15話 夢を思って歩き出す事は(後)
「なぜだ…… なぜだ…… なぜだ……」
僕はふらふらと街を歩く。
もう……
訳がわからなくて吐き気がする。
どういう事なんだ?
え?
いったいどういう事なんだ?
ええ……?
僕は、鳳崎が憎いんじゃなかったのか?
あいつを殺したかったんじゃなかったのか?
あぇ……?
ああぁ………?
もう…… じぶんがわけわからない。
あの時…… 僕は確かに鳳崎を殺そうとした。
だけど…… 殺せなかった。
いざ、牙をなげようとしたら…… 怖くなったんだ。
本当にこれでいいのか?
後悔しないのかって…………… 怖くなったんだ?
ああ…… どういう事なんだ?
なんで僕がそんな事を思うんだ?
僕が…… 僕があのくそ野郎に対して…… 慈悲の心でも持ってしまったというのか?
それとも僕は…… 害虫の駆除も出来ないようなへたれだったのか?
ああ………… ぁぁ……
ああああああああ……
訳がわからない……
「………………………………………………………………………………ん?」
僕が下を向いて歩いていると、目の前にいつの間にか壁があった。
僕が立ち止まってそれを見上げると……
「教会………… か……」
僕は……
これは何かの導きだと思った。
運命だと思った。
きっと、ここには何かがあると…… あって欲しいと思った。
僕は答えを求めて…… 誘われるように教会の中へと入っていった。
――――
「あら……? どうされました?」
僕が教会の扉を開けると、そこにはシスターがいた。
もう鉄板の…… これでもかって程に鉄板のシスター服を着たシスターだった。
銀髪碧眼ロングヘアで…… 僕が今、ショックを受けてなかったら、思わず萌えてしまうところだろう。
だけど今はテンションが激低なので「シスターってどんな下着穿いてんだろう」くらいの事しか考えられない。
もうだめだ…… 死にたい。
「あ…… いえ」
僕はそう言って黙り込む。
教会に、しんとした沈黙が満たされる。
「何かお悩みのようですね…… 私で良ければお聞きしますよ?」
しばらく僕がうつむいていると、不意にシスターが、微笑みながらそう言っていくれる。
「え………… いいんですか?」
僕はすがるように、シスターを見つめる。
「ええ…… さぁ、こちらにお座り下さい」
僕はシスターに促されるままに…… シスターの隣に座る。
そして、僕とシスターは話を始める。
この時の会話が僕の今後の人生を大きく決定付ける事になるとは知らずに………
「さぁ…… どうぞ?」
「はい…… 実は僕…… 今日、人を殺そうとしたんです」
「…………………………………した、と言う事は思いとどまったのですね?」
「はい………………… いや、思いとどまったと言うよりは、出来なかったのです」
「そうですか…………」
「いざ、その人を殺そうとしたら…… 本当にこれでいいのかって思ってしまって…… 凄く後悔しそうで…… 怖くなったのです」
「……………………」
「あんなに殺したいと思っていたのに………………… なぜ?」
「……………………………………………それでいいのですよ?」
「……………………………………………え?」
「あなたの自分の心の奥に問いかけて見てください……」
「心に……………………?」
「ええ……… あなたがそう思ったのなら…… 後悔すると思ったのなら…… そう思うだけの何かが心の奥にあるのです」
「僕の、心の中に…… 何かが?」
「そうです……… そして……… そこに答えはあります」
「僕の………」
僕は……
鳳崎を殺せなかった。
なぜ……?
それは、僕が鳳崎を殺したくなかった…………… から?
僕は……… 鳳崎を……
どうしたいんだ?
僕は………
「あ………………………」
「分かったようですね?」
そうか…… 僕は……
「そうか、僕は…… 鳳崎を殺したくなんてないんだ…… 殺したりしても、何もならない」
「そうです……… その通りです…… 人を殺しても何も生みません……」
そうだ…… 鳳崎を殺しても何もならない。
だって………
「殺すなどと言う安易な考えはしていけません……」
だって僕は……
「その憎しみを捨てて…… 相手を許すので………」
「そうだったんだぁッ!!!!!!」
僕は元気良く立ち上がる。
「………………………………っえ?」
そして叫ぶ。
満面の笑みで、そして元気良く、迷いの無い顔で叫ぶ。
「僕は鳳崎を殺したいんじゃない!! 僕は鳳崎を苦しめたいんだ!!」
「…………………へ?」
ああ…… そうか! そうだったんだ!!
そりゃあそうだ!!
「あいつを殺したら見れないじゃないか!! あいつの苦痛に歪む顔が!! あいつの絶望の顔が!! あいつの泣き叫ぶ無様な面が!!」
「………は?」
ああ!!
