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異世界から学ぶライフスタイル 〜第ニ部 愛と破滅〜  作者: カズー
第四章

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26話 地下ギルド

 ―――翌朝。


 宿屋の簡素な朝食――焼いた黒パンと固いチーズ、それに温かい豆のスープを胃に収めたオレは、少し肌寒い朝の街を歩いていた。


 向かう先は、“地下ギルド”。


 昨日、宿の店員に恐る恐るその場所を尋ねた時、返ってきたのは拍子抜けするほどあっさりとした返答だった。


「地下ギルドかい?歓楽街の中心だよ。二階建ての建物で、看板はないけど赤い扉が目印さ」


 ギルドとは名ばかりのその場所は、確かに歓楽街の真ん中にあった。


 ぱっと見はどこにでもある普通の建物。地下ギルドなのに地上に普通に建っている。しかし、扉の奥に漂う空気は明らかに“普通”ではなかった。


 重い扉を押し開けると、中には無機質な受付カウンターが一つあるだけ。室内の左右には無数の扉が並び、すべて鍵がかかっているようだ。恐らく、個室だろう。


 受付には一人の男がいて、何やら話した後、そそくさと立ち去っていった。


 カウンターが空いたのを見計らい、オレは歩み寄る。応対に出たのは、どこにでもいそうな中年男。皺の刻まれた顔に、無精髭。目元には疲れが滲んでいた。


「おはようございます。ここは地下ギルドでよろしいでしょうか?」


「……あぁ、そうだ」


 男は面倒くさそうに、唾でも飲み込むような間を挟んで答えた。


「地下ギルドでは、どのような依頼が出来るのでしょうか?」


 丁寧に聞いたつもりだったが、男は面倒そうに眉をひそめる。


「お前、ここに来るのは初めてか? 娼婦を買いに来たんだろう。朝は娼婦が少ないんだよ。今は奥の部屋も満杯だから、少し待て」


(……なるほど。ここは娼婦の斡旋所でもあるのか)


 しかし、オレの目的はそこにはない。


「いや、娼婦ではなくて、情報収集をお願いしたいんですが……」


 少し警戒を込めて言うと、男は胡散臭げに目を細めたが、すぐに「あぁ、ちょっと待っててくれ」と呟き、奥の扉の一つに消えていった。


 五分後。


 奥から男が戻ってきた。その後ろには、マフラーで顔の下半分を隠した若い男がついてきた。鋭い目だけが覗いている。見た目は二十代前半――だが、その視線には場馴れした者の気配があった。


 若い男は、オレを見て短く言った。


「……こっちに来い」


 無言で頷き、彼の後ろについていく。


 通されたのは、狭い個室。窓ひとつなく、室内には木製の机と椅子があるだけ。壁には音を遮るような厚い布が掛けられていた。


「オレは情報屋だ。名前は聞くな。……何が知りたい?」


 鋭く短い言葉。しかし、彼の声には確かなプロの響きがあった。


 オレは慎重に口を開く。


「男爵の城について知りたい。構造と部屋の配置、それと……潜入方法を」


 情報屋は、ふっと鼻で笑うように言った。


「あんた……死にたいのか?男爵の城に潜入? 衛兵が何人いるか知ってるのかよ……?」


 だが、オレは真剣だった。


「男爵の城に、取りに行きたい“もの”があるんだ」


 情報屋の目が僅かに細くなる。


「――そうか。まぁ、あそこには金塊やら宝石やら、腐るほどあるからな。分かった。仕事は受ける。四日後、またここに来い。情報料は、前金で金貨三枚。情報一件につき金貨一枚ずつ追加だ」


「了解した」


 オレは金貨を三枚、アイテムボックスから取り出し、テーブルに置く。情報屋はそれを一瞥し、手早く懐にしまうと部屋を出て行った。


 無駄口を叩かない男だった。


 オレも静かに部屋を出る。


 地下ギルドを後にし、次に向かうは――冒険者ギルドだ。


 ◆ ◆ ◆


 ギルドの扉を開けると、昼の光が差し込んだ。中は静かで、受付カウンターの前には数人の冒険者が並んでいる。


 自分の順番が来たところで、オレはカウンターに向かい、口を開いた。


「カズーと言います。クエストの報酬を受け取りに来ました」


 受付の女性は冷たい美貌の持ち主で、感情の読めない表情で言った。


「オーブに冒険者証を翳して下さい」


 言われた通り、アイテムボックスから冒険者証を取り出し、カウンターの水晶のような球体にかざす。


「……確認出来ました。クエスト、お疲れ様でした。報酬は銀貨5枚です。内訳は、参加報酬1枚、成功報酬2枚、そして依頼者からの特別報酬2枚です。依頼者からは“またお願いしたい”との伝言を預かっております」


(……ムートンさん、満足してくれたか。ありがたい)


 報酬の銀貨5枚を受け取り、ふと、気になっていたことを尋ねる。


「クエストの中に、ダンジョンアタックなどはありませんか?」


 今のオレは、シーフのジョブを得ている。しかし、今のところ使えるスキルは《スティール》のみだ。以前、鉱山で出会ったシーフは《アンロック》のスキルでオレの【奴隷の首輪】を外してくれた。


 オレも、男爵の城に潜入するには、あのスキルが必要だ。


「この都市近郊にはダンジョンはありません。それに……このギルドでは魔物討伐はあまり人気が無いんです。荷馬車の護衛が、報酬が良くて危険も少ないので主流です」


 そう。クエストボードを見ても、魔物討伐の文字は一つも無かった。


 肩を落とすオレを見て、受付の女性が思い出したように付け加えた。


「この街の外れに、旧鉱山があります。そこに魔物が巣食っているという話があります。正式なクエストではありませんが、討伐して魔石を持ち帰っていただければ、こちらで買い取ります。【小魔石】で金貨1枚になります」


 オレは、高額で取引される【小魔石】に驚いて尋ねる。


「……【中魔石】だと、いくらになりますか?」


「金貨10枚です。ただし、滅多に手に入りません。【小魔石】でも運次第ですから、旧鉱山に行く冒険者は少ないんです」


(だが……行く価値はある)


 オレはすでに、【小魔石】も【中魔石】も持っている。しかし、レベルアップのためには戦闘経験が不可欠だ。


 そして決めた。


(明朝、旧鉱山へ向かおう)


 オレは場所の詳細を確認し、いったん宿へと戻る。


 情報を手に入れ、戦う覚悟を決めたオレの心には、一つの言葉が強く刻まれていた。


 そしてオレは学ぶ。


〈情報は金で買える〉


 と言うことを。

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