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39話 翼の折れた天使

「ふふふ、楽しいなぁ……」


僕の隣でユエたんが微笑んでそう言う。


僕とユエたんは今、アンティーク魔道具めぐりをするべく骨董品屋を回っている最中である。


「誰かと買い物をすると言う事が、こんなにも楽しい事だとは思わなかったよ」


「それは良かったです…」


微笑むユエたんに、優しく微笑み返す僕。


ふふ……


こんなに無邪気な笑顔を見せてくれるように成るとは…… 大分打ち解けてきたみたいだね。


まぁ……


確かに、趣味の合う人間との買物と言うのは楽しいものだからね。


しかも今回は、アンティークと言う専門な知識を要する物の買い物だ……


アンティークなんて言うものは、そもそも価値が分からなければただのガラクタにしか見えない。


そして……


自分が好きなものがガラクタと思われるのは辛いもの。


だが逆に、そんな理解されにくいものを理解してくれる…… 喜びを共有してくれる、趣味の理解者が居るというのは嬉しいものである。


つまり…… 


その価値や素晴らしさが理解でき、語り合える人間との買い物であれば楽しく無いはずがないのだ。


そして、僕は当然それを理解できる、喜びを分かちあえる。


なにせ……


ここらの骨董品屋に売っている品は、全て下調べしたからね…… くふふ。


それに僕が調べたところによれば、ユエたんは誰かと買い物に行くのはこれが生涯で初めての事だ。


つまり、「楽しい」に「初めて」と言う付加価値がついているのだ。


ヘモリロぺペンの時もそうだが、「初めて」の「楽しい」経験と言うのは心に強く刻まれるもの……


つまりは一種の特別になれると言うことだ。


「これを今回限りにするのは惜しいな…… また買い物をしたくなったら君を誘っても良いだろうか?」


ユエたんは、ふと僕を見上げて、しみじみとそう言う。


「ええ、喜んで…」


僕はそれに、柔らかい笑顔で返す。


「そうか…… 良かった!」


そしてユエたんは僕に、にぱっとした笑顔を返してくれるのだった。


ああ…… 


いいね、いい。 


いいロリっ娘無邪気スマイルいただきました。


最高です、ありがとうございました。


ふふ……


いいね、確実に好感度を積み重ねているな。


「さて…… あと巡れるとしても一軒ほどでしょうか?」


少し間をおいたあと、僕はユエたんを見下ろしそう呟く。


「ふむ、確かにな…… だがここらの骨董品屋はもう全て巡ってしまっただろう?」


するとユエたんは僕を見上げて「どうしたものか」と見つめ返した。


うむ……


確かにここら一帯の骨董品屋はあらかた巡り終えた。


まぁ、この広い王国全体で見ればまだまだ骨董品屋は多数存在するのだが……


しかし、あと一時間ほどで開場する演劇開場の位置を考えるとあまり遠くに行く訳にはいかない。


つまり、もう今から巡れる骨董品屋は無いと言う事である。


だが、しかし……


「いえ、ユエルルさん… もう一軒近場で骨董品屋がありますよ」


実はもう一軒…… 僕は特別な店を知っている。


「………………なに?」


僕がそう言うと、ユエルルたんは少しだけ不機嫌そうな顔で僕をみやる。


「何を言っているんだ君…… このスェス地区のアンティークショップなもう全て巡っただろう」


ちょっとだけムッとしてそう言うユエたん…… ああ、いいねその顔いい。


「私の知る限り、他に店は無いはずだぞ」


ユエたんはキッと僕を見上げてそう主張する…… が。


「いえいえ…… それがもう一軒だけあるのですよ」


僕はそれを否定する。


まぁ……


確かにユエたんはこの地区のことに関して非常に詳しい。


なぜならこのスェス地区は王国全12区の中で、質高い骨董品屋の数が最も多いユエたん好みの土地だからだ。


しかも定期的に中古品を売り出すバザーが行われたり、更には劇場が連なる街道「リビステア大通り」も在ると言う……


いわばユエたんにとって聖地とも呼べる場所である。


つまり、オタクがアキバに詳しいように……


彼女がここを詳しいのは当たり前なのである。


と言うか、最早詳しいを通り越して、社長として地区開発に携わるほどの入れ込みようなのだ。


つまりその情報量は半端ないのである。


