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異世界から学ぶライフスタイル 〜第ニ部 愛と破滅〜  作者: カズー
第六章

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35話 スタンピード

 魔物の群れが、ゆっくりとこちらへ迫ってくる。

 まだ遠い──けれど、その足取りには確かな「意志」があった。

 荒野の平地。遮るものは何もなく、奴らは一直線にこの防衛線へと近づいてくる。

 空はどんよりと曇り、風が唸るたびに、どこか血の匂いを含んだ戦慄を運んできた。


 リーダーが声を張り上げ、冒険者と住人たちへ指示を飛ばす。

 即席の防衛組織。複雑な陣形を取る余裕などない。

 遠距離攻撃ができる弓兵と魔法使いを等間隔に並べる──ただ、それだけだ。


「カズーさんはハンドレッド等級の魔法使いと聞きました。中央後方をお願いします。期待しています!」


 リーダーの声が響く。

 確かに、魔法使いはこの中でも数が少ない。だからこそ貴重な戦力なのだろう。

 だが──。


「リーダー、オレの魔法は射程が短い。前衛に出てもいいですか?」


 怪訝そうに眉をひそめたリーダーだったが、すぐに頷く。

「もちろんです。カズーさんのやり方にお任せします。旧鉱山のフロアマスターを一人で討伐したと伺いました。頼みます!」


(……なるほど、あの件で噂が広まっているのか。期待が高いのも無理はない)


 オレは中央の前衛へと歩み出る。妖精剣と鉄の盾を構え、深く息を吸い込んだ。

 周囲では、冒険者も住人も武器を手に震える声を殺している。


 遠く、魔物たちの黒い影が蠢いて見えた。

 一人の住人が焦り、矢を放つ。だが、矢は虚しく地面に突き刺さる。


「弓兵!まだ撃つな!矢の無駄になる!」


 リーダーの叱責が飛ぶ。

 弓の射程でさえ届かない──オレの魔法は、その半分程度しかない。まだ出番ではない。


 不安と恐怖が、陣全体に蔓延していた。

 家族を守るため、仲間を救うために立ち上がった人々。だが、現実の“死”を前にすれば、その勇気は揺らぐ。

 震える手、荒い息。矢をつがえる指先から、汗がぽたぽたと落ちていた。


(……このままじゃ、押し潰される。誰かが、流れを変えなきゃならない)


 やがて、魔物の群れが射程内へと踏み込んでくる。

「弓兵!撃てぇっ!」

 リーダーの号令。

 一斉に矢が放たれ、空を切る音が荒野を裂いた。


「シュー! シュー! シュー!」


 矢が先頭のゴブリンを貫き、数体が霧散する。

 だが、ボブゴブリンたちは矢を受けても構わず進む。

 絶望的な質量。止まらない奔流。


 オレは、鉱山で発動した『ユニークスキル』の条件を思い返していた。

(あの時は、短時間で大量の敵を倒した……なら、今回も)


 オレはバリケードを越え、荒野へと踏み出す。

 リーダーが驚愕の声を上げた。

「カズーさん!? どうしたんですか!」


「リーダー、試したいことがある。オレのことは気にしないでくれ」


 風が頬を打つ。

 前方の魔物がついに、オレの射程へ入った。


「──マルチファイアブレード!」


 炎の刃が咆哮のように走り、複数のゴブリンを切り裂いた。

 続けざまに詠唱する。


「ファイアアロー! ファイアボール! ウィンドボール! ウォーターボール! サンドボール!」


 炎の矢は確実に魔物に刺さる。火球が爆ぜ、風弾が裂き、水球と土球が混じり合って前衛を粉砕する。

 魔物の群れの動きが一瞬、鈍った。


「ファイアレイン! ウィンドレイン!」


 空から火の粉と風の粒が降り注ぎ、悲鳴のような咆哮が荒野に響く。

 だが、奴らは止まらない。

 ゴブリンたちがこちらへ矢を放つ。


「ファイアシェル!」


 炎の障壁が半円形に展開され、飛来する矢を焼き落とす。

 しかし、魔物たちは怯むことなく炎の外縁に迫ってくる。

 その目には感情がない。ただ「滅ぼす」ためだけの存在。


「マルチファイアブレード!」

「ファイアアロー! ファイアボール! ウィンドボール! ウォーターボール! サンドボール!」


 オレは再び詠唱を繰り返す。火、風、水、土──四属性が絡み合い、轟音が響く。

 だが、左右から回り込む魔物の列までは対処しきれない。


「ファイアウォール! ウォーターウォール!」


 左に炎の壁、右に水の壁。どちらも五メートルにわたり展開される。

 左側の魔物は後方から押され、次々と炎へ突っ込んで消えていく。

 だが、水の壁を抜けた右側の魔物は、勢いを緩めながらも突破してくる。


(……水には、攻撃力がないか)


 右手に魔力を集中させる。

 「マルチファイアブレード!」


「ファイアアロー! ファイアボール! ウィンドボール! ウォーターボール! サンドボール!」


 炎と風が唸りを上げ、魔物を飲み込む。

 その瞬間、視界にゲームシステムのポップアップが現れた。


『土の魔法レベル10』『防御魔法:サンドウォール』を獲得。


「──来た!」

(ユニークスキルではないが、新たな魔法だ!)


 オレは右手を突き出す。

「サンドウォール!」


 大地が隆起し、五メートルの厚い土の壁が右側に形成される。

 突進してきた魔物たちは壁にぶつかり、動きを止めた。

 ようやく、進撃が止まる。


「よし……土の魔法。いけるぞ!」


 オレの前に、静寂が訪れた。

 風が再び吹き、燃え残った火の粉が空に舞い上がる。

 そして、まだ戦いは続く。

 だが今、オレは確かに“力の理”を掴みつつあった。


 オレは確信する。

 属性の力は、それぞれに意味がある。

 ──ただ撃てばいいだけではない。

 魔法とは、組み合わせ、繋げ、流れを作るもの。


 そしてオレは学ぶ。


 〈特性に合わせて使う〉


 と言うことを。

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