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異世界から学ぶライフスタイル 〜第ニ部 愛と破滅〜  作者: カズー
第四章

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21話 鉱山戦後

 ―――翌朝。


 雨は上がり、東の空から差し込む朝日が、草葉の朝露に反射してキラキラと輝いている。


 オレは今、ナリアの墓の前に立っている。

 昨日、ヴィスカ、サジと共に、静かにナリアを土へ還した。あの穏やかな顔は、まるで眠っているようだった。


 そして、今朝。

 オレは一人、ナリアの眠るこの場所に来ていた。


「ナリア……」


 その名を呼ぶと、胸の奥から止め処なく想いが溢れ出す。

 この異世界で、初めて人を心から愛した。いや、この異世界だけでなく、前の世界でも無かった。


ナリアが教えてくれた。人を愛する喜び、誰かに愛される温もり。

 だが―――そのナリアを、オレはもう失ってしまった。


 涙は、もう枯れるほど流したはずなのに。

 手を合わせながら、また、頬を涙が伝う。


 その時だった。

 空から一匹の蝶が舞い降りてきた。ゆっくりと羽ばたきながら、オレの手の甲に止まる。


 それは、透き通るような蒼―――ナリアの瞳と同じ色をしていた。


(ナリア……ナリア……)


 蝶が、風に乗ってまた空へと飛び立っていく。

 まるで「行きなさい」と、オレの背を押してくれているかのようだった。


 ―――――。


 その時、背後から砂利を蹴る足音が近づいてきた。誰かが急いでこちらへ向かってくる。


 振り返ると、ヴィスカとサジが汗を滲ませながら駆けてきた。ヴィスカが叫ぶ。


「カズー、大変だ! 領主のイザリオが……生きている!」


「……なに……?」


 驚愕が走る。ナリアを殺した男――イザリオ。

 オレが放ったユニークスキル《メテオクラッシュ》で、館ごと消えたはずのあの男が、生きているだと……?


 サジが息を整えながら、続ける。


「どうやら、ヤツは昨日、解放軍が近づいていると察知して、先に逃げ出していたらしい。複数の兵士の証言だから、間違いないはずだ」


(……ふざけやがって! 領主のくせに、自分だけ先に逃げたのか!)


「で、奴はどこへ向かったんだ?」


 オレの問いに、ヴィスカが苦しそうな顔をして答える。


「鉱山都市だ⋯⋯。カズー……馬は用意した。でも……私たちは一緒には行けない」


 分かっている。鉱山都市は、イザリオの父・バルグラ男爵が治める場所だ。

 ヴィスカや奴隷が行けば、捕らえられる危険が高い。だが、オレは――


「行くよ。……ナリアの仇は、オレが討つ」


 サジが頷き、オレを厩舎へと案内する。

 用意されていたのは、しなやかな鹿毛の馬だった。


「イザリオも馬で逃げたらしいから、途中で追いつくのは難しいだろう。……気をつけてな、カズー」


「……あぁ。ありがとう、サジ」


 サジの目に、涙が浮かんでいた。


「こっちこそ、ありがとう……! あんたのお陰で、鉱山の奴隷たちは自由になれた……! 本当に……ありがとう。“破滅の魔術師”!」


 ―――――。


◆ ◆ ◆


 オレは馬に乗り、鉱山都市へと旅立つ。


 鉱山都市までは、馬で三日。街道は整備されており、迷うことはない。

 イザリオには途中で追いつけないと判断し、目的地を定め、オレは静かに手綱を握った。


 馬上から見る風景は、どこまでも広く、空は高かった。

 騎士のスキルを得たせいか、乗馬は全く問題ない。


 そのまま、ゲームシステムのメニューを開く。


《メテオクラッシュ》――昨日の戦いで発動したユニークスキルは、すでに魔法欄から姿を消していた。

 どうやら、条件を満たすことで出現する一時的なスキルらしい。


 火の魔術師のレベルは、すでに30に達していた。

 ジョブを水の魔法使いに切り替え、次の魔法の習得を目指す。クラスは『魔術師クルワンの弟子』。

 装備は革の鎧、鉄の剣、鉄の盾――冒険者としての体裁を整えて、鉱山都市に潜入するためだ。


 ―――数時間が過ぎ、道は崖沿いに差しかかる。


 足元に注意しながら進んでいると、突然――空から影が降りてきた!


「……魔物か!?」


 メニューで確認すると、『ハーピー』。

 人の顔と鳥の身体を持ち、鋭い爪をこちらに向けて急降下してくる!


 咄嗟に、魔法を放つ。


「ウォーターボール!」


 大きな水球が、空中のハーピーに向かって飛ぶ――だが、ひらりと空中で身を翻し、魔物はそれを躱した。


(くそっ、速い……!)


 即座に魔法を切り替える!


「ファイアアロー!」


 炎の矢が一直線に放たれる。

 ハーピーは避ける動きを見せるが、その瞬間、矢は軌道を変えてハーピーの背に突き刺さる!


 炎をまといながら、ハーピーが絶叫し、空中で霧散する。


(誘導型魔法……便利だな)


 だが、それを見た他のハーピーたちが、崖の上から一斉に飛び立ち、こちらへ殺到してくる!


 オレは盾を構え、詠唱する。


「マルチファイアブレード! ファイアレイン! ウィンドレイン!」


 三連続の広範囲攻撃魔法が、空を染める!

 火の粉と風の粒が降り、複数の炎の刃が魔物に向かっていく!


 ハーピーたちは翻弄され、空中でバランスを失い、次々と撃ち落とされていく。


 とどめに、最後の魔物に攻撃魔法を撃ち込む。


「ファイアアロー!」


 空中で羽ばたく最後の一体を炎の矢が貫き、静かに空へと消えていった。


 戦闘が終わった。


 水の魔法使いとしてのレベルが10に上がり、新たな魔法『ウォーターウォール』を獲得。

 水の防御魔法らしい。きっとこれも役立つだろう。


 地面には、小さな光が散らばっている。【小魔石】だ。

 それらを拾い、アイテムボックスへとしまい込む。


 風が、戦いの後の静寂を運んでくる。


 オレは静かに、馬のたてがみを撫でながら、前を見据えた。


 この先も戦いは続くだろう。


 それでも、オレは進む――ナリアの仇を討つために。


 そしてオレは学ぶ。


(敵はどこにでもいる)


 と言うことを。

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