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SAVERS ―光なき心を救う者たち―  作者: 春坂 雪翔


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第十五話【薔薇に封印された記憶】(二)

ストレス回が続いて読むのが厳しいという方、新年明ける直前に少しだけ救われるカタルシスが入るので宜しければ年明けに一気読みして下さい。本当は一気に公開したいのですがストックが無いのが心境的に宜しくなくて申し訳ないです。

 次の場面は先程と同じリビングルームだった。

 しかしさっきまで見てた記憶とは違い、別の日のようである。

 リビングのソファでは母親らしい女性が洗濯物を畳んでいて、キッチンからはコトコトと何かを煮込んでいる音がする。

 窓の外は鈍色の雲が厚くかかっており、今にも雨が降りそうである。


「幸太郎さん、あの子達帰ってくるの遅くないかしら?」


 女性が眉をひそめながら窓の外を見る。

 テレビの天気予報では雨雲レーダーが映っており、気象予報士がじきに雨が降るでしょうとアナウンスをしていた。


「近くの公園に行くって言ってたからすぐ帰ってくるよ。明日香も折り畳み傘持って行ったし」

「そうよね……」


 女性は少し心配気味に呟いたが、夫である男性の言葉に納得して再び洗濯物に手を伸ばす。

 これも明日香の記憶だろうか。ごく普通のありふれた家庭の風景がそこにはあり、先程の場面よりも母の顔はどことなく穏やかに見えた。

 しかしこの場に幼い明日香は居ない。だから記憶には無いはずなのだが、何故か明日香はこの記憶に既視感を覚えていた。そして同時に変な胸騒ぎがした。


(何だろう、この感じ……)


 明日香の胸の奥がざわつき始めたその時、玄関のドアが勢いよく開いた音がした。


「ただいまおかあさん!」

「ただいま。ごめんなさい遅くなっちゃって」

「ううん良いのよ。公園で何してたの?」

「沙夜がブランコやりたいって言ったんだけどじゅんばん待ちしてて、やっと沙夜の番が来たから雨がふるギリギリまでやってたの」


 明日香らしき少女が帽子を脱ぎながら簡単に説明する。

 先程の場面よりもだいぶ背が伸びていて、すっかり姉という肩書きが板についているようだった。


「おなかすいたー! おとうさんおやつなにー?」

「もうすぐおしるこ出来るから手を洗っておいで。明日香もね」

「はーい!」


 二人が洗面所に入っていき、男性がトレーにお椀を二つ乗せてキッチンから出てくる。そしてテーブルにお椀を置こうとしたその時だった。


「……っ! ん、ぐっ……あぁ……っ!」


 突然男性が胸を押さえて苦しみだし、手に取ろうとしたお椀が倒れ中から小豆色の液体が零れる。ガシャンと食器がぶつかり合った大きな音が部屋に響き渡った。


「お父さん、どうしたの?」


 手を洗い終わった少女が洗面所から出て来ると、胸を押えて床に倒れ、苦しそうに呼吸をしている父親の姿を少女の目が捉えた。


「お父さん!? しっかりしてお父さん! お父さん!!」


 少女は血相を変えて男性の元へ駆け寄り様子を伺うが、父は息苦しそうに胸を押えているだけだった。

 このままじゃ危ない。何とかしなければ。


「お母さん救急車! 救急車呼んで!」


 男性の身体を支えながら少女は母親である女性に向かって叫んだ。しかしそれに返答する声は無く訝しんだ少女が女性を見ると、女性は顔を青ざめ言葉を失っていた。

 今の母親には何も出来ないと思ったのか、少女は男性のズボンのポケットからスマートフォンを取り出し、何処かにかけ始めた。


 突然の修羅場に明日香は頭が真っ白になったが、徐々に当時の記憶が蘇ってくる。


(そうだ……これは、父さんが倒れた時の記憶だ……!)


