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【短編小説】發cry Hearts

掲載日:2025/12/16

 手の中にある浮き牌を掴んだまま数秒が過ぎる。

 切り時を間違えた。

 役牌を重ねれば早く動けると思いズルズルと残してしまった。

 自分の手役に自信もなかったが、杜撰にも程がある。

 下家の雑な鳴きはどう見ても役バックで生牌の發を切れる状況ではない。

 中膨れの平和手をいじり回して逃げ切れるのは数巡が限界だ。

 そうやって逃げ回ったところで聴牌維持をして親番キープできる保証も無い。

「まったく、卓は曼荼羅だな」

 軽口を叩いて長考を誤魔化す。

 点棒を確認する。最下位だ。

 親番をキープして次局に本場を積めばまだ逆転の目はある。

 しかしこの親番が流れてしまえばかなり厳しい。

「早く切りなよ」

 下家が言う。ほっそりとした指先に挟んだ煙草が見えた。

 背中は煤けているか?

 時の刻みは俺だけのものじゃない?

「上等だよ」

 俺は發を叩きつけた。

 女は笑って手牌を倒し……。


 アラームがけたたましく鳴って俺は目を覚ました。

 厭な夢を見た。

 安い挑発に乗って馬鹿なことをしたが、実際にあの状況だったら俺は上手く打ち回せるだろうか。

 汗で重くなったシャツを洗濯機に放り込んでシャワーを浴びる。

 さっきの夢は予知夢だろうか?

 卓には今夜打つメンツが揃っていた。

 実に俺らしい麻雀だったし、夢のシーンだって勝ちに急いで荒い麻雀になっていた。

 あの發は切れないし、切るべきじゃない。

「馬鹿馬鹿しい」

 単なる夢だ。

 熱いシャワーで意識を夢から切り離す。


 


 雀荘に着くと、すでに三人が卓で俺を待っていた。

「悪い、待たせたな」

 くたびれた椅子に座り煙草に火をつける。

 赤いボタンを押して牌を入れ替えると、卓の中で牌がかき混ぜられた。

 それと同時に綺麗に積まれた牌がせり上がってくる。

「全自動卓と言っても案外と偏りがあるよな」

 誰となく言う。

「まぁネットゲームみたいにランダムにはならない」

 あれだって完全なランダムかどうか。

 適当な混ぜ返しの末に会話は立ち消えになる。

 麻雀だ。

 仕方ない。



 何ゲームか打っているうちに手が光りはじめた。

 大物手を和了できそうだと思うと、無理をしてでも和了したくなる。

 しかし和了には半歩遅く、手を逃しているうちに熱くなり、気が付くと負けが先行し始めた。

 今朝の夢を思い出して厭な汗が出る。

 勝負は終盤だ。

 点は大きく引き離されている。

 しかし親番だ。ここを粘ればまだ逆転の目はある。

 だが下家に座った女が早い鳴きを二連続で入れた。

 染まってもいない無秩序な鳴きは役バックだろう。

 そして俺の手の中には浮き牌の發があった。

 河にはまだ見えていない。

 トップと24000点差のラス。

 ここで粘れないと勝つ見込みが無い。

 俺の手は三色平和ドラ2赤3の十分な勝負手。

 しかし浮き牌の發が邪魔だった。

「早く切りなよ」

 下家の女が煙草に火を点けながら言った。

 夢と同じ状況か。

 俺は大きく息を吸ってから言った。

「これが通ったら、今夜俺と付き合ってくれよ」

 対面と上家の男が口笛を吹いた。

 下家の女が嗤う。

 俺はもう一度、大きく息を吸って發を叩きつけた。

 女は首を横に振った。

 通った。

 やはり夢は夢でしか無い。

「なら立直」

 俺は發を曲げた。

「点棒は出さなくてよいぜ」

 対面の男が言った。

 男が倒した手は緑色に光っていた。

 俺の目から光が零れた

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