もし、侯爵世界にクリスマスがあったら (2)
『クリスマス前日の夜、サンタクロースは煙突から家に侵入し、プレゼントを靴下の中に入れていく』
アールは近い未来の夫人のため、ひいては仕える主のため、とある国の、クリスマスの過ごし方をこっそり教えた。
アールは、セシルと初めて過ごすクリスマスをどう思い出深いものにすればよいのか、と深く悩んでいたエステルを見ていられなかった。唸る姿は日に日に深刻化し、セシルが「エステル、悩みがあるのなら話してほしい」と心配そうに伝えれば、エステルは首を横に振るだけ。
そんなエステルの悩みをアールが知る理由は、彼女と親しい女中から聞いたがゆえである。
普段口の堅いエリンだが、今回はセシルに知られなければ問題ないだろうと判断し、いい考えはないか、と相談を受けた。以上の事情から、エステルを目にとめた今、自分の知るサンタクロースの話をさりげなく話題にしてみたのだ。
満面の笑みを浮かべ「素敵ね! 私もそれに倣ってみるわ」とはしゃぐエステルに、アールは胸をなでおろす。これでエステルは元通りになり、セシルも安堵するだろう。
「なんでそんなに悩んだんです?」
ふと脳裏に過ぎった疑問をアールが口にすると、エステルは頬を染めて小さな声で答えた。
「初めてセシル様と過ごすクリスマスでしょう? いつか、年老いた日に『あの日はこうだったね』って笑い合うような、記憶に残る素敵な日にしたいの」
照れるように笑うエステルに、アールは小さく微笑み、自身の胸をドン、と叩く。
「じゃあ、眠るセシル様の枕元に、贈り物を届ける役目は俺に任せてください。サンタクロースになってみせましょう」
胸を張ると、エステルは頷いた。
「お願いするわ」
こうして、クリスマス前日の夜、セシルの元にエステルからの贈り物が届けられた。