月下落涙
暗い部屋に子供の泣き声がとけていく。
「良い子になるからっ!」
聞く者の心を切り裂くような叫びは誰に届く事もなく。
「ここから出してっ!」
地を打つ雨音が一際大きくなり、全てを覆い隠そうとする。
幼子はどんな罪を犯したのだろうか。
幼子を罰したのは誰なんだろうか。
罪と罰は正しいのだろうか。
刻は巡り、日は暮れ、闇が忍び寄る。
幼子は疲れ果て、眠りにつく。
その目に涙を湛えたまま。
雨は止み、風が吹く。
闇よりなお黒い雲に光が奔る。
天の隙間から差し出される月の欠片。
窓から部屋に入り幼子を照らす。
幼子の心を癒すかのように。
幼子を祝福するかのように。
月がまた隠れる、その微かな時間。
幼子だけが月の寵愛の全てを受ける。
淡く儚い愛なれど。
誰にも気付かれる事の無い愛なれど。
確かに其処に在る。
幼子は夢を見る。
楽しい夢を。
目が覚めた時、涙の重さは今日より軽くなっているだろう。
それは月の恩寵か。
月は語らず。
今も変わらず天に在る。
今は夜に生きる全てを照らしながら。
眠りにつく全てを見守りながら。
幼子が大人になり月を見上げる時。
月に何を思うのだろうか。
願わくば。
月と同じ思いでありますように。
願わくば。
哀しさでありませんように。