僕はなんて馬鹿だったんだ!!
そんなの当たり前じゃないか!!
「そうだ!! 奴には僕と同じ…… いや僕以上の絶望と屈辱を味合わせないと!! あははははは!! 鳳崎ぃ!! 君をただでは殺さないよ!!」
「え? ちょ!?」
ようやく分かった!!
いや…… 忘れていた!!
僕はあいつを殺したいほど憎いんじゃない……
「あははっははっははっははははっはははっはあぁああああああ!!!!! 痛みも屈辱も100倍返しだ!! 楽しい復讐はこれからだよ!!」
ぐちゃぐちゃになぶり殺したいほど憎いんだ!!
「よしぃ!! そうと決まればこうしちゃいられない!! 早速、どうやったらあいつを苦しめられるか考えなきゃ!!」
僕は走りだして教会を飛び出そうとする。
「ま!! まちなさいぃッ!!!」
だけどそこでシスターに呼び止められる。
……………なんだ?
「復讐なんて馬鹿な事はおやめなさい!! そんなものは捨てて真っ当に生きなさい!! そんな復讐のため時間を費やすなんて間違っています!!」
シスターは僕に叫ぶ。
激怒の表情で僕にそう言う。
「いいですか!? 復讐は何も生みません!! あなたもその人も不幸になるだけです!! 負の感情で生きる人生に価値などありませんよ!!」
そして、僕にそう言い放ったのだった。
だえど僕は………
僕はそんなシスターに……
「何を言ってるんですか? 僕は幸せですよ?」
ニコリと微笑む。
「シスター、復讐っていうのはね、楽しいんです!! こんなにね!!」
この楽しさこそが価値だ!
――――
ああ……!!
凄くすっきりしたぁ!!
頭がすっきりした気分だ!!
なんていうか、レベル上げに熱中しすぎて本当の目的を忘れてたよ!!
殺せる手段が手に入ったから舞い上がってたみたいだ。
いけないいけない。
殺すだけが目的じゃないんだよな…… うん。
あいつを…… 徹底的になぶり殺さないとね。
だけど…… それにはただ力をつけるだけじゃだめだ。
あいつを、徹底的に苛め抜く環境も必要だよなぁ。
てか……
どうすればあいつを完膚なきまで絶望させる事ができるんだろう?
うーん……
「『悦覧者』ッ…… キーワード絶望」
ふむふむ…… あ、これなんか参考になりそうな書物だな。
拷問紳士 エドワード・グロスヴォード 「~絶望への案内~」
絶望とは、希望を目の前で笑いながらへし折ってやる事である。
おお……
なんか胸に来る言葉だなぁ。
ふむ…… 希望か。
あいつの今の希望は…… 魔王を倒して元の世界に帰るってことだろうなぁ。
うーん……
あ………
ああ……
そうか。
そうかぁ!!
そうだ! そうだぁ!!
そうしよう!!
「僕が真の魔王になろう!!」
魔界に鳳崎より先に行って、魔界を征服して、僕が魔王になるんだ!!
で、その後鳳崎を魔王のところまで無事行かせるんだ!!
苦労あり、笑いあり、感動ありの、最高に泣ける冒険を僕が演出するんだ!!
そして、最後に魔王を倒す、最強の勇者鳳崎!!
で……
それを僕がめちゃくちゃに踏みにじる…………と。
「くふ…… ぐふ… ぐへへへへっへ……」
ああ。
嗚呼………!!
僕は天才かっ!?
最高じゃないかそれはぁ!!!
ああ。
あああああ……
ああああああああああああああああああああああああ!!!!
よし!!
それでいこう。
くふふ……
ああ…… 楽しみだ。
それは楽しみだなぁ!!
ああ、鳳崎……
僕を楽しませてくれよ?
「ああ勇者」
僕は……
「君の苦しむ顔がみたいんだ」
第一部 夢と希望の始まり
了
第一部完
続きは一ヶ月後くらいには多分。
御宮星屑 Lv522
【種族】 人間(半スライム)
【装備】 なし
〔HP〕 1050/50(+1000HP分のスライム内蔵)
〔MP〕 10/10
〔力〕 2610
〔魔〕 0
〔速〕 0
〔命〕 2610
〔対魔〕0
〔対物〕0
〔対精〕100
〔対呪〕0
【使い魔】
イノセントスライム ミッドナイトスライム 内臓スライム(×1000)
【称号】
死線を越えし者(対精+100)
【スキル】
『悦覧者』 『万里眼(直視)』 『ストーカー(Ⅹ)』
『オメガストライク』 『ハートストライクフレイム』 『バイタルコントロール』