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異世界から学ぶライフスタイル 〜第ニ部 愛と破滅〜  作者: カズー
第六章

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34/40

34話 外郭街

 オレは城壁の上に立ち、眼下に広がる光景を見て息を呑んだ。

 黒い波のような魔物の群れが、地平線の彼方までうごめいている。

(あまりにも数が多すぎる……)

 その圧倒的な数に、膝がわずかに震えた。


 オレは頼りにしているゲームシステムのメニューを開く。ステータス画面に新たな変化があった。

 ――『水の魔法使い:レベル40到達』

 さらに、『土の魔法使いのジョブ獲得』


「よし……!」

 オレは即座にジョブを変更する。新たな力を手に入れたことで、不思議と、胸の奥の恐怖が少しだけ薄れていく。


(まずは、冒険者ギルドへ。情報を集めなければ……)


 城壁の外郭街を見下ろすと、逃げ場を求める人々や、既に街に潜り込んだ魔物の影が見える。

 オレは深呼吸をしてから、両手を掲げた。


「――ウォーターウォール!」


 城壁に沿って、水の壁が垂直に伸びる。陽光を受けて、淡い蒼が揺らめく。

 その中へ、意を決して飛び込んだ。


「とうっ!」


 十メートルもの高さ。足がすくみそうになるが、背負った浮き付きバックパックを信じるしかない。

 水に包まれ、勢いよく沈みかけたが、すぐに浮力に引き上げられて水面に浮かぶ。


(……助かった)


 少しずつ空のペットボトルを取り出し、アイテムボックスに放り込む。浮力が減り、オレはゆっくりと沈んでいった。


 やがて、水の壁が消えそうになる。焦って詠唱を重ねる。

「ウォーターウォール消えろ! ……もう一度! ウォーターウォール!」


 真下に新たな水の柱が現れ、オレはそれを伝って安全に地上へと降り立った。

 全身びしょ濡れだったが、心の中ではガッツポーズを決める。


「やった……! 成功だ!」


 街の通りを駆け抜ける。空にはハーピー、地上ではコボルトの群れが徘徊していた。

 オレは鉄の盾を構え、新しい魔法を試す。


「――サンドボール!」


 土の魔力が集まり、大きな球体となって飛び出す。

 それは一直線にコボルトを直撃し、爆ぜるように霧散させた。


(すごい……質量のおかげか、威力が段違いだ!)


 勢いに乗り、空のハーピーにも放つ。

「サンドボール!」


 しかし、ハーピーは土球を軽やかにかわした。

(威力はあるけど、スピードが足りない……!)


 歯噛みしながらも先を急ぐ。

 やがて冒険者ギルドに辿り着くと、扉の向こうから怒号と喧騒が飛び込んできた。

 中は大混乱だ。人々が走り回り、依頼掲示板の前では争いすら起きている。


 受付にいた女性が、オレに気づいて叫ぶ。

「カズーさん! スタンピードが発生しました! 緊急クエストに参加してください!等級の高い冒険者が必要です!」


 オレは頷き、冒険者証を差し出す。彼女は手際よくオーブにかざし、登録を済ませた。


 すぐに奥からギルドマスターが現れ、机の上に飛び乗って叫ぶ。


「全員、聞け! スタンピードが迫っている! 非戦闘員は内郭街に避難させる!

 だが近くの城壁門は敵に包囲されている! 反対側まで行くため、我々が時間を稼ぐ!」


 そして、ひとりの冒険者を指差す。

「指揮は彼に任せる! 全員、従え!」


 ギルドの指名を受けたリーダーに導かれ、オレたちは西の街外れへ向かった。

 既に住人たちが必死にバリケードを組み立てているが、どれも心もとない。

 この外郭街には城壁がない――ただの石と木の塊が、命を隔てる壁になるのだ。


 後方には、鉱山都市の兵士たち。彼らとリーダーが短い会話を交わしている。

 その顔には、誰もが覚悟と焦燥を宿していた。


「皆、もうすぐ軍隊が到着する! それまで、この場所を死守する!」


 リーダーの声に、冒険者たちは武器を構えた。

 オレも鉄の盾を握りしめる。


 見渡す限り、オレたちの戦力は五百ほど。

 対する魔物は……数千以上だろうか。


(軍が来るまで……持つのか?)


 冷たい風が吹き抜け、砂埃が舞い上がる。遠くで地鳴りのような音が響き、無数の影が蠢くのが見えた。


 オレはその光景を、目を逸らさずに見つめる。

 そして、心の奥で刻みつけた。


 そしてオレは学ぶ。


〈準備不足が死を招く〉


 と言うことを。

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