51話 これが親身と言う物
「おらぁぁぁ!! 声だせお前らぁぁあああああ!!」
今、僕の目の前で一人の美少女がそう叫びながら野を駆ける。
少しボーイッシュな格好の、ポニーテールの美少女が平原をひた走っている。
『おおおおおおおぉおおぉおおっッス!!』
そしてそんな美少女の後を、かなりいかつい面の若者が大群で追従していく。
ふむ……
実に異様な光景である。
「んあ? ……ぁっ!? 兄貴ぃ!!」
僕がしばらくその光景を眺めていると、ポニーテールの美少女こと男の娘である御宮緋色が、僕に気きこちらを見やる。
「どうしたんだ、 訓練見に来てくれたのか!?」
そして彼は輝くような笑顔で僕に手を振ってくるのだった。
「よぉしッ! お前ら、少し休憩だッ!!」
『おおおおぅすッ!!』
すると緋色は元不良共にそう号令をかけ軍行を停止させる。
「あーにーきぃ~!!」
そして、僕の方に向かって駆け出し……… って、速っ!?
「あにきッ!」
「ぐほぁっ!?」
緋色は凄まじい高速移動で僕との距離を一気に詰めると、そのままの勢いで僕の腹部に突っ込んで来るのであった。
「くふふぅ…… 兄貴! どうしたんだよ!こんな時間に兄貴が来るなんてめぅらしいなぁ!?」
僕に抱き着いて顔をすりすりとこすりつけながらそんな事をいう緋色。
ああ、とても可愛い。
だが、男だ。
「いや、ちょっと通りかかったからね…… 緋色の仕事ぶりを確認しようと思ったのさ」
「そっか! じゃあまぁ、遠慮なくい見ていけよ! ほら、兄貴の要求通り……」
僕がそういうと、緋色は立ち上がり、自分の背後に達並ぶ漢達を指さす。
そして……
「完璧な軍隊に仕上がってるぜ!!」
『うおおおおおぉぉぉっッッス!!!!!』
姿勢正しく直立する野郎共を、誇らしげに見つめるのだった。
「うん…… 上出来だ」
僕はその光景を眺めて、小さくそう言うのだった。
あれから……
僕が緋色と義兄弟になってから…… 早2か月程が過ぎた。
そしてこの2か月。
僕は他のセクションの下準備を続けながら、同時にこいつらの社員教育にかなり力を注いだ。
そのかいあって、たった二か月と言う短期間で在りながらここまでの仕上がりになったと言う訳だ。
意外と大変だったが、その労力に見合うだけの出来だといえよう。
と、いっても僕がした事は、たかがしれている。
僕がした事……
それは「人間扱い」…… それだけだ。
はみ出し者で、邪魔者扱いされてきた不良共を、一人の人間として扱っただけ……
それだけの事だ。
そう……
その上で「洗脳」を施しただけなのだ(笑)
まぁ……
と言っても今回は、大それた事はしていない。
具体的に何をしたかと言うと……
まず奴らに掃除をさせたのだ。
最初に僕は『ラグナロク』の溜まり場であった、ギリアン地区公営ギルド会館跡地の修繕と清掃を不良共に命じた。
掃除などしたことも無い様な不良共に、丁寧な清掃と緻密な修繕作業をやらせたのだ。
もちろん…… 不良達はそれに反発をした。
最初は、不良達も言う事をきかなかったのだ。
だが、僕の『気高き悪魔の矜持』による威圧と緋色の制裁によりそれを慣行した。
無理やりやらせたのだ。
その際、緋色が殴る事はあっても、僕は決して手を出さず、根気強く注意を重ねて、何度も何度も失敗を重ねながら修繕と清掃をやらせたのだ。
そして……
ギリアン地区公営ギルド会館跡地を三日がかりで人の住める場所にしたのだ。
美しく綺麗な住処を、不良達だけの力で作り上げたのだ。
時に……
人の心に「浄化」をもたらす手法の一つに、「達成感」を感じさせる事と言うものがある。
もちろん心の浄化方法はそれだけではないが、「何かを成し遂げる」事に伴う充実感は、精神に対して強い浄化作用をもたらすのだ。
そして、「掃除」や「修復」と言う変化が目に見える作業は、その「浄化」が特に得られやすい。
