41話 永久なる愛の誓い
「殺してやる… ころしてやる…」
散々喚き散らした後… ある程度気が治まったのか、ジャスカスは大人しくなる。
そしてちょっと病的な感じでそう呟くのだった。
キモい。
「………………さて、火をつけにいくか」
僕はぶつぶつと呟きながら歩き出すジャスカスを捕捉しながら、奴がちょうど林を抜けるあたりですれ違うように移動する。
そして……
「ん…………? やあ、ジャスカスさんじゃないですか」
なんとも白々しく、そして笑顔でジャスカスに挨拶をする。
「ぁ……………………… ぉ、お前」
するとジャスカスは、露骨に目を泳がせて激しく動揺する。
いやいや、動揺しすぎでしょう…… キモい。
「こんな所で会うなんて奇遇ですね、僕は丁度今、ユエルルさんの所から帰る所なんですよ」
僕はそんな奴に向かって「何も知らない無邪気な感じ」を装って、明るく話しかける。
「そ…………… そ、そうか」
するとジャスカスは、分かりやすく安心した表情をしてそう答えた。
「いや、しかし丁度いい所で会えました…… 僕、貴方に言っておこうと思っていた事があるんですよ」
僕はそんなジャスカスを見やり、にやりと少しいやらしい表情を浮かべる。
「…………………………………………私にか?」
訝しげな顔で僕を見返すジャスカス。
「ええ… 実は今日、僕はユエルルさんに告白したんですよ……… 結婚しようってね」
「……………………はっ?」
ニヤニヤとしながらそう言う僕と、目を見開いて僕を見やるジャスカス。
「で…… 良い返事を貰えたので、明日の朝向かえに上がりますよ」
「……………は?」
ジャスカスは唖然として僕を見る。
「まぁ、そう言う事なんでよろしくお願いしますね? あ、もちろん会社も辞職させますんで」
「……は?」
そして僕は呆然とする奴などお構い無しに、次々と話を進める。
「まぁ、結婚できる年になるまでは唯の婚約と言う形になりますがね…… でも愛さえあればどうにでもなるでしょう」
「は?」
ジャスカスは「ちょっと待て」とばかりに手を伸ばし、狼狽しながら僕を見やる。
言いたい事が沢山あるのだろうが、あまりの衝撃に上手く言葉に出来ないようだ。
ウケるw
「では、失礼しますね……………… お兄さん」
僕はやつが伸ばしてきた震える手をパチンと振り払い、そしてその横を通りすぎる。
「ちょ…… 待て」
そんな僕を、震える手で更に引きとめようとするジャスカス。
しかし僕は、追いすがる奴など気にもせずスタスタと歩きさる。
そして……
「あ、そうそう……」
くるりと振り返り、ニコリと微笑んで僕は奴に言う。
「僕と一緒にいられるなら『約束』なんてどうでもいいって……」
「え………………」
奴を見下して……
「ユエルルさん…… そう言ってましたよ」
そう言ったのだった。
「…………………………っ」
絶句。
正にそう言った感じ。
まぁ、恐らく奴にとっては絆だったのだろう。
『約束』と言う名の、歪んだ愛であり絆だったのだろう。
自身のアイデンティティを失ったこいつにとっての、たった一つ残された物だったのだろう。
だけど……
「それではさようなら………」
そんなのはいらない。
ユエと絆を結ぶのは僕だけでいい。
ユエがすがるのも、ユエがすがられるのも僕だけでいい。
歪んだ愛など…… 僕のだけで十分だ。
他にはいらない。
「お兄さん…… くく」
僕はそう言って歩き出す。
背後でよろよろと震える恋敵を置き去りにして。
さぁ……
舞台の準備は整った。
これで奴は明日、僕とユエたんの元に訪れるだろう。
愛の反対は憎しみ。
奴は僕だけでなく、約束を破ったユエもまた許せないはずだ……
そして……
それにより憎しみを向けられたユエは…… くふふ。
明日が…… 楽しみだなぁ。
「ころ して…… やる」
――――
