20話 更なる強さを求めて
※ 食人表現あり。
「称号」 冒険者 エザーリス・リドアー著
称号とは、ある特定の偉業を達成したものに与えられる、天よりの贈り物である。
その多くはステータス上昇などのプラス補正が働くものであるが……
中にはそれだけでは無いものもある。
例えば白い翼を生やす天使になる事ができる「天に使えし者」など、身体的な変化が起こる称号もあるのだ。
――――
深夜…… 僕とマリアは王国北門から徒歩10分ほどの墓地にたどりついた。
ここは、無縁仏や犯罪者がとりあえず埋葬される墓地だ。
まぁ…… 墓地というにはいささか簡素すぎる、名前と没年が刻まれただけの石が無数に並ぶ場所だ。
「うぉぉ…… 星屑ぅ…… ここ、凄く怖いんだけど」
僕の腰にしがみついて、ガクプルと震えるマリア。
「そうかい? 僕はすごく居心地いいけど」
辺りは薄暗く、空気はひんやり冷たく、そして青白く光る「夢幻虫」が飛び交う…… そんな場所。
うん、実に快適だ。
ゾンビだからかな?
「で……? 星屑はここになにしに来たの?」
マリアがぷるぷると震えながら僕を見上げる。
「ん? 僕は死肉を食いに来たのさ」
僕は、そんなマリアの事を見下ろしながらニヤリと微笑む。
「え……? ぉ………お、汚食事ですか?」
僕がそう言ったとたん、びきりと引きつって、ずりずりと後ずさりをするマリア。
僕との距離をがっつり空ける。
「そ…… それなら、私は宿屋に帰ってるよ…… あ、あはははは」
そして、くるりと背をむけ、逃げようとするマリア。
「うふふ…… マリア、逃がさないよ?」
僕はそんなマリアを後ろから抱きしめる。
「うぇ!?」
そして、その首筋をあまがみした。
「うひゃああああああ!! ぞ、ゾンビにされてしまううううう!!!」
僕に抱きしめられたままばたばたともがくマリア。
「これからマリアには仕事を頼むよ、ちゃんとやらないならこのままゾンビにしちゃうけど?」
僕はマリアの首筋をもむもむとしながらそう呟く。
「うひゃぁぁぁ…… えぐっ…… ちゃ… ちゃんとやるから! 何ででもやるから許してぇぇ……!!」
ちょっとマジ泣きを始めるマリア。
やばい…… 楽しくなってきた。
「ゾンビになったら、私は凄くないから、ただのゾンビになっちゃうよぉ……!! えぐ……っ… 可愛くなくなっちゃうよぉ……!!」
ぐしゅぐしゅと泣きじゃくるマリア。
やべぇ…… 超楽しい。
だけどまぁ……
今はこのくらいにしておいてやろう。
本当は、あと五時間くらいはマリアで遊びたいけど……… 今はやることがあるからな。
「よし…… じゃあ許してあげる」
「えぐ…… ぅぅ……」
僕はマリアを下ろしてやる。
マリアは瞳をぐしぐしと擦りながら僕を見上げる。
潤んだ瞳が超可愛い。
「マリアにはそこらへんを、さっきから漂ってる夢幻虫を全部捕まえてもらいたいんだけど」
「これを……? えぐ……っ… わがった…… ひっく……」
えづきながらこくりと頷き、早速作業に入ろうとするマリア。
「マリア……」
僕はそんなマリアに声をかける。
「なに……………?」
マリアはそんな僕を涙目で見つめる。
「大丈夫、僕は君がゾンビになろうと可愛がってあげるからね?」
大丈夫、僕は君だったらどんな姿だってアリだよ。
「へ…………………………………………変態」
そしてマリアは、そんな僕を見つめて……
ドン引きをしていた。
「……変態って死んでも治らないんだね」
でも……
ちょっとだけ嬉しそうだった。
「さて……」
僕は夢幻虫を取りにいったマリアを見送り、あたりを見回す。
夢幻虫…… 虫と書いてはあるが、これは虫ではなくて一種の簡易精霊だ。
死者の眠りを安らかにするための…… 月の加護を帯びた精霊。
捕まえるのは非常にたやすく…… 月光石と共に光の通さない袋に入れれば保存も容易い。
基本的にはなんの役にも立たないとされているこの夢幻虫だが。
だがしかし…… 特定の条件化で大量の夢幻虫を用意する事で……
「くふふ………」
まぁ、それは後の楽しみに取っておくとして……
僕は今、やることがある。
「ふむ…… ざっと1000はあるかな?」
僕はあたり一面に広がる墓石を見回し、そう呟く。
さて……
僕は今からここにある墓を暴き…… そしてその中の死肉を食らわなくてはならない。
さぁ…… 夜明けまであと6時間ってとこかな?
まぁ、間に合うだろう。
食事開始だ!!