ましてやそれが三日がかりの大仕事で、しかもそれを皆でやり切ったとなればその感動はひとしおである。
この「皆で」、「三日かけて」、「やりきった」というポイントがさらに浄化効果を引き上げるのだ。
事実…… 初日は渋っていた不良達も、最終日には「俺このゴミ捨ててくるわ!」とか「こっちは俺らで修繕すっぞ!!」とか「星屑さん、俺ら、こっちかたずけりゃ良いっすかね!?」等と言いながら、自ら率先して清掃作業をやり始める程であった。
まぁ、難しく言っているが、要は「自分のやることが解っていて、自分の出来ることがちゃんとあって、それが報われること」であれば…… 人にとってそれは楽しいのだ。
役に立っていると思える…… 自分が必要な者であると知れるのは嬉しいのだ。
つまりはそう言う事である。
ふむ…… そう言う意味であれば、不良もいじめられっ子も、あるいは同じ者なのかもしれないな。
まぁ………… 一緒にされるのは虫唾が走るが。
とにかく……
威圧による適度な緊張感作りと、奴らの食事に混ぜた興奮剤による士気の上昇、段階的に達成感を享受できるよう配慮した、細かい目標設定とそれに伴う効果的なタイミングでも称賛と差し入れ、能力別にバランス良く振り分けた少数のグループによる、健全な作業競争の演出等………
僕は色々根回しをして、奴らに掃除を完遂させたのだ。
そして、その後に「達成の褒美」として大宴会を開くことで強い「精神の浄化」と「星屑組としての結束」を作り出す事に成功したのだ。
勿論、その大宴会の際に…… 奴らに振る舞った強めの酒と共に『魅惑』を用いて僕への信頼を植え付けておいたことを補足しておく。
そして……
その翌日から、僕は奴らの「洗脳」に入った。
本格的な改良に着手したのだ。
と言っても、勿論、自我を奪う様な強い洗脳は行っていない。
そんな事をしては、ある程度まで精神を浄化させた意味が無いし、それに……
あくまで、不良達は「運営スタッフ」として育てる人材。
人間味を失ってしまう様な洗脳をする訳にはいかないのだ。
だから……
僕がしたのは、王道の洗脳術。
つまりは「信頼を得る」と言う行為である。
そして、僕がそれを実現するにあたってした事は…… 「聞く」と言う行為だけである。
不良共、総勢487人……
その一人一人に、面接を行い…… 話を聞いたのだ。
一つの部屋で、僕と二人きりになり…… 「ラグナロク」の一員としてでは無く、一人の人間として話を聞いたのだ。
親身になって相手を思いやる様にして、話を聞いてあげたのだ。
まぁ……
本当の事をいえば……
本当はなんにも聞いていないんだけどねw
だって、そんなの真面目に聞いてられないし。
正直興味もない。
だから……
実際に僕がやったのは、たったの二つの単純なこと。
それは「自白剤の投与」と「相槌」…… それだけだ。
僕は、不良共との面接の際…… 飲み物に適量の「自白剤」を投与したのだ。
そして、自白剤を服用した組員達に、一人一人、その「生い立ち」を聞いたのだ。
つらいこと、嬉しかったこと、悲しかったこと、恥ずかしかったこと、誰にも言えなかったこと…… それらを全て聞いたのだ。
そして、僕はそれを聞いて「辛かったな……」とか「そうだったのか」とか、適当な相槌をうった。
そう…… それだけなのだ。
それだけで、不良達は僕に対して「胸の内を曝せる人」、「自分を受け入れてくれた人」と…… 錯覚をしてくれた。
そう言う人だと思い込んでくれたのだ。
過程は重要で無く…… 「話してしまった」そして「それをちゃんと聞いてくれた」と言うその結果が、僕を「信頼出来る人間」と錯覚させたのだ。
勿論…… それはあくまで、掃除から大宴会への下りで植え付けた、「信頼感の芽」があってこその話ではあるのだが。
まぁ、とにかく……
僕はそうして、奴らの人心を掌握したのだ。
