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異世界から学ぶライフスタイル 〜第ニ部 愛と破滅〜  作者: カズー
第七章

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46話 満月の戦い

 日が暮れていく。

 夕陽が山の稜線に沈み、空の色が茜色へと変わると、代わりに月が鋭い光を放ちながら昇ってきた。夜の帳は、一瞬で世界を呑み込むように落ちる。


 暗闇が訪れれば、敵の眼を欺けるのでは……そう考えたのも束の間だった。

 今夜は満月。月明かりが白銀の霧のように大地を照らし、敵の影さえくっきりと浮かび上がる。


 オレが魔法を一度解除した瞬間、風を裂く音とともに矢が飛来した。


(くそ……どうする……? 降伏か……?)


 だが、降伏の先にあるのは【奴隷の首輪】。

 あれだけは、あれだけは絶対に嫌だ。首に触れた瞬間、MPがすべて吸い取られ、スキルは一切使えなくなる。生きていながら、自分ではいられなくなる。


 ゲームシステムを見ると、オレのMPは底をつきかけていた。

 逃げるか、突撃するか――その二択が頭の中でぐるぐると渦を巻く。


 その時、後方の闇の奥に、ふっと一筋の光が灯った。

 ゆらめきはなく、一定の細い光。近づくほどに、月光よりも白く強い。


(……炎の光じゃない。これは……懐中電灯?)


 この異世界に懐中電灯など存在しない。オレが持っている物以外は。

 だが、その光は確かに懐中電灯特有の鋭さを放っている。


 アマンダ姫の顔が脳裏をよぎる。

 以前、献上品として彼女に懐中電灯を渡したはずだ。


(それが、ここに? なんでだ……?)


 考える間もなく、懐中電灯の光を掲げた騎士がオレの目の前まで駆けてきた。


 アマンダ姫ではない。

 体格が完全に男。顔は覆面で隠されている。


 その騎士は馬上から鋭く叫んだ。


「カズー! ここでは戦いづらい。オレについて来い!」


 声を聞いた瞬間、オレは彼の正体を悟り、迷わず頷いた。


「わかった、頼む!」


 覆面の騎士は踵を返し、闇の奥へ駆け、オレもその背に続く。


 その直後――


 MPがゼロに到達し、オレの周囲に張り巡らせていた防御魔法が霧散する感覚がした。


「――ファイアシェルが……解除された!」


 後ろを振り返ると、百騎ほどの敵が怒涛の勢いで追ってくる。

 防御魔法が切れたことに気づいたのか、一斉に矢の雨が解き放たれた。


 しかし次の瞬間、覆面の騎士が馬を寄せ、オレの側面へ滑り込んだ。

 飛来する矢を、彼はまるで舞うような動きで、剣の平打ちで叩き落としていく。


(……なんて剣技だ!)


 オレが息を呑んだ瞬間、彼は叫んだ。


「カズー、オレの左側につけ! 左はお前の盾で防げ!」


 覆面の騎士はオレの背後と右側を守り、オレは反対側だけを鉄の盾で受け止める。

 二人で一つの防壁を作るように、矢の嵐を越えて並走した。


 やがて彼に導かれるように、渓谷が口を開けた。

 両側は黒い崖、月光さえ届かない狭い一本道。ここなら敵も大軍では押し込めない。


 渓谷の終端に到達すると、覆面の騎士が言う。


「カズー、少しの間ここを死守してくれ!」


 言い終えると、彼は馬をさらに奥へ走らせた。


 残されたオレは馬を降り、アイテムボックスから大盾を取り出した。

 ここは一本道、矢は一方向からしか飛んでこない。大盾を地面に突き立てれば、完全に遮れる。


 案の定、追いついた敵が矢を放つ。

 大盾の向こうで矢が無数に突き立ち、金属音が夜の渓谷に響く。


(よし……これなら耐えられる)


 移動を開始してからは魔法を使っていないため、じわじわとMPが回復してきた。

 だが、敵は距離を保ち、オレの攻撃魔法の射程外に留まっている。


(魔法の射程が短いことを……知っている!)


 矢の雨をただ耐えていると、敵の陣形の奥で突然怒号が上がった。


 覆面の騎士が、敵の後方から斬り込んでいた。

 どうやら渓谷を大きく迂回し、完全に後ろを取ったらしい。


(よし、挟み撃ちだ!)


 オレは大盾を構えたまま、敵の前線へじりじりと前進した。

 矢が何度も叩きつけられるが、大盾がすべて弾き返す。


 ついに攻撃魔法の射程へと踏み込んだオレは、詠唱を叩きつける。


「――マルチファイアブレード!」

「ファイアアロー!」

「ファイアボール! ウィンドボール! ウォーターボール! サンドボール!」


 炎の刃が奔流のように飛び、火球が爆ぜ、風・水・土の弾丸が次々と前衛を崩していく。

 オレは容赦なく魔法を放ち続けた。


 再び同じ魔法の連打。

 炎の閃光が夜の渓谷を照らし、敵の数がみるみる削られていく。


 だが、それ以上に――覆面の騎士は凄まじかった。

 月光を帯びて駆ける彼は、一騎当千のごとき剣閃で敵を薙ぎ払い、戦場を縦横無尽に駆け回る。


(これが……無双ってやつだ!)


 まるで英雄の伝説を目撃しているかのようだった。


 最後の一騎が倒れると、覆面の騎士は剣先を下げ、オレの方へ歩み寄ってきた。

 仄かな懐中電灯の光が、覆面の下の瞳を照らす。


 そして彼はオレに言う。


「カズー……真の友として、助けになったか?」


 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に熱いものが灯った。


 そしてオレは学ぶ。


〈真の友という存在〉


 と言うことを。

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