37話 戦いと決意の前夜
「ふむ、異常なし」
真夜中にそう呟き、怪しくたたずむ男が一人。
異常があるとしたらそれはお前の存在だという、どこからとも無く聞こえてきそうなツッコミは全面的にスルーである。
「くふふ…… ユエたん」
そう……
僕は今、絶賛ストーキング中なのである。
「ご主人様」
と……
そんな愛の探求中の僕に、突如愛らしい声がかけられた。
「はい、ご主人様…… アンパンとミルクだよ」
張り込みを続ける僕の元に、メイド服のシルビア食料を持ってきてくれたのだ。
この美味しそうなアンパンを……
恐らく…… 過去に召喚された者が伝えたのだろう。
この世界にもアンパンは存在するのだ。
「ありがとうシルビア、古来より張り込みにはアンパンに牛乳と相場が決まっているからね」
僕はシルビアの頭をなでながらそう言ってあげる。
「えへへ…… もっとなでて?」
シルビアはそれに、嬉しそうにニコリと微笑んだ。
さて……
あのデートの約束からほぼ一ヶ月が過ぎた。
そして、明日はいよいよデートの日である。
僕はアレから一ヶ月間…… 毎日毎日ユエたんの事をストーキングし続けた。
それはもう…… ストーキングをし続けた。
どのくらいストーキングしたかと言うと……
それはもう、おはようからお休みまで星屑の提供でお送りしますと言わんばかりにストーキングをした。
時に研究所を無断訪問し(違法)、時に私物を物色し(違法)、時に天井裏からユエたんを観察し(違法)………
その全てを把握したのだ。
もうこれでもかと言うほどにストーキングしたのだ。
ぶっちゃけると、『ストーカーX』が『悪夢の追跡者』に進化してしまったほどだ。
自作の「ユエたんレポート」も、実にNo:879にまで達してしまった。
もうはや、「ユエルル博士」を名乗っても良いほどに、ユエたんの情報については完璧といえるだろう。
まぁ、取り合えず……
これで明日のデートはほぼ完璧だな。
「ご主人様…… 楽しそうだね?」
僕がアンパンを食べながらニヤニヤとそんな事を考えていると……
シルビアが僕を見上げてそう呟いた。
「ん……? 楽しいよシルビア、とてもね」
僕はシルビアの頭をなで続けたまま、そう返す。
「そっか…… ご主人様が楽しいなら、シルビアも楽しい」
すると、シルビアはほにゃりと笑ってそんな可愛い事を言う。
………なんだ?
超可愛いんですけどこの娘。
「きゃう……ッ?」
僕は思わずシルビアを抱きしめる。
そして頬ずりをする。
「ご主人様?」
僕の腕の中で、メイド服のシルビアが首を傾げる。
ああ……
可愛い顔してるだろ?
これ…… ロリだけど僕より年上なんだぜ?
「シルビアは本当に可愛い…… これは一生僕の物だ」
僕はちっちゃいメイドさんをぎゅうっと抱きしめ、そう言う。
「えへへ、シルビアはご主人様の物だよ……」
すると、シルビアもまた微笑んで僕の事を抱きしめてくれる。
ああ……
本当に幸せだなぁ。
異世界万歳だよ。
くふふ……
あぁ、早くユエたんも抱きしめたいなぁ……
――――
「さて…… そろそろ帰ろうかな」
シルビアを帰らせてから数時間後。
僕はユエたんの就寝を確認してから、引き上げる事にした。
何せ明日は決戦の日だ。
帰って明日の準備を完璧にしておかねば。
「よし、行こう…」
僕は研究塔から離れ、そして魔法学校の校門を出ようとする……
「ん………?」
僕が校門に差し掛かったその時…… 向かいから一人の男が歩いてくるのが見えた。
「あれは……」
その男の事を僕は知っていた。
そして……
「ん…………? 貴様は」
その男も僕の事を知っているようだった。
「今晩は……」
僕はその男に軽く微笑み会釈をする。
「貴様は…… 確かユエルル様に言い寄っている男だったな」
しかし、その男は僕の会釈に答えず、いきなりにそんな事を言う。
………随分とぶしつけな男だ。
まぁ、幼女に対して本気でデートに誘っている男に対しての反応としては、正しいのかも知れないが。
