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SAVERS ―光なき心を救う者たち―  作者: 春坂 雪翔


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第十六話【命の対価】(一)

新年あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

今月も週一更新していきます。

 真っ青な青空に浮かぶ夏の強い日差しが室内の白いテーブルに反射している。

 室内はエアコンが効いてて涼しかったが、外はカンカン照りで窓ガラス越しでも、外気の熱気が伝わってくるようだった。


 その室内、DSIの休憩室の一角、壁際の端の方に設置された長テーブルに誠司はいた。

 腕枕を作りぼうっと外の景色を眺めてる彼の前には、開きっぱなしのノートと参考書、乱雑に積まれたプリントの上には筆記用具が散らばっている。

 一見勉強してるように見えなくは無いが、机の上にあるシャープペンシルは一向にノートの上を走る気配がなかった。


 がちゃりと扉が音を立てて誰かが入ってくる。誠司はその音に気付かなかったのか、振り向きもせず外の景色を眺め続けている。その様子を見た人影は、はあーっと大きなため息を着いた。

 

「やーっぱりサボってる。セイバーはいつ出動するか分からないんだから宿題は出来る時にやらないと。あっという間に夏休み終わっちゃうよ?」


 休憩室に入ってきた癒月の呆れた声が響き渡る。そう言いながら癒月が誠司のいるテーブルから少しだけ離れた場所に座り、自身の荷物を広げながら誠司に声をかける。

 しかし誠司は癒月の方に顔を向けても、身体を起こす素振りは見せなかった。

 

「うるせえなあ。なんでお前がここにいるんだよ」

「なんでって、夏休みの宿題やりに来たの。家だと集中出来ないから外でやろうと思って」

「だったら図書館にでも行けば良いだろ……」


 鬱陶しそうに言い返す誠司を横目で一瞥しながら、癒月はムスッとして口を尖らせた。

 

「だって……ここなら明日香ちゃんの事、何か分かるかもしれないと思ったんだもん」

「…………」


 癒月のその言葉は、心配と寂しさが混ざっていた。

 誠司はその言葉にどう返していいか分からなかった。

 

 誠司達が閉鎖病院の調査をしてから、今日で一週間が経つ。癒月は詳しい内容を聞けなかったが、明日香がその時別の場所に移送されたという事は聞かされていた。しかしその間、連絡は一切取れないと言われモヤモヤした気持ちを抱えていたのだ。


「沙夜ちゃんはどうしてるの? 誠司君の所にいるって聞いたけど」

「……今日は母さんと出かけてる。明日香に渡すクッキーを作りたいから、その材料を買いに行くんだと」

「そっか……」


 勿論沙夜も明日香の事情を知らされていない。分かっているのは、しばらく明日香が帰ってこないという事だけだ。

 明日香の妹だからなのか、沙夜は物分りがとても良い。何故明日香が帰ってこないのか、沙夜も疑問を持っているに違いないのだが、それでも彼女は何も聞かずに了承し、飛渡家で過ごしている。

 

 誠司はそんな沙夜を見て何とも言えない気持ちを抱いていたが、同時に沙夜の事をフォローしてくれる志保()の存在に感謝をしていた。

 

「てかそうじゃなくて、確かに明日香の事が気になるのは分かるけど、なんで田中がしれっとここにいるんだよ。お前は明日香の友達ってだけで部外者だろ」

「あれ、言ってなかったっけ?」


 誠司の言葉に癒月はきょとんと首を傾げながら問題集を開き始めたその時、がちゃりとドアが開き夏歩が入ってきた。情報操作班(夏歩の部署)も色々立て込んでいるのか、夏歩の目元には若干のクマが見え、少し疲れ気味のような表情をしている。しかし癒月と目が合うと夏歩は、それらを隠すように笑みを浮かべた。


「あら、いらっしゃい癒月ちゃん。早速来てくれたのね」

「こんにちは夏歩さん。先に宿題を少し終わらせてからで良いですか?」

「ええ大丈夫よ。今日はそこまで忙しくないし」

「え、なに夏歩、話が全く見えないんだけど」


 誠司を他所に会話を始めた二人に誠司が訝しんで疑問をぶつけると、夏歩は自販機に硬貨を入れながら「ん?」と首を傾げる。

 癒月がかくかくしかじかと夏歩に説明すると、夏歩は、ああそういう事と納得して出てきたペットボトル飲料を片手に癒月の隣に立った。

 

「癒月ちゃんはこの間、正式にDSI(うち)の情報操作班に配属が決まったのよ。だから一応癒月ちゃんは私の部下になったわけ」

「……は?」

「学業優先だからボランティア枠だけどね。私推薦狙いだから成績は上をキープしてればそこまで勉強しなくても大丈夫だし、一種の社会勉強って事で親からも許可貰ったの」

「……なんだそれ、それってありなの?」


 誠司は開いた口が塞がらなくなった。

 確かにDSIは表向きには国防関連の研究施設と謳っているが、実際は中央機関からの援助が無いとほぼ何も出来ない民間組織に近い。故に人材が常に足りないぐらい人手不足だ。

