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ああ勇者、君の苦しむ顔が見たいんだ  作者: ユウシャ・アイウエオン
第二章 新たなる自分への転生(人間やめよう)
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27話 仕上げる時

「さて…… シルビアたんはどこかな?」


僕は今、『常闇の衣(コートノワール)』を纏って衛兵の詰め所へと忍び込んでいる。


誰にも気付かれず進入し、天井裏からシルビアたんを捜索中だ。


てか、『常闇の衣(コートノワール)』は本当便利だ。


聴覚も、視覚も、魔覚も…… 全ての知覚阻害をしてくれるから、忍び込みにはもってこいだな。



「シルビアは何もしてないんです! 火事なんて起こしてないんです!!」


む……!


この甘くて高いアニメ声は…… 間違いない。


シルビアたんだ! 


「こっちの部屋か……」


僕は声がしたほうの部屋へと赴き、そして天井裏からその一室を覗く。


「…………悪いが証拠は全て出来上がって・・・・・・るのだ、諦めろ」


「家屋8棟と、それに伴う家財の損失による被害額は合計で金剛貨7枚と光銀貨5枚だ、そしてシルビア・アーデルハイド…… お前の総資金は錬金ギルドに預けているものをあわせても金貨10枚ほどしかない、つまりお前の奴隷化はほぼ決定と言う事になるな」


