36話 恋の予感のする方へ
「け……… 結婚? な… 君はいったい何を言って……」
僕が思わず口走った台詞に、困惑した様子でそう呟くユエたん。
なにやら僕の事を変質者を見るような目で見てくる。
「あ…… いや……… その」
そしてそんなユエたんの目線に、少したじろいでしまう僕。
いや……
その蔑むような視線自体はご褒美であるのだけど…… 正直この状況はまずい。
ユエたんの心象を悪くさせない為、せっかく賄賂まで払ったと言うのに……
さっきの僕の一言で全てが台無しじゃないか。
これじゃあ第一印象最悪だよ。
なんてことだ……
くそぉ、全部姫カットが…… その愛らしい姫カットがいけないんだ!
「じ、実はですね……」
と、とにかく……
やってしまったものは仕方がない。
過去の失敗を振り返るのはよそう。
大事なのはこれからどう挽回するかと言う事だ。
大丈夫、落ち着け。
まだ挽回できるはずだ。
前の世界で、ギャルゲーとエロゲーを嗜んでいた僕ならきっとできるはずだ。
いや、できる!
………………と、僕はその時。
確かにそう思っていた。
自分ならできる、自分はクレバーだと……
そう思っていたんだ。
しかし……
しかしその直後。
事態は思わぬ方向へと急展開をする。
そう……
僕にとって最悪で最高に予想外の事態が起こったのだ。
「ぼ、僕になにか用なのか?」
すこし戸惑ったようにそう呟くユエたん。
僕はそのユエたんの発した何気ない一声に………
「しかも僕っ娘だとぉぉぉおおおおおおッ!!!! やったああああああああッッ!!!」
と思わず叫んでしまったのだった。
うん………
何を言ってるんだ僕は?
本当に馬鹿なのかな?
感極まり過ぎだろ。
落ち着けよ、ほんと。
まぁ確かに「僕っ娘」はいいものだけど…… なにも叫ばなくてもいいだろう?
まぁ確かに「僕っ娘」は素晴らしいものだけど。
しかし……
ああ、やばい。
まじヤバイ。
僕を見るユエたんが……
「な、なんだこいつ………」
完全にドン引きしていやがる。
まぁ、至極当然の反応ではあるんだけど……
さて…… どうしよう。
これ、挽回できるのかな?
無理じゃね?
――――
「…………おい、いつまで黙っているつもりなのだ」
僕の「僕っ娘」発言より数分。
ユエたんの研究室は、現在沈黙に支配されている。
そう……
結局あの後に僕は、いい打開策が見つからなかったのだ。
てか無理だろあの状況。
完全に詰んでる。
「君、僕は暇じゃないのだが………」
ユエたんが、イライラとしながら僕を睨みつける。
さっさと帰れと言わんばかりの視線で僕を見てくる。
「用が無いのならさっさと帰ってはくれないか?」
てか言われた。
ついに言われてしまった。
ヤバイな……
結構ガチのトーンで帰れと言われたぞ。
このままではどうしようも無くなってしまう……
「……………………いいかげんにしてくれないか?」
む…… そうとうイライラしているな。
くそ……
こうなったらなりふり構ってなどいられないか。
もう、好印象スタートは諦めよう。
しょうがない。
スマートじゃないがあの手で行こう。
まぁ………
あの手というほど大したものじゃないのだが。
「今日、僕はあなたに用があってきました」
僕は背筋を正し、可能な限り真剣な顔でそう言う。
「…………………なんだ、用があるならさっさと言い給え」
不機嫌そうな顔でそう言うユエたん。
「一ヶ月後、僕とデートして下さい」
「…………はぁ?」
はっきりとそう言う僕と、それに不快そうな顔でそう返すユエたん。
うん、まぁそうなるよね?
だけど、もうこれしか手か無い以上、やるしかない。
…………………まぁ、要するに力押しのごり押しで何とかしよう作戦だ。
「……………ふざけているのか?」
心底イラついた顔で、そう僕に言うユエたん。
「いいえ、真剣に僕はあなたをデートに誘っています」
僕はそんな彼女を真剣に見つめてそう返す。
「ちっ…………… 本気で言っているにせよ、いないにせよタチが悪いな」
そう言って僕から目を逸らすユエたん。
「たまに居るんだ…… 君のように僕の地位を利用しようとして近づいてくる輩が」
心底嫌そうに、そして少し悲しそうにしてそう呟く。
「まったく…… 管理課の審査は何をやっているんだ」
頭を抑えながら疲れたようにそう言うユエたん。
まぁ、管理課の魔術鑑定はスライム変化の応用で切り抜けて、それ以外は説得(お金)で何とかしましたが?
