48話 策謀と探求と探索と
「ふふ…… 思いの他高く売れたな」
今、僕の手元には大量の神金貨がある。
ユエの会社…… アカシックカンパニーをエリザベート陣営に売り払ったからだ。
今この国で、大企業であるアカシックカンパニーを購入出来るだけの力がある勢力は、マスタング陣営とエリザベート陣営だけ。
無駄に経営手腕があるマスタングに売り払って下手に強大になってしまうと後が怖いので、僕は馬鹿なエリザベートに会社を売った。
そして、あの会社は天才であるユエだからこそ発展を続けられた会社である。
つまり、中身は凡人のお姫様ごときに扱えるものではないのだ。
アカシックカンパニーが衰退するのは時間の問題だろう。
ちなみにアカシックカンパニーを売った時、エリザベートは「あははははははっ! やはり私って神に愛されてるのね」と言って高笑いを決め込んでいた。
なんと言うか……
こんな無駄に美味い話に、無条件に飛びついちゃうあたり、やはりあの女は本当に馬鹿だなと思う。
まぁ、今はその単純さが逆にありがたいのだが。
しかし、あの女の「自分は神に愛されている」とでも言わんばかりの笑顔を見てると……
なんと言うか…… 叩き潰すのが凄く楽しみだなぁ。
さて……
まぁとにかく、これで必要な資金は確保できた。
ユエが交渉の際に頑張ってくれたおかげで、想定していた額より高めに売れたからな。
本当にありがたい、ユエにはあとで沢山いいこいいこしてあげよう。
「くふふ…… さてと」
早速計画に取り掛かるとしようか。
「ユエ」
「なんだい、星君」
僕はすぐそばで、ちょっとしょんぼりしているユエに声をかける。
ふむ…… どうやら、アカシックカンパニーを売ったことが、やはり尾を引いているようだ。
これはあれだな……
ここはユエに落ち込む暇がないほど僕の為に働いてもらおう。
多分ユエみたいなタイプはそれが一番いい気がする。
「……君はこれからマスタング側に組する、各企業のトップにコンタクトを取ってくれ」
「マスタング陣営の?」
「そうだ、彼らにコンタクトを取り、マスタングが最終的に僕らから敵対せず、協力関係になる様に上手く操作して外堀を埋めてくれ」
「……………それは、このプロジェクトの概要を伝えた上でと言うことか?」
「いや、プロジェクトの大本がギリアン地区に関わっていると言うことはまだ伏せておいてくれ、あくまでユエが主体となって、秘密裏に行っているビジネスとして話すんだ」
「ふむ…… まぁ、出来なくはないが」
「プロジェクトの進行に合わせて徐々に情報を開示していくんだ、そしてオープンするころにはマスタングが協力せざるを得ない状況にしてくれ、そのために使える物はなんだって使っていい、必要なら『邪影龍殺し』としての僕を使ってもいい」
「最強のハンターと噂される君の名をか、それなら容易いな…………… わかった、上手くやってみよう」
ユエには天才経営者としての顔をフルに使ってもらう。
僕のこのプロジェクトが世に出るときに、最も邪魔になるのは、やはり経営面に秀でたマスタングだ。
一応カタギとして経営する以上、正統派の経営者である奴に敵対されるのは色々と面倒くさい。
叩き潰すのに多大な労力を必要とする相手なら、いっそ協力関係になってもらった方がいい。
旨みを分け与えて、敵にならないでいてもらうのが最善だろう。
でもまぁ……
最終的には潰すんだけどね。
とにかく……
そんな器用な根回しが出来るのはユエしかいない。
これは僕には無理だ。
「ユエ…… これは君にしか出来ない仕事だ、頼りにしているよ」
僕はユエを見やり、そして真剣な眼差しでそう言う。
「頼りに、か……………… 僕がいないと、星君は困るかい?」
すると……
ユエはそんな事を言いながら僕を見上げ、いたずらに微笑む。
「ああ、困る……… 凄く困るよ」
僕はそのユエの質問に笑顔で返した。
「それは手駒としてかい? それとも恋人としてかい?」
ユエは…… そう言って僕を見つめる。
笑いながら、僕を見つめてくる。
ちょっと冷たく、そして少しだけ楽しむように微笑んできたのだ。
ああ…… 凄く綺麗な表情だなぁ。
「もちろん恋人としてさ」
だから僕はそれに、即答で返す。
「ふふ…………」
ユエはそれに優しく……
「君は嘘ばっかりだ」
そして美しく微笑む。
「でもまぁ、ほとんどが嘘の僕にとって、それはきっと概ね真実なんじゃないかな?」
僕はそんなユエを優しく抱きしめてささやく。
「君って奴は………… いいよ、君の為に僕は頑張ろう」
ユエは僕を抱き返してそう言う。
「ありがとう、ユエ」
そして僕は、そんなユエを優しく撫でてあげるのだった。
さて、じゃあこの件はユエに完全に任せるとして、次はと……
「シルヴィ」
「あい」
僕はシルビアを手招きして呼び寄せる。
