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46話 同じ目線の者

「それじゃあ、エルー、これからの事を決めるとしようか」


「………はい」


殺意の文字に埋め尽くされたこの素敵な部屋で、猫の姿の僕とちょこんと座るエルーが向かい合って話し始める。


僕に向き合って座るエル―は、とても小さい。


確か年齢はもう16を過ぎているらしいが、この見た目は明らかにその遥か下である。


確か王が死んだのはもう4年もまえであるとの事だ……


恐らく、長年にわたる虐めのストレスが成長を阻害し続けたのだろうな。


まぁ… それは今はいいか。


「とりあえず、しばらくは君にしてもらう事は何もない、僕が君を欲した理由はギリアン地区で商売を始めるにあたっての正式な認可が必要であったからで、君自身の能力ではないんだよ」


「………はい、解っています」


エル―は無感動な表情のまま抑揚なくそう答える。


基本的には「どうでもいい」と言った表情で応答している。


ふむ…… 実に擦り切れているな。


これはこれで風情がある。


「ギリアン地区で商売を始めるにあたって、あの地区での大規模な改革が必要になるけど、それらは僕らで勝手にやるから君は気にしなくていい、君がするのはその改革が済んで、いざ商売を始める頃…… 周りがギリアン地区の変革を無視できなくなった頃に、それが君の指示の元に行われた正式なものと認可をすることだけだ」


「………はい」


基本的に他の地区は、無法地帯であるギリアン地区について関知をしない。


だからあそこを単純にまとめ上げるのは僕らだけでやるほうが勝手がいい。


だが、その変革が表に出るほど…… 周りが無視できない程のレベルになって来た時には「それが王族に認められた正式な事業である」という認可があった方がいいのだ。


王族の認可と言うこの国においての最高の認可があれば、他の業者や機関も文句は言えないし、何より消費者に対しての「安全保障」にもなるのだ。


さらに…… そのトップに、国民に名の知れた「天才的経営者」であるところのユエルル・アーデンテイルを据えることで、その「王族をも抱き込んだ革新的改革」に理由を持たせ、民衆に納得と認知をさせる。


