3話 計画を練って大義を成す。
名も無い冒険者兼学者の文献
一般的には知られていないが、世の中には魔石虫と言う魔物がいる。
この虫は王国の南方にあるアデレスト霊峰の上部の岩場に生息する魔物で、生涯にわたって石の中で生活するといった魔物である。
生涯に一度だけ石の中から飛び出し、子孫を残してまた石の中に篭るというなんとも不思議な生態を持つ魔物だ。
その様な生態を持つが故、普段はただの路傍の石ころにしか見えない。
しかし、この魔物には大変面白い特色がある。
それは異様なレベルの高さだ。
なんと、何も攻撃力を持たず、そして何の抵抗も無く、普通に石を割るのと同じ要領で倒せるにも関わらず、その保有レベルは100を超すのだ。
世界でもっとも殺害がたやすく、費用対効果が高い魔物と言えるだろう。
もっとも……
この魔石虫が生息するアデレスト霊峰上部の魔物の平均レベルは300だ…… そこまで到達できる冒険者がわざわざ倒す必要がない。
その上、人が所持していると2時間ほどで死んでしまうので持って帰ることも出来ない。
早い話…… 上手い話などは、やはり無いと言うことである。
だが、アデレスト霊峰の上部、魔石虫の生息地は王国に流れるリースラス川の源泉のあたりだ。
もしかしたら下流のあたりに、二三個生息しているかも知れないな。
――――
…………と言う文献を僕は見つけた。
なんと言うか、非常に嬉しい情報だ。
正直、次のレベルアップ計画に移行するためには最低30レベルは必要なのだ。
なのでそこまでは、もう地道に頑張るしかないかなぁと想っていたけど……
もし本当に魔石虫がいるとするなら、一日無駄にする価値はある。
魔石虫が100レベルを超すのなら、最低でも二個見つけられれば余裕で30レベルは超せる。
だが、問題はどうやって魔石虫を見つけるか。
見た目は石と変わらない魔石虫をどうやって見つけ出すかと言う事だ。
そこでこれ……
この霧吹きだ。
魔石虫は調べたところ真性の水属性。
そして、真性の水属性の魔物に火属性の加護を加えると小さくレジスト光が発生すると、魔物学の上位教本「魔物の属性別対比論、真性と混成と変性」に書いてあった。
だから、この体温上昇の火属性加護があるメラリ草を煎じて、それを精霊水に溶かす。
それを霧吹きに入れれば…… 微弱な加護を含んだ即席の火属性液の完成だ。
これを河原中の石に吹きかける。
上手く魔石虫にかかればレジスト光が発生するはず。
そして探し出すんだ魔石虫を。
…………この河原には数年に一回。
夜間に青白い光が目撃されていると、警備隊の日誌に書かれていた。
この河原は王国の場内。
基本的に魔物はいない。
多分……
多分だけどそれは魔石虫の産卵だ。
青白い光と言う点も一緒だし、多分そうだろう。
だからいる。
多分魔石虫はこの河原に…… いる。
――――
「おい、アイツあさからずっと河原の石に霧吹きかけてるぞ?」
「何やってんだ?」
「おい…… 誰か聞いてこいよ」
「いやだよ…… なんかアイツずっとニヤニヤしながらシュッシュッシてんだもん、気味悪ぃ」
「お、おい、なんか笑いながら石割って喜んでるぞ!?」
「き、きもちわりい」
「一人でげらげら笑ってやがる」
「いかれてるな……」
「ああ、たぶん気でもふれてるんだろう」
「まぁ、特に害はなさそうだし、ほおっておこうぜ」
「ああ、そうしよう…… 関わらないほうがいい」
――――
シュッシュッっと河原に向かって霧吹きをかけ続ける。
延々と延々とかけ続ける。
そして……
チカっと光る紫色の、かすかな発光。
「ああああああああああ!!」
やった!
最後にもう一つ見つけた!!
僕はすぐさまその石をぐわしと握り締め、そしてそれを地面に思い切り叩きつける。
「ぅ……ぉぉ」
魔力が流れ込んでくるのがわかる。
そして自分のレベルがまた急激に上がったのが分かる。
良かった…… 僕は本当に運がいい。
もう河原の端まで来たし、それにもう夕暮れだ。
これ以上はもう無いだろうし、成果としては十分だ。
ああ…… 素晴らしい。
4個も見つかったぞ!!
そして、レベルはなんと今日一日で一気に42レベルだ!!
「ええと…… 『悦覧者』、魔法学校の成績、勇者鳳崎閲覧」
ふむ……
鳳崎は今日で95レベルか…… くふふ、一気に差が縮まっちゃったね鳳崎君。
これから僕はもっと成長するよ、それこそ加速度的に……
ああ、夢に一歩ずつ近づいている気がするよぉ。
楽しいなぁ、楽しいなぁ。
ああ、そうだそうだ。
昇格値の振り分けをしないとな。
この世界は1レベル上がるだけで昇格値が一気に10貰える、なんとも太っ腹な世界だ。
そして昇格値は10項目ある各ステータスに、好きに振り分ける事ができる。
まぁ、普通は全部に1づつ割り振るか、少し偏らすかするみたいだけどね。
ちなみに各ステータスの内容は……
〔HP〕
ヒットポイントじゃなくてハートポイント。
ダメージを受けても減るし、動きまわっても減る。
普段生活するには50もあれば十分すぎるけど、冒険者になるんだったら沢山必要。
無くなると当然死んでしまう、一番大切なステータスだ。
ちなみにこれは昇格値1、わり振ると10HPがあがる。
〔MP〕
これはそのままマジックポイント。
スキルを使うと基本的にはこれが消費される。
僕の『悦覧者』みたいに例外もあるけど。
ちなみにこれは昇格値1、わり振ると3MPが上がる。
〔力〕
まぁ、簡単に言って筋力だ。
でも色んな文献を見て察するに、体の基本的な丈夫さも上昇するらしい。
筋力に見合うだけの肉体をって事なんだろう。
〔魔〕
魔法の攻撃力だ。
同じ魔法でも、この数値が高いとほぼ別の次元の魔法になる。
魔法の運用効率とか、詠唱の早さとかもこれで変わる。
〔速〕
スピードだ。
これは筋力的な速さではなくて、スピード補正に近い概念だと想う。
この数値が高いと、単純に全ての行動が早くなる。
反応速度とか、斬撃とか、魔法の発動とかも早くなる。
〔命〕
命中力だ。
これが高いと命中補正が高くなる。
敵の捕捉能力とか視力とかも上がる。
〔対魔〕
属性攻撃に対して、オートで防御フィールドが発生するみたいだけど、それの強度だ。
〔対物〕
物理攻撃に対して発生する防御フィールドの強度だ。
〔対精〕
精神攻撃に対する対性だ。
〔対呪〕
呪いに対する抵抗力だ。
とまぁ、こんな所だ。
ちなみにステータスは筋トレとかで昇格値が発生する事は無い。
だけど、筋トレとかの鍛錬が無駄という事ではなく、筋トレとかはちゃんと身になれば『筋力+1』みたいな感じでスキル補正として習得されるのだ・
まぁ、僕は筋トレ嫌いだからしないけど。
よしじゃあ早速……
42レベル分の昇格値を割り振ろうかなぁ…… うん。
御宮星屑 Lv42
【種族】 人間
【装備】 なし
〔HP〕 20/50
〔MP〕 10/10
〔力〕 210
〔魔〕 0
〔速〕 0
〔命〕 210
〔対魔〕0
〔対物〕0
〔対精〕0
〔対呪〕0
【称号】
なし
【スキル】
『悦覧者』