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異世界から学ぶライフスタイル 〜第ニ部 愛と破滅〜  作者: カズー
第八章

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48話 街道の村

 ―――3日後。


 オレは街道を避けて東へ進んでいたつもりだったが、木々の間を縫うように続く獣道はいつの間にか消え、気付けば見覚えのない砂利道――街道へと入り込んでいた。

 踏み固められた道には車輪の跡が残っているだけで、整備されているわけではない。

 時おり風が吹き抜け、小石がカラカラと転がる音がやけに大きく聞こえる。


 行き交う人影は少なく、商人らしき馬車がゆっくりと通り過ぎていく以外、森のざわめきだけが耳に残る。


 そんな寂しい街道の先に、ぽつんと小さな村が姿を現した。


 鉱山都市を出てからの数日間、ずっと野営を続けていたオレは、村の存在にどこか救われたような気さえした。

 逃亡中、荷物を下ろして一息ついた夜は冷え込みが厳しく、テント越しに吹き込む風が体温を容赦なく奪っていく。

 特にこの土地は山脈に近いからか、夜になると吐く息が白くなるほど冷たい。


(そろそろ……ちゃんとしたベッドで寝たいな)


 そんなささやかな願望を抱え、オレは木柵に囲まれた村の入口へ向かった。

 入口の門は板を組んだだけの簡素な作りで、門番らしき姿もない。


 村へ入ると、のどかな昼下がりの空気が広がっていた。

 洗濯物を干す女性、鍬をかかえて歩く老人、子供たちの笑い声。

 どれも穏やかな日常の光景だ。


 オレは近くにいた村人に声をかけた。


「すみません、この村に宿屋はありますか?」


 村人は少し驚いたようにこちらをじっと見たあと、親しみのある笑みを浮かべた。


「宿屋はないけど、酒場の二階が旅人用の部屋になってるよ。村の中じゃ一番しっかりした建物だ」


 礼を言い、教えられた酒場へ向かう。


 村の建物はほとんどが藁葺き屋根で、手作り感のある素朴な家ばかりだ。

 その中で酒場だけは木材を組んだ二階建てで、まるで村の象徴のように堂々と佇んでいる。


 扉を押し開けると、木の芳香と温かな空気がふわりと広がった。

 時間帯のせいか、客は若い商人とその護衛と思しき冒険者たちだけで、静けさの中に食器の触れ合う軽い音が響いていた。


 オレはカウンターへ向かい、店員に声をかけた。


「ここで泊まれると聞いたのですが、1泊できますか?」


「はい。朝夕の食事付きの個室なら銀貨1枚。食事なしの大部屋の共用なら大銅貨1枚になります」


 久々にゆっくり休めることを想像して、迷うことなくオレは銀貨1枚を差し出した。


 二階の個室へ上がると、部屋は質素ながらよく手入れが行き届いていた。

 窓際には小さな机、壁にはランプ、そして柔らかそうな藁詰めのベッドが一つ。

 これだけで心が軽くなるから不思議だ。


 ベッドに横たわりながら、心の奥に押し込んでいた思考がじわりと浮かび上がってくる。

(オレの選択は……正しかったのだろうか)


 城塞都市に戻るか、東へ進むか――その答えを決めたのは自分自身だ。

 だが、胸の奥には拭えない想いがある。


 オレの本当の希望は、ナリアと共に城塞都市で静かな人生を送ることだった。


(もう、その未来には……戻れない)


 異世界に来てから、様々な人と出会った。

 優しさに触れ、裏切りに触れ、そして自分自身の弱さとも向き合ってきた。

 この世界の方が“良い人が多い”と感じるのは、ただの甘えなのだろうか。

 それとも、オレが誰かに救われることを、期待しているからなのか。


 しかし――。


 オレには旅を続ける理由がある。

 魔王を倒すこと。

 そして、目を背けたくなる現実――奴隷制度をなくすという使命が。


 そんな思いの渦に沈んでいると、階下からふわりといい匂いが漂ってきた。

 肉を焼く香り、スープの香り、パンの甘い香りが混ざり合い、空腹が刺激される。


 夕食の時間だ。


 階段を降りると、テーブルにはすでに料理が運ばれていた。

 焼き立てのパンは表面がこんがりと色づき、チキンは皮がパリパリに焼けている。

 付け合わせの炒め野菜は彩り豊かで、見ているだけで温かさを感じた。


 食事を進めていると、店員の男が近づいてきて声をかけてくる。


「料理はどうですか?」


「美味しいです」


 その言葉に嘘はない。

 旅の疲れを癒すような温かさが、胃の中に染み渡っていく。


 店員は嬉しそうに微笑み、赤ワインの入ったコップを差し出した。


「喜んで頂いて良かったです。旅人さんには、こちらをサービスで出しています。よかったらどうぞ」


 オレは礼を言い、赤ワインを口に含んだ。

 芳醇な香りが鼻腔に広がり、渋味と甘味がゆるやかに舌を包む。

 ワインを飲むのは久しぶりだが、旅の最中の一杯は格別だった。


 ――しかし、しばらくすると。


 頭がふっと軽くなり、視界が少し揺れた。


(……疲れてるのか? それともワインが強いのか?)


 食事を終え、ふらつく足を引きずるようにして二階の部屋へ戻る。

 ベッドに倒れ込んだ瞬間、まるで糸が切れたように強烈な眠気が押し寄せた。


 意識が沈み込み、真っ暗闇へ落ちていく――。


 どれほど経ったのか、突然、視界の奥で光が瞬き、ゲームシステムのメニューが浮かび上がった。


『状態異常:麻痺』


 冷たい文字が、落下する意識の中に突き刺さる。


 眠りではない――これは罠だ。


 そして闇が、オレを飲み込んでいく。


 そしてオレは学ぶ。


〈敵はいつの間にか現れる〉


 と言うことを。

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