 あの時は必死過ぎて何も覚えてなかったが、どうやら必死で救急車を呼んでいたらしい。程なくして救急車特有のサイレンが外から聞こえ始め、救急隊員が何人か家に入ってきた。

 そしてテキパキと男性をタンカーに乗せて外に連れ出し、少女が動揺して話せない女性の代わりに救急隊員に受け答えをし、何が起こったか分からない沙夜も連れて家から出て行った。


─────

 

 場面が薄暗い病院の中に変わり、少女達は待合室らしき場所の椅子に座っていた。女性は今もまだ動揺してるのか顔を青ざめたままで、隣の沙夜に似た小さい少女は眠気が来たのか母親の膝を枕にして眠っていた。

 

 そして明日香に似た少女は袋に入った父親の私物を胸に抱えながら眉を寄せていた。まるで泣くのを堪えているように。程なくして奥から看護師が出てきて少女達の前に声をかけた。


「一先ず意識は戻りました。上のお嬢さんと話がしたいようです」


 少女が顔を強ばらせた。

 意識が戻っただけでまだ助かった訳ではない。そんな時に母を置いて自分だけ父の元へ行って良いのだろうか。

 

 少女が遠慮がちに母親を見ると、女性が行ってらっしゃいと少女を促す。本当は自分も行きたいのだろうが、現実を直視するのを恐れているのか、或いはもう一人の娘が起きるかもしれないと思ったのだろうか。真相は分からなかったが、少女はそのまま看護師に連れられて、父親が治療を受けているICUの扉をくぐった。


 いくつもの電子音が静かな室内に響く。

 看護師に連れられて奥のベッドがある場所に向かうと、いくつかの管が繋がれ口に酸素マスクを当てた父親の姿が少女の目に入ってくる。

 少女がベッドに近付くと、男性がうっすらと目を開けて微笑んだ。


「お父さん……」


 恐る恐る父親に声をかける少女に、父親が話しかける。


「明日香……おとう、さんの……服の中に……おまもり、ぶくろが、なかったか……?」


 少女が手に持っていた父親の私物の入った袋に手を入れて中を探ると、中からそれらしき長い紐に繋がれたお守り袋を取り出す。


「お父さん、これ?」

「そう……そのなか、の、もの、を……出して、ほしい……」


 か細い声で指示する父親に従い、少女がお守り袋の中身を取り出すと、中から透明な丸い玉が出てきた。無色で透き通っては無く少しだけ白い濁りがある玉が、ICUの中を照らす蛍光灯に反射して光る。


「これは……?」

「それ、は……明日香が、生まれて、来た時に……持って、いた、物だ……おとうさ、の……かわ、りに……もってて、ほしい……」


 苦しそうに紡ぐ父親の言葉を、少女は聞き漏らさないように耳を傾けるが、徐々に血の気が引いていく。まるで、自分には出来ないことを託す様な物言いに、明日香の胸の鼓動が早まる。


「お父さん、何言って」

「あす、か……、お母さん、と……沙夜、のこと……た、のんだ、ぞ……」


 男性が微笑みながら少女の頬に触れる。弱々しくも名残惜しそうに触れるその手の温もりが、段々冷たくなっていくのを明日香は少女から感じ取っていた。


「お父さ……」


 少女がその手に触れようとしたその時、男性の手が少女から離れ、ベッドに落ちる。

 刹那、けたたましい無機質なアラーム音がICUに響き渡った。


 すぐに複数の医師と看護師が男性を取り囲み、少女がその場から追いやられるようにして父親から遠ざけられる。明日香は慌ただしく男性の胸を上から強く押す医師達を、まるでテレビの中の出来事を観るような目で見ていた。



 その後は明日香の記憶も曖昧なのか、場面が断片的に流れていった。医師が母親に説明してる場面で唯一明日香が聞き取れたのは、“かろうによるしんきんこうそく”という言葉だった。


 今の明日香はそれがどういう事なのか理解出来るが、当時の明日香にはその言葉の意味が分からなかった。

 分かったことは、父の身体はここにあるがもうここに居ないこと。明日香達に微笑んでくれた父は遠くに行ってしまったという事だった。

 

 女性は泣いていた。それはもう狂ったように。

 その姿を見て沙夜に似た小さい少女も泣いていた。

 明日香に似た少女は、唇を噛んで母親と妹の姿をただ見ているだけだった。



 明日香は断片的な映像を眺めながら、当時の事を思い出す。

 父が居なくなった後、母は働きに出た。

 しかしそれまで働いた事の無かった母が選んだ仕事は、男の人を相手にする仕事だった。

 

