の笑顔を見た途端に、顔を真っ青にして冷や汗を流す首領。


ふむ、人の顔見てそんな顔するなんて、随分と失礼な奴だね。


まぁ…… いい。


「さぁ…… 緋色の頑張りを見ていたか野郎共」


そこで僕は振り返り、そして野郎共を見て問いかける。


「次はお前等が頑張りを見せる番だ…… 分かってるな?」


奴らに秘匿して接種させているMLS因子の共鳴作用を使い、僕に対して疑似的なカリスマ性を抱かせながら問いかける。


「僕が見届けてやる…… お前等の力を見せて見ろ」


僕はニヤリと微笑み、前を向く。


そして……


「さぁ行くぜ!! 皆殺しだッ!!」


僕は先陣を切って飛び出す。


その後ろには……


『うぉああぉあああああああぉあああああああああああああああ!!!!!』


そんな僕に呼応して、荒ぶる野郎共の群れが続くのであった。



響く絶叫と轟く雄たけび。


渦巻く殺意とくたばる命。


後に残るは、おびただしい血飛沫と耐え難い男臭さ…… そして死体の山。


僕は宣言通り、敵を皆殺しにした。



まぁ…… そんな感じて、「べヒモス」は滅びたのだった。



















くふふ、これで……


筋を通した形でのべヒモスの「駆除」。


他二つの犯罪者ギルドへの「見せしめ」。


星屑組の「結束」と僕への「崇拝」の強化。


緋色の「改良」と「不安要素」の除去。


更に「奴隷市の販権の強奪」。


………全部がコンプリートだ。


いやぁ…… 僕って働きものだなぁ。

御宮星屑 Lv1280


【種族】 カオススライム 上級悪魔(ベルゼバブ)


【装備】 なし


〔HP〕  7050/7050

〔MP〕  3010/3010


〔力〕 7400

〔魔〕 1000

〔速〕 1000

〔命〕 7400

〔対魔〕1000

〔対物〕1000

〔対精〕1100

〔対呪〕1300


【契約魔】


マリア(サキュバス)


【契約奴隷】


シルビア


【契約者】


ユエルル・アーデンテイル


【従者】


エルヴィス・マーキュリー


【舎弟】


御宮緋色


【スライムコマンド】


『分裂』 『ジェル化』 『硬化』 『形状変化』 『巨大化』 『組織結合』 『凝固』 『粒子化』 『記憶複製』 『毒物内包』 『脳内浸食』


【称号】


死線を越えし者(対精+100)  呪いを喰らいし者(対呪+300) 


暴食の王(ベルゼバブ化 HP+5000 MP+3000 全ステータス+1000)


龍殺し(裏)


【スキル】


悦覧者アーカイブス』 『万里眼ばんりがん(直視)』 『悪夢の追跡者ファントム・ストーカー


絶投技オメガストライク』 『火とめ焔れの一夜ハートストライクフレイム


味確定テイスティング』 『狂化祭(カーニヴァル)』 『絶対不可視殺し(インビシブルブレイカー)


常闇の衣(コートノワール)』 『魔喰合(まぐあい)』 『とこやみのあそび』 


喰暗い(シャドークライ)』 『気高き悪魔の矜持ノブレス・オブリージュ』 『束縛無き体躯(フリーダム)』 


完全元属性(カオス・エレメント)』 『魅惑アプローチ

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