翌日。
あれから僕は、万が一ジャスカスがやけを起こしてユエに危害を加えたりしないように、ユエの研究室を監視しながら一晩を過ごした。
そしてついに運命の朝。
今日を持ってユエは……
完全に僕の物となる。
くふふ……
「さぁ、はじめようか」
僕はユエの研究室に向かい、そしてその扉を開ける。
「あ…………っ」
その扉の向こうには、少し怯えた表情のユエが一人佇んでいた。
「ほ…… ほし君」
僕を見るなり「ついに来てしまった」と言うような、気まずそうな顔で目線を逸らすユエ。
「さぁユエ…… 答えを聞きにきたよ」
「ぁッ……」
僕が静かに小さくそう言うと、ユエはびくりと体を震わせてうろたえる。
「えっと…… その…… あの… ほ、ほしくん」
ユエはしばらく視線を彷徨わせた後、すがるような助けを求めるような視線で僕を見やる。
「なんだい……?」
それに僕は冷たく返答をする。
「ぁぅ……」
ユエはそんな僕の対応に、怯えながら言葉を続ける。
「あの…… ぜ、絶対に君に迷惑はかけないから… 君の為の時間は絶対作るし、君が望む事ならなんだってするから……」
そして、ちょと泣きそうな声で……
「だ、だから…… あ、兄との約束は守らせてくれないだろうか…… あれでも僕にとっては大事な兄なのだよ」
僕にそう言ったのだった。
「可能な限り…… 叶えてやりたいのだよ……」
この僕に…… そんな事を言うのだった。
この……
君のことが大好きなこの僕に…… だ。
そう。
そうなのだ。
要するにそう言う事なのだ。
ユエは要するに…… ブラコンの気があるのだ。
彼女は彼女なりに、あの兄に対して深い愛情を抱いているのだ。
それは紛れもない、純粋な兄妹愛ではあるのだが……
それはあの兄からの歪んだ愛を受け入れられる程度には…… 深い愛なのだ。
そう……
ユエは愛してるのだ。
僕中毒になりながらも…… それでも兄を気にかけられる程に愛してるのだ。
くふふ……
ああ、本当に……
面白くない。
嫌だ。
ユエは僕の物だ。
僕が彼女を一番に愛しているし、彼女にもそうであって欲しい。
ユエには僕だけを見ていて欲しい。
僕だけを愛して欲しい。
完全に僕の物に…… なって欲しい。
いや…… する。
僕の物に…… 彼女を僕の物にする。
嫉妬……
そう…… 僕は嫉妬してるんだ。
醜悪で、卑しく、どす黒い嫉妬。
だが、どうだ……
嫉妬のない恋なんて…… 本気じゃないだろう?
「絶対手に入れたい」と思わない恋なんて、価値がないだろう?
真剣だ、僕は真剣だよ…… ユエ。
僕は君にとっての、たった一つの「大切」になりたいんだ。
だから当然… 「どっちも大事にする」なんて言う君の答えには……
「だめだ」
断固拒否だ。
「そ…… そんなぁ」
そんな泣きそうな顔をしてもだめだ。
僕は、僕の望む結果意外は認めない。
「分かれよユエ…… 君が選べるのは、一人だけなんだ」
僕はユエの顎に手を書け、そう言う。
冷徹な表情でユエを見下し、そう言いきる。
「ぅ… ふぅぅ…… ぇぇ…」
無理やり顔を上げられ、僕と視線を合わせられるユエ。
その大きな可愛い瞳に、じわぁ……っと大粒の涙が溜まっていく。
あぁ…… やっぱ幼女の泣き顔って最高だなぁ。
超興奮する。
「ど… どうすればぁ……」
ふるふると震えて、はらはらと泣き出してしまうユエ。
ふふ…… 完全なキャパオーバーだね。
まぁ、このまま放置しても既に僕中毒なユエは、最終的には僕の元にくるのだけど……
でも、それではダメなのだ。
それでは、中毒性に屈しただけの「仕方なく」だ。
ユエには…… ちゃんと選んで欲しいのだ。
この僕を。
そして…… その為には、決断の「場」が必要なのだ。
彼女が、ユエ自身が自分を納得させるだけの「エピソード」が必要なのだ。
くふふ……
さぁ、そろそろかな?
