20話 鉱山の戦い
オレの魔法には射程距離がある。
弓の射程よりも短い。
敵兵たちは、オレと距離を取り、容赦なく弓矢を放ってくる。だが、オレは“ファイアシェル”の防御魔法を展開し、飛来する矢を次々と焼き落としていた。
そのとき――。
ギィィッ――と、館の重厚な門が軋む音と共に、十人ほどの槍兵が現れた。鋼の槍を握り、無言のままオレに向かって突進してくる。
「マルチファイアブレード!」
「ファイアアロー!」
「ファイアボール! ウィンドボール!」
オレは次々と攻撃魔法を繰り出し、迫り来る槍兵を迎え撃つ。火球が弾け、風弾が兵士たちを打ち据える。しかし――全員は倒せなかった。
何人かの兵士が、なおも突撃してくる。
鋭く突き出された槍が、オレの防御魔法“ファイアシェル”を破り、唸りを上げて迫る。
「くっ……!」
鉄の盾を構えて一撃を防ぐも、二本の槍がオレの腕と脚を貫いた。
「……っが……!」
鋭い痛みが身体を貫き、血が地面に滴る。しかしオレは歯を食いしばり、攻撃魔法を打つ。
「ファイアアロー!」
「ファイアボール!」
「ウィンドボール!」
魔法の奔流が炸裂し、槍兵たちは後方へと吹き飛ばされる。
だが戦いは終わらない。
別の兵士たちが、倒れた仲間の槍を拾い、再びオレに向かって突撃してきた。
“ファイアシェル”では、槍の攻撃は防ぎきれない。オレは再び盾を構えて心臓を狙う一突きを受け止めるが、数の差が厳しい。
「くそっ……!」
オレは新たな防御魔法を唱える。
「ファイアウォール!」
轟音と共に立ち上がる火の壁が、槍兵たちの進撃を阻む。彼らは炎の熱に身をすくめ、足を止めた。
よし……通さない。
だが、こちらの攻撃魔法も、火の壁を超えて届かない。ならば――。
「ファイアレイン!」
「ウィンドレイン!」
オレは火と風の雨を空から降らせ、火の壁の向こう側を包囲殲滅する。火の粉の風の粒が地面を叩きつけ、兵士たちの悲鳴がかすかに聞こえる。
―――だが、すぐに静寂が破られる。
火の壁の両端から、敵兵たちが飛び出してきた。火の壁の横幅はわずか5メートルほど、回り込めばオレに届く。背後には、武器も防具も持たない奴隷たちが、解放軍の到着を待っている。
このままでは、巻き添えで多くの命が散る。オレは決断した。
「ファイアウォール消えろ!」
「ファイアウォール!」
「ウィンドウォール!」
左右に再び火と風の壁を展開し、敵兵の進撃を遮る。目の前にできた隙間から、オレは突撃する。
鉄の盾をアイテムボックスにしまい、代わりに【爆裂玉】を手に取る。狙いを定め、風の壁の向こうにいる敵へ投擲――。
「ドッカーン!!」
爆音と共に爆裂玉が炸裂し、敵兵が吹き飛ぶ。
その隙に、火の壁の近くにいる敵に向けて魔法を放つ。
「ファイアアロー!」
「ファイアボール!」
「ウィンドボール!」
両側の敵兵は、爆風と魔法の猛攻により全滅した。
残るは――館の門。
オレは、燃えた瓦礫の上に立ち、館の門前に陣取る兵士たちに叫ぶ。
「もう、これ以上誰も殺させない!」
そして、アイテムボックスから【爆裂玉】を取り出し、門へと投げつけた。
「ドッカーン!!」
地面が揺れ、周囲の兵士たちが吹き飛ぶ。だが、館の門は金属で補強されており、破壊には至らない。
そのとき――。
ゲームシステムのメニューが、光と共にポップアップを表示する。
『ユニークスキルが使用可能になりました』
魔法の表示欄に新たなスキル名が浮かぶ。
『メテオクラッシュ』
オレはスキル名に意識を集中し、イメージを描く。空から燃え盛る隕石が降り注ぐ、圧倒的な破壊の魔法。
そして、標的は――領主の館。
「メテオクラッシュ!」
MPが一気に減り、視界がかすむ。
――そして、静寂。
次の瞬間、空が裂け、直径1メートルほどの岩石が、赤熱の炎を纏って降ってきた。
「ズドォォォーン!」
「ズドォォォーン!」
「ズドォォォーン!」
「ズドォォォーン!」
次々と隕石が落下し、館の屋根、壁、そして門を容赦なく破壊していく。重厚な建物は簡単に砕かれ、煙と火花が空へと立ち昇る。
――数分後。
館は瓦礫と灰だけを残し、跡形もなく消え去った。
静寂の中、誰かが呟く。
「破滅だ……」
その声に呼応するように、奴隷たちが口々に言葉を繰り返し始める。
「破滅……。破滅……。破滅。破滅。破滅」
やがてそれは、歓喜と喝采の声へと変わっていった。
「破滅!破滅!破滅!破滅!破滅!」
「破滅の魔術師!良いぞ!」
「破滅の魔術師!ありがとう!」
「破滅の魔術師!良くやった!」
歓声がオレに降り注ぎ、ニックネームが自然と決まっていく。
「破滅の……魔術師……」
オレはその光景を、呆然と見つめていた。
そのとき――。
後方から、武装した男たちが現れる。先頭には、ヴィスカの姿。
「サジ!カズー!解放軍を連れて来たぞ!」
ヴィスカの声にサジが応える。
「遅いよ、ヴィスカ!カズーが一人で敵も館もふっ飛ばしたんだ!」
驚いた表情のヴィスカが近づいてきて、サジに尋ねる。
「な……何があったんだ!?」
「本当にすごかったんだ!カズーの魔法は、まるで世界を終わらせるかのようだった!カズーは“破滅の魔術師”だ!」
その日、オレは知った。
怒りが、人を動かし、そして世界を変える力になることを。
そしてオレは学ぶ。
〈怒りは破滅をもたらす〉
と言うことを。




