11話 奴隷制度
1ヶ月後―――。
男爵はすでに鉱山を去り、自分の都市へ帰って行った。
オレは、変わらず鉱夫として働かされている。
男爵の息子であるイザリオからは特に何もされていない。最初は少し心配だったが、恐らくオレのことを怒らせたことで、少し冷静になったのだろう。それにしても、あんなに必死に脅してきたイザリオが、今ではオレに関わらないようにしているのは少し不思議だった。
オレとサジは、相変わらず女中の家に行っては夕食を食べている。
その食卓での最近の話題と言えば、「奴隷制度」だった。
先日、オレがナリアに奴隷制度について話したことをきっかけに、ナリアがその話題を振り始め、それがみんなの関心を引いたのだ。特にヴィスカは熱心に奴隷解放を訴えている。
(彼女自身、自分の彼氏のサジが奴隷。というのも大きな理由だろう)
「何で、奴隷なんてものがあるんだ!?」
ヴィスカが声を荒げた。
「ヴィスカ、奴隷は無くすべきものだよ。人が人を物のように所有するなんて、そんなのあってはならないんだ」
オレは静かに、しかし力強く言った。だが、正直言ってオレも、前の世界では会社に物のように扱われ、命令されて働かされ、使い捨てにされているように感じていた。その点では、奴隷制度とあまり違いがないように思えてならなかった。
ナリアが少し考え込んだ様子で、質問を投げかける。
「カズー、でも、奴隷がいなくなったら、誰が鉱夫をやるの?」
彼女の声には疑問がにじんでいる。
「領主が、皆にお願いするんだ。お金を払って鉱夫をやってくださいって。オレがいた前の国では、奴隷制度は廃止されていたんだ」
(だが、同じように過酷な労働環境で働かされていたけど…)
ヴィスカはうなずきながらも、納得して言った。
「そうだな。お金は払われるべきだ、そうすれば皆も働きたくなるはずだ」
「そうだ、ヴィスカ。何より大事なのは人権なんだよ。奴隷制度が続くことで、人間としての尊厳が奪われてしまう。それは、誰にとっても良くないことなんだ」
オレはさらに強い言葉で続けた。
ナリアは真剣な表情でオレを見つめ、言う。
「カズー、あなたは、本当に凄いわ。お願い!この世界から奴隷を無くして!あなたなら出来るわ?!」
その青い目が真剣だった。オレはその眼差しに応えるように、深く頷く。
「わかった、ナリア。奴隷制度をこの世界から無くすために、全力で戦おう!」
その瞬間、ヴィスカとサジは顔を見合わせて頷き、オレの肩を力強く叩いた。
彼らの信頼を感じる瞬間だった。
数日後―――。
夜が深く、辺りがすっかり暗くなった頃。
サジが静かに、しかし真剣な表情でオレに聞く。
「カズー、前に言っていた“奴隷を無くそう”っていうのは、本気か?」
「もちろんだ!本気だよ、ナリアと約束したからな」
オレは即答した。もう何も躊躇しない。
サジは少し黙り込んで、オレの目をしっかりと見つめながら言った。
「実は、カズー、俺とヴィスカには隠していることがあるんだ。誰にも言わないと約束してくれるか?」
オレは疑問を持ちながらも、真剣なサジの目を見て、頷いた。
「あぁ、わかった。オレたちは友達だ」
サジは少し息を整えてから、続けた。
「実は、俺たち、ある組織のために動いてるんだ」
「組織…?」
オレは驚きと疑問が入り混じった声で問い返した。
サジは言葉を慎重に選びながら続ける。
「その組織は、"解放軍"って言うんだ。目的は奴隷や迫害を受けている人たちを救うことだ」
オレはその言葉に驚きと同時に、何かの運命のようなものを感じた。前の世界の歴史にも似たような動きがあったからだ。異世界にも同じように奴隷が存在し、解放を目指す組織があるという現実に、心の中で何かが震える。
サジは続けて話す。
「解放軍は王国や貴族、領主と敵対している。カズー、お前も貴族だけど、今は奴隷だ。そして、お前は奴隷を無くしたいと言ってくれた。俺は、お前が解放軍の味方になってくれると思っている」
その言葉に、オレは何も言えなかった。ただ、心の中で少しずつ決心が固まっていくのを感じた。
「解放軍って、どんな組織なんだ?どのくらいの規模で活動してるんだ?」
オレは質問を続けた。
「正直、分からない。でも、ヴィスカに誘われて、俺たちはこの鉱山でメンバーとして活動している。ここには他にも多くの解放軍のメンバーがいるんだ…」
サジの言葉が続く。
「それより、カズー、今解放軍のメンバーがここに来ている。彼らは【奴隷の首輪】を外すことが出来るんだ。首輪を外せるんだ!お前は自由になるんだ!お前はもう奴隷ではなくなる」
その言葉がオレの胸を打った。【奴隷の首輪】が外れる? それは、今のオレにとって、自由を意味する。
「サジ…ああ!頼む!俺は、自由になりたい!」
オレは震える声で答えた。
そしてオレは学ぶ。
〈異世界でも人間は同じ事をする〉
と言うことを。




