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異世界から学ぶライフスタイル 〜第ニ部 愛と破滅〜  作者: カズー
第三章

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15話 奴隷の集まり

 その日の仕事が終わり、鉱山から街へと戻ると、夕焼けが屋根を赤く染めていた。

 そんな中、サジが駆け寄ってきて、やや息を切らしながら言った。


「カズー、来てくれ!奴隷たちで集まりがあるんだ!」


 オレは頷き、サジと共に、街外れの比較的大きな奴隷の家へと足を運ぶ。木の扉を開けて中に入ると、薄暗い室内には10人以上の奴隷たちが集まり、ざわざわと話し合っていた。

 空気には、汗と土と、焦燥の匂いが満ちていた。


 オレとサジの班長もそこにいた。彼はオレに気づくと顔をほころばせ、手を上げた。


「カズー、今日は彼を助けてくれてありがとうな。彼は別の班の班長だが、自分の班の仲間が監視員に棍棒で殴られているのを庇って……そのまま滅多打ちにされたらしい」


 部屋の奥に座っていたその班長は、まだ少し元気がないが、声はしっかりしていた。


「カズーさん、本当にありがとうございました。おかげさまで、命拾いしました。……まったく、最近の監視員や兵士どもときたら、あまりに酷い。あんな状態じゃ、まともに働くことなんてできやしない」


「そうだ!毎日ビクビクしながら働くなんて、もう耐えられねえ!」

 別の若い奴隷が、声を荒らげた。


 オレたちの班長もうなずき、場の空気は重くなっていく。すると年配の奴隷が、渋い声で言った。


「昔は、ここまで酷くはなかった……いっそ領主に助けを求めてみるか?」


「無駄だ」

 さっき助けた班長が、うつむいたまま首を振る。


「あの領主は女遊びと酒ばかりだ。俺達のことなんか、これっぽっちも気にしていやしない……」


 重苦しい沈黙のなか、サジが一歩前へ出て、静かに口を開いた。


「……“この鉱山から逃げる”というのはどうだ?」


 その言葉に、誰もが言葉を失い、視線が一斉に彼に集まる。


「逃げるだと……? そんなことできるわけないだろう!」

「【奴隷の首輪】がある限り不可能だ!」

「逃げたって見つかったら殺されるだけさ。奴隷は一生、奴隷なんだよ……」


 次々と否定の声が上がる。

 しかしサジは、それすらも予期していたような表情で、オレを見た。


「カズー。お前の前の国では、奴隷はいなかったんだろ?」


 オレは静かに「ああ」とうなずく。

 するとサジは、周囲に向き直り、熱を帯びた声で言った。


「聞いたか? カズーのいた国には奴隷なんていなかったんだ!俺たちも、奴隷じゃなくなれる!カズー、前に話してくれた奴隷制度のこと、みんなにも話してやってくれ!」


 オレは、一瞬躊躇したが、サジの真剣な眼差しを見て、静かに語り始めた。


「奴隷という存在は、人としてあってはならないものなんだ。人は皆、平等で、誰かを家畜のように扱うのは間違っている。世界には、奴隷のいない国もある。……そういう世界を、人間は創ることができるんだ」


 沈黙が流れた後、オレたちの班長が小さく首を傾げて聞く。


「カズー……もし奴隷から解放されたら、俺たちは……どうなるんだ?」


「班長、何をしてもいいんだよ。自由なんだから。やりたいこととか、ないのか?」


 班長は戸惑い、額にしわを寄せて考え込む。


「うーん……考えたこともなかったな……」


 オレは、静かに問いかける。


「班長、どうして奴隷になったんだ?」


「……俺は、元々他国の兵士だった。だが、戦で王国軍に捕まって、奴隷にされたんだ」


「なら、祖国に帰りたいとは思わないのか?」


 班長は少しの間、黙りこみ、それから肩を落として言った。


「帰ったって……あそこも厳しい国だからな……今さら戻ってもどうにもならんよ」


「じゃあ、夢とかは? 班長の“夢”って、何かあるか?」


 その言葉に、班長はようやく顔を上げて、笑みを浮かべた。


「……うまいもんを、腹いっぱい食いたいな」


「いいじゃないか。それこそが“自由”だよ!」


 その瞬間、場の空気が少しだけ柔らかくなった。

 助けたもう一人の班長が、話に加わる。


「俺は子供のころ、家族に売られて奴隷になった。……でも、解放されていいのか?」


「もちろんだ!人間は物じゃない。売り買いされるべきものじゃないんだ!」


 男は、顔をしかめてさらに言う。


「でも、俺を売らなきゃ家族は税を払えなかった。売らなければ、一家みんな領主に捕まってた……」


「そんなのはおかしい!持たざる者から税を取ろうとする領主が間違ってるんだ!領主は、本来なら困っている住民を助けるべき存在だ。何のために、領主って立場があるんだ!?」


 オレは自分のいた世界の政治家たちを思い出しながら話した。だが、前の世界も結局、この異世界と同じだった。権力者は、自分の財産のことばかり考え、民の暮らしなんて二の次だった。


 班長がもう一度問いかけてくる。


「でも、カズーさん。もし奴隷がいなくなったら、領主は困るんじゃないか?」


「困ればいい。奴隷がいなきゃ成り立たない国なんて、破滅すべきなんだよ!」


 オレの語気が強くなる。するとサジが目を細めて、少し考え込んだ様子で聞いてくる。


「“破滅”って、どういうことだ?」


「……つまり、この国が崩壊して、貴族も王も消えてなくなるってことさ」


 サジは深く頷き、重々しく繰り返した。


「“破滅”か……」


 言い過ぎたか、とオレは少しだけ自制して言葉を和らげる。


「……もちろん、もしも領主や貴族たちが、オレたちの解放を拒むって時には、の話だ」


 皆の目が少しずつ生気を帯びてくる。


 今までの彼らは、ただ【奴隷の首輪】をされているから奴隷だったのではない。

 夢を見ることすら許されなかったから、彼らは奴隷のままだったのだ。


 そしてオレは学ぶ。 


〈奴隷という環境が奴隷を作る〉


 と言うことを。

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