「そ…… そんな…… こ、こんなのおかしいよ、もっとよく調べてよぉ……」


僕が覗いたその先には……


厳しい顔をした衛兵二人と、泣きそうな顔をしているシルビアたんが話していた。


「ふむ…… もう大分話がすすんでるみたいだな」


どうやら、もうシルビアたんの罪状は確定していて、奴隷市に出される事は決定済みらしい。


普通はそこまで決まるには、早くても2日くらいは要するらしいんだけど……


さすがは鳳崎君、準備は万端って事だね。


そういう仕事の速さには恐れ入るよ。


「では、奴隷競売は明日の夜10時に行うことになる」


「まぁ…… 少しでも幸せになれるよう祈っているよ」


衛兵の二人は、シルビアたんと目を合わせないようにしながら無責任な言葉でしめ括る。


そして、関わりたくは無いとばかりにすぐに部屋から出て行ったのであった。


「そ…… そんな…… なんでぇ? シルビアがなにしたっていうのさぁ………」


一人、無機質な部屋に取り残されたシルビアたん。


「ぅ……… ぐすっ…… ひぐぅ…… お… みせぇ…… 頑張って作った…… シルビアの工房がぁ……… なんでぇ…」


シルビアたんは……


机に顔をつっぶして、一人ぐすぐすと泣き始めた。


孤独に、寂しく、絶望的な状況の中で…… 小さな体を震わせて泣きじゃくるシルビアたん。


丸まった小さな背中が…… 机に広がる銀色の髪の毛が…… すんすんとすすり泣く泣き声が……


その全てがかわいそうで…… 抱きしめたくなうほど、可愛い。



だけど……


だけど今はダメだ。


今…… シルビアたんを慰めてあげる訳には行かない。


なぜなら……


「くふふ…… シルビアたんには一度、完全に絶望してもらわないとね」


その方が、あとあと楽だからね。



さて…… 知りたかった情報は得られたし、そろそろ行くかな。


競売は明日の夜10時か…… 


奴隷市の基本的な閉場時間は8時だから…… 完全に鳳崎の為の奴隷競売だな。


ふむ…… 


だけどまぁ、準備する時間としては十分だな。


作戦上、鳳崎と対面する事になるから、僕の「強化」は今夜中に仕上げないとな…… 


まぁ、準備は全部出来てるから全く進行上の問題は無いな。


それで強化後にこの前狩った、ハイドドラゴンの牙を売りさばいて金を作るか……


そしてその後は…… くふふ。


あぁ、楽しみで仕方ないなぁ。


でも、もうすぐ…… もうすぐだ。


よし……


じゃあまたね、シルビアたん。


今度会う時は……


「僕がご主人様だよ……」


僕はしくしくと泣くシルビアたんの背中をニヤリと見つめて、その場を立ち去ったのだった。


――――








――――


夜の平原。


月も出てない、完全な闇の中。


僕とマリアは、赤黒く輝く魔法陣の前に立つ。


ここは、かつて僕が悪魔召喚を行った場所。


余命一年と言う契約の元に、マリアを手に入れる契約を行にった場所。


一度、「開いた」事により…… 呼び出しやすくなっている場所。


「出でよ悪魔よ!」


そこで僕は再び悪魔を呼び出す。


つい数日前に命の取引をした悪魔を…… 


僕は再び呼び出した。



「………………………………ほぅ、我を再び呼び出すような馬鹿がいるとは思わなんだぞ」


妖しい光と不気味な声と共に、ずるりと顕現する悪魔。


悪魔は僕とマリアを見下し、そして顔を不快そうに歪める。


「つまり…… 一年残してやった余命すらいらないと言うことだな?」


悪魔はそのまま、話も聞かずに無造作に右手を振り上げる。


「なぁ……… 愚かなる人間よ」


そして悪魔はその右手を……


まるで虫か何かでも潰すかの様に……


「死ね」


勢いよく、僕へと振り下ろしたのだった。


ぐちゃ……


…っと気持ち悪い音を立てて、僕は一瞬で肉塊へと変貌する。


悪魔が振り下ろした右手の下で、僕が潰され、びちゃっとあたりに血が飛び散る。


マリアの頬にも僕の血が飛び散った。


「あっけないな…… クズめ…… 身の程を知らないからこうなるのだ」


悪魔は無表情に、さっきまで僕だったものを見下し、そう吐き捨てる。


「おい、お前…… 幻界へと帰るぞ、お前にはしばらく我が屋敷で下働きをしてもらう」


その後に、悪魔はマリアを見やり高圧的な態度でそう命令をした。


「お父様……」


マリアは、そんな悪魔を見上げる……


そして………


「いやです」


小さく微笑んでそういったのだった。


「……………………………どう言う意味だ?」


悪魔はそんなマリアをいらついた顔で睨みつけ、そう言う。


「だって、私のご主人様はまだ健在ですから……… 契約上お父様の命令は聞けません」


マリアは地面に散らばり、足元に転がる僕の生首を抱えて、そうはっきりと言ったのだった。


「……………………ちぃ、頭がいかれた不良品だったか」


悪魔はそんなマリアをごみ虫か何かでも見るように見下だし、そしてまた右手を振り上げる。


マリアを僕と同じ様に潰そうとしている。


「せめて父の手で逝かせやろう…… 死ね」


そして、その右手をマリアめがけて、思い切り振り下ろした……


その時。


「がぁっッ!? な! なんだ!?」


振り下ろされた右手が「バキィ」と音を立てて、大きく弾かれる。


「ぐぁ!? あ…… ぁ熱いぃ!!?? 右手がっぁ!!」


そしてその弾かれた悪魔の右手には、何かに打ち抜かれたかの様な丸い穴が開いていた。


「くふふ…… どうですか? セントラルケージに死蔵されていた対悪魔用聖石のお味は?」


「な!? だ、誰だ?」


魔法陣の周囲に悪魔の怒声が響く。


「おぉ、さすがは近距離戦闘特化型の上位悪魔ですね、凄い再生力だ…… もう右手の傷が塞がり始めてる」


