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異世界から学ぶライフスタイル 〜第ニ部 愛と破滅〜  作者: カズー
第三章

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18/40

18話 到着の前日

 ―――翌日。


 朝からサジは大忙しだった。


 昨夜、サジとヴィスカは遅くまで打ち合わせをしていた。ヴィスカは今夜、鉱山から女中や兵士以外の者たちを逃がす段取りを整える。そしてサジは、奴隷仲間に明日解放軍が来ること、そして戦いになることを伝え、準備を進める。


 そのため、サジは「体調不良」という名目で今日の仕事を休んだ。


 一方、オレは、いつも通り鉱山で働いていた。


 昼になるころには、ほとんどの奴隷たちが事態を把握しており、鋭い目でオレを見ては、うなずいたり、目配せをしてくる。


「カズーさん、明日はよろしくお願いします!」


 そんな声をかけられるたびに、胸の奥が熱くなる。


 夕方、街に戻ると、サジが疲れた表情ながらも、目には強い光を宿してオレを待っていた。


「カズー、これから奴隷たちの集まりをやる!来てくれ!」


「わかった!」


 オレは頷き、いつもの“奴隷の家”――奴隷たちの中で一番大きな家に向かう。


 そこには、家の中だけでは収まりきらないほどの奴隷たちが詰めかけていた。


「明日は決戦だ! やるぞー!」


 怒号のような気合いの声が飛び交う。


 オレが家の前に立つと、皆が道を開けてくれた。


「カズーさん、やろー!」 「明日は、オレたちの自由のための戦いっすよ!」


 その言葉に、自然と笑みがこぼれる。


「ああ……やろう!」


 家の中の中心には、解放軍の主要メンバーが集まっていた。誰もが目を真っ赤にしながらも、揺るがない決意を宿している。


 サジが班長と力強く握手を交わす。


「明日だ!頼むぞ!」


「ああ、任せてくれ!」


 そこへ、武器が運び込まれる。


 棒、ツルハシ、シャベル、錆びた剣、壊れかけた弓――戦いにはあまりに頼りない道具たち。


 だが、誰一人顔色を曇らせる者はいない。


「武器なんて無くても戦える!」


 その声に、サジが応える。


「そうだ!外からは解放軍も来る! オレたちは絶対に負けない!」


 ―――その時。


 人混みをかき分けて、ヴィスカが走り込んできた。息を切らし、顔面蒼白だ。


「カズー! 大変だ! 早く来てくれ! ナリアが死んだ! 領主に殺された!」


 ――頭の中が、真っ白になった。


 耳の奥で「キーン」という音が鳴っている。


「……なに……?」


 声にならない声でオレが呟くと、ヴィスカはオレの腕を強く握り、もう一度叫んだ。


「ナリアが死んだんだ! 領主に……殺されたんだ!」


 嘘だ、そんなはずがない。


 ナリアはオレと……これから、一緒になるはずだったのに――。


 ヴィスカは強引にオレの腕を引き、奴隷の家から連れ出した。


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


 ――その後の記憶がない。


 いつの間にか、オレは女中の家にたどり着いていた。


 静かな部屋。血の匂いが、かすかに漂っている。


 ベッドの上に、ナリアが横たわっていた。


 胸のあたりに、乾きかけた血の跡。


 ナリアの白い顔は、まるで眠っているようだった。


 オレはふらふらと歩み寄り、ナリアの腕を取った。冷たい。温もりが……ない。


「ナリア……目を開けてくれ……」


 震える手でアイテムボックスから、ハイポーションを取り出す。


 彼女の唇に注ごうとするが、口は開かない。こぼれるだけだ。


 今度はオレが口に含み、口移しで与えようとする。


 ……だが、ナリアは何も反応しない。


 動かない。


 オレは崩れ落ちるように、ナリアの胸に顔を埋めた。


「ナ……リア……行かないでくれ……」


 声が震え、涙が溢れる。息が詰まりそうだ。


「ナリア……オレを一人にしないでくれ……」


 涙が、ナリアの頬に落ちる。


 彼女の目は、閉じたまま⋯⋯。静かすぎる。


 オレは、天を仰ぎ、泣きながら叫んだ。


「神様……ナリアを助けてくれ!」


「神様、ナリアを助けてくれ!」


「神様、ナリアを助けてくれ!」


「神様、ナリアを助けてくれ!!」


「神様ああああああああああああああああああああああ!!!!」


 声が枯れても、喉が裂けても、叫び続けた。


「神様……ナリアを……助けてくれ……!!」


「……お願いだ……頼むから……!」


「神様……神様……!!」


「助けてくれえええええええええええ!!」


 ……だが、神様は答えない。


 静寂だけが、返ってきた。


 オレはナリアの胸に耳を当てる。


 ……鼓動は、ない。


「オレからナリアを……取らないでくれぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」


 全身が震える。ナリアの胸に顔を押し付けて、嗚咽する。


「あ……あああああ……ナリア……ナリア……」


 どれだけ叫んでも、涙を流しても、彼女は帰ってこない。


 そしてオレは学ぶ。


〈オレは無力だ〉


 と言うことを。

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