もし、侯爵世界にクリスマスがあったら (3)
――クリスマス当日。
キング邸の侯爵執務室で、灰茶の髪の青年が”それ”を目の前に掲げていた。
少し手を揺らせば、ぴらん、と揺れる”それ”に、青年は目を瞬く。
「……どう思う、ウォーレス?」
かがむようにして卓に両肘をつき、手を組むセシルは真摯な瞳で友人に問うた。
「…………なかなか派手だなぁ、と思う、かな。好みか好みじゃないかと訊かれれば――」
「ウォーレスの好みは訊いてない。どうしてエステルは私に”それ”を贈ったのか訊いているんだ」
「……エステル嬢が”それ”を贈った?」
頬を染めて頷くセシルに、ウォーレスは”それ”を卓に置いて姿勢を正した。
”それ”――こと、ぴらぴらしていてふりふりした下着をセシルは見つめる。
セシルはことのすべてを話し始めた。
「今朝、目が覚めたら枕元に贈り物が置いてあったんだ。メッセージカードを見ると、エステルからで……贈り物の中身が”それ”だった」
「メッセージカードにはなんて書いてあったの?」
表情は真剣だが、ウォーレスの声音は明らかに面白がっている。けれど、セシルは気にせず答えた。今は目の前にある難題を解く方が重要なのだ。
「……メリークリスマス、とだけ。筆跡がエステルのものだった」
「ふーん。なにか心当たりは?」
「起きた後、アールが『どうでした? エステル様からの贈り物』と訊いてきた」
「……じゃあ、差出人はエステル嬢で間違いないね」
腕を組んで、青年二人は瞑目を始める。
やがて、続く沈黙に終止符を打ったのは、ウォーレスだった。
目を開け、下着に視線を落として呟く。
「婚前交渉の誘い、じゃないかな」
ウォーレスがセシルへと視線をやる。……愉快気に悪友の黒曜石のような瞳が煌いたのは、セシルの気のせいだろう。
「……ウォーレスも、そう思うか?」
桃色の空気に花を背負うセシルは、上目遣いでウォーレスを見つめた。
その視線に頷いたウォーレスは(これは面白くなりそうだなぁ)という内心を押し隠し、「よかったね」と微笑んだ。