 どのような仕事なのか明日香には分からなかったが、外で働く母の姿を見た大人達が好ましくない目で母を見て何かを話していたのは覚えている。

 沙夜の幼稚園のお迎えを明日香が代わりに行った時、幼稚園教諭達が明日香に哀れみの目を向けたのも覚えている。

 そしてある男の人の相手をした数日後、見知らぬ年配の女性が明日香達の家に怒鳴り込みに来た。

 それがきっかけだったのか分からないが、明日香達はこの住んでた家から引っ越しをする事になった。


 

 それは、段ボールに囲まれた布団の中で、少女が寝付けず起きている場面だった。

 隣で沙夜らしき小さな少女がすやすやと寝息を立てている。その寝顔を眺めながら、少女が父親から受け取った丸い玉を握りしめていた。


 その少女を少し離れた所から明日香が見ていた時、不意に少女の声が明日香の頭の中に直接流れてきた。


 

 お父さんがいなくなってお母さんはかわってしまった。

 今のお母さんは、わたしたちの事が見えてない。

 お父さんがいなくなって、お母さんにたよれない今、沙夜を守る人がいない。

 わたしが何とかしなくちゃ。わたしが沙夜を守らなきゃ。

 

──たとえ自分の身に何があったとしても、わたしが沙夜を守らなければ。


 お母さんが近所の人にうわさされてたのを知った時、わたしは悲しくて動けなくなった。

 町内会のえらい人が家に来た時、わたしはこわくて動けなかった。

 わたしが動けなくなった時に、沙夜の身に何かあったら、わたしは沙夜を守れない。


 ならば、その心はない方がいい。

 自分が悲しいとか、こわいとか思う心はじゃまだからいらない。

 わたしにひつようない心はいらないからすてる。

 そうしないと、わたしは沙夜を守れない。

 沙夜の事を守る為なら、わたしは、こんな心はいらない!



 少女の叫びが明日香の中に響いたその時、少女の中から黒とも白ともとれない光が浮き上がる。

 その光を見た時、明日香の背中にぞくりと悪寒が走り、唐突にあの時、閉鎖病院で会ったアリダの事を思い出した。

 何故だか分からないが、この光がアリダに似ている。明日香は直感的にそう感じた。

 そしてその光は窓の方へ向かい、そのまま暗い夜空の中に吸い込まれていった。



* * *



 胸の息苦しさで明日香は目を覚ます。

 ベッドと簡易的な棚しか置かれてない無機質な空間で、そこは明日香が知らない部屋だった。


 汗で額にべったりと張り付く前髪に不快感を覚えながらも明日香はよろよろと身体を起こし、今見た夢を必死に思い出していた。


 最後に幼少の明日香から出てきた光。それを思い出しながら明日香は、アリダに言われた言葉を思い出す。

 

 あの時、アリダは自分から生まれてきたと言っていた。

 最初はその意味が分からなかったが、夢の中で見たあの光。あれが自分から出てきた物、もしあれが()()()()()()()であったとして、それがアリダの元になっているとしたら──


 明日香の胸が再び痛み息苦しくなる。

 アリダは自分が創られた存在だと言っていた。

 そしてお友達が欲しかったからと、自分と同じ存在を創り出したと言っていた。

 紅葉含めた子ども達がかつての明日香と同じように、捨てた心を使って。

 そしてアリダと同じく創られた存在が増え、それらが子ども達を自身のマスターとして崇め、子ども達はロストファクターとなり、ロストを生み出し始めた。


 その全ての根源であるアリダの元になっているのが、かつての明日香が捨てた心だとしたら、ロストが現れるきっかけになったのは──


 ぎりっと明日香は左手で胸の部分を掴む。

 まるで何かを抉り出すように、皮膚に爪を立てて抓りあげる。

 それはどこか、自分に罰を与える様な仕草だった。

 そんな事をしても明日香の胸の息苦しさと不快感は消えない。もっと強い刺激を与えたい衝動が明日香を襲う。


 いっその事、ここに鋭利な刃物でも突き刺せば良いのではないか。


 気付けば明日香はベッドから起き上がり、その部屋から出ようとドアノブに手をかけていた。

書いてて分かりにくいよなあと思いながら回想シーン書いてました。

明日香が客観的に見てる視点は男性、女性と表現して

回想の明日香が見てる視点は父親、母親と関係性で表現しているつもりです(何かアドバイスあったらご指摘お願いします)

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