表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界から学ぶライフスタイル 〜第ニ部 愛と破滅〜  作者: カズー
第五章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/40

30話 旧鉱山最深部

 オレは、フロアマスターの部屋に続く前室を抜け、重厚な扉の前に立った。

 冷たい金属の感触が掌に伝わる。この扉の向こうに、強大な敵が待ち受けている。


(ここが……フロアマスターの部屋か)


「よし! 行くぞ!」


 自らを鼓舞するように叫び、オレは扉を押し開けた。


 眼前に広がったのは、広大な空間。天井は高く、城塞都市のフロアマスターの部屋にも匹敵する広さだ。石造りの壁と、下層へと続く重々しい扉――間違いない、ここがフロアマスターの部屋だ。


 だが、何よりオレの目を奪ったのは――


「⋯⋯デカすぎるだろ、あれ⋯⋯」


 部屋の中央に、空間と同じくらい巨大なスライムが、どっしりと鎮座していたのだ。


 ゲームシステムのメニューを開くと、表示された名は――『メガスライム』。


 その名に恥じぬ威容を放ち、オレを見下ろしている。


 呆然と立ち尽くすオレの前に、突如としてスライムの身体から触手が伸び、猛スピードで突き刺さんと迫ってきた!


「くっ!」


 とっさに倒れ込んで回避する。だが攻撃はそれで終わらなかった。さらに複数の触手が、まるで生きたムチのようにオレを襲う。


 一本が、倒れたオレの足を貫いた。激痛が走る。骨に響くような痛みだ。


「ぐっ……!」


 しかし、苦しんでいる暇はない。次の触手が間髪入れず振り下ろされる。


 オレは即座に防御魔法を展開した。


「ファイアウォール!」


 轟音と共に、オレとメガスライムの間に炎の壁が立ち上がる。熱気が空気を歪ませ、触手の進撃が止まったかに見えた――だが。


 ――ズンッ!


 鈍い音と共に、メガスライムの身体が変形し、縦に伸び上がる。


(炎の壁の上から攻撃してきた!?)


 炎の壁は2メートル程度。それを超えた高さから、触手が頭上に降り注ぐ。


 オレは首を引いて回避したが、一本が肩に突き刺さった。


「ぐあっ!」


 焼けるような痛みに呻きつつ、さらなる防御魔法を重ねる。


「ファイアシェル!」


 半円状の炎の障壁がオレを包む。だが、メガスライムの触手はその炎を突き破ってきた。


 オレは即座にアイテムボックスから鉄の盾を取り出し、迫る触手を受け止める。


 ギィン!


 金属が鳴り、火花が散る。


(さすがに、鉄の盾は貫けないだろ……!)


 一息つき、メニューを見ると、HPが大きく削られていた。


「やばい……」


 オレは【ハイポーション】を取り出して一気に飲み干し、息を整える。


 そして反撃に転じた。


「ファイアアロー! ファイアボール! ウィンドボール!」


 炎の矢が飛び、火球が爆ぜ、風弾が渦を巻く。どれも巨大なメガスライムの身体に確実に命中した。


 だが、その間も触手は鉄の盾を容赦なく叩き続けてくる。盾を支えながら、魔法で削る持久戦だ。


「マルチファイアブレード! ファイアレイン! ウィンドレイン!」


 広範囲を焼き尽くす魔法が炸裂する。


 メガスライムの身体が、少しずつ萎んでいくのが分かる。


(オレには《オート・リカバー》がある……持久戦なら、オレが勝つ!)


 だが、その希望はすぐに打ち砕かれた。


「なっ……!」


 突然、メガスライムの身体が崩れていく――いや、分裂したのだ!


 それはまるでスライムの津波。無数の小型スライムが、床を這い、跳ね、波のようにオレへ押し寄せてくる。


「マルチファイアブレード! ファイアレイン! ウィンドレイン!」


 全体攻撃魔法を連発するも、敵の数が多すぎる。焼き尽くしても次の波が押し寄せる。


 オレは、スライムの津波に飲み込まれた――


 ―――。


 気づけばオレは、部屋の端まで流されていた。転げるようにファイアシェルごと押し込まれていたが、辛うじて防御魔法は効力を発揮し、スライムを防いでいる。


 だが、無数の触手がシェルの内側まで突き刺さってくる。


「くそっ……!」


 鉄の盾で急所は防げているが、手足に次々と攻撃が刺さる。HPが減る。MPも減る。今、オレは二重の防御魔法を展開している。これでは《オート・リカバー》が追いつかない。


 ファイアウォールに目を向ける。スライムの津波がそこだけを避けているように見えた。


(あれは……耐えてる!)


 オレは、ある戦術を思いついた。そして、直ぐ様実行に移す。


「ファイアウォール消えろ!」


 いったん解除し、新たな場所に展開し直す。


「ファイアウォール!」


 部屋の壁に沿って、コの字型に炎の壁を築く。


 その行き止まりにオレは移動し、背後を壁で固め、敵の進行方向を一方向に制限する。


「マルチファイアブレード! ファイアアロー! ファイアボール! ウィンドボール!」


 敵が一直線にしか攻めて来れない状況で、オレは攻撃に専念できた。


 MP節約のため、防御魔法も解除する。


「ファイアシェル、消えろ!」


 代わりに最強のコンボ魔法を叩き込む。


「マルチファイアブレード! ファイアアロー! ファイアボール! ウィンドボール! ウォーターボール!」


 ――焼き尽くす。風で飛ばし、火で蒸発させ、水で圧し潰す。


 それを、何度も何度も繰り返した。


 やがて――


「……終わった、か?」


 視界から全てのスライムが消えていた。部屋が、静寂を取り戻していた。


 スライムの残骸が蒸気と化し、空中に散っていく。


(やった……やったぞ、オレ一人で……)


 気が付けば、フロアマスターの部屋の扉がゆっくりと開き、下層への扉も同時に開いた。


 中央に、煌々と輝く【大魔石】がある。


 オレは、それをそっと手に取り、アイテムボックスへと収納する。


 そして、深く息を吐いた。


(今回の勝因は……あの構えだ)


 ファイアウォールと背後の壁によって作った、攻防一体の構え――


 オレは、ここで一つの戦術を学んだのだった。


 それは、力で押し切るだけでなく、状況を制し、戦場を創り出す戦い方。


 オレはひとつ、また強くなった気がした。


 そしてオレは学ぶ。


〈攻防一体の構え〉


 と言うことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