「まて……」
ヒーローの……
「まてぇ……ッ!! その手を…… 離せぇ!!」
お出ましだ。
「ジャ、ジャスカス……!?」
突然のジャスカスの登場に、驚き、そして涙に濡れた瞳を見開くユエ。
「おい……」
「きゃ……!?」
僕はジャスカスへと向けられたユエの顔を引き戻し、無理やり僕の方を再び向かせる。
「奴の事なんてどうでもいいだろう…… 君は僕を選べばいいんだ、何も考えるな」
そして、突然立ち入ってきたジャスカスになど一瞥もせずにそう言う。
「でも…… でもぉ」
「でもじゃない……」
奴を完全に無視して、ユエだけを熱く見つめてそう言う。
「おいぃぃ!!! 私を無視するなぁぁ!! おい、お前だお前!! このゴミ虫ぃ……!! こっちを向けェェェェッ!!!」
だが無視する。
知るかボケが。
「ユエは前、僕がいれば何でもできるって言ってただろ……?」
「そ…… れは…」
もちろん、それが口だけなのは分かっている。
恋愛における男女の、甘い迷いごとだとは理解している。
でも……
「いったよね……?」
「ぁう………」
僕にはそんなの関係ない。
僕は…… ユエのことを睨みつける様に見つめ、ユエは僕を泣きながら見上げる。
そして、そんな見つめあう僕等に……
「無視するなと言っているだろぉぉぉぉおおおおおおおッッ!!!」
ジャスカスがぶち切れる。
「ふ ざ け るなああああああああああ!!!!!」
自らの懐に手を突っ込むジャスカス。
そして取り出す一枚の紙切れ。
その紙切れには………
「今契約しよう! 仄暗き処に座す闇の主『地に堕ちた星』よぉッ!!」
黒く迸る、魔が魔がしき魔力が纏う。
「な!? ジャスカス…… 何を!?」
そのあまりの禍々しさに、うろたえるユエ。
そしてそんなユエを見やりニヤリと微笑んだジャスカスは………
「出でよぉ!! そして…… 奴を殺せぇぇぇええええええ!!!!」
その紙切れに……
悪魔との契約書に…… 血判を押した。
「ふはぁぁぁぁああああああああ!!」
ジャスカスの発狂。
部屋一面に広がる、黒い輝き。
そして……
「 その願い、聞き届けた 」
聞いた事もないような…… 寒気のする声。
いてつく氷のように鋭く、溶けた鉛のように思い……
第三者の声が…… 聞こえた。
「……………………………………え?」
瞬間。
声が聞こえた瞬間に…… もう事はすんでいた。
そして、その後に聞こえた間の抜けた声。
ユエの…… 気の抜けた、唖然とした声。
「へ……… な に…… これ」
そんな彼女の頭部に、水が滴る。
彼女の頭上から……
噴水のように…… 紅い水が流れ落ちる、
「え…………?」
彼女は、自らの手元を見やる。
その手は真赤に染まり、同時に来ていた服も紅く染まっていた。
そして……
「え……?」
彼女は、恐る恐る、自らの頭上を、再度、見やる。
そこには……
「ほ……… し……ぃ?」
伸びた悪魔の手に貫かれて……
「く…… ん?」
その頭部を弾き飛ばした……
星屑だったものがあった。
「え………………………………………………うそ」
ユエは…… あたりを見回す。
しかし、そのどこにも星屑はいない。
そして…… ゆっくりと悪魔を見やる。
兄を見やる。
「あ………………………ぁ」
そこでユエは全てを理解した。
