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第十三話【負の化身】(三)

三連休だから読む人が増えたら良いなと思います。

明日で十三話最後になります。

 鬱蒼と木が茂る森の中、今まで感じなかった風がふわりと空美の短い髪を撫でていく。高い木が生い茂っており、陽の光は殆ど届かず薄暗い場所だった。


「……なんだここは」

「え……なんやここ、うちらは病院の中におったはずやのに……。明日香さーん! 誠司さーん! どこおるんー?」


 奏は警戒心を強め周りを注意深く目を凝らしてる横で、空美は明日香と誠司がいないかと大声で叫ぶ。

 しかし明日香と誠司の声が返ってくる様子はなく二人が不審に思ったその時、前方から人影が現れた。

 先に気付いた奏がコアを刀に変えて構える。

 

「奏さん、どないしたんや」

「ギアを出せ、多分敵だ」


 奏は視線を逸らさず刀を構えながら前方を睨みつける。それを聞いた空美は顔を引きしめ、コアを自身の武器、伸縮自在の如意棒に変えて同じように構えた。


 やがて薄暗い森の奥から三人の人影が現れ、赤いフードを被った女性と、青とピンクの奇抜な髪と、赤と黄色の奇抜な服を着た男女二人組が現れた。

 

「……子どもじゃない。おそらくロストファクターと一緒にいたという男の仲間だ」


 表情を変えず淡々と話す奏の横で、空美はえ? と訝しむように奏を見上げた。三人の不審な影と奏を交互に見て、空美の目が動揺で揺らいだ。

 

「え、え、奏さん、あれが見えるん?」

「は、お前何言ってんだ?」

「いや、だってあれは──」


 空美が戸惑ってる横で奏が眉をひそめたその時、カリッと何かを噛み潰した小さな音がした。三人の人影のうちの一人が口の中で何かを齧り、ふーっと息を吐く。


 それが煙となって風に乗り奏と空美の所に届き、二人の鼻腔を甘い香りがくすぐった次の瞬間、奏と空美に猛烈な眠気と寒気が襲ってきた。

 咄嗟に奏は鼻を押えたが時すでに遅く、身体に力が入らずその場に膝を着いた。

 

「っくそ! しまった……っ」

「なんや、これ、寒っ……」


 空美も自身の震える身体を腕で抑えながらギアを地面に付いて崩れ落ちないように立つ。奏も刀を地面に付きながら前方を睨みつけるが、徐々に視界が霞んでいく。

 意識が遠のいていく中、二人の背後を強い衝撃が襲った。


* * *


 無機質な薄暗い病院の廊下で、明日香と誠司は不安げに辺りを見回す。先程まで共に行動をしていた二人が突如姿を消した事が理解出来なかった。

 

「どうしよう。二人ともいなくなるなんて」

「ここの曲がり角までは一緒だったんだ。はぐれるとか有り得ない」


 何か理由があるはずだと誠司が思考を巡らせるが、戸惑いと焦りで上手く頭が動かない。


 その時、動揺してその場から動けない二人の耳に、こつこつと何かが近付いてくる足音が聞こえてきた。無機質な病院に響くその音は、この状況には似つかわしくない不気味さがあった。


 明日香と誠司は眉間に皺を寄せながら警戒して暗がりの廊下を睨みつける。徐々に足音が大きくなり暗闇の中から姿を表したのは、金髪の長髪に帽子をかぶった青年だった。


「こんな所で何突っ立ってんだ?」


 二人の視線が面倒くさそうに口を開く青年を捉える。

 その青年は二人が見覚えのある人物だった。

 ロストが大量発生したあの時、誠司に助けを求めた男と明日香を攻撃してきた男。二人がその時出会った男と目の前の青年の姿は酷似していた。

 

「あなたは……」

「お前あの時の……!」


 誠司は青年を睨みつけながらコアに手をかざし銃に変えようとした次の瞬間、誠司の身体に何かが巻き付く感触があった。紐のような、しなやかで冷たい何かが、胴体へ、腕へと這い回り、まるで生き物のように身体を締め上げていく。

 

 次の瞬間、世界が白く弾けた。

ビリビリという擬音では到底表現できない、凄まじい衝撃が誠司の身体を貫く。筋肉という筋肉が意思とは無関係に硬直し、痙攣し、引き攣る。


「ぐああああああああ!!」

 

 熱い。いや、冷たい。痛みなのか、それとも別の何かなのか、もはや判別がつかない。神経という神経が悲鳴を上げ、脳髄に混沌とした信号を送り続ける。

 視界が明滅する。明るさと暗さが高速で入れ替わり、世界がストロボのように点滅する。


 誠司の身体から力という力が抜け落ち、膝から崩れ落ち人形のように床に横たわる。筋肉は微かに痙攣を続け、僅かに焦げ臭い匂いが鼻腔をかすめた。

 誠司を苦しめたこの細い紐が電気コードだということに気付いたのは明日香だけだった。


「誠司!」


 倒れたまま動かない誠司を見て明日香に身体中の血液が逆流するような衝撃が走る。我を忘れて男に殴りかかろうとしたその時、男は誠司と同じように明日香に電気コードを巻き付けた。

 それは意志を持った蛇のような動きで明日香の身体に巻き付いていく。普段の冷静に状況を分析出来る彼女だったら避けられたかもしれないが、今は誠司という大切な相棒が傷付けられた事により頭に血が上ってしまい不可能だった。


 刹那、明日香の身体にも強い電流が走り、痛みに耐えられず明日香はその場に倒れる。

 男は明日香を冷たい目で見下ろし、ギターを思いきり明日香の後頭部に振り下ろした。

 重い衝撃が明日香を襲い、視界が歪み、徐々に暗くなっていき意識が遠のいていく。

 

「お得意の弓使えば良かったのに、嬢ちゃん思ったより頭悪いんだな」


 冷たい視線で明日香を見下ろした男の呟きに、明日香が反応することは無かった。

空美はムードメーカーなので書いてて安心感があります。動かしやすいキャラは書いてて楽しいです。

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