26話 君を奪うのは
「ねぇ、星屑」
「なんだい? マリア」
監獄所「セントラルケージ」から宿屋への帰宅途中、手を繋いで隣を歩くマリアが、僕を見上げて問いかける。
「結局星屑は今回何したの? 今回はなんも変わってないよね?」
まぁ……
確かに今回はグールのまんまだしね。
だけどマリア……?
種族なんて元来そうそう変わるものじゃないからね?
「うむ…… そうだなぁ、まあ準備かな?」
「準備?」
「そう、準備だよ準備……」
「準備かぁ…… ふーん、そっか」
僕はマリアに笑いかけて、そう返す。
マリアも僕の笑顔に、にへっと可愛く笑い返した。
面度くさいので細かく説明する気はない。
まぁ、実際のとこ、本当に準備だけだしな。
後は鳳崎が動き出す頃までに仕上げをしておけば………………… って、え?
「ぉ………!?」
「ど、どうしたの? 星屑?」
胸のあたりにちくりとした痛みを感じる……
これは……
「鳳崎……… 動きが速いなぁ」
これは……
この痛みは、僕がシルビアたんの工房に仕込んでおいたスライムが…… 死んだ痛みだ。
つまりそれは……
「マリア、先に宿屋に帰っててくれ」
「え? ちょ…… 星屑!?」
それはつまり……
「帰ったら、沢山なでなでして、もみもみして、ぺろぺろしてあげるからね!」
「え、ええ!?」
シルビアたんの工房が破壊された事を意味しているのだ。
そして同時にシルビアたんの危機を意味し……
鳳崎の思惑が進んでいる事も意味するのだ。
…………僕は。
僕はそんな事態を前に……
「くふふ……… 本当に予想通りに行動してくれるね、君は」
笑いながら、シルビアたんの工房へと走るのだった。
――――
「あ…………ぁ…… え…………?」
燃えている。
シルビアたんの工房が……… 周りの家を巻き込んで、ごうごうと燃え盛っている。
そして、そんな燃え盛る工房を呆然として見つめながら……
「え……? ぅそ…… 燃えて………………え?」
パジャマ姿のシルビアたんがぺたんと地面に座っている。
そして……
そんな可哀想で可愛そうなシルビアたんを、遠くで見つめながら……
「やっぺ…… パジャマ姿のシルビアたんかわいい!」
僕も萌えている。
だが……
そんな、呆けたまま動かないシルビアたんの背後に……
「やあ、今晩は………… 随分と大変なことになってるみたいだねぇ?」
ニヤニヤとしたムカつく顔をした勇者が近づいて来るのだった。
「ゆ……… 勇者?」
その突然な、そして不自然すぎる来客に……
「なんで……………………… え………………? まさ……か」
シルビアたんは驚き……
「まさか……………… おまえ……が………?」
目を見開いて、鳳崎を見据え………
「なんのことかなぁ…… 俺は君の工房を放火なんてしてないよ?」
そう、ニヤつきながら言い放つ鳳崎に……
「きさ……… きさっ…… ま……」
ぷるぷるがくがくと震えて……
「きさまぁぁあああああああッッ!!!!!」
震えながら、泣きながら、襲いかかるのだった。
「おっと……」
そんなシルビアたんを軽くいなす鳳崎。
「きゃぅ!?」
そのままバランスを崩し、地面へと転がるシルビアたん。
「なんだ………… あんた子供だったのか?」
転がったシルビアたんの体は小さく…… 幻術はとうに解けている。
「楽しみ半減だな、でもまぁ…… これはこれで楽しめそうだ」
鳳崎は…… そんな地面に転がるシルビアたんを見つめて残忍な笑みを浮かべた。
「お、お前っ!! クソぉ!! なんで!! わ、わたしのおみせが!! おみせがああああああ!!!」
泣きながら絶叫し、鳳崎を睨みつけるシルビアたん。
その瞳は鳳崎への憎悪で満ちている………
あぁ…… 綺麗な瞳だなぁ。
「なぁこの前の事、覚えてるか?」
そんなシルビアたんの瞳を、楽しそうに見下す鳳崎。
「この、赤い石売れよ………… で、犯らせろ」
そして赤い石を取り出して、下卑た笑を浮かべながらそう言うのだった。
「なっ!? お前、その石は……!!??」
驚き、鳳崎を見上げるシルビアたん。
「で? どうなんだよ? これを売って、そして犯らせてくれるのかよ?」
鳳崎はそんなシルビアたんを相手にせず、そして理不尽な言葉を吐きつづける。
「な………!? 何を言ってるんだお前はさっきからぁ!! 早くその石を返せ!! いいから返せよ!! お店も返せよおおおお!!」
シルビアたんは激怒しながら、鳳崎に突っかかろうとする。
「きゃん!?」
しかし、それも叶わず……
鳳崎の『五重結界』に弾かれてしりもちをつく。
「ふーん、俺のいう事が効けないと…… じゃあ仕方ないな」
鳳崎はニヤリと笑う、そして……
「衛兵さーん…… 犯人いましたよぉ!」
ニヤニヤとしながら誰かを呼んだ。
「…………………………ご協力感謝します」
すると、どこからともなく複数の衛兵が現れる。
そして……
「え!? ちょ……… ええ!? な…… なんで私を捕まえるの!?」
そして、衛兵達はシルビアたんを拘束したのだった。
「シルビア・アーデルハイドだな? 貴様の工房から大規模火災が発生したとの目撃情報が25件寄せられている
これは貴様を此度の火災の原因として拘束するのに十分な目撃情報であり、加えて魔動観測装置にも貴様の工房からの出火が認められている……」
複数の衛兵がシルビアたんを拘束し……
そして、その中の衛兵の一人がそう読み上げて……
「よって貴様を…… 大規模火災の原因と断定し、その責により逮捕する」
シルビアたんにそう言い渡したのであった。
「え………? うそ… え? なんで? え?」
動揺し…… そして、あまりの急展開に呆然とするシルビアたん。
そして……
それを見てニヤニヤとする鳳崎。
そう……
これこそが鳳崎の「手口」なのだ。
狙った相手の家に、放火をし…… 近隣の家を巻き込むほどの大火事を引き起こす。
そして…… 狙った相手を、出火の原因として逮捕させるのだ。
時に……
時にこの王国で、周りの家を巻き込むほどの火事を引き起こした者がどうなるか知っているだろうか?