しかし、そんな彼女ですら……


「まぁまぁ……」


知らない店を、僕は知っているのだ。


「騙されたと思って行ってみませんか?」


僕は彼女に手を差し出し、そして微笑む。


「むぅ……」


ユエたんはそんな僕の手を…… 怪訝な顔をしながら握るのであった。


――――


「ぁ………………」


「どうですユエルルさん、本当にあったでしょう?」


スェス地区のリビステア大通りから少し外れたところにある、一軒の酒場。


その地下に、「誰も知らない」一軒の骨董品屋がある。


「…………ぁ…… ぇ……」


僕がユエたんをその店に連れて行くと……


ユエたんは、店に入るなりその愛らしい瞳をぱちぱちとさせて、辺りをきょろきょろと見てまわる。


口をぽかんと開けながらとことこと店内を歩くその様は、なんだか微笑ましくてとても萌える。


店員の「謎の銀髪のお姉さん」も、そんなユエたんのことを微笑ましげに見ていた。


「こんにちは……」


僕はユエたんを遠目に見つつ、小声で「謎の銀髪のお姉さん」に話かける。


「……………………ふふ」


すると、「謎の銀髪のお姉さん」は無言のまま、にっこりと僕に微笑んでくれた。


その、どこか子供っぽい表情と小さく覗く八重歯がとても魅力的な女性だだ。


うん、この「謎の銀髪のお姉さん」はかわいいなぁ。


今のままでも十分可愛いけど、多分あのお姉さんをそのままロリにしたら、きっとめちゃくちゃ可愛いんだろうなぁ。


いったい誰なんだろうな…… 


あのミステリアスな美人は。


皆目検討もつかないぜ。


まぁ……


「ねぇ、ご主人様…… いまキスしていい?」


ぶっちゃけると、大人バージョンのシルヴィアさんなんですけど。


「…………………だめ」


まったく、何を言っているんだシルヴィアは。


小声で言っているとはいえ、この会話が万が一ユエたんに聞こえてたらどうするつもりだまったく。


これはもうアレだな、お仕置きだな。


こんな可愛いこと言う奴隷にはお仕置きが必要だな、はぁはぁ。


「まぁ、後でな………」


「うん……… へへ」


僕はシルヴィアの手を軽く握ってそう言うと、今だ店内をきょろきょろとしているユエたんの方へと向き直る。


「なかなか良い品が揃っているでしょう?」


僕は彼女に近寄り、声をかけた。


「ぁ… ああ……?」


僕が声をかけると、ユエたんはぽかんとした顔のまま僕の事を見上げる。


そして……


「す……」


「す?」


ぷるぷると震えながら、僕の事を熱く見つめ……


「凄いっ…… こ、この店は凄いぞ!!」


ぱぁっとした笑顔で……


「超凄いぞっ!!」


瞳をキラキラさせてながら、ハイテンションでそう言うのであった。


「うわぁ! うわぁ…… 凄いなぁ… 凄いっ!! ………ぅわ!? これはリクトルミ魔法銃のレプリカじゃないか!! こっちはレイギスのティーカップだッ!!」


そして「ほぁぁ」と興奮のため息をつきながら、うっとりと商品を見やるユエたん。


にこにこと満面の笑みで僕に商品を見せてくるその姿は、年相応な感じがしてなんとも可愛い。


うん…… 


きっとこれがユエたんの素なのだろう。


ああ、なんと可愛らしいことだ。


普段のギャップと相まってなんとも萌ゆる。


頑張って、店一軒用意したかいがあったな。


「ふふ………」


そう……


この店は僕が用意したのだ。


つい一週間前にこの建物を酒場ごと買取り、そして酒場の地下室をざっくり改築し、そこに各種骨董品をぶち込んだのだ。


ちなみに酒場の店主には「詮索は一切するな」と『気高き悪魔の矜持ノブレス・オブリージュ』で脅してある。


そして……


このユエたん好みの商品群である。


ユエたんの日記からピックアップした商品や、ユエたんの好みであると推測される商品を軸にラインナップをしてある。


店として不自然がないようにぎやかしの商品も詰め込んであり、抜かりはない。


内容も裏ルートから仕入れた品や、普通に骨董品で買ってきたもの、更にはちょっと軽く民家から拝借してきた物と、多種多様だ。


ユエたんほどのコレクターでも、十分に楽しめる内容であろう。


「こ…… これはもしかしてビオルオルバの煙管か!? すごい!! 僕、これも買うっ!!」


よし…… めちゃくちゃエンジョイしてる様だ。


ふむ、成功だな。


そして……


