40話 戦いの報酬
──やった……!
轟音と共に、巨大なゴーレムは光の粒となって消え去った。
土煙の中に残されたのは、眩い輝きを放つ【大魔石】ひとつ。
そして、その周囲には無数の【小魔石】が散らばり、【中魔石】も五つほど転がっている。
荒れ果てた大地に静寂が戻る。
スタンピードマスターを失った魔物たちは、何事も無かったかのように、旧鉱山のダンジョンへと退いていった。
その背を見送りながら、オレは胸の奥で確かな達成感を噛みしめる。
魔石を全てアイテムボックスへ収納し、メニューを開く。
メニュー表示には――
『土の魔法使い レベル30』
『土の魔法のスキル獲得』
の文字。
「……やったな」
思わず小さく呟いたその声は、静寂の中に溶けて消えた。
冒険者ギルドへ戻る道中、クエストに参加した冒険者たちは皆、疲れた顔の中にも笑顔を浮かべていた。
誰一人、死傷者はいない。
あの激戦を経て、全員が生きて帰れる――それだけで胸が熱くなる。
冒険者ギルドの扉を開けた瞬間、室内から歓声が沸き起こった。
「お前ら、よくやったな!」
「スタンピードマスターを討伐しただと!?」
「この街を救ってくれてありがとう!」
ギルドの空気が一気に熱を帯びる。
ギルドマスターがオレの前に歩み寄り、力強く手を差し出した。
「カズーさん、本当に良くやってくれました。ありがとう!」
オレはその手を握り返し、言葉にならない想いを込めて頷いた。
そして、ギルドマスターが冒険者たち全員に向かって声を上げる。
「皆、今日は好きなだけ飲んで食べてくれ!」
ギルドマスターの声に、冒険者たちが歓声を上げる。
「やったー!」
「いいぞー!」
「ギルマス!」
木のテーブルの上には、次々とエールと料理が並べられていく。
香ばしい肉の匂い、焼きたてのパンの湯気、そして黄金色のエール。
疲れ切った身体が、それだけで癒やされるようだった。
ジョッキを掲げ、皆がオレの言葉を待つ。
「皆、今日はありがとう! スタンピードマスターを――討伐したぞ!」
「うおおおおおっ!!」
その瞬間、ギルドが歓声と笑い声で満たされた。
エールの泡が飛び散り、笑顔がそこかしこに広がっていく。
「カズーさん、最後の魔法……本当にすごかったです!」
「ありゃ、伝説になるぞ!」
「お前はこの街の英雄だ!」
嬉しさよりも、どこかくすぐったい気持ちだった。
ただ、皆の笑顔を見ていると、心の底から「生きていて良かった」と思えた。
しばらくして、女性スタッフが近づいてきた。
「カズーさん、クエストの結果報告をお願いします」
丁寧に頭を下げ、オレを二階の応接室へと案内する。
(オレにはリーダーとして、まだ仕事があるのか⋯)
部屋にはギルドマスターが待っており、椅子を勧めてくれた。
「カズーさんは今回のクエストリーダーです。最優秀者と優秀者を決めてもらいますが――最優秀者はもちろん、あなたです。優秀者はどうしますか?」
少し考えて、オレは静かに答えた。
「全員……では駄目ですか?」
ギルドマスターは驚いたように目を見開き、そして柔らかく笑った。
「全員、ですか。ふむ……聞いたことはありませんが、今回は特別に良いでしょう。参加報酬と成功報酬、そして優秀報酬を合わせて金貨三枚を全員に支給します」
「ありがとうございます」
「カズーさんには、最優秀報酬として金貨十三枚をお渡しします」
手渡された小袋の中で、金貨が静かに鳴った。
それは、努力の証であり、仲間たちと掴んだ勝利の音だった。
1階に戻ると、再び笑い声が溢れている。
オレは立ち上がり、皆に向かって声を張った。
「皆、聞いてくれ! 報酬の準備が出来た。最優秀者はオレだそうだ」
頷く仲間たちを見回しながら、微笑んで続ける。
「でも――優秀者は、このクエストに参加した全員だ!」
「おおおおっ!」
「やったぞ!」
「ありがとう、カズーさん!」
皆が一斉に歓声を上げ、ジョッキを掲げる。
笑顔の輪の中心で、オレはただ静かにエールを口に運んだ。
喉を通る冷たい液体が、全てを報ってくれるように感じた。
しばらくして、先ほど案内してくれた女性が再びオレの前に現れた。
「カズーさん、これ……良かったらどうぞ。街を救ってくれたお礼です」
差し出された袋を開けると、そこには焼き色のついた【ビスケット】がぎっしり詰まっていた。
「……ビスケット?」
この異世界でそれを見る日が来るとは思わなかった。
恐る恐る一枚取り出して口に運ぶ。
「甘くて……美味しいです。ありがとうございます」
彼女は嬉しそうに微笑み、頭を下げて去っていった。
残りのビスケットは大切にアイテムボックスへしまう。
――これも、今日の記念だ。
「エールのお代わりです、カズーさん」
別の女性スタッフが新しいジョッキを差し出す。
「ありがとう」
次々と注がれる温かな好意に、胸がいっぱいになる。
(ああ、本当に……クエストを達成して良かった)
オレは、ゆっくりとエールを飲み干した。
体の奥から、心の底から、熱いものがこみ上げてくる。
そしてオレは学ぶ。
〈大事を成し遂げた喜び〉
と言うことを。