するとシルビアはすぐ、犬の様に僕の元へと駆け寄ってくる。
「シルビアに何か用? ご主人様」
「…………シルビア、君にもやってもらいたい仕事がある」
僕は駆け寄ってくるシルヴィを撫でながら、彼女にそう言う。
「さぁ、ちょっと出かけようか?」
そして僕は彼女を抱き上げ、立ちあがり歩き出す。
「お外行くの?」
そんな僕の首につかまりながら、不思議そうに尋ねるシルヴィ。
「ああ、そうだよ…… 君をギリアン地区の一番素敵な場所に連れていってあげる」
僕はそう言ってシルヴィを外へと連れていくのだった。
――――
実はギリアン地区には秘密の区画がある。
その秘密の区画とは、このギリアン地区の中心、マーキュリー王国において最も治安が悪い場所…… ギリアン地区公営ギルド会館廃墟跡。
この無法地帯であるギリアン地区において、唯一の秩序たる三大犯罪者ギルドに属さない、はみ出し者の中のあぶれ者達が集まる場所。
後先考えず、直ぐに暴力に訴え、罵倒と慟哭と若気の至りが渦巻く場所。
ヤングギャングチーム「ラグナロク」の溜まり場である。
まぁ…… つまりはかなり気合が入った不良少年達の溜まり場ってだけなんだが。
とにかく、その秘密の区画とはここ……
……………ではなく、ここから少し離れた廃教会にある。
一見ただの廃教会であるこの場所であるが、実はこの教会内にある祭壇には、地下へと続く隠し扉があるのだ。
そしてその扉から続く長い階段を下れば、そこには……
「うわ…… ご主人様、これって」
「そうだ、工房だよ」
そう、ここには王国が秘密裏に運営していた、地下研究施設があるのだ。
「これ…… なんなの?」
僕に抱き上げられたままのシルヴィが、わくわくしたような瞳で僕を見つめる。
ロリと言えどもさすがは錬金術師だ、研究施設を見ると目の輝きがちがうな。
「これはね……」
僕は、そんな興奮気味のシルビアをあやす様によしよしとしながらこの施設の概要を説明するのであった。
この施設は先先代の王、つまりは愚王の前の王が作らせた研究施設である。
そして、この工房の主な研究内容は…… 人体実験である。
先先代の王は当時から手のつけられない無法地帯であった、このギリアン地区を何とか有効活用しようと考え、その結果、ギリアン地区の住民を研究材料とした人体実験施設を作り出したのだ。
医療実験や、人体改造…… それらの人体を対象とした実験目的の為に、ギリアン地区に住む戸籍の無い輩を拉致し、そして研究資材としていたのである。
実はこの国の医療水準と人体に刻む強化魔法刻印の技術水準が他国より高いのは、それによるものだったりするのだ。
とにかく…… 『悦覧者』で閲覧した、国の極秘資料によると、ここはそう言う施設であるらしい。
しかし時は流れ、先先代が死に稀代の愚王が即位した時…… この施設の半永久的な凍結が決定された。
非人道的な施設であるこの工房の存在を、超平和主義者である愚王が許さなかったからだ。
「そして、今に至ると言う訳さ」
「なるほど……」
その後愚王はこの工房の存在を決して明かさず、だけど取り壊す事もせずに放置したのだ。
この、高度な機材が揃った工房を…… いたずらに腐らせたのだ。
「ご主人様は…… シルビアに何をさせたいの?」
シルヴィが、少し怯えた表情で僕を見上げる。
恐らく…… 人体実験をさせられるのではないかと怯えているのだろう。
まぁ、確かに僕はそう言う事を平気でさせそうだからな。
怯えるのも無理はない。
だが……
安心していい。
君たちを汚すのは僕だけだ…… 君たちから汚れる必要はない。
君たちが手を汚すくらいなら、僕がいくらでも汚れてあげるよ。
「ふふ、大丈夫…… 可愛いシルヴィに、人を殺す様な真似はさせないよ」
僕はシルヴィに優しく微笑む。
そう…… 人を殺したりはしない。
僕が君にさせたいのはそんなものじゃない。
僕がこの「人体」を加工することを目的とした工房を運用して君にやらせたいことは、人を殺してしまう様な残虐な実験ではない。
むしろその逆……
「君には人造人間を作ってもらう」
「………………え」
そう…… 人を殺すのではなく、生み出して貰うのだ。
そのために必要な情報は全て『悦覧者』で引き出し、それを悪魔の力を応用した血文字の自動印刷でプリントアウトしてある。
この世界全土をまたぐ研究情報に、高度な研究施設、そして実は結構すごがったりする(最近になって意外といい錬金の腕してると言う事を知った、ずっとただのアホの子だと思ってた)シルビアの錬金術師としての腕があれば…… 不可能ではないのだ。
「僕の可愛いシルヴィ…… やってくれるね?」
僕はシルヴィの、柔らかいほっぺにキスをしてそう言う。
人造人間…… それは人が人を作ると言う、 これもまた非人道的な行いである。