これで僕が「ユエたんの知らない良店」を知っていたと言う事実が完成した事になる。


そして、それはつまり僕が「情報通」と言う点においてユエたんより上位であると言う事を意味するのだ。


そう…… 僕はユエたんより「オタク度」と言う点において優れていると言う事になるのだ


時に……


時に、この世には二種類のオタクがいる。


一つは、自分より造詣が深い者に対して嫉妬をするもの。


もう一つは、自分より造詣が深い者に対して敬意を払うものだ。


「君…… なぁ、君……!」


そして、その点においてユエたんが………


「こんな店を知っているなんて君は凄いなぁ……!!」


後者…… 「敬意を払う者」であると言う事はストーキングの段階で調べがついている。


「いえ…… たまたま知っていただけですよ、ここのマスターとは古い友人でしてね」


僕は、僕の事をキラキラとした目で見上げるユエたんに謙遜をする。


「いや、それでもだ…… この街で僕が知らない事があったなんてな、なんだか新鮮だよ」


そう言って、ニッと笑うユエたん。


…………やだ、なにその笑顔。


すごいかわゆいんですけど。


今すぐお持ち帰りペロペロしたいんですけど。


「それなら…… 良かったです」


僕はペロペロしたい衝動を抑えつつ、表情を作って取り繕うのだった。


「さてユエルルさん、もう良い時間なのでそろそろ演劇開場に向かいませんか?」


僕は、今だ夢中で辺りを見て回るユエたんに、小さく声をかける。


「えぇ…… もうか? 僕はもう少しだけ見たいのだが……」


するとユエたんは……


「……ダメか?」


上目使いでおねだりする様に僕にそう言うのだった。


おおふ…… 


なんだこの破壊力。


マジでヤバイな幼女の上目使いはこれはもう先日完成した『束縛無き体躯(フリーダム)』によるスライムの分裂能力を応用した「脳細胞の指定分裂による記憶情報の複製」をもってしてこの映像情報を永久保存版にする必要があるな加えて今研究中の記憶の映像化が成功すればこのユエたんのマ―ヴェラスプリティフェイスを世界の文化遺産として永久に残すことができるまったく幼女って奴は最高だぜ。


ふぅ……


落ち着け僕。


「ここはまた今度一緒にきましょう…… 約束しますよ、だから今日のところはこれくらいにして、演劇を見に行きましょう」


僕は必死で自分を落ち着けながら、ユエたんの向かって微笑み、そして手を差し出す。


「むぅ…… ほんとだな?」


するとユエたんは、差し出された僕の手を自然に握った。


お…… 


いいね。


事あるごとに手を差し出してきたかいがあったな。


移動の際に手を繋ぐことが僕とユエたんのお約束になりつつあるようだ。


実にいい傾向だ。


「ええ、約束しますよ」


僕はユエたんの手を、きゅっと軽く握って歩き出す。


「うむ…… なら良しとしておこう」


そしてユエたんは、そんな僕の手をキュッと握り返し、少しだけいたずらっぽく微笑むのだった。


ふふ…… 


ああ、デート超楽しいな。


――――


「いやぁ…… 最高だったなぁ」


演劇開場のすぐ近くにある喫茶店の店内。


そこの奥ばった所にある静かな席で、僕とユエたんは向かい合わせに座り夕食をとっていた。


「やっぱりバーラは良い…… 何度みても良いな」


ユエたんは瞳を閉じて、まぶたの裏に残る今日の演劇に思いを馳ながら「はふぅ…」と満足そうに息を吐く。


「ええ、本当に……」


そんなユエたんを微笑ましげに見つめながら、僕はそれに同意をした。


「そう言えば今日のあのシーンは素晴らしかったな…!!」


「あの、ユピテルが自害しようとするシーンですか?」


「そうそう、君もそう思ってたのか! さすがだなっ」


ちょっと興奮気味に話すユエたんと、それに返答を返して微笑む僕。


僕とユエたんは今、演劇の鑑賞を終えて二人仲良く今日の演劇についての感想を語りあっている。


「そういえば、今日のユーノス役の衣装も素晴らしかったなぁ」


「ええ、紅のロベルトスのドレスがステキでしたね」


二人だけでまったりと会話をするこの時間。


こんな風に映画などを誰かと一緒に観た後に…… 鑑賞の余韻に浸りながらだべるのは楽しいものだ。


「そうなのだよ……! まさかロベルトスブランドの衣装があのステージであんなに映えるとは思わなかったな」

 

