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異世界から学ぶライフスタイル 〜第ニ部 愛と破滅〜  作者: カズー
第八章

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50話 賞金稼ぎ

 オレは今、賞金稼ぎたちの追撃を受けながら、荒野の中で身を潜めている。奴らは一定の距離を保ち、決してこちらへ近づこうとはしない。その代わり、鋭い矢を絶え間なく番え、じりじりと追い詰めてくる。どうやら、オレの魔法の射程が短いことを、すでに把握しているようだ。

 真正面から撃ち合えば、確かにオレに勝ち目はあるかもしれない。だが、遠距離から一方的に射抜かれればどうにもならない。


 防御魔法のファイアシェルを展開して強行突破する案も頭をよぎったが、これは消費MPが大きく、オレの《オート・リカバー》による回復量では到底カバーしきれない。以前の戦いで身をもって知ったことだ──MPが尽きれば、オレの攻撃手段はほぼゼロになる。


 だからオレは、大きな樹を盾にして動かず、敵の動きを固唾をのんで見守っていた。


 しかし、冒険者たちも一向に動かない。彼らもまた、こちらが射程に入る瞬間を見計らっているのだろう。

 互いに動けず、静寂だけが大地を満たしていた。


(持久戦だ……)


 敵が動かないと悟ると、こちらも攻撃を控えざるを得ない。状況はにらみ合いのまま膠着し、時間だけが重く積み上がっていく。


 そんなときだ。西側の街道から、軋むような車輪の音とともに、一台の荷馬車がゆっくりと近づいてきた。

 オレは反射的に身構える。しかし、荷馬車はただ東へと通り過ぎるだけで、何も起こらない。


(……荷馬車に紛れ込んで奇襲、という手もある。油断するな)


 そう考えながら息を潜めていると、また別の荷馬車が西から東へと向かっていく。さらにしばらくすると、今度は東から西へ。

 何台もの荷馬車が行き来し、そのどれもが幌で覆われ中の様子は見えなかった。胸の奥で不穏な予感が膨らみ始める。


 やがて、冒険者たちは少しだけ前へ出て来た。まだオレの射程ではないが、距離を詰めたのは明確な変化だ。


 西から迫る冒険者たちと大樹越しに向かい合っていたその瞬間──


 背後から、鋭い風切り音が聞こえた。


「シューーーッ!」


 咄嗟に身を捻る暇もなく、背中に一本の矢が突き刺さる。

 続けざまに、三本、四本と矢が闇を裂いて飛来する。


「シューーーッ!」「シューーーッ!」「シューーーッ!」


 一本は腕へ、もう一本は脚へ。幸い急所は逸れていたが、背後には遮蔽物が何もない。このままでは蜂の巣にされる。


「ファイアシェル!」


 反射的に魔法を発動すると、オレの周囲に半円状の炎の障壁が展開され、迫る矢を弾き落とす。

 燃え盛る炎越しに、矢が次々と弾かれていくのが見える。


 痛む身体を押さえながら、突き刺さった矢を一本ずつ引き抜く。

 その都度、脳髄を焼かれるような激痛が走り、意識が途切れそうになる。


《オート・リカバー》がHPを少しずつ回復してくれるが、痛みそのものは消えない。傷の奥に染みつくような鈍痛が、息をするたびに全身を苛む。


 敵は射程内で矢を番え、オレの防御魔法が切れる瞬間を狙っているのが伝わってくる。

(このままじゃMPが尽きる……)


 オレはアイテムボックスから【大盾】を取り出し、後方の弓兵へと向き直った。


「ファイアシェル消えろ!」


 障壁を消した瞬間、数本の矢がこちらへ飛来する。だが、大盾はそれらをすべて弾き返し、音だけを残して地面へ落とした。

(よし……これなら、防御魔法なしでも持ちこたえられる)


 そこでようやく気づく。


(後方の奴ら……あの荷馬車に乗って移動していたんだ!何度も往来があったのは、そのためか……!)


「やられた……!」


 ―――夕方。


 空が赤く染まり、長い影が荒野に落ち始める頃、オレはどうにか今まで敵と対峙し続けた。だが、太陽が沈み闇が支配する時間が近づいてくる。


(闇夜に紛れれば、逃げられる……はずだ)


 今夜は月がほとんど出ていない。新月だ。

 闇は矢の精度を大幅に落とす。チャンスは今しかない。


 闇が濃く満ちるのを待って、オレは気配を殺しながら移動を開始した。急げば物音を立てる。ゆえに、一歩一歩、地面を確かめるように、ゆっくりと。


 忍び足で進むこと十数分。冒険者たちの射程外へ出たと確信し、胸の奥にようやく安堵が生まれた──そのとき。


「シューッ!」


 矢が後方から飛来し、耳元を掠めて地面に突き刺さる。

 直後、闇の中から声がした。


「当たったか!?」 「いや、外れたようだ」 「方向は合ってる。撃ち続けろ!」


(……暗闇でオレの位置を把握している。シーフの索敵スキルか!)


 再び矢が降り注ぐ。オレは咄嗟に横へ跳んだ。


「シュー! シュー! シュー!」


 矢が地面へ突き立つ音が連続する。

 このままでは射殺される。


「ファイアシェル!」


 炎の障壁を展開した瞬間、周囲が赤く照らし出され、敵からオレの位置が丸見えになってしまう。だが背に腹は代えられない。


 敵の位置を把握するため、索敵スキルを使用する。


「スキャン!」


 発動の瞬間、赤い光点がいくつも周囲の闇に浮かび上がる。

(近い……!)


 槍を構えた冒険者が、炎の障壁に向かって突撃してくる。

 オレは迎撃のため攻撃魔力を放つ。


「ファイアアロー!」


 炎の矢が一直線に突撃者を貫こうとしたその瞬間、横合いから鉄の大盾が割り込み、火の矢はそこで霧散した。


 続けて追撃の魔法を放とうとしたとき──オレのすぐ横で爆発した。


「ドッカーーン!」


 衝撃波が障壁越しでも身体を大きく揺さぶり、オレは地面に叩きつけられる。


「ドッカーーン!」「ドッカーーン!」


 連続して投げ込まれる【爆裂玉】が爆ぜ、周囲の地面が抉れた。

 視界が回り、耳鳴りが止まらない。


(このままじゃ……死ぬ!)


「サンドウォール!」


 土の壁が盛り上がり、敵との間に巨大な防壁が立ち上がる。

 この隙に、もう片方の防御魔法を解いて全力で走り出す。


「ファイアシェル消えろ!」


 闇に紛れれば矢の命中率は大幅に落ちる。

(くそ……爆裂玉の衝撃がまだ抜けてない……身体が重い……)


 それでも、オレは走り続けた。

 ただひたすら、暗闇の中を。


 ―――それから一時間後。


 矢も爆裂玉も飛んで来ない。オレは足を止め、周囲を警戒しながら再びスキルを発動する。


「スキャン」


 赤い光点が、後方百メートルほどの位置から一直線にこちらへ向かって進んでくるのが見えた。


(やはり……シーフの索敵能力で確実に追われている。逃げ続けるしか……!)


 疲労が限界に近づく中、恐怖と緊張によって足取りは鉛のように重くなる。それでも……生きるために進むしかない。


(熟練した冒険者チームとは……これほどまで手強いのか……)


 そしてオレは学ぶ。


〈連携技の強さ〉


 と言うことを。

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