 

 所属する職員達もロストの事件に巻き込まれたのをきっかけに入る者や、上からの指示で自衛隊等国家公務員から派遣されて入る者が殆どだが、資金が潤沢にある訳では無いのでその人数は限られている。

 

 だからこそ給金の必要が無いボランティア枠の癒月は貴重な存在だろう。だがそれでも、まだ未成年の彼女を関わらせるという判断に反対する声もあったはずだ。


「明日香ちゃんや誠司君達みたいに危険な目には合わないから、勉強だけしっかりしてれば大丈夫だって。今ダミーニュースの作り方とか拡散する方法を教えてもらってるんだ」

「な、なるほど……」


 どうやら癒月本人はDSIに関わる事に積極的の様だ。だとすると、章吾()の決めた事なら自分がとやかく言う必要は無いと、誠司は少し強引に納得した。


「ちょうど良いじゃない。今のうちに誠司も癒月ちゃんに勉強教わったら? 癒月ちゃん、学校の成績良いみたいだから」

「は?」

「あ、そうだね私の業務内容にセイバーの人達のサポートも入ってるし。初めての仕事って事で誠司君に勉強教えてあげる!」


 癒月ががたりと勢いよく席を立つと誠司の前に移動し、積み重なった本の山の一番上にあった一冊の参考書を手に取った。


「ちょ、返せっ!」

「遠慮しなくていいよー。こう見えて私、数学はちょっと得意なんだから」


 パラパラとページをめくる癒月から参考書を取り返そうと誠司が立ち上がった時、章吾が休憩室に入ってきた。


「誠司、悪いが出動要請が入った」


 誠司を見るなり単刀直入に切り出した章吾はいつもと様子が違い、少し緊迫した雰囲気を醸し出している。

 癒月と夏歩が眉を寄せて誠司を見る中、誠司は章吾に向き直った。

 

「え、ロストが出たの? 警報鳴ってないけど」

「神奈川支部からの要請だ。一度に三体出たらしい」


 どうやら管轄が違うとロストが出てもこちらに大々的な伝達は来ないらしい。前回東京で七体同時に出た時も他の支部はこんな感じだったのだろうか。

 七体より数は少ないが、三体同時というだけでも十分多い。早急に対処する必要がある。

 

「千葉支部にも要請をかけた。行ってくれるか?」

「了解」


 章吾の問いに即答し、誠司は休憩室から飛び出した。



* * *



 大型バスくらいの大きさの恐竜のような出で立ちのロストが、大きな音を立ててその場に倒れる。黒いモヤが晴れロストが人間に戻ると、和真が神奈川の現地対策班に引き渡した。


「よし、あと一体だ。美琴と奏が既に向かってるが、俺達も急ぐぞ」

「はいっ!」

「うち先に行ってるで!」


 ロストとの戦闘で辺りのコンクリートがいくつか盛り上がって所々瓦礫になっているが、空美はそんな足元が悪い中お構い無しにひょいひょいと走っていく。

 その空美の後ろ姿を無言で見る誠司に、和真が声をかけた。


「どうした?」

「いや……あいつ、運動神経良いよなあと思って」


 誠司は以前閉鎖病院に潜入した時の空美を思い出す。

 研究開発班から支給された特殊な靴を履いても、誠司には空美のように軽々と動ける自身は無かった。あれは持ち前の運動能力が自分より高いのだろうと無意識に思っている。

 和真が少し笑いながら空美が走っていった方角に走り出したので、誠司もそれに続く。

 走りながら和真が話し出した。

 

「確かに空美は元々運動神経が良い方だが、あれはあいつのコアが俺達より少し特殊なんだ」

「特殊って?」


 コンクリートの瓦礫に足を取られないよう気を付けながら誠司は和真の後を追う。少し開けた場所で止まった和真に追いついた時、和真が誠司の問いに答えた。

 

「空美から実の両親の話は聞いたよな。あいつのコアの中には、あいつの両親の魂が宿ってる。基本コアには一人分の魂しか宿ってない。それが二人分だから、身体能力も二倍になってるんだ」


 誠司は閉鎖病院で空美から聞いた話を思い出す。

 あの時は唐突すぎたのとその後のトラブルで頭から抜けてしまっていたが、和真の口から改めて聞かされて空美の話が真実だとわかった。

 

「……あの話、本当だったんだ」

「まあすぐには信じられないよな。俺もそうだったし。けど、空美の話を聞いてコアを調べた結果、それが事実だと分かった。研究開発班曰く、俺達がコアを使ってロストと戦えるのは、この中に宿ってる魂のおかげだそうだ」