これが僕に計画のおおよその全容である。


「だから、君は僕が迎えに来るまではこのままここで待機をしていてくれ」


「………はい」


そう言い終えた後僕はエル―に歩み寄り、そしてエル―を見上げる。


「で? どうする? さすがに、いきなり傷が治っていたら不気味がられるだろうから見た目だけは傷だらけに戻すにしても、その他はどうする?」


「………どうするって?」


無表情のままに首をかしげるエル―。


「君の体は今や完全に僕の支配下にある、つまり痛覚を断つことも体を丈夫にしておく事も思いのままと言う事さ……」


そう…… 計画がある程度進むまでエル―にはこのまま、しばらくは虐められてもらわねばならない。


エル―が変にアクションを起こして、他の王子達の注目を集めるのは計画の進行上よろしくない。


悪目立ちは改革進行の邪魔になる。


もう計画が行くところまで行って、もはや止められない流れになるその時まで…… エル―にはこのまま「無能」で居続けてもらわねばならないのだ。


だが……


必要なのは「無能」を装う事だけで、何も不必要に苦しむ必要はないのだ。


別に痛みだけが虐めにおける苦痛の全てではないが、それがその多くを占めて居る事には変わりない。


取り除けるのなら…… 取り除いた方がいいだろう。


「つまり、お前の苦痛をやわらげてやれるって事さ……」


僕はエル―の瞳を見つめてそういう。


「……痛みを?」


エル―はそんな僕の事をじっと見つめて、しばし考える。


そして……


「要らないです…… だってそんな事をしたら、この憎しみが」


僕を見つめて、彼は静かにそう言う。


重く冷たい殺意を帯びながら彼は……


「この気持がもったいないでしょう?」


狂ったように醜悪で、だけど死ぬほど美しい笑顔で、彼はそう答えたのだった。


「…………君って奴は」


僕もその笑みにつられて思わず微笑んでしまう。


ああエル―、君って奴は……


ほんと好きだ。


君の人間性は本当に素晴らしい。


惚れ惚れしてしまうような邪悪さだ。


「わかった…… 君の言う通りにしよう」


僕はそう言って、エル―の見た目だけを醜く戻す。


実質的には表皮の上に醜い造形を上乗せしただけだ。


ついでに…… 再生能力を高くして、重要な臓器の防御力だけは上げておいた。


さてと……


「じゃあ、しばしのお別れだね…… 名残惜しいよ」


僕は一度、人間の姿に戻りながらそう言う。


エル―とは正式に主従となったんだから、一度くらいは僕の真の姿をさらしておかないとな。


「……………え?」


猫からいきなり人間の姿になった僕を見て、無表情ながらも小さな驚きの声を上げるエル―。


僕の事をぼんやりと見つめている。


「どうだい? これが悪魔としての僕の真の姿さ…… まあ僕はこう見えて元々は人間でね、この通り悪魔的ではないのさ」


僕は立ちあがり、エル―を見降ろしながらそう言う。


しかし……


エル―は本当に小さいな。


元の姿になったて、背が高くなったからその小ささが良くわかる。


僕だってそんなに身長が高い訳じゃあないけど、エル―のちいささは異常だ。


小学生低学年って言ってもきっと通じるだろう。


凄いな…… こんな小さい体に、あんなに大きな憎しみが詰まってるんだ。


………………ん?


「……あの」


「……………どうした?」


エル―が立ちあがり、突然僕の顔を見つめ出す。


そして……


「顔を…… 見せてください」


「……え?」


「あなたの顔を…… 良く見せて… ください」


エル―は僕の顔に向かって手を伸ばし、そう言う。


何やら驚いたような顔で、少しだけ切迫したような顔でそう言う。


「…………いいけど」


僕はしゃがんで膝立ちになり、エル―と目線を合わせる。


ついでに、エル―の表情を良く見たいので、顔面の醜さだけは解除しておく。


「…………………ああ」


エル―は目線が同じ高さになった僕の顔を両手で掴んで、覗き込むように僕の両目を見つめる。


エル―の瞳が見開いて、丸くなって、入り込んでくるように、僕を見つめてくる。


そして……


「あなたも…………」


エル―は、消えそうな程小さな声でそう言った。


「おんなじ………… ですね」


他には何も言わずに、ただ一言、僕にそう言ったのだった。


その瞳と声は、まるで僕を……


憐れむようで、同情するようで、悲しそうで、それでいてあざけるようで、かつ見下すような感じで……


…………だけど、とても優しく、そして凄く嬉しそうな笑顔で、僕にそう言うのだった。


「…………………」


僕はその笑顔に何も言えなくなってしまう。


歓喜とも拒絶とも安らぎとも怒りとも取れる、不思議な感情が僕の中に突如渦巻いたからだ。


その一言と笑顔に、僕の心は熱く沸騰したのだ。


なんとも言い難いこの気持ち……


ただ………… 僕が今感じているこの気持ちとエル―が僕に向けているその気持ちの関係性を一言で表すなら、きっとそれは「対等」と言うのだろう。


僕は…… なんとなくそう思った。
















「じゃあそろそろ行くよ」


僕はエル―の頬を優しくなで、てそして彼の顔を醜く戻す。


「またね、エル―…… 」


うん…… 僕は決めたよエル―。


いや、決めてたけど…… それを絶対に決めた。


君には絶対に死んでもらう。


「可能な限り、君を早く迎えに来るよ、エル―」


約束通り君の願いをかなえた時、君には絶対に死んでもらうからね……


「………楽しみにしてます、我が主マイマスター


微笑んで立ち去る僕を、エル―は笑顔で見送ってくれたのだった。

御宮星屑 Lv1280


【種族】 カオススライム 上級悪魔(ベルゼバブ)


【装備】 なし


〔HP〕  7050/7050

〔MP〕  3010/3010


〔力〕 7400

〔魔〕 1000

〔速〕 1000

〔命〕 7400

〔対魔〕1000

〔対物〕1000

〔対精〕1100

〔対呪〕1300


【契約魔】


マリア(サキュバス)


【契約奴隷】


シルビア


【契約者】


ユエルル・アーデンテイル


【従者】


エルヴィス・マーキュリー


【スライムコマンド】


『分裂』 『ジェル化』 『硬化』 『形状変化』 『巨大化』 『組織結合』 『凝固』 『粒子化』 『記憶複製』 『毒物内包』


【称号】


死線を越えし者(対精+100)  呪いを喰らいし者(対呪+300) 


暴食の王(ベルゼバブ化 HP+5000 MP+3000 全ステータス+1000)


龍殺し(裏)


【スキル】


悦覧者アーカイブス』 『万里眼ばんりがん(直視)』 『悪夢の追跡者ファントム・ストーカー


絶投技オメガストライク』 『火とめ焔れの一夜ハートストライクフレイム


味確定テイスティング』 『狂化祭(カーニヴァル)』 『絶対不可視殺し(インビシブルブレイカー)


常闇の衣(コートノワール)』 『魔喰合(まぐあい)』 『とこやみのあそび』 


喰暗い(シャドークライ)』 『気高き悪魔の矜持ノブレス・オブリージュ』 『束縛無き体躯(フリーダム)』 


完全元属性(カオス・エレメント)』 『魅惑アプローチ

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