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「もし、私が浮気したらどうする?」 (カイルとエステルが婚約していた頃のお話)
それは、柔らかな日差しの降り注ぐ季節。
婚約している一組の男女は邸の庭園でお茶を飲んでいた。
ふと、女――エステルは何気ない疑問が脳裏に過ぎり、男――カイルの顔を下から覗き見る。
「ねぇ、カイル様? もし私が浮気したらどうする?」
浮気願望はエステルにはない。けれど、たまには愛を確かめるように仮定話をしたくなるのは乙女心である。
すると、カイルはあまり間を置くことなくエステルを見下ろし、灰青の瞳を眇めた。
「そうだな――エステルを殺して俺も死ぬ」
「………………」
エステルは地雷を踏んだことを悟った。
(あ、あれ? さっきまで暖かかったのに……急に寒くなってきた)
まさに今のエステルは、カイルの放つ猛烈な吹雪により、氷点下を体験する。
その後、エステルはその手の話題をカイルに振る事は二度となかったという。