51話 賞金首
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―――翌朝。
夜の冷気がまだ地面に残る薄明の森を、オレは必死に駆け抜けていた。肺が焼けるように痛み、足は鉛のように重い。それでも止まれば終わりだ。賞金稼ぎどもの追跡が、背中に張りつくように迫っていた。
「……くそっ、まだ追ってくる……!」
ただの冒険者崩れならまだしも、奴らの中には索敵に長けた者がいるらしい。ほとんど一直線でこちらに向かってきているのが、オレの《スキャン》のスキルで確認できている。
東の空から射し込む朝日は、オレの位置を容赦なく晒し出していく。光が樹々の影を押し広げた瞬間だった。
「ヒューーーン!」
と空気を裂く音が耳に刺さる。
(やっぱり来た……! 矢だ!)
視界の端を黒い影が掠め、次の瞬間、木の幹に突き立つ硬い音が響く。一本一本の矢は大した威力ではないが、急所にでも当たればHPは一撃で0だ。だが、オレには《エマージェンシー・リカバー》のスキルがある。MPが残っている限り死なない。
(MPにも“限り”があるのが問題だが⋯⋯)
その悩みはすぐにどうでもよくなった。飛来する矢の数――あまりにも多い。
(……数、おかしくないか?)
オレは走りながらアイテムボックスから【大盾】を取り出し、大盾を地面に立てて矢を防ぎながら即座に索敵を行う。
「スキャン!」
視界の奥に、赤い光点がいくつも灯った。およそ100mほど先……そこに広がる光点は、今までの数とは明らかに違う。
(20……いや、30以上!? 増えてる……!?)
昨日まで一桁だった追っ手の数が、まるで群れのように膨れ上がっている。
(賞金が高いってのは、こういうことなのか……!)
賞金に釣られて多くの賞金稼ぎがオレを追いかけてくる。
(効果的な手段だ)
接近戦なら負ける気はしない。だが、あれだけの数が相手では勝ち筋が消し飛ぶ。しかも熟練者ばかり。真正面からやり合えば確実に削り殺される。
オレは迷わず防御魔法を展開した。
「ファイアシェル!」
ゴォッと熱風が巻き上がり、炎の障壁がオレの身体を包む。すぐさま大盾をしまい、オレは荒野を当てもなく、ただひたすらに逃げるために走り出した。
それから10分以上、走りに走った。足場の悪い斜面を転げ落ちそうになりながら、木の根を踏み抜きながら、それでも追跡の気配は消えない。
メニューを開くと、MPが半分まで減っている。
(……まずい。MPが尽きたら、オレはただの的だ)
仕方なく、防御魔法を解除する。
「ファイアシェル……消えろ!」
炎の障壁が弾けるように消滅した瞬間、背中が急に寒くなった。矢はまだ飛んでこない。射程の外に出たか、あるいは敵がオレを見失ったのか……いずれにせよ、悠長に考えている余裕はなかったが、この最悪の状況にどうしても後悔の念が頭を過ぎる。
(レオックと一緒に城塞都市に戻っていれば……彼なら、あんな奴らまとめて蹴散らしてくれたはずなのに)
思わず弱音が胸に浮かぶ。
(……もう、駄目かもしれない⋯⋯)
そのときだった。
「ウォーー……ウォーー……ウォーー……」
妙な低い咆哮が、遠くから響いた。風に乗って反響するその声は、獣とも人ともつかない不気味さを帯びていた。
思わず足を止め、音のした方向に目を凝らす。遠く、木々が連なり影を落とす暗い森が見える。
「……なんだ?」
藁にもすがる思いで、再び索敵を使う。
「スキャン!」
赤い光点が、森の中にぽつり、ぽつりと点在していた。多くはないが広範囲に散らばっている。
「魔物……か?」
魔物の縄張り。危険なのは確かだ。しかし今のオレには、追われるだけの一本道よりも、入り組んだ森の方がまだましだ。
何でもいい。とにかく、この状況を打ち破る突破口が欲しかった。
オレは迷いなく、叫びの聞こえた薄暗い森へと走り込んだ。
そしてオレは学ぶ。
〈賞金首は何処までも追われる〉
と言うことを。