「こ…… この声は…… この前の人間か!? しかし、そいつは今さっき肉塊に……」


悪魔は、動揺したようにあたりを見回し……


「再生力は凄いけど…… だけどまぁ、それだけですね」


そして…… ある一点でその視線を止める。


「き…… 貴様…… な、なぜ」


悪魔のその視線の先……


それはマリアの胸元。


マリアが胸元に抱える………


「なぜ…… 生きているぅぅぅぅ!?」


喋る、僕の、生首だ。


「あぁ…… これはね、僕の体組織で作ったデコイなんですよ」


僕の生首はニコリと笑って悪魔に語りかける。


そう……


これは僕が時間をかけてじっくり作った、僕の内臓スライムで構成されたデコイ。


戦闘力を待たず、レベルも低く、まともに歩行も出来ないけど……


それ以外はほぼ僕と同じの、そんなデコイ。


本人以外できないはずの悪魔召喚も可能な、限りなく僕に近い分身体だ。


「で…… デコイだとぉ!? な、なんだそれは!? で、では…… では貴様の本体は……」


「あ…… それ気になっちゃいますか? やっぱり気になっちゃいますよね?」


マリアに抱きかかえられた僕の生首がニヤニヤとしながらそう答える。


うん、我ながら実にムカつく顔をしている。


「くふふ…… 僕の本体はね?」


そう…… 僕は今……


「ここから10キロ離れた安全なところにいるんですよ」


近距離特化型の悪魔様では決して届かないような距離から、悪魔様がもっとも嫌いな聖石でもって……


「あなたの命を……… 狙いながらね」


狙撃をしている。


「ぐぁわああああ!? 痛い!? 熱いイイイイ!!」


僕は悪魔の胸元を打ち抜く。


何度も何度も打ち抜く。


「さぁ、絶対絶命ですね、デグラフルート伯爵さま?」


僕の生首がニタニタと笑ってそう言う。


ああ、僕ってあんなゲスい顔で笑うんだなぁ…… まじ引くわぁ。


「な!? なぜ貴様、私の名前を知っている!?」


「くふふ…… さぁ、なぜでしょうね? 不思議ですね?」


まぁ、『悦覧者アーカイブス』で幻界にある帳簿やら魔界にある伝記やらを読み漁ったからね。


それでわざわざ、近距離特化型の上級悪魔様を…… つまり僕と相性が良さそうなあなたをピックアップしたんですよ?


さぁ、そんな訳で…… 僕の為に死んでください。


「ぐぁ!? やめろ!! もうやめろおおおおお!!」


僕は超遠距離から、デグラフルート伯爵閣下を聖石でフルボッコにする。


もういじめかって程に、石を連射しまくる。


相手は魔法陣で縛られてるから、あそこから動けないし…… しかも近距離特化型だからこっちまで攻撃は届かない。


対してこっちは、一番強い長距離からの、悪魔の苦手な聖石連射攻撃。


ああ、楽しい。


一方的って超楽しい。


まじで、快感だ…… ゾクゾクする。


「き、きさまあああああ!! 許さんぞ!! こんな一方的なやり方許されると思っているのかああああああ!! 卑怯だぞ!! 正々堂々戦えぇぇぇえええええ!!」


なに言ってんの……?


「いやです」


僕の生首が楽しそうに微笑む。


てか、正々堂々ねぇ…… 何それ美味しいの?


中華料理?


そもそも、あなただって今まで弱者相手に一方的に搾取してきたんでしょ?


自業自得じゃないですか。


だから、しょうがないよね?


うん、しょうがない。


「ぐぁああ!! お、おい! お前!! ぎゃあっ!! ち、父を、父を助けろおぉぉっぉおおおお!!」


悪魔が叫びながら、マリアを見やる。


下級悪魔に助けを求めるとか…… 大分切羽詰まってるな。


うん、まぁ再生を上回るスピードで攻撃しまくってるから、ダメージが蓄積してるんだろう。


そろそろ本格的にやばいんだね。


「お父様…… もう、諦めてください」


マリアは、そんなめちゃくちゃにボコられる父を哀れみの視線で見ながらそう言うのだった。


「クソオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


血の涙を流して、悲痛な叫び声を上げる悪魔様。


ああ、いい声で鳴くなぁ…… くふふ。


ほんとにいい…… 楽しい。


高圧的な奴を潰すのって超楽しい。



ホント……



「あぁ、強いものいじめって楽しいなぁ!!」



御宮星屑 Lv1069


【種族】 喰屍鬼(グール) スライム


【装備】 なし


〔HP〕  3050/1050(+2000HP分のスライムで構成)

〔MP〕  510/510


〔力〕 5845(『魂魄支配(オーバーソウル)』により1.5倍まで引き出し可能)

〔魔〕 0

〔速〕 500

〔命〕 5345

〔対魔〕0

〔対物〕500

〔対精〕600

〔対呪〕300


【契約魔】


マリア(サキュバス)


【使い魔】


イノセントスライム ミッドナイトスライム 内臓スライム(×2000) マッスルスライム 色とりどりスライムセット100個入り


【称号】


死線を越えし者(対精+100)  呪いを喰らいし者(対呪+300) 


悪鬼のごとく腐りきった者(グール化 HP+1000 MP+500 力+500 速+500 対物+500 対精+500 )


龍殺し(裏)


【スキル】


悦覧者アーカイブス』 『万里眼ばんりがん(直視)』 『ストーカー(Ⅹ)』


『オメガストライク』 『ハートストライクフレイム』 『バイタルコントロール』


魂魄支配(オーバーソウル)』 『味確定テイスティング』 『狂化祭(カーニヴァル)


絶対不可視殺し(インビシブルブレイカー)』 『完全体(パーフェクトバディ)』 『常闇の衣(コートノワール)

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