そして、そこからは簡単だ。
………何故なら、彼らにはあるのだ。
「自分達で掃除した思い出深い住居」、「信頼出来る上司」、「カリスマ性の強いリーダー」……… それに加えて「三食の保証」と「示された未来」。
これだけ在るのだ。
今まで奴らが持てなかった物が、これだけ揃ったのだ……
奴らが頑張れないハズは無いのである。
加えて……
奴らには全員、僕特性のMLS因子も秘密裏に投与しているしね。
……ふふ。
……………と、まぁ。
こうして僕は、至極真っ当(僕にしては)な手段で、奴らの信頼を得て……
その信頼を元に軍隊式の人格矯正を行い、それを成功させたと言う訳なのだ。
「くふふ…… 本当に上出来だ」
「だろ?」
僕は甘えてくる緋色を撫でながら微笑む。
そして緋色も……
今や緋色は、完全に僕に懐いている。
僕の事を本当の兄の様にし慕っている。
これは単に「強い契約を結んだから」と言うだけの話では無い。
僕は…… 緋色に「甘えたいだけ」甘えさせてやったのだ。
愛に飢えていた緋色を、猫かわいがりしてやったのだ。
可愛い男の娘が甘えてくるのは、僕としても満更ではなかったので、それはもう、これでもかと言うほどに甘えさせてやったのだ。
そして、その結果がこれ……
「まぁ兄貴からのお願いだからなっ! 俺、頑張っただろ!」
今や緋色は、超、お兄ちゃんっ男である。
もう、どれくらいお兄ちゃんっ男かと言うと、僕が上げた服とポニテリボンをを「兄貴がくれたぁ! わぁ!」って言いながら、疑いなく装備したほどだ。
この盲目さ…… マジで萌えるぜぇ。
ふむ……
して、これは果たして妹萌えになるのだろうか? それとも弟萌えなのだろうか?
しかしだな…… 血のつながら無い義理の弟でロリショタ男の娘か。
ふむ、実に凄まじい戦闘力だな。
僕の下半身のスカウターが異常数値を叩きだしているぜ。
「よしよし…… 緋色は良い子だな」
「………くふふっ!」
そして僕は緋色を撫で、そう言って微笑む。
すると緋色は…… 僕の笑い方を真似しながら、可愛く微笑みかえして来るのであった。
ああ……
しかしマジで可愛い。
だが…… 男だ。
だが……… それに何か問題でもあるのかな?
――――
「さて…… じゃあ次の下準備に行くとするか」
緋色達が訓練をしていた場所から立ち去り、僕は一人そう呟く。
さて…… 次は。
次の準備は、市場誘致セクションの仕事だ。
今、ギリアン地区の地下で建設している地下街に闇市を誘致するための……
「さぁ、交渉にに行くとしようか……」
くふふ……
さぁ、ついでに不良共達の「仕上げ」もまとめてやってしまおうかな?
御宮星屑 Lv1280
【種族】 カオススライム 上級悪魔
【装備】 なし
〔HP〕 7050/7050
〔MP〕 3010/3010
〔力〕 7400
〔魔〕 1000
〔速〕 1000
〔命〕 7400
〔対魔〕1000
〔対物〕1000
〔対精〕1100
〔対呪〕1300
【契約魔】
マリア(サキュバス)
【契約奴隷】
シルビア
【契約者】
ユエルル・アーデンテイル
【従者】
エルヴィス・マーキュリー
【舎弟】
御宮緋色
【スライムコマンド】
『分裂』 『ジェル化』 『硬化』 『形状変化』 『巨大化』 『組織結合』 『凝固』 『粒子化』 『記憶複製』 『毒物内包』
【称号】
死線を越えし者(対精+100) 呪いを喰らいし者(対呪+300)
暴食の王(ベルゼバブ化 HP+5000 MP+3000 全ステータス+1000)
龍殺し(裏)
【スキル】
『悦覧者』 『万里眼(直視)』 『悪夢の追跡者』
『絶投技』 『火とめ焔れの一夜』
『味確定』 『狂化祭』 『絶対不可視殺し』
『常闇の衣』 『魔喰合』 『とこやみのあそび』
『喰暗い』 『気高き悪魔の矜持』 『束縛無き体躯』
『完全元属性』 『魅惑』