 和真が笑みを浮かべながら自身のギアである槍を見る。先端が太陽の光に反射してキラリと光った。

 

「じゃあ、和真さんのコアにも?」


 誠司は瓦礫を飛び越えながら少し遠慮がちに和真に聞く。

 和真の話が本当なら、誠司のコアには誠司の亡くなった実の母親の魂が宿ってる事になる。それは誠司の身近で魂だけの存在になった人が、実の母親以外にいないからだ。

 

 そして同時にそれは、和真にも、()()()()()()がいるということを表している。

 誠司の言葉の意図に気付いたのか、和真は目線を逸らし、少し遠くを見る様に口を開いた。


「……ああそうだ。お前と同じくらい大切な人が、俺にもいる。俺達だけじゃない、セイバー全員大切な人が──」


 和真がそう言ったその時だった。

 

『……ザザッ、和真、誠司さん! はよ来て! 奏さんが!?』


 空美の切羽詰まった声が無線機から聞こえてくる。

 それを聞いた二人は会話を止め、速度を上げて走り出した。


 

 特殊な靴にも徐々に慣れてきたのか、隣接し合ったビルからビルへ飛び移るのは造作もなくなってきた。

 誠司と和真が建物が集中しているエリアの屋上に着くと、すぐ近くに座り込んでいる空美の姿を確認した。

 空美のすぐ近くに赤いフードを被った女と子どもが立っていて、女が誠司達を一目見て舌打ちをする。


「ったく、分が悪いわね」

 

 そして突如、何も無い空間に大きな狼が現れ、女が子どもを連れてそれに跨り誠司達から遠ざかる。

 誠司は追いかけようとしたが和真に深追いするなと止められ、眉間に皺を寄せながらも空美のそばに行く和真の後を追った。


「くう、大丈夫か?」

「う、うちは大丈夫や。それよりも……」


 空美は顔を青ざめながら少し離れた所で倒れている奏と、必死で奏に呼びかけている美琴の方を伺う。

 すぐに駆け寄りたい気持ちは山々だったが、まずは状況を確認しようと和真が空美に目線を合わせ、何があったか問いかけた。


「……うちがここに着いた時、さっきの子どもが奏さんの身体に何か刺しよったんや。多分ロストファクターやから、ニードルやと思うわ」

「刺したって、あいつが避けられなかったのか?」


 戦闘能力の高い奏が、不意打ちの攻撃をそのまま受けるとは考えにくい。その考えが空美にも伝わったのか、誠司の問いに空美は少しぎこちなく首を左右に振った。


「多分、美琴さん庇うたんやと思うわ。子ども突き飛ばした後、奏さん自分のギアでお腹突き刺して、それでロストなる前にニードル壊したから無事やったみたいなんやけど……うちも咄嗟に無線で二人に呼びかけて、それで気付かれて……あの女が、うちのこと羽交い締めにしよったんや」


 空美が思い出したように震え出す。

 一瞬だけだったが誠司にはあの赤いフードの女に見覚えがあった。閉鎖病院にいた、アリダのそばに居たロストファクターとは違う集団の一人だった。

 

 和真が空美を抱き寄せ背中をとんとんと軽く叩きながら落ち着かせると、空美が続きを話そうと泣くのを堪えるように深呼吸をした。


「それで子どもが、今度はうちの方に来ようとして、多分奏さんと同じことしようとしたんやと思うわ。うち、怖うて動けんなって……、でもそしたら何かが飛んできて、女がうちのこと突き飛ばして逃げよったんや。そしたら二人が来て……」


 空美が恐る恐る後ろを振り返ったので二人がその視線を追うと、そこには奏のギアである刀が落ちていた。

 恐らく空美を助ける為に奏が投げたんだろう。切羽詰まった状況の中それが出来たのは、流石と言ったところか。

 和真が立ち上がり奏のギアを拾うと、奏と美琴の元に駆け寄った。


「美琴、奏は大丈夫か?」


 和真が美琴に声をかけるが、美琴は顔を上げることなく、じっと奏の身体を見つめ続けていた。

 和真は訝しみながらもう一度声をかける。


「おい美琴、」

「なんで……」


 美琴はやはり和真に気付いていないのか、和真の声に答えない。

 遅れてやってきた誠司と空美も、美琴の様子を伺いながら奏を見ると、傷を負った奏の肌が顕になっていた。

 

 腹部の服が僅かに破けていて、そこにニードルが刺されたのが分かる。しかしその腹部にあったのはニードルによる傷跡とは違う、複雑な模様の痣だった。


 どくんどくんと波打つように痣が僅かに動いていて、誠司、和真、空美の三人は言葉を失う。


「どうして奏に、この痣があるの……?」


 美琴はその痣を、信じられないという目で凝視していた。

思った以上に難産なエピソードになりそうです。

あと脱線してないかちょっと不安です。

書きたいエピソードではあるのですけど……。

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