――――
バキィ…… ぐじゅ…… むしゃ…… ごりぃ……
「うぇ…… やっぱオッサンの骨はまじぃ」
ああ、60体前の新鮮な女の子の死体は美味かったなぁ。
ちょっと腐った眼球が、とろっとして最高に甘かった。
ぐちゅぐちゅになった内臓も酸味が効いてて美味しかったし、なにより骨がさくさくとして食感が最高だったなぁ。
でも、やっぱりちゃんとした墓場じゃないだけあって、碌な死体がいやしない。
ほとんどがごっつい男の死骸だ。
ああ…… やっぱり死体は女の子がいいよねぇ。
「げふ…… ご馳走さま」
ああ、確か次で最後の死体だ。
「さて…… 最後は」
僕は墓石の名前をみる。
なんだ…… また男の骨か。
ああ、最悪だ。
まぁ、なんでもいいんだけどね。
「もうすぐ日の出だし…… サクッと終わらせよう」
僕は地面に力任せに手を突っ込み、そして墓石の下にある死骸を引っ張り出す。
そしてその死骸を食べ易く砕き、流し込むように食していく。
飲み込んだ死骸は『魂魄支配』と 『バイタルコントロール』で内臓を操作してすばやく消化し、スライムに吸収させる。
それの繰り返し。
もう慣れたもんだ。
そして……
今食べてるのでちょうど100体目。
この面倒な作業もようやく終わる。
「ふむ…… この味はレベル120の冒険者か」
なんか…… 死体を食べ続けたせいで変な鑑定スキルを得てしまった。
その名も「味確定」、対象の体の一部を味わうだけで、その対象の全てを把握できる…… なんとも変態的なスキルだ。
便利そうではあるんだけどね。
まぁ、とにかく今日は死体を食べ過ぎたよ。
もうしばらく死体は見たくないね。
「ん…… ごくっ……! よし…… ご馳走様」
ふぅ…… これで100人だ。
これで僕は……
「ん……… ぉ…… さっそくか、体が熱いな」
僕の心臓が…… いや違うな。
これは多分「魔核」って言われる器官だろう。
胸が…… 熱い。
「ん……………? ちょうど夜明けか」
僕が、じんとほとばしる胸の熱さを感じていると、ほんのりと温かい日差しもを感じられた。
見れば、東の空が白み始めている。
「星屑ぅ~ 集め終わったよぉ」
僕が空を見ていると、大分疲れた様子のマリアが眠そうに目を擦りながら僕の下へと近づいてくる。
その右手には真っ黒い袋が握られており、その袋は大きく膨らんでいた。
どうやら、しっかり頑張ってくれたみたいだな。
「お疲れ、マリア」
僕は、マリアを迎えると、彼女をひょいっと抱きかかえて頭をなでてあげる。
「………………………………うん」
マリアはそんな僕の行動に、一瞬驚いたものの…… すぐに脱力し僕の首元に顔を埋める。
「あれ…………? 星屑の体、暖かい……」
マリアは僕に触れながら小さくそう呟く。
「え? なんで………?
星屑、ゾンビになったんじゃ……… あれ? そう言えば日の光も大丈夫なの?」
マリアは僕から顔を離し、不思議そうにそう呟く。
「マリア…… 僕は凄いから大丈夫なんだよ?」
僕はマリアの頬をなでながら、そう言う。
うん、説明めんどくさい。
「そっかぁ…… 星屑は本当にすごいんだねぇ」
マリアは頬をなぜる手に、くすぐったそうにしながら、嬉しそうに笑った。
うん、馬鹿可愛いって最高だね。
「さて、じゃあ帰ろうかマリア」
「うん、わかった」
僕はそのままマリアを抱っこして歩き始める。
目の前には眩い朝日。
日差しが素直に心地いい。
これがゾンビのままだったら即死だったね。
まぁ、今はゾンビじゃないから大丈夫だけど。
そう……
僕はゾンビより高位の怪物に進化したのだから。
まぁ、さすがにゾンビのままじゃ生活に支障がでるしね。
称号を得るのは大変だったけど、見返りは十分だ。
見返り……
ゾンビは……
ゾンビと言うのは元来死肉を食わない。
いや、正確には食いつくさない。
大概のゾンビはちょっとかじるだけで終わる。
だから、普通は進化しない。
その先にあるものには辿りつかない。
しかし、理性があるゾンビは違う。
意識さえすれば、死肉を丸ごと食える。
もっとも…… 理性を持ったまま死肉を丸ごと食らうなんて行為は、ゾンビの腐った感性を抵抗なく受け入れられるような腐った人間じゃないと無理だけどね。
僕みたいな腐った人間じゃないと…… ね。
〔知を持つ死人が、100の同胞を喰らう〕
これが、ゾンビを更なる怪物に仕立てるための条件。
称号〔悪鬼のごとく腐りきった者〕を得るための条件。
そしてこの称号を得たものは。
「屍を喰らいし、禍つく鬼人…………… 喰屍鬼へと昇華する」
くふふ……
ついに僕は鬼になった……
さぁ、もうすぐ仕上げだ……
更なる高みへ至る為の仕上げが始まる。
御宮星屑 Lv532
【種族】 喰屍鬼 スライム
【装備】 なし
〔HP〕 3050/1050(+2000HP分のスライムで構成)
〔MP〕 510/510
〔力〕 3160(『魂魄支配』により1.5倍まで引き出し可能)
〔魔〕 0
〔速〕 500
〔命〕 2660
〔対魔〕0
〔対物〕500
〔対精〕600
〔対呪〕300
【契約魔】
マリア(サキュバス)
【使い魔】
イノセントスライム ミッドナイトスライム 内臓スライム(×2000) マッスルスライム
【称号】
死線を越えし者(対精+100) 呪いを喰らいし者(対呪+300)
悪鬼のごとく腐りきった者(グール化 HP+1000 MP+500 力+500 速+500 対物+500 対精+500 )
【スキル】
『悦覧者』 『万里眼(直視)』 『ストーカー(Ⅹ)』
『オメガストライク』 『ハートストライクフレイム』 『バイタルコントロール』
『魂魄支配』 『味確定』 『狂化祭』