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異世界から学ぶライフスタイル 〜第ニ部 愛と破滅〜  作者: カズー
第四章

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24話 クエスト

 ―――翌朝。


 澄み渡る空に朝陽が昇り、オレはクエストを遂行するため、鉱山都市の城壁門へと足を向けた。


 この鉱山都市は、外郭街と内郭街の二重構造になっている。今オレがいるのは、外郭街。城壁の外に広がる新たに来たか、貧しい住民たちが生活する街だ。内郭街は城壁の内側にあり、行政機関や貴族の屋敷、商人ギルドなど、都市の中心機能が集まっている。城壁門は、内郭街を守る為に内郭街の外周に作られた城壁の門になる。つまり、城壁門を越えなければ、都市の心臓部へは入れない。


 その城壁門の前でしばらく待っていると、内郭街から一人の男が現れた。小柄で痩せており、清潔な装いをしている。細く整えられた髭が特徴的だ。


 彼は、丁寧に頭を下げて口を開いた。


「あなたがカズーさんですね? 私はこの都市で執政官をしております、ムートンと申します」


「はい、カズーです。ジャイアントラット討伐のクエストで来ました」


 そう言うと、ムートンの顔がパッと明るくなり、安心したようにオレに歩み寄った。


「ありがとうございます。本当に助かります。いくら待っても、誰もこのクエストを受けてくれなくて……」


 そのまま門番の元へ向かい、何やら耳打ちしてから、こちらに戻ってくる。


「カズーさん、冒険者証をお借りできますか?」


 言われた通りに証を渡すと、ムートンはオーブのような装置にそれをかざし、何らかの処理を施した。


「これで、あなたは自由に城壁門を行き来できます」


(……やった! これは思わぬ拾い物だ。これで自由に内郭街へ入れる)


「ありがとうございます」


 礼を言うと、ムートンは微笑みながら、「では、行きましょう」と言い、オレの前を歩き始めた。


 街の石畳を歩きながら、オレは気になっていたことを尋ねる。


「ジャイアントラットって、どんな魔物なんですか?」


 ムートンは少し苦笑して答えた。


「いや、魔物というほどの存在ではないんです。どちらかと言えば……ただの害獣ですね。外郭街では捕まえて食べる人もいるくらいですし。ただ、内郭街では数が増えすぎて、食料庫を荒らすなどの被害が深刻でして……」


「なるほど、場所によって扱いが違うんですね」


「ええ。そして……問題なのは、その生息地です。あまりにも厄介な場所にいて、だから冒険者たちも敬遠していたんです」


(つまり、場所が問題か……)


 歩くことおよそ三十分。街並みを抜けて、ムートンが止まった先は、細い石造りの水路だった。


「カズーさん、この場所から用水路の中に入ります」


 用水路は地面より一段低い位置に掘られており、幅は1メートルほど。その横には人が通れる狭い側道がある。全体で2~3メートルほどの幅だろうか。


 水路は、外郭街から城壁の下を潜り、内郭街の中心部へと通じているという。


 オレとムートンは、その用水路の側道を慎重に進んでいく。地下といえど、差し込む光で、思ったよりも明るい。


 しばらくすると、別の支流が横から合流してきた。流れる水の音が増し、それと同時に――鼻を刺すような悪臭も強くなってきた。


「カズーさん、このマスクを着けてください」


 ムートンは布製の簡易マスクを差し出す。受け取って装着すると、多少は臭いが緩和された。


「ここ……下水道ですか?」


「はい、そうなります。もうすぐ、ジャイアントラットの生息地に入ります。ご注意を」


 進むにつれ、壁には黒ずんだ水垢がこびりつき、不気味な静寂が支配していた。


 そして、突如として現れたのは――


 中型犬ほどのサイズの巨大なネズミたち。身を寄せ合うようにして、側道を占拠している。その数、ざっと10匹以上。


「カズーさん! あれがジャイアントラットです。討伐をお願いします!」


「了解です」


 オレは躊躇なく全体攻撃魔法を放つ。


「――マルチファイアブレード!」


 空中に複数の炎の刃が出現し、すさまじい勢いでジャイアントラットへと飛んでいく。避ける間もなく切り裂かれ、黒焦げになって倒れていくラットたち。


 残った数匹が水路へと逃げ込むが――逃がす気はない。


「ファイアボール! ウィンドボール! ウォーターボール!」


 爆発する火球、吹き飛ばす風弾、勢いよく飛ぶ水球。逃げ惑うラットたちは、次々とその衝撃に飲まれた。


 さらに、水中に隠れた個体を狙って――


「ファイアアロー!」


 鋭い火の矢が一直線に飛び、ネズミの身体を貫く。


 全てのジャイアントラットが沈黙した時、ムートンが驚愕の声を上げる。


「カズーさん、す、凄い魔法ですね……! まだ行けますか?」


「はい、問題ありません」


 ムートンは頷き、さらに先を目指す。


 その後も10匹程度の群れをいくつも発見し、オレは魔法で次々に掃討していった。ジャイアントラットは脅威ではない――が、問題はやはり臭気だった。


 奥へ進むほどに、下水の臭いは強くなり、息をするだけで気分が悪くなる。だが、それを乗り越えた時――


『水の魔法使いのレベルが30に到達しました。水の魔法のスキルを獲得しました』


(……来た! 水の魔法、強化完了か)


 そうしてたどり着いたのは、大きな支流。そして、その先には鉄格子が設けられていた。重厚な鍵がかけられ、先へは進めないようになっている。


 オレがその格子を見ていると、ムートンが小声で囁いた。


「この先は男爵様の城です。ここから先へは、許可がなければ入れません」


 オレは鉄格子を見つめながら思う。


(つまり、ここから――男爵の城に潜入できる、ということか……)


 いずれ必要になる“道”かもしれない。今は、その存在を胸に刻み込んでおく。


 そしてオレは学ぶ。


〈苦難の先に光明あり〉


 と言うことを。

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