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「もし、私が浮気したらどうする?」(セシルとエステルが婚約中の時のお話)




 それは、日差しが照りつける季節。

 結婚間近の一組の男女はのんびり香草を育てるための温室でお茶を飲んでいた。近頃は温度調節が常日頃からしてあるそこで、二人で茶を飲むことが多い。

 ふと、男――セシルの脳裏につい先日、女――エステルと交わした言葉が過ぎった。

 彼女は「もし私が浮気したらどうしますか?」と無邪気に問うた。……『もし』という仮定話だとわかっていたが、聞いていて楽しい話ではない。少しばかりむっとしたが、実際にそうなったらどうするか想像し、正直に自分のするであろう行動を答えた。

 その時のエステルはなにやら顔色が悪かった。

(まあ、私の発した言葉を思えば無理もないかもしれないな)

 そうは思いながら自嘲する。

 と、ふいに疑問が過ぎった。

(……じゃあ、私が浮気したら、エステルはどうするだろう?)

 可能性が一縷もない仮定話。つまりはまったく意味のない話だ。けれど、少しはやきもちを焼いてほしい、と思ってしまった。

 ゆえに、身を乗り出しエステルの双眸をじっと見つめた。

「エステル、もし私が浮気したらどうする?」

 刹那、エステルは目を丸くした。

 そんなこと、考えた事もない、という顔をしている。

 やがてエステルは真剣な顔をすると、セシルの翠の瞳を見つめ返した。

「――セシル様は、なにをされたら一番嫌ですか?」

 質問を質問で返され、セシルは目を瞬く。

(一番嫌なこと?)

 すぐに浮かんだのは、今、最も危険で身近な存在。

「……カイルと寄りを戻されたら嫌だ」

 不貞腐れるように言うと、エステルは「そうですか」と答えて微笑んだ。

「じゃあ、セシル様が浮気したら、私もカイル様を口説きます」

「………………」

 数拍の間。

 そして、瞬時にしてセシルの顔色は真っ青になった。

「えええエステル、しない! 絶対浮気なんてしない! だから、そんなこと言わないでくれ!!」

 縋るセシルにエステルは穏やかに笑む。

「はい。セシル様が浮気しなければ」

「誓う! 誓って浮気なんて――浮気も不倫もしないから」

 ――捨てられそうな仔犬のような侯爵。

 そんな温室内での出来事を硝子越しに偶然見てしまったのは、食品室女中。

(お菓子用の香草を摘みにきただけなのに……)

 思わぬ現場に黄昏たくなった。

 そのまま彼女は踵を返した。



 その日、彼女が作ったお菓子は風味がいまいちで味気なかったという。





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