きっかけ
(1)誘い
夜のネオン街。
「あーちくしょー!」
とぼとぼと一人で悔しがりながら飲み歩く一人の男。植木優(25)。うだつのあがらない大手証券会社勤務。独身。実家暮らし。
同期入社の連中は皆実績が認められ海外へ勤務だったり、プロジェクトチームのリーダーを務めて、見事に成功し課長に出世したりと成功している。
それに比べて彼の場合は、ミスの連発、取引先からも信用を失いすでに始末書も数枚ほど書いているほどのどうしようもない男。まさにリストラ寸前崖っぷちである。
おまけに彼女とは交際1ヶ月で2日前浮気をされているところを目撃し別れたばかり。はじめての彼女だった。金品なども貢いでいた。
そんな彼の好きなこと。飲み歩きである。
1件目はいつも行っている焼き鳥屋、2件目は前から気になっていた一人でも入れるようなカウンター式のナポリピッツア専門店。そして3件目は帰る前に必ずといってもいいほど寄る近所のバー。
洋酒の種類は豊富でめずらしい酒を入れている。こじんまわりした知る人ぞ知る隠れた名店。彼にとって隠れ家的存在だった。
彼の好きなのはバーボン。しかし今日は飲みすぎた。薬草酒ンーダーベルグの牛乳割りにするかスキュームドライバー又はモヒートどっちを飲もうかと悩んでいた。
そんな時バーのマスターが話しかけてきた。
このマスターは少々言葉遣いは荒いが人はいいと評判だった。
「どうしたんだ?またなにかあったのか?」
びっくりしたように聞く植木。「わかりますか?」
「そりゃそうだよ。顔にかいてあんもん。」
「実は・・・・・・」
植木は申し訳なさそうに話した。
バーのマスターは聞いて「そりゃー散々だったな。他にもいい女はいくらでもいるよ!」
「そうですかね。」自信のないような植木。
「まぁくよくよすんな。次があるぜ次が!」「まあ自分の趣味とかでパーッと忘れちまいな!」
「僕には趣味っていうことがなくって。。。せいぜい飲み歩くくらいで。。。」落ち込むように話す植木。
「そりゃ体に悪いな。。。」
「そうだ。もしーよかったら今度俺の行っているジムに行かねぇか?紹介するよ。」
誘われて困った植木。「はぁー。。。」とどうすればいいのか?というような反応を見せる。
「大丈夫だって!心配すんな!」なぜか異様に勧誘するマスター。
「また俺騙されるのかな??」ちょっと人間不信になっていた植木だった。
次の日指定されたジムへ向かう植木。見学だけっていうことなので何も持たずに私服で向かう。
ジムというのでフィットネスクラブかと思いながら歩く。
その場所に着いた。その場所は路地の一角にある貸しビル。その2階にあった。テナント案内の掲示板に「Bジム」とかいてある。ここだ。
ドアを開けたと同時に漂う汗の香り。「えーっ」薄暗い階段を2階まであがる。
2階に着く。するとちょっと階段から離れた場所にドアがあるのが見えた。するとそこから「バンッバンッバンッ」「エイっ!」と何かを叩くような音、力を入れるような声が聞こえる。「ピッピッピッ」目覚ましのような音も聞こえる。
ビル内の看板を見ると「Bジム」ここに間違いない。
恐る恐るドアを開けるとそこはまさに男の中の男と言うのだろうか女人禁制というべきなのか殺伐とした場所である。
すると植木はあることに気がついた。そうだこの場所にはサイクリングをするような機械やランニングをするための機械などがないあるのはサンドバックと小さめのリング。
そこの隅でなにやらやっている一人の男。
恐る恐る話しかけてみた植木。「あのぉ・・・」
その人物は話をかけられて振り返るとそう昨日誘ってきたあのマスターだったのだ。。。「おお!お疲れ!すぐわかったかぁ?」淡々と植木に話すマスターの挨拶だった。