ましてや趣味が合う人間とであればなおさらだ。


「君は本当に良く知っているなぁ…… なんだか僕は嬉しくなるよ」


そう言ってほわっと朗らかに笑うユエたん。


とても楽しそうである。


まぁ……


今まで基本ボッチだったユエたんにとって、誰かと楽しみを共有する、このひと時は正に「未体験」の楽しさなのだろう。


とても…… 嬉しそうだ。


「僕も…… ユエルルさんと一緒に居られて嬉しいですよ」


「む…… ふ、ふむ、そうか」


ちょっとテレながらそう言うユエたん。


ちょっとはにかんだ感じのその笑顔がまた良い。


ふむ……


しかし、ユエたんも大分デレてきたな。


なんか凄く楽しそうに僕と会話しているし、なにより笑顔が自然でかわいい。


僕と親密になっている証拠だ。


素晴らしい。


色々と努力ストーキングしたかいがあったな。


ふむ……


ちょっと…… 好感度に探りを入れてみるか。


「本当に…… ユエルルさんと一緒にいると楽しいです」


僕は微笑みながらも、その視線を真剣なものに変え……


グッとユエたんの瞳を見つめる。


「…………っ!?」


わずかに近寄る僕の顔に、少しだけ目を見開いて小さく息を飲むユエたん。


そして……


「ま、まぁ…… 僕もその… 君と居るの、楽しいぞ?」


自分の台詞にちょっと照れながら、目線を逸らして小さくそう言うのだった。


うん、完全にデレてるな。


デレ顔最高です。


と言うかデレ幼女最高です。


本当にありがとうございます。


ふふ……


いいね、完全にフラグが成立してる。


そこらの鈍感主人公は見逃しても、この僕は見逃さないぜ。


さすがは、引きこもりがちで天才肌なボッチ系ヒロインだ。


『最初は硬いが、一度信用したら一気にデレる』


これこそボッチ系ヒロインの醍醐味だな。


うん。


さて……


いい感じに盛り上がってきたし。


それじゃぁ… 


そろそろ最後の仕上げと…… 逝きますかね?