「とにかく……… 僕を利用しようとして近づいてきたのなら今すぐ帰ってくれ、僕は君の様な輩にも、その仲間にも強力などしない」
そしてユエたんは…… はっきりと拒絶の色を浮かべ、僕の目を見ながらそう言い放ったのだった。
ふむ……
しっかりと相手の目を見て、ハッキリと物を言っている。
拒絶の意思があます事無く僕に伝わってくる。
これだけで並の奴なら普通に帰るのだろうな。
凄い……
見たところ、まだ魔法は使ってないみたいだ。
魔法を使っていなくてこの気迫か……
しかもこの幼さで……
あふれ出るオーラが、にじみ出る存在感が、言葉の節々に見える威厳が……
全てが合わさって、強い意思伝達力となっている。
ただの人間だったら、僕も普通にしたがっていただろう。
なるほど……
これがカリスマ性ってやつなんだな。
僕には無いもの……
そして鳳崎には少しある物だ。
くふ……
益々君が欲しくなったよ、ユエルル。
「嫌です」
僕は出て行けと言うユエたんの言葉を真っ向から拒否する。
「なに……!?」
ユエたんは、完全な拒絶を断わった僕を……
いや、断れた僕を驚いたようにして見る。
「僕は、さっきも言ったように貴方を異性としてデートに誘っているんです」
僕はめげずにデートに誘う。
「ふむ………………」
考えるようにして僕を見やるユエたん。
「君はどうやら…… 見た目どおりの凡庸な男ではないようだな?」
そして僕を少し興味深げに…… だけど冷ややかに見てくる。
「まぁ、デートと言うのが本当であれ、嘘であれ、君が危険な人間であることには代わらないが」
そして、細めで僕を見やり小さくそう呟いた。
「で? デートしてくれるのですか?」
僕は小さく微笑んで再度訪ねる。
そんな僕をユエたんはしばし見つめ、何かを考えるように沈黙をした………
そして…
「ふん…… まぁいいだろう、退屈しのぎくらいにはなりそうだ」
小さく…… 本当に小さく微笑をしたのだった。
あ…… やばい。
このいたずらっぽい微笑…… すげぇそそる。
今のかわいい。
「ありがとうございます…… では…」
僕はその一言を聞き、おもむろに胸元から一枚の紙を取り出す。
「このゲルスヴェルド契約書にサインしてください」
そしてニコリと笑って差し出した。
「…こ……………………………これ」
しばしの沈黙の後……
僕と契約書を見て絶句するユエたん。
「これは、神金貨一枚の値がつく『絶対遵守』効果の魔動契約書……… だぞ?」
そして、唖然としながら僕を見上げる。
「ええ、そうですよ?」
僕は微笑んだままそう返す。
こんなこともあろうかと、用意しておいて良かった。
まぁ、こんなことになるとは思わなかったけど。
「本当に……か? え…… 本当にたかがデートの為だけに、この『規律の神の名の下における書状』を使うのか?」
僕を見ながら呆れたようにそう言うユエたん。
「ええ、僕にとってはそれだけの価値があります」
そう、それだけの価値がある。
女子との約束を全面的に信じれる程、僕はイケメンじゃないからね。
本当に欲しい女子との100%確約のデートが対価なら高くはない。
「ああ……」
大真面目にそう言う僕を見て、ポカンとして息を吐くユエたん。
「今何となくわかった……」
僕の目を見ながらユエたんはそう続ける。
「君は本気で僕の事をデートに誘っているんだな?」
呆気に取られたようにそう言うユエたんに、僕は無言と笑顔で返事をした。
「君は…… 酔狂で変態だ」
まぁ……
否定はしない。
「だが…… ふむ、面白い」
ユエたんは、またあの小さい笑顔を見せる。
そして……
「僕の周りには今まで居なかったタイプだ………… いいだろう」
ユエたんは僕からペンを取り、小さなその手で契約書にサインをする。
「一ヶ月後だな? 君のそのお誘い……」
サラサラと筆記体で鮮やかに署名をするユエたん。
「ユエルル・アーデンテイルが確かにお受けした」
そして契約書は光を放つのであった。
くふふ……
なんとかごり押しで上手くいったな。
何とかデートまでこぎつけたぞ。
「楽しみにしておいてくださいね」
僕はユエたんに微笑んでそう言う。
さぁ……
デートまでの一ヶ月間…… これから大変だな。
「『ストーカーX』発動………」
僕はボソッとそう呟く。
僕は……
僕はこれから一ヶ月、ユエたん完全にストーキングして彼女の全てを調べ尽くす。
一ヵ月後のデートで僕は………
彼女を完全攻略してみせる。
御宮星屑 Lv1280
【種族】 カオススライム 上級悪魔
【装備】 なし
〔HP〕 7050/7050
〔MP〕 3010/3010
〔力〕 7400
〔魔〕 1000
〔速〕 1000
〔命〕 7400
〔対魔〕1000
〔対物〕1000
〔対精〕1100
〔対呪〕1300
【契約魔】
マリア(サキュバス)
【契約奴隷】
シルビア
【スライムコマンド】
『分裂』 『ジェル化』 『硬化』 『形状変化』 『巨大化』 『組織結合』 『凝固』
【称号】
死線を越えし者(対精+100) 呪いを喰らいし者(対呪+300)
暴食の王(ベルゼバブ化 HP+5000 MP+3000 全ステータス+1000)
龍殺し(裏)
【スキル】
『悦覧者』 『万里眼(直視)』 『ストーカー(Ⅹ)』
『オメガストライク』 『ハートストライクフレイム』
『味確定』 『狂化祭』 『絶対不可視殺し』
『常闇の衣』 『魔喰合』 『とこやみのあそび』
『喰暗い』 『気高き悪魔の矜持』 『束縛無き体躯』
『完全元属性』