そのたどる道は二つ。
一つは、周りの家の、火災による損失分を全て弁償する事。
そしてもう一つは……
奴隷として自らを売り、そのお金で損失分を補填する事である。
火災保険などの概念がない、この世界ならでは……
そして奴隷と言うものが当たり前であるこの世界ならではのしきたりである。
そして……
火災の場合、ほとんどの者がたどるのは、後者の方である。
なぜなら、火災の原因になると言う事は…… 資産も焼き尽くしてしまっていると言うことだからだ。
お分かりいただけただろうか?
今僕の視線の先にいる、ニヤけたクソ野郎が、シルビアたんに何をしようとしているのか?
そう……
つまり奴は…… シルビアたんを奴隷競売にかけ、それを買い取り、合法的にシルビアたんを我が物にしようとしているのだ。
鳳崎は一般市民に直接危害を加える事は禁じられている
しかし…… それが自分の奴隷なら問題はない。
自分の物ならば、傷つけようが殺そうが思うがままだ。
故に鳳崎はこうして、勇者としての立場を利用し王国の協力を仰ぎ、意中の相手を奴隷に堕とすのだ。
まず、火事を偽装し、相手を逮捕させる。
次に奴隷業者に圧力をかけ、告知をしない奴隷競売を開始させる。
そして、競売者が一人しかいないデキレースの競売で相手を最低価格で競り落とし、合法的自らの奴隷にするのだ。
これが鳳崎の「手口」の全貌だ。
勇者としての権力を存分に利用した、実に腐ったやり口である。
「いや…… いやだ、いやだああ!! え!? なんで!? シルビア何も悪い事してないよ!?」
叫び声が聞こえる。
シルビアたんが衛兵に連れ去られる際の叫び声だ。
僕はそれを静かに見送る。
そして鳳崎の顔を見る。
鳳崎は………
「ああ…… 奴隷になった時、どんな顔するのか楽しみだなぁ」
そう言って、泣き叫ぶシルビアたんを見ながらけたけたと笑うのだった。
ああ……
鳳崎君。
君は今、実にいい顔をしているね?
さて鳳崎………
これから始まる、競売相手のいない競売に…… 君だけの奴隷市に……
もし…… 競売相手がいたら、どうなるんだろうね?
これから逮捕されて、資産の精算後に決まる奴隷市の決行日を……
盗み聞きしている奴がいたら……
それはどうなるんだろうね?
くふふ……
「楽しみだなぁ」
シルビアたん、君を奴隷にするのは……
僕だよ。
御宮星屑 Lv1069
【種族】 喰屍鬼 スライム
【装備】 なし
〔HP〕 3050/1050(+2000HP分のスライムで構成)
〔MP〕 510/510
〔力〕 5845(『魂魄支配』により1.5倍まで引き出し可能)
〔魔〕 0
〔速〕 500
〔命〕 5345
〔対魔〕0
〔対物〕500
〔対精〕600
〔対呪〕300
【契約魔】
マリア(サキュバス)
【使い魔】
イノセントスライム ミッドナイトスライム 内臓スライム(×2000) マッスルスライム 色とりどりスライムセット100個入り
【称号】
死線を越えし者(対精+100) 呪いを喰らいし者(対呪+300)
悪鬼のごとく腐りきった者(グール化 HP+1000 MP+500 力+500 速+500 対物+500 対精+500 )
龍殺し(裏)
【スキル】
『悦覧者』 『万里眼(直視)』 『ストーカー(Ⅹ)』
『オメガストライク』 『ハートストライクフレイム』 『バイタルコントロール』
『魂魄支配』 『味確定』 『狂化祭』
『絶対不可視殺し』 『完全体』 『常闇の衣』