普通の感覚の人間であるのなら、それはやはり抵抗がある行いであろう。
だが…… 僕は知っている。
一緒に暮らして、そして契約でつながっているからこそ、僕はよく知っている。
「ご主人様ぁ……」
「ん? どうした」
キラキラした瞳で、少し涎を垂らしながら僕を見上げるシルヴィ。
「シルビア、超興奮してきた…… それ超楽しそう」
そう、こいつは少し……
頭のねじが飛んでいるのだ。
――――
「それじゃあ、マリアはこの名簿の人間を探しておいて」
僕は『悦覧者』で得た情報を、悪魔契約の念話ラインを通じて、マリアの脳内に直接送る。
この直接的な情報通信は、同じ悪魔でシンクロが極めて高いマリアにしか使えないのが残念だ。
頭のいいユエとこれが出来れば仕事がめちゃくちゃはかどるのになぁ。
そのうち全員の体内に僕の分身体を仕込ませて、脳内でSNSが出来るようにしようか。
そうすれば、全員の活動が同期出来て良いかもしれない。
「ねぇ…… あたしだけ念話で済ますって、ちょっと扱い酷くいない?」
僕がそんな事を考えていると、マリアが念話で僕に抗議をしてくる。
ふむ…… 契約魔としては至極当然の扱いなんだけどなぁ。
「まぁいいだろ? だってマリアと僕は一番繋がってるんだからさ…… 念話だけとか関係ないよ、だって僕らはいつだって一緒なんだから(契約的な意味で)」
僕はマリアに念話で優しくそう言う。
「…………ふん、そんな調子いい事言ったって、あたしは騙されてなんてあげないんだからね」
すると、マリアは拗ねた様な声でそう返した。
口ではそう言っているものの、明らかに声のトーンは柔らかくなっている。
相も変わらずマリアはちょろいな。
「まぁ…… とにかく頼むよ、これはマリアにしか出来ない人探しなんだ」
「わかったわよ…… がんばる」
そしてマリアは、少しだけ不満げにそう言うのだった。
「マリア?」
「……なによ」
「愛してるよ」
「………………………………ふん、あたしもだよ、畜生」
そしてマリアは満足げにそう言うのだった。
マジちょろい。
――――
さて…… 全員に仕事を振った事だし、そろそろ僕の方も行動に移すとするか。
とりあえず……
これから僕は計画通り、このプロジェクトを五つのセクションに分けて進行していこうと思う。
運営セクション、調理セクション、メイン商品開発セクション、市場誘致セクション、地区開発セクションの五つだ。
この五つを同時進行で段階的にこなしつつ、最終的に僕はこのギリアン地区を一大商業地区へと改変し、そして……
そしてエル―を竜王祭において、二大勢力と拮抗するだけの大勢力へと押し上げるのだ。
ふふ…… エル―の晴れ姿、楽しみだなぁ。
よし……
まずは、運営セクションの人材集めから始めるとしよう。
「さて…… 改めて、ここが『ラグナロク』の溜まり場、ギリアン地区公営ギルド会館跡地か」
僕は前方に見える建築物を見あげてそう呟く。
ここは気合の入った不良がたむろする場所…… ギリアン地区のはみ出し者のみならず、このマーキュリー王国全体の、社会からあぶれた不良達が最終的に行きつく場所。
無法地帯の中の無法地帯。
ヤングギャングチーム『ラグナロク』の拠点である。
「くふふ……」
僕ってさ…… 不良とかそう言う、粋がった奴って大っ嫌いなんだよね。
あの無駄に傲慢で高圧的な態度…… 見ているだけで不快だよ。
それに僕…… 昔不良にカツアゲされた事もあるしなぁ。
…………さて。
「……どう料理してやろうか」
それじゃあ……
楽しい楽しい、社員教育(物理)の始まりだ。
御宮星屑 Lv1280
【種族】 カオススライム 上級悪魔
【装備】 なし
〔HP〕 7050/7050
〔MP〕 3010/3010
〔力〕 7400
〔魔〕 1000
〔速〕 1000
〔命〕 7400
〔対魔〕1000
〔対物〕1000
〔対精〕1100
〔対呪〕1300
【契約魔】
マリア(サキュバス)
【契約奴隷】
シルビア
【契約者】
ユエルル・アーデンテイル
【従者】
エルヴィス・マーキュリー
【スライムコマンド】
『分裂』 『ジェル化』 『硬化』 『形状変化』 『巨大化』 『組織結合』 『凝固』 『粒子化』 『記憶複製』 『毒物内包』
【称号】
死線を越えし者(対精+100) 呪いを喰らいし者(対呪+300)
暴食の王(ベルゼバブ化 HP+5000 MP+3000 全ステータス+1000)
龍殺し(裏)
【スキル】
『悦覧者』 『万里眼(直視)』 『悪夢の追跡者』
『絶投技』 『火とめ焔れの一夜』
『味確定』 『狂化祭』 『絶対不可視殺し』
『常闇の衣』 『魔喰合』 『とこやみのあそび』
『喰暗い』 『気高き悪魔の矜持』 『束縛無き体躯』
『完全元属性』 『魅惑』




