000.言うなれば序章
まるで狼が吠え出しそうなほど綺麗な満月が、闇夜の中できらびやかに自己主張している。
そしてそんな綺麗な夜でも、街を汚す下朗は存在している。
というか下朗は時と場所を選ばないものだな、と俺は思う。
何故ならば、
「へいへいお姉さん、こんな綺麗な夜は俺たちと一発洒落込もうぜ」
「とびっきりイイ思いをさせてやるからよぉ」
「でゅふふ、でゅふふ」
普通のヒゲ、背の高いガリガリ、ちびデブの三人組が、路地裏に女の子を連れ込んでいた。
「ちょっ、やめてください!」
連れ込まれたその子が抵抗しようとする。しかしガリガリが手際よく肩から取り押さえる。
「ひっ・・・・・・!?」
ちびデブが懐から取り出した拳銃を見て反抗的だった彼女の表情が一変する。
(これはちとまずいな・・・)
そう思った俺は、すかさず110をプッシュする。
「あ、警察?今拳銃持った変態三人組が女の子を囲んでて、え?場所?えっと、3番街の裏通りがッ?!」
後頭部に強烈な衝撃。手から離れたケータイは蹴っ飛ばされてしまった。おそらく電話の向こうで警察が慌てていることだろう。
しかし今の俺はそれどころではない。
「こいつ、警察に電話しやがった・・・・・・。つかこいつどこに隠れてやがった?!」
痛みと怒りが有頂天なわけでして。
「ゴミ捨て場の横だよコンチクショウッ!!」
渾身の力を込めて俺の拳をおそらくそれで俺を殴ったであろう、角材を持ったヒゲの顔面に導く。
鋭く極ったそれの威力は、ヒゲの顔面だけでは勢いを殺せずに後ろのちびデブとガリガリを巻き込んで吹っ飛んだ。ぺたんと地面に尻をつけていた彼女はどうやら無事のようだ。
運良く3人とも伸びているのを確認したところで、警察がきた。珍しく早い。
そしてパトカーから降りた長身のイカしたヒゲが此方へ向き直る。
「またアンタか・・・・・・」
大袈裟に肩の高さまで手を上げ首を振る。
「良いじゃんよ、事件を未然に防げたし~」
俺が軽く言うとイカしたヒゲは嘆息しながら言った。
「全く・・・・・・。改正された法律の穴をうまいこと潜るアンタのような輩が他に現れなきゃエエんだが」
「はっはっは」
「はっはっは、じゃないよほんと」
「前山田警部!!」
ここで第三者の介入があった。
さて、調査が本格化する前におさらばしますかね?
「んじゃまたねー、前山田のオッサーン!」
俺は告げると同時に裏路地を抜けて繁華街へと駆けていった。