全てを理解した、顔をした。
常人なら思考停止に陥ってもおかしくないこの状況。
しかし優秀すぎる彼女は、それに陥る事も出来ずに事を理解する。
なぜこうなってしまったのか、自分の兄が何をしでかしたのか、そして星屑がどうなってしまったのか……
それらを全て悟った上で彼女は……
「ぅそ…… うそぉ……」
驚愕をし、動揺をし、そして混乱をした。
「うそだ…… ぇ… やだ… うそだよ」
どうにもならない。
もう星屑は帰らない。
そう分かった上で…… 頭では完全に理解した上で……
「違う… うそだよ…… ほし君が、死ぬわけないよぉ…」
それでもそれを認められなかった。
現実主義で、ありもしないことは認めない彼女が……
目の前の現実を拒否したのだ。
「ほ…… ほしくぅ…ん……」
泣きながら…… 瞳を真っ黒に染め上げて……
飛び散った星屑の脳漿をかき集めるユエ。
「ぼ、ぼくの…… ほしくんがぁ…」
そして彼女は、拾い上げた星屑の眼球に向かってそう言う。
絶望に染まった瞳で…… そう言ったのだった。
そして……
「っああああははははははぁ!!」
そんな彼女を見下しながら、星屑の死骸を思い切り踏みつける男。
彼女の兄… ジャスカス。
「ぅえ…… ぁっ… やめてぇ… ほしくんを踏まないで…… お願い、お願い」
楽しそうに、狂喜の顔で、何度も何度も、地に伏した星屑の亡骸を踏みつけるジャスカス。
ユエはそんな兄の事を、真っ黒な瞳で…… 涙と共に見上げてそれをとめようとする。
「やめてよ…… ぼくのほしくんを… もぅ いじめ ないでよぉ…」
兄の足にすがりつき、そして懇願をするユエ。
「くきゃあああああははああああああ!! い や だねぇぇぇ!!!」
「きゃぁ!?」
そんなユエの事を、蹴り飛ばすジャスカス。
「あああははっはははっはははっは!!!!!」
完全にイッた目をして、ジャスカスはユエを再び見下す。
そして……
「黙れよ、この雌豚が……」
「え……?」
狂気の目で自分の妹を見下す。
「こんな男に騙されやがってこのクソ女がマジでキモいんだよだいたいお前は小さいころから俺の後ろについてきては俺に自分の頭の良さをなんどもなんども見せつけやがって本当に目障りなんだよ本当にうぜえそれにいつも俺の事を可哀想なものを見るのもむかついたし本当にウザかったマジで吐き気がするんだよマジでキモい本当に死ねよお前だいたいなんなんだよお前変に俺のこといつも変にきづかいやがってなんだよ優しくしてるつもりかよ本当に気持ち悪いよお前……… だから」
彼は… 壊れたように次々としゃべりだし。
そして……
「だから…… お前を愛してる」
に ちゃ ぁ っとユエに笑ったのだった。
「ぁ…………」
その兄の笑顔に…… 最早言葉をなくし、停止をするユエ。
そんな彼女に残された……
「ご、ごめん……」
ただ一つの言葉は……
「ほしくん…… ごめん ねぇ…」
最早この世にはいない…… 恋人への謝罪であった。
「だから……」
その言葉を聴いて、拳を握りしめるジャスカス。
そして彼は怒りの形相で持って、その拳を振りかざし……
「もう、その名を呼ぶんじゃねぇぇぇぇぇぇ…………!!!!」
そして、それをユエに向かって振り下ろす。
ユエはそれを…… 振り下ろされる拳を呆然と見つる。
