表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
過労で倒れて転生した元声優事務所マネージャーの俺が、異世界初の声優事務所を作ってみた。  作者: きたみ詩亜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/1

第1話 異世界に転生したら、声優がいなかった

 俺の名前は、桜井悠馬、24才。

 前世は、ブラックな声優事務所のマネージャーだった。


 朝は4時出勤、帰りは終電。新人声優のスケジュール管理、オーディションの同行、クレーム処理。


「夢のある仕事ですね」


 なんて言われるたび、俺は心の中で苦笑していた。


 夢はある。

 だが、夢だけで飯は食えない。


 それでも、演技に必死な子たちの背中を見ているのは嫌いじゃなかった。

 だからこそ、無理をした。


 結果――過労で倒れて──

 そこからの記憶がない。



 目を開けると、そこは草原だった。


「……え?」


 青すぎる空。見たことのない月が二つ浮かんでいる。遠くには城壁のある街。

 俺は、スーツ姿のまま寝転がっていた。


「ここ……どこだ?」


 体は元気だ。頭もはっきりしている。

 だが、記憶にある場所ではない。


 歩いて街に入ると、人の服装が完全にファンタジーだった。

 剣を腰に下げた兵士、ローブの魔法使い、耳の長い女性。


「……異世界?」


 テンプレすぎて、逆に信じられない。


 市場の中央で、人だかりができていた。

 俺は吸い寄せられるように近づく。


 巨大な水晶の板が浮かび、光の人影が映し出されていた。

 剣士と魔物が戦っている。完全に映像だ。


「魔法……映像?」


 観客たちは感動している。

 だが、何かがおかしい。


 ――音がない。


 正確には、効果音しかない。

 剣がぶつかる音、爆発音はあるのに、登場人物が一切しゃべらない。


「……しゃべらないの?」


 隣にいた少年に聞く。


「しゃべる必要あるの? 戦ってるの、見えるでしょ」


 いや、見えるけど。


 俺は、昔の無声映画を思い出した。

 映像はある。だが、声がない。


「……まさか」


 別の屋台では、恋愛劇らしき映像が流れていた。

 男女が抱き合っている。だが、やはり無音だ。


 観客は泣いている。


 ……泣いてるのに、声がない。


 ぞっとした。


「この世界……“演技”はあるけど、“声の芝居”がない?」


 俺の脳裏に、稲妻が落ちた。


 声優が、いない世界。


 いや、正確には――

「声を使った演技」という文化が存在しない世界。


 俺は、震えた。


 恐怖じゃない。

 興奮だ。


「……仕事、作れるじゃん」



 街の外れに、小さな劇場があった。

 中に入ると、魔法使い風の男が水晶板を調整している。


「すみません」


「なんだ?」


「この映像……しゃべらせられませんか?」


 男は怪訝そうな顔をした。


「声を入れる? そんな魔法はない。音は出せるが、意味のある言葉は無理だ」


「じゃあ、ここに人間が入ってしゃべるのは?」


「……なぜ?」


「面白くなるからです」


 俺は、映像を指差した。


「この剣士、勝ったときに何も言わない。

 でも、もし『守れた……!』って叫んだら、どうなります?」


 男は黙った。


「この恋人たち、別れの場面で無言です。

 でも『君を忘れない』って言ったら、もっと泣けます」


 沈黙。


「……試すか?」


 水晶板に、さっきの剣士が映る。


 俺は、深呼吸した。


 プロじゃない。

 でも、何百人もの演技を聞いてきた耳はある。


 剣士が魔物を倒す。


「――はあ……はあ……終わった……」


 俺が声を当てた瞬間、観客がざわついた。


「……しゃべった?」


「今の、誰の声?」


 剣士が仲間に振り向く。


「守れた……俺たちの村を」


 その言葉に、観客の空気が変わった。


 誰かが、涙を流した。


「……すごい」


 魔法使いがつぶやく。


「映像が……生きている」


 俺は確信した。


 この世界には

 映像魔法がある

 物語がある

 だが、“声”がない


 つまり――


「……声優、需要ありすぎだろ」



 その夜、安宿で天井を見つめながら考える。


「この世界に、日本式の声の演技を持ち込めば……」


 職業が生まれる。

 産業になる。

 俺の知識が、武器になる。


 戦えなくてもいい。

 魔法が使えなくてもいい。


 俺は、マネージャーだ。


「よし」


 俺は、ベッドから起き上がった。


「異世界初の――声優事務所を作ろう」


 まずやることは、ひとつ。


 声の才能を持つ人間を探すこと。


 こうして俺の、剣も魔法も使わない異世界開拓が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