「あぁ…… いけない、もうこんな時間だ」


「え?」


僕は、ふと窓の外に目をやり、真っ暗になった屋外を見やる。


そして……


「それでは…… そろそろお開きにしましょうか」


ユエたんに向き直り、軽く微笑んでそう言った。


すると、ユエたんは……


「えっ………」


今まで笑顔だったその表情を、ゆっくりと素の表情へと変える。


まるで…… 「何言ってるの?」と言わんばかりな表情である。


「え……? もう… 帰るのか?」


そして、小さく顔に「イヤ」と書いてある表情でそう呟く。


「もうちょと…… 僕と話していかないか?」


そして少しだけ焦った様な表情で…… そう言うのだった。


くふふ…… 


いい顔だよユエたん…… この寂しがりやさんめ。


まぁ、僕も一緒に居てあげたいのは山々なんだけど…… こっちにも計画と言うものがあるからね。


ここは……


「いえ、残念ながらこの後は予定がありまして…… それに貴方を遅くまで連れ回すのは僕の本意ではありません、今日のところは僕を紳士でいさせて下さい」


残念ながら断らせてもらうよ。


「そ…… そうか、なら… しかたないな」


困った様に微笑む僕に、残念そうにそう返すユエたん。


ああ、しゅんとしたその姿が可愛い。


具体的にはその、悲しげな眉が超かわいい。


「では、送ります… 行きましょう」


そして僕はいつも通りに手を差し出し、そして席を立つ。


「……………………うん」


そしてユエたんはそんな僕の手を、少しだけ悲しそうに取るのであった。


――――


帰り道。


僕はユエたんの手を取り、人気のない街路地を行く。


ゆっくりと歩く僕とユエたんの間には、特に会話はない。


だが……


会話は無くても、きゅっとしっかり握られたその温かい手が全てを物語っていた。


ふふ…… 


完璧な仕上がりだ。


完全にユエたんは別れを惜しんでいる。


くふふ……


ユエたんは…… 


今までずっと一人だった。


いや、正確には家族や使用人はいつも身の回りにいたが、そこに「友達」と呼べる存在がいなかったのだ。


そして、今僕に対してユエたんが感じているのはその「友達」に近い感情だと思う。


気が合い、趣味が合い、一緒に居て楽しい。


そういった感情だ。


多分まだ、恋であって恋ではないのだと思う。


友達以上、恋人未満…


だが…… そんな感覚ですら彼女にとっては新鮮なのだろう。


今まで孤高の天才であった彼女にとっては…… 新鮮なのだ。


そして、その感覚が楽しいと知ってしまった彼女は…… 


人と関わる事の愉悦を知ってしまった彼女は……


「さぁ、着きましたよ」


「ぅ…………」


もう、その欲求から逃れられない。


寂しさから…… 


逃れられないのだ。


さて……


後はその欲求を…… くふふ。


「では、また連絡しますね?」


「あ…… ぁぁ… わかった」






恋心に傾けるだけだ。






僕はユエたんに微笑んで別れを告げると、振り返って数歩歩き出す。


そして、しばらく歩いた後に立ち止まる。


「最後に……」


「………え?」


立ち止まって振り返り、ユエたんを見つめる。


案の定、僕の後ろ姿を見送っていたユエたんを見つめる。


「最後にちょっと付き合ってください」


「え?」


僕はユエたんを見つめてにこりと微笑む。


そして、次の瞬間……


「………………………………………え? ……っえ!? な、えぇッ!?」


僕はユエたんに向かって全力で走りだす。


「……………見せたい物があるんです」


「きゃあッ!?」


そして、ユエたんを素早くで抱きかかえてからの……


「さぁ、しっかり捕まってて……」


「ぅえっ!? にゃ…!? きゃぁぁっッッ!!??」


思いきりの大ジャンプ。


「行きますよっ!」


「ふにゃ!? と、飛んでっ…!?」


僕達は凄まじい勢いで風を斬り裂き、雲をつきぬけ…………


そして…


「…………………どうです?」


「ぇ…… や…… ぅ……ぇ?」


そして大空へ。


「綺麗でしょ……?」


「ぇ………………」


急激な上昇が終わり、慣性の頂点で…… ふわりと止まるその瞬間。


僕はユエたんを風から保護するために、薄く張っていたバリアを解く。


途端に、遥か上空の冷たく澄んだ空気が鼻を抜け……


そして視界一杯に広がる…… 大きな大きな蒼い月が見えた。


「ぁ………」


下には雲の海が広がり、空には星の海が煌き、目の前にはただただ美しいお月さま。


その美しすぎる景色に、そして唐突過ぎるこの状況に…… 呆気にとられて息を飲むユエたん。


「ユエルルさん…… いや、ユエ…」


「ぅえ……!?」


僕はそんな彼女を強く抱きしめる。


ドサクサにまぎれて強く抱きしめる。


「ユエ…………」


「え? ……え!? ………ぇぇ……っ!?」


僕は……… 


僕はゆっくりと彼女の愛らしい顔に、自分の顔を近づける。


そして……


「……………………………ぁ」


僕はした……


ユエたんに優しく…… 口付けを……




加えて……




魅惑アプローチ』の………… 発動を!!




「んッ!? ふっ……! ん……ぅ…」


一瞬ビクリとして硬直し、そしてその直後にふにゃりとからだの力を抜くユエたん。


「ん……」


どうやら、僕の口付けを素直に受け入れてくれているようだ。


くふふ……


どうやら今までかけ続けてきた『魅惑アプローチ』が一気に体を巡っているようだ。


そう……


僕は今の今まで、ずっとユエたんに『魅惑アプローチ』をかけ続けてきた。


ちなみに……


魅惑アプローチ』とはサキュバスが使う魅了系のスキルの下位に位置するスキルだ。


その効果は、好感度を上げるだけと言う極めて些細なものだが、魔力の発動が微量であるため発現がばれにくいという利点もある技である。


………と、いってもユエたんほどの魔法の手誰となれば、些細な精神干渉の能力であっても感づかれてしまう。


つまりユエたん攻略にあっては、そういったチートは本来使えないはずであった。


が……


もし…… もしその魔力の発現が、ユエたんの体内からであったのならどうであろうか?


ユエたんの肉体自体が、自分自身に対して『魅惑アプローチ』を使っていたら……


どうであろうか?