そして、その拳は……
「がっ!?」
直撃する直前で停止をする。
「な………!?」
ユエに直撃するその直前で……
「何をしている…… 悪魔ぁぁぁあああああ!!!」
黒い悪魔に腕を捕まれ、止められる。
「 女… その男を逝き返したいか? 」
そして悪魔は…… 少女に取引を持ちかける。
悪魔の…… 取引を。
「な!? 悪魔!? 何をしている、そんな命令は…… むぐぅッ!?」
悪魔はジャスカスを、その魔力で黙らせ、そして少女を再び見やる。
真っ黒な少女の瞳を見やり、そう問いかける。
「…………………………………で きるの?」
「 できる 」
少女は悪魔の顔を、じっと見つめる。
じいっと見つめる。
「…………………………対価は?」
「 お前の全て 」
驚きも、動揺もせず、その返答を聞く少女。
彼女はゆっくりと息を吐き、そしてゆっくりと息を吸う。
流れる涙は止まり、滴る涙を手で拭う。
「お願い」
芯に光が灯った、黒い瞳。
いつもの彼女の…… ユエのふつくしい瞳だ。
くふふ……
「 では、この手の平に血判を押せ、それで契約は成る 」
悪魔は魔が魔がしい気を放ち、紫色に輝く手をかざす。
その手の平には…… 小さな、だけど強力な契約の魔法陣が。
「わかった」
彼女はスッと立ち上がり、自らの親指の先を噛み千切る。
ユエの指先から…… 真赤な血が垂れる。
彼女はその指先を見つめ、目の前の魔法陣を見つめ、最後に実の兄を見やる。
そして……
「さよなら…… お兄ちゃん」
フッと小さく微笑んだのだった。
「ん!! んんんんぅぅッッ!!!!!」
くぐもった叫びを上げるジャスカス。
しかし、そんな彼を尻目に彼女は……
「ほしくん……!! 生き返ってぇぇ!!!!」
勢い良く、魔法陣に血判を押したのだった。
「………………………………え?」
血判の捺印と共に、激しく輝いた魔法陣。
その光と共に死を覚悟したユエ。
「いき…… てる?」
しかしその結果は、死ぬどころか、完全な無傷である。
「え…… ほし君は!?」
星屑のことを見やるユエ。
しかしそこにあったのは、変わらぬ死骸だ。
「ど、どういう事!?」
ユエは怒鳴るように悪魔の方を見やる。
しかしそこには……
「………………え?」
全身にヒビを走らせる、黒い悪魔。
「えぇ?」
そしてそのヒビが砕け、黒い外皮の中から現れたのは……
「ほし…… くん?」
まぁ、当然僕な訳なのだ。
どうも…… 仄暗き処に座す闇の主『地に堕ちた星』(笑)こと僕です。
「やぁ、ユエ…… 僕を選んでくれてありがとう」
くふふ……
これでユエの事を完全に僕の物に出来た。
精神的にも、そして呪術的にも、魂的にも…… 文字通り全てだ。
「こ…… これはどういう」
「まぁ、それはこれを飲み込めば分かるよ」
「え? えぇ!? ん…ぐぅッ!?」
僕はユエの口の中に無理やり『記憶複製』のスライムを飲み込ませて、説明に必要な情報だけ与える。
「ん……くぅ………………………… え? これ…… え!?」
まぁ、その結果ユエの僕に対する好感度が下がるかもだけど……
「……………君、悪魔だったのか?」
「まぁね」
もう高すぎるほどに高い好感度の前では、些細な減少だ。
「じゃぁ…… 君が死んだのはうそだったのか… 僕を、騙したのか?」
ほらね?
