表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界から学ぶライフスタイル 〜第ニ部 愛と破滅〜  作者: カズー
第ニ章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/40

12話 奴隷の首輪

 サジはオレの表情を見て、満足そうに頷いた。


「わかった! カズー、一緒に行こう!」


 月明かりの下、サジは音もなく外に出る。そして、振り返って、手招きした。


 オレはうなずき、サジの背中を追って歩き出す。物音を立てないよう、慎重に足を運ぶ。


 サジは迷いのない足取りで、薄暗い路地を抜けていく。まるで何度も通ったかのような慣れた動き。ほどなくして街の外れに辿り着くと、そこには十人ほどの奴隷たちと、見知らぬ男と話しているヴィスカの姿があった。


 サジが声を掛ける。


「ヴィスカ、遅れてすまない」


「大丈夫だ、サジ」


 ヴィスカは静かにそう返すと、オレに向き直る。


「カズー、よく来たな。あんたが仲間になってくれて嬉しいよ。ナリアはまだこのことを知らない。あんたの口から話してやってくれ」


 その言葉よりも、オレは胸の奥からせり上がる衝動に抗えなかった。


「ヴィスカ……。本当に……【奴隷の首輪】を外してくれるのか?」


 オレの声は震えていた。だが、ヴィスカは力強く頷く。


「こいつを見てみろ」


 そう言って顎で示されたのは、ヴィスカの隣に立つ小柄な男だった。


「こいつはシーフだ。それも、《アンロック》のスキルを持っている。そして……鉱山の外から来た、解放軍の一人だ」


 その男は、オレより少し年上に見える。薄汚れた外套に包まれ、警戒心を露わにしている。だが一番目を引いたのは――その首に、奴隷の首輪がなかったこと。


 ここで、首輪を付けていないのはヴィスカと彼だけだ。


「彼の首輪を外してやってくれ」


 ヴィスカが静かに命じると、シーフの男は無言で頷き、オレに近づいた。


 オレの目の前に立った彼は、そっと手を伸ばし、首輪に触れる。目を閉じ、深く息を吸った。


「………。………。…………。」


 沈黙が流れる。


 だが、何も起きない。


「駄目だ。魔力が底をついたようだ……。さっき、十人分も《アンロック》を使ったからだろう」


 目を開けたシーフの男が、わずかに肩を落としながらヴィスカに伝える。


(なるほど……シーフのスキルも魔力を使うのか)


 オレは失望よりも、次にどうすればいいかを考えていた。


「カズー、悪いね。今日は無理そうだ。明日、もう一度来てくれ」


 ヴィスカの声は申し訳なさそうだったが、オレは諦めなかった。


「待て。魔力が無いなら、回復できる方法があるかもしれない」


 オレはアイテムボックスに手を差し入れる。そして、あのとき助けられた――異世界で最初に口にした、あの【小回復の実】を取り出す。


「この赤い実を食べてくれ」


 驚いた様子でシーフがオレを見たが、ヴィスカが小さく頷く。


「食べろ」


 シーフは、恐る恐る赤い実を食べる。


「……なんだこれは。不味い!」


 シーフの男は顔をしかめ、吐きそうになりながら実を噛んだ。


 オレはすかさずアイテムボックスからペットボトルの水を取り出し、渡す。


「いいから、水で流し込め!」


 男は渋々ながらも、十個の赤い実をすべて飲み込んだ。


「……もう一度、試してくれ」


 オレは立ち上がり、首を差し出す。


 シーフの男は再び手を伸ばし、目を閉じる。


「……カチリ!」


 首輪が外れた。金属の小さな音が、こんなにも胸を打つとは思わなかった。


 重さが消えた。自由が、訪れた。


 オレは、今奴隷から解放された!

 喜びが心の底から湧き上がってくる。オレは人間の尊厳を取り戻せたと実感する。

 ゲームシステムのメニューを見ると、MPがオレの実感と共に上がっていく。ランクは魔術師クルワンの弟子となっている。子爵の身分証を取られたからだろうか、子爵のランクでは無い。だが、奴隷のランクは外れた。


 オレは両手で首を抑えた。そこには、何もない――ただの首だ。オレ自身の首だ。


「ありがとう……!!」


 シーフの男に、ヴィスカに、サジに、心の底から礼を言った。


 ヴィスカとサジは笑いながら言う。


「良かったな」


 サジが一歩前に出る。


「カズー、実はオレの【奴隷の首輪】も、もう外れてるんだ」


「えっ……!? そうなのか? なら、なぜ逃げない?」


「今、解放軍が俺たちを救いに来ている。一度に皆で逃げるんだ。だからカズー、お前も、しばらくは首輪を付けてるフリをしてくれ」


 オレは頷く。


「……わかった」


 確かに、誰か一人が逃げれば、他の奴隷たちに疑いの目が向く。慎重に動かなければ、全てが水の泡になる。


 ――そのときだった。


 シーフの男が急に声をひそめる。


「誰か来るぞ、隠れろ!」


 全員が建物の影に身を潜めた。オレたちも別の建物へと散り、息を殺す。


 数秒後、二人の兵士が闇の中を歩いてきた。


「……こっちから声がしなかったか?」


(まずい……騒ぎすぎた)


 偵察の巡回ルートから外れ、兵士たちは声の方へと歩を進めてくる。


 ヴィスカが短く言う。


「やるしかないか」


 シーフが頷き、ゆっくりと短剣を抜いた。


「誰だ! 止まれ!」


 兵士の声が響く前に、シーフは一直線に突撃した。


 短剣が兵士の腹部に突き刺さる――が、致命傷には至らない。もう一人の兵士が剣を抜いて反撃、シーフは背に傷を負う。


「っ……!」


 ヴィスカとサジが駆け寄り、一人を押さえ込む。


 だが、もう一人が逃げ出した。


(逃がすわけには……いかない!)


 オレは魔法を放つ。


「ファイアアロー!」


 炎の矢が音を裂いて飛び、兵士の背に命中。男は即死した。


 息を切らしながらも、残った兵士をヴィスカたちが倒す。


 シーフがオレを見て驚いたように言う。


「あんた、すげぇな……魔法使いか」


 オレは黙って頷いた。


 死体を手早く片付け、奴隷たちは何事もなかったかのように鉱山へ戻っていった。


 夜風が冷たく肌を撫でる中、オレは空を見上げる。


 かすかに笑みがこぼれる。


 生きている――

 自分の意志で、息をしている。


 この異世界で、オレは

“人間”として立っていると実感した。


 そしてオレは学ぶ。


〈自由を取り戻した喜び〉


 と言うことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