くふふ……


そう、僕はそれをした。


それをしたのだ。


今日、僕はデートが始まってから今までずっと、『束縛無き体躯(フリーダム)』を用いて粒子化した自分の「スライム体」を………


呼吸を通じてユエたんに食わせ続けていたのだ。


少しづつ少しづつユエたんの体内に僕のスライムを進入させ蓄積させ……


体内からばれない様に『魅惑アプローチ』を発動し、僕に対する好感度でその体を侵食していったのだ。


そしてこの突発的で理解不能な状況の中、今の口付けでユエたんの体に染みこませた『魅惑アプローチ』を全てをダメ押しとばかりに活性化させたのだ。


ユエたんはこの状況への狼狽と、そしてはじめてのキスに対する動揺で、この『魅惑アプローチ』の発動には気付かないだろう。


いや……


気付いたとしてももう遅い。


体の奥深くまで根付いた僕への好感度からは、もう逃れられないのだ。


くふふ…… 


そう、僕は初めから彼女を口説こうなんてしていない。


口説くのはあくまで、「好感度を上げるだけ」と言う『魅惑アプローチ』を完璧に成立させるための土台に過ぎない。


僕は彼女を口説くんじゃない…… 堕とすんだ。


僕の元に彼女を堕として…… そして溺れさせるのだ。


さぁ…… ユエたん。


見せておくれよ僕に。


堕落をしたその顔を…… さぁ。




「ん………ちゅ……」


ゆっくりと唇を離したユエたん。


二つの綺麗な瞳が僕の事を熱くみつめる。


「え………っと…」


少し熱をもった、紅い頬。


きゅっと恥ずかしげに結ばれた唇。


そらしたいけど、そらせない…… そんな葛藤が見える、潤んだ瞳。


僕の故意に堕ちた彼女のその顔は……


「ユエ……」


「はっ………ぃ」


なんとも愛らしく艶かしく…… そして美しかった。


「大好きだよ…… 僕と付き合ってほしい」


「ッ………!?」


僕が思いを込めてそう言うとユエはびくりと体を震わせ、まるで射抜かれでもしたかのように、片手で胸を押さえる。


ここだけは…… 作り物の表情も使わないで、ありったけの思いで真剣に伝えた。


この思いが本物であることは自体は間違いではないから。


それに……


「えっと……… えと」


もう結果は分かっているから。


もう既に仕上がっている上に、この上ない美しいロケーション、加えて超高所と言う「つり橋効果」のアシスト付き。


最早オーバーキルである。


さぁ…… 


ユエ、僕に聞かせくれよ。


愛の誓いを…… ね。


「ぼ、僕でよければ……」


ユエはきゅっと目を閉じて、僕の服をぎゅっと握り……


「は、はひ……」


小さくそう呟いたのであった。


ああ……


一生大事にするよ…… ユエ。


くふふ… 一生ね。


御宮星屑 Lv1280


【種族】 カオススライム 上級悪魔(ベルゼバブ)


【装備】 なし


〔HP〕  7050/7050

〔MP〕  3010/3010


〔力〕 7400

〔魔〕 1000

〔速〕 1000

〔命〕 7400

〔対魔〕1000

〔対物〕1000

〔対精〕1100

〔対呪〕1300


【契約魔】


マリア(サキュバス)


【契約奴隷】


シルビア


【スライムコマンド】


『分裂』 『ジェル化』 『硬化』 『形状変化』 『巨大化』 『組織結合』 『凝固』 『粒子化』  『記憶複製』


【称号】


死線を越えし者(対精+100)  呪いを喰らいし者(対呪+300) 


暴食の王(ベルゼバブ化 HP+5000 MP+3000 全ステータス+1000)


龍殺し(裏)


【スキル】


悦覧者アーカイブス』 『万里眼ばんりがん(直視)』 『悪夢の追跡者ファントム・ストーカー


『オメガストライク』 『ハートストライクフレイム』


味確定テイスティング』 『狂化祭(カーニヴァル)』 『絶対不可視殺し(インビシブルブレイカー)


常闇の衣(コートノワール)』 『魔喰合(まぐあい)』 『とこやみのあそび』 


喰暗い(シャドークライ)』 『気高き悪魔の矜持ノブレス・オブリージュ』 『束縛無き体躯(フリーダム)』 


完全元属性(カオス・エレメント)』 『魅惑アプローチ

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