まず最初に突っ込むところがそこだ、僕が悪魔かどうかなんて、最早余り関係ないのだ。
それに……
「好きだ」
「はぁ!?」
兄を見限ったユエには、もう僕しかいないのだ。
だからもう彼女は僕を愛すしかないのだ。
嫌いになどなれないのだ。
「愛してるよ…… ユエ」
「な!? き、君!! な… 何を誤魔化して… きゃ!? い、今僕を抱きしめるなぁ!! 僕は今怒っているのだぞ!!」
それに、主としての契約も有効だしね。
くふふ……
兄を見限ること。
僕と主従の関係を結ばせること。
目的は完全に達した。
これでユエはもう永遠に……
「僕を選んでくれてありがとう……」
「え……?」
僕の物だ。
「君に僕を選んでほしくてこんな事をしたんだ…… ごめん」
「え…………?」
そう僕のもの。
契約においてその全てを僕が獲得している。
だから……
「愛してるよ…… 一生大切にする」
「……………………………もぅ」
元来、こんな些細な理由で済ませられないような事も……
「君は……… しかたのない人だなぁ」
意識を逸らしてうやむやにすることもできる。
もちろん…… 過去になった兄に対しての意識だって。
まぁ…… そう言うことだ。
だけどここは一つ…… この顛末に相応しい言葉でこの一軒の全てを締めくくろうと思う。
「しょうがないから、僕が一生面倒を見てあげるよ…… ほし君」
「じゃあ…… お願いするよ」
恋は盲目なのだ。
仕方がない。
――――
「僕のスキルに『喰暗い』って言うのがあるんだけどね?」
「ん! んぅっ!!」
「このスキルは自分の影がまるで生き物みたいに動いて、敵をむさぼりつくすって技なんだけどさ」
「んんん!!!」
「影を使うって技の性質上、接近戦しか使えない技なんだよねぇ」
「んっ! んっ!!」
「ほら、僕って遠距離攻撃しかしないじゃん? だからハッキリ言って使わないスキルなんだよねぇ」
「んぁ…… !!」
「ベルゼブブになったおまけでついてきたスキルなんだけどさぁ… 正直いらないおまけだよね」
「んぐぅぅぅ!!!」
「でもさ………… これって面白い使い方もできるんだよね」
「んぃぃぃいいいいいい!!」
「例えば、相手を影で包んでじわじわと溶かしてむさぼり喰うような………」
「ぁ…………… がっ」
「丁度、今君が受けてるような感じの使いかたが……… ね」
「………………………………ぁ」
「くふふ……… ご馳走さまでした」
その日僕は人を食った。
まぁ…… 誰とは言わないけど。
いや~ まじ狂ってるな星屑先輩。 最近なんだか尊敬してきた。 自キャラなのに。
そして…… お兄さんのご冥福をお祈り申し上げます。
御宮星屑 Lv1280
【種族】 カオススライム 上級悪魔
【装備】 なし
〔HP〕 7050/7050
〔MP〕 3010/3010
〔力〕 7400
〔魔〕 1000
〔速〕 1000
〔命〕 7400
〔対魔〕1000
〔対物〕1000
〔対精〕1100
〔対呪〕1300
【契約魔】
マリア(サキュバス)
【契約奴隷】
シルビア
【契約者】
ユエルル・アーデンテイル
【スライムコマンド】
『分裂』 『ジェル化』 『硬化』 『形状変化』 『巨大化』 『組織結合』 『凝固』 『粒子化』 『記憶複製』 『毒物内包』
【称号】
死線を越えし者(対精+100) 呪いを喰らいし者(対呪+300)
暴食の王(ベルゼバブ化 HP+5000 MP+3000 全ステータス+1000)
龍殺し(裏)
【スキル】
『悦覧者』 『万里眼(直視)』 『悪夢の追跡者』
『オメガストライク』 『ハートストライクフレイム』
『味確定』 『狂化祭』 『絶対不可視殺し』
『常闇の衣』 『魔喰合』 『とこやみのあそび』
『喰暗い』 『気高き悪魔の矜持』 『束縛無き体躯』
『完全元属性』 『魅惑』