「ちょうどいい…… 今日会えないのであれば、明日、直前に張り込もうと思って居た所だ」
そう言って男は僕の事を睨む。
「ユエルル様の助手として言わせて貰う、今すぐデートなどと言うくだらない行為はやめろ」
そして、嫌に高圧的な態度で僕にそう言いはなつのであった。
そう……
コイツはユエたんの助手。
ユエたんの実の兄でありながら、彼女の研究と仕事の全てを補佐する助手なのだ。
そのためユエたんのスケジュールも管理しており、彼は明日のデートの予定も把握している。
加えて研究塔に設置してある監視用魔道具に記録された僕の顔も把握しているのだ。
コイツの名前はジャスカス・アーデンテイル。
彼はユエたんの助手であり………
「いいか、彼女の時間は人類全ての宝なのだ、彼女の時間は全て国民の反映の為に使われるべきであるのだ」
そして………
「彼女に無駄な時間を使わせるな、貴様の様な一般市民の為に浪費してよい時間など彼女には存在しないのだ」
ユエたんの人生を「窮屈」な物にしている張本人であるのだ。
「彼女は仕事だけしていれば良い、どうだ? わかるな? わかったら今すぐデートを取りやめると宣言しろ、いいな」
どうやら今回のデートが既に撤回の出来ない「契約済み」であるまでは知らされていないようだな……
ふむ。
僕はそう言って僕を見下すコイツに対して……
「やめる訳なんてないでしょう? それじゃ」
笑顔のままそう言って立ち去る。
「まて……! 分からないのか?」
しかし、男はそう言って、去り行く僕の肩を引き止める。
「ユエルル様をどう利用しようとしているのかは知らないが…… 私は注意をしてやっているのだぞ?」
男は見下した態度で僕にそう言う。
「お前はどうせ、こう思っているのだろう? ガキを騙して楽に会社が乗っ取れるとか…… 金をせびれるとか……」
ゴミか何かをを見るように、そして哀れむように……
「だがそんな考えはすぐに改めろ…… 彼女は聡明だ、そのような愚劣な考えはすぐに見抜かれるぞ」
僕を蔑んで見下す。
馬鹿に言って聞かせるように言う。
「無駄な時間だ、貴様にとっても、彼女にとっても……」
そして最後に……
「分かるか? 馬鹿が…… 貴様のようなその他大勢のゴミと彼女では……」
僕の背中をドンと押して……
「生きる世界が違うのだ……」
怒りを孕んだ表情で、そう吐き捨てたのであった。
ああ……
なるほど。
この怒り…… 分かる、知ってる。
色々御託を並べてはいるけど……
つまりコイツは単に僕にムカついてるだけだ。
そしてそのムカつきとは…… 怒りとは。
おそらく……
「信仰」を汚される事への…… 怒りだ。
つまり……
コイツはユエたんの事を「神」の如くあがめてるのだ。
そう、ユエたんを自分の「信仰対象」として見ているのだ。
そして、その信仰対象へとぶしつけに近づく僕に対して怒りを感じているのだ。
信仰対象を守り……
信仰対象に自分の理想を押し付ける。
そして…… それに仇名すものには憎しみを持って接する。
つまりコイツは…… そう言うタイプの人間なのだ。
だから、その信仰対象に汚れがつくことを許せないのだ。
それがたとえわずかな汚れだとしても…… だ。
まあでも…… その気持ちは分かる。
分かる。
痛いほどに僕にも分かる。
そう…… 「ロリ」を絶対の神であり正義として信仰している僕には良く分かるのだ。
僕だって僕の可愛いロリたちに汚れがつくのは嫌だ。
汚すのはいいけど、他人に汚されるのは絶対に嫌だ。
だから…… コイツの怒りは理解できる。
「なるほど生きる世界が違う…… ですか」
だが……
「確かに僕みたいや奴とは違うかもしれませんね、だけど……」
それで引き下がる訳が無い。
「その時間が、無駄かどうかを決めるのは貴方じゃ無い…………」
確かにそっちにはそっちの「信仰」があるのだろう……
そして正義があるのだろう。
しかし……
「ユエルルさん自身でしょう?」
僕にも僕の「信仰」があり、カワイイという「正義」があるのだ。
そう……
それを曲げるわけには…… 行かない!!
