表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界から学ぶライフスタイル 〜第ニ部 愛と破滅〜  作者: カズー
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/40

22話 鉱山都市への街道

 ―――翌朝。


 冷え込みの残る黎明。東の空がわずかに明るみはじめるころ、オレは静かに野営地を片付け、街道へと馬を進めた。焚き火の残り火がくすぶる中、夜露に濡れた草の香りが鼻を突く。


 オレの馬はよく訓練されていて、手綱を引かずとも黙々と鉱山都市へと向かってくれる。時折、馬の吐く白い息が朝靄に溶けて消えていった。


 昼を少し過ぎたころ、前方に小さな村が見えてきた。藁葺き屋根と木造の民家が並ぶ、典型的な農村だ。だが、今のオレには寄り道をしている余裕はない。迷わず街道を直進し、村を通り過ぎる。


 しばらく進むと、道の両脇に鬱蒼とした森が現れた。枝葉が絡み合い、昼でも薄暗く、森の奥はまるで異世界のように沈黙している。街道は森の外縁を縫うように続いているが──なにかが、おかしい。


 空気が、重い。


 森から微かに人の気配がしたその瞬間──


 ヒュッ! ヒュウウッ!!


 矢が空を裂いて飛来した!


 咄嗟に身体を丸め、鉄の盾を振り上げて受け止める。金属の甲高い音が鳴り響いた。同時に、馬が苦しげに嘶いた。振り返ると、馬の肩と腿に数本の矢が突き刺さっている。


 「クソッ、やられたか……!」


 さらに、森の茂みから黒装束の男たちが飛び出してくる。剣や斧を手にした盗賊どもだ。数は十……いや、それ以上。


 オレはすかさず防御魔法を唱える。


 「ファイアシェル!」


 瞬間、オレの周囲に半円状の炎の壁が燃え上がる。矢はその壁に当たって軋む音を立て、弾き返される。


 炎の光に照らされた盗賊たちは、一瞬ひるんだ。オレはその隙に馬の元へ行き、矢を素早く抜き取る。馬に回復用のポーションを飲ませると、馬は痛みに震えながらも立ち直った。


 「よし、まだ走れるな」


 敵はゲームシステムの表示で『盗賊』と示されている。周囲を囲む十数名の武装集団。


 ならば、こちらも容赦はしない。


 「ファイアアロー!」


 炎の矢が一直線に飛び、前列の盗賊を貫いた。


 「ファイアボール! ウィンドボール! ウォーターボール!」


 爆ぜる火球。唸る風弾。渦巻く水球が、次々に敵を打ち倒す。だが、それでも奴らは怯まず、次々に迫ってくる。


 オレは一歩踏み出し、右手を大きく振りかざした。


 「マルチファイアブレード!!」


 炎の刃が空中に幾重にも生まれ、弧を描いて敵陣に飛び込む。焔の軌跡を残しながら、盗賊たちを斬り裂いた。


 炎と絶叫が森にこだました。


 ようやく盗賊どもは恐れをなして散り散りに逃げていく。


 戦いの後、オレは息を整えつつ、倒した盗賊たちの装備を物色する。


 クルワンの奴隷・チャンの言葉を思い出す。


  「襲ってきた奴の持ち物は、オレのものにしていい」


 そうだった、ならば遠慮はいらない。だが、武器はどれも古びていて使い物にならない。錆びた剣、刃こぼれの斧……どうやら質の悪い連中だったらしい。


 森の奥に転がった盗賊の遺体を調べていると、一本の弓が落ちていた。黒光りする木材でできた、大ぶりな長弓だ。


 拾い上げた瞬間、システムメニューに表示が出る。


 『ロングボウ』


 オレはまだ弓スキルを習得していないが、何れ使えるようになるかもしれない。予備として取っておこう。ロングボウを2本、そして矢を99本、アイテムボックスへと収納する。


 そのとき、一人の盗賊の懐から、何か硬いものが覗いているのに気づいた。手を伸ばし、引き抜いてみると、それは鉄製の小さなプレートだった。


 ポンッ


 ゲームシステムにポップアップが現れる。


 『シーフのジョブを獲得しました』


 「……なんだ?」


 ジョブ欄を確認すると、確かに新たに『シーフ(盗賊)』が追加されている。レベルは1。スキルはひとつ──『スティール(盗む)』。


 (盗んだことが“正式に”認められた、ってことか……)


 思い返せば、過去に盗賊の武器を拾ってもジョブは獲得できなかった。だが、このプレートは特別だったのか。


 メニューを見ると、それが何かわかる。


 【冒険者証★★】


 テン等級の冒険者証──つまり、身分証だ。


 (……これは使える)


 オレは、鉱山で男爵の兵士たちを多数殺している。恐らく今ごろ、鉱山都市ではオレは「指名手配の犯罪者」だろう。


 この冒険者証を使えば、身分を偽れる。


 証の名前を確認すると──『カゾーム』。


 「悪くないな、オレの名前にも近いし」


 ―――翌日。


 オレは再び盗賊の襲撃に遭った。が、今度は手慣れたものだった。水属性のレベルが20に到達し、新たな全体魔法を獲得。


 その名は──「ウォーターレイン」


 しかし、使ってみると、ただの大粒の雨が降るだけだった。


 「……これは使えない⋯⋯。飾りだな」


 オレはこの魔法を封印することに決めた。


 そして、ついに辿り着いた。


 鉱山都市──。


 その姿は、圧巻だった。


 都市はまるで巨大な機械の歯車のように、無秩序に建物が積み重なり、煙と騒音が混ざり合っていた。都市全体は二重構造になっていて、外側には煉瓦造りの建物が林立し、入り組んだ路地が蜘蛛の巣のように広がっている。


 外壁はなく、兵士も見当たらない。誰でも自由に出入りできるようだった。


 とりわけ目立つのは、2〜3メートルほどの円筒形の土製の塔。街の各所に数十本も立っており、どれも煙を噴き上げていた。


 (あれが……製鉄塔か)


 オレはふと、足を止めて空を仰いだ。


 どこまでも灰色に曇った空。厚い雲が空一面に広がり、青空の気配すらない。その上に、製鉄炉から立ち昇る黒煙が重なることで、空はさらに暗く沈んでいた。煙は天へと届くことなく、重く、低く、空の底に張り付いているかのようだ。


 この空の色は、まるでオレの心を映しているようだった。


 暗く、冷たく、重い。


 だが、この地に来たのは理由がある。目的がある。


 オレは、深く息を吸い込んだ。煙の混じった空気が肺を焼くように重く感じる。それでも、この地でやらねばならないことがある。


 オレは、自分の中で静かに誓う。


 ――ここで終わらせる。


 そしてオレは学ぶ。


〈復讐の炎は消えない〉


 と言うことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