「っち………」
僕が少しだけ『気高き悪魔の矜持』を発動しながら睨むと、男は少しだけ怯んで舌打ちをする。
「こ……… 後悔しても知らんぞ」
そして、苦々しげに僕を見つめてそう言うのであった。
「後悔ですか?」
僕は後ろに居る男のほうを振り返らずに……
「くふふ…… ロリ美少女とデートして後悔する人類がいるんですか?」
そう言って静かに立ち去るのであった。
うん。
最高の捨て台詞だな……
決まった。
――――
「んぅ………… ねぇ、星屑」
僕の膝の上で、マリアが少し顔を紅くしながら小さくそう呟く。
「どうしたんだい? マリア」
そして僕は膝の上に乗せたマリアの小さい胸を揉みながらそう答える。
「こ、これで本当に淫魔の力が伝わるの?」
そんな僕の事を訝しげに見つめるマリア。
「ああ、もちろんさ」
そして僕はそれに自信満々で答える。
ちなみに、今僕がやっているのは「主従契約を利用した能力シンクロ」であり、具体的に何をやっているかと言うとマリアの持つ淫魔の力をコピーしている。
僕はデートの約束をしてから今日まで、デートに「淫魔」の力をある程度利用すべく準備を行ってきたのだ。
まぁ、元来上級悪魔ってのはある程度の「魅了」は持っているものなんだけど……
なにせ色々とイレギュラーな方法で悪魔になった僕はそこらへんの「サブ能力」がすっぽ抜けてたりするのだ。
だけど幸いな事に僕の契約魔は下級とは言え、列記とした「淫魔」だ。
彼女との「契約式」に重なる形でシンクロすれば、彼女が持っている能力をコピーする事くらい訳ないのだ。
まぁ、元々持ってるべき能力だしね。
で……
そんな訳で僕はこの一ヶ月間、マリアとシンクロすべく、彼女を膝上に乗せていると言う訳なのだ。
ちなみに胸を揉む必要はない。
「んぁ……… そ、そうなんだ…」
ついでに言うなら、コピー自体は10日前に終了してたりする。
手に入れたこの「魅了」の力は、既に色々実験して使いこなし済みだ。
「ね……… ねぇ… 星屑」
「ん……? どうした?」
そんな訳で、ただ胸をもまれてるだけのマリアは、体を小さく振るえさせながら、僕に何かを問いかける。
「これって、そのユエって女の子を手に入れる為にやってるんだよね?」
マリアは……
瞳をフルフルと震わせながらそう言う。
「そうだよ?」
そんなマリアを見ながらそれに答える僕。
「な、なんでそんな面倒くさい事するの? 星屑なら……」
はふぅ…… と小さく息を吐くマリア。
「………全部力ずくで物にできるでしょ?」
そして、不思議そうに僕を見やるのであった。
僕は……
そんなマリアの瞳を見据えて……
「そうだね…… だけどそれじゃあダメなんだよ」
ふっ、と小さく笑う。
「力ずくは…… 一つの負けだからね」
そう……
力でねじ伏せると言う事は、「心での戦」を放棄すると言う事だ。
つまり「知性での戦い」を丸ごとぶち壊すと言うことだ。
そしてそれは……
知性においての敗北を孕んでいるのだ。
もちろん……
力で負かせばそれが絶対的な勝利であると言うことは変わらない。
力でねじ伏せれば、知性での勝負に負けた事にもならない。
黙らせれば…… 負けはしない。
そう。
力は…… 全てだ。
結局は暴力が全てだ。
圧倒的な暴力は全ての理屈を凌駕する。
が……
それは凌駕するだけだ。
それは…… 勝利ではないのだ。
力は「全て」をねじ伏せることは出来ても……
力は「全て」に勝利することは出来ないのだ。
確かに黙らせればま「知性」負けはない。
しかし…… 勝ちもまたない。
力でねじ伏せるとは…… そう言う事なのだ。
「だからね…… 力づくじゃあだめなんだ」
完全に従わせるなら、物にするなら……
力だけじゃあだめだ。
ちゃんと心もねじ伏せないといけない。
そして……
それは恋愛も同じだ。
力で僕の女にしても、なんの意味も無い
ちゃんと心も手にいれないといけない………
「僕の物にするなら………」
手間隙かけて、手塩にかけて……
「全てをものにしないとね…… 心も体も」
完全攻略…… しなくちゃね?
「ふぁ……ぇ!?」
僕はマリアを強く強く、抱きしめ……
「さぁ…… 明日が楽しみだ」
そしてニヤリとそう笑うのであった。
御宮星屑 Lv1280
【種族】 カオススライム 上級悪魔
【装備】 なし
〔HP〕 7050/7050
〔MP〕 3010/3010
〔力〕 7400
〔魔〕 1000
〔速〕 1000
〔命〕 7400
〔対魔〕1000
〔対物〕1000
〔対精〕1100
〔対呪〕1300
【契約魔】
マリア(サキュバス)
【契約奴隷】
シルビア
【スライムコマンド】
『分裂』 『ジェル化』 『硬化』 『形状変化』 『巨大化』 『組織結合』 『凝固』
【称号】
死線を越えし者(対精+100) 呪いを喰らいし者(対呪+300)
暴食の王(ベルゼバブ化 HP+5000 MP+3000 全ステータス+1000)
龍殺し(裏)
【スキル】
『悦覧者』 『万里眼(直視)』 『悪夢の追跡者』
『オメガストライク』 『ハートストライクフレイム』
『味確定』 『狂化祭』 『絶対不可視殺し』
『常闇の衣』 『魔喰合』 『とこやみのあそび』
『喰暗い』 『気高き悪魔の矜持』 『束縛無き体躯』
『完全元属性』 『魅惑』




