表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/33

第十二話【ロストファクター】(二)

「改めて皆、先日はありがとう。今日はロストについて日々の研究から少し分かったことがあるので、情報共有する為に一度本部に集まってもらった。まずはこちらを見てくれ」


 章吾がそう言いながらスライドを出してプロジェクターを操作し、手元のタブレット端末を繋げる。

 スライドに端末の画面が映し出され、監視カメラの映像を切り取ったような画像が複数表示された。

 画像にはそれぞれ特定の人が写っていて、その中の一枚の画像を見て明日香が声を上げる。


「あ、あそこ、下の段の真ん中の写真、あれ私の母です」


 章吾が明日香の指さした画像を拡大した。


「そう、これは直近でロストになった人達だ。彼らがロストになった経緯を知る為に各地の監視カメラをいくつか確認したんだ」


 章吾が端末を操作しながら画面を変えるとまた別の新しい画像が表示される。

 先程のロストになった人達の他に、それぞれ子どものような人影が写っている。


「そしてこれが、そのロストになった人たちを調べてる時に確認された、ロストになった人達に接触したと思われる子ども達だ」


 複数枚表示されたその中の一枚の写真の中の人物に、明日香は見覚えがあった。


「あれ、右上の写真の子、どこかで見たような……飛渡さん、その画像拡大出来ますか?」


 章吾が手元の端末の画面を指で軽く叩くと、明日香の指定した画像が拡大される。それを見て明日香はあっと声を上げた。


「やっぱり……この子知ってます。妹のクラスに転校してきた子です。妹が私に紹介してくれたので、間違いないです」


 画面に映し出された子どもの容姿を見て、明日香はそれが紅葉だと確信する。


「彼女の名前は柊 紅葉。両親が離婚して、母親に引き取られて引っ越してきたそうだ」

「え、それって個人情報にならない? なんでそんなことまで分かんの?」


 誠司が疑問に思って質問すると、章吾は言いにくいのか苦虫を噛み潰したような顔をした。


「それなんだが……DSIがロストになった被害者の経緯を調べる時に公的機関と連携を取ってるのは知ってるな。その中には児童相談所もあって、この子は半年ほど前から放置子の疑いで通報が入ってて、三ヶ月前に一度保護されている」

「てことは、この子は何かしら闇を抱えてた可能性があるって事ですか? ロストになった人達みたいに」


 美琴の言葉に、章吾は眉間に皺を寄せて頷いた。


「じゃあ、この母と一緒に写ってる子も?」


 拡大された紅葉が写ってる画像が元の大きさに戻り、再び複数の画像が表示された所で明日香が指を指すと、また別の画像が拡大された。


「そうだ。彼の名前は桐原理人きりはら・りひと、年齢は九歳。母親から教育虐待を受けてる疑いがあり、児童相談所に通報が入っている」


 そこには拡大された影響で少しぼやけているが、短く綺麗に切り揃えられた短髪に眼鏡をかけた少年が写っていた。よく見てみると、すれ違いざま麻美の背後に手が伸びているように見える。

 章吾がもう一度画像を戻し別の画像を拡大する。理人という名の子どもが学校のような施設を歩いている画像だった。


「あ、これ俺の学校だ。あの時ロストになった奴もこいつが接触してたって事?」

「調べたらこの時学校説明会があったらしくてね。平日だが児童同伴可だったらしくてこの子も母親と一緒に来てたのが確認されている」

「状況的に不自然では無かったとしても、それにしては偶然が重なりすぎてるな……」


 章吾の説明に和真は訝しみながら顎に手を添える。わざわざ平日に学校を休ませて学校説明会に参加させるというのは普通だったらほぼないが、章吾の話した彼が教育虐待を受けてるというのが事実だとしたら有り得なくは無い。

 しかしそれとロスト発生の因果関係を証明するには違和感がある。


「私も否定したいのは山々なんだが、DSIもこの子ども達がロストとは無関係では無いという考えだ。ひとまずこの子ども達を、ロストファクターと呼ぶ事にする」


 明日香は章吾の言葉を声に出さず繰り返す。

 ロストファクター。ロストとなる要因。

 決定的な証拠が無くても、状況証拠がこの子ども達が関わってる事を物語っていた。


 その時明日香は今まで忘れてたある事を思い出した。


「そういえば……飛渡さん、私紅葉ちゃんに会ったんです。ロストが大量発生したあの時!」

「!? 明日香、それは本当か?」


 章吾を始め、全員が明日香に注目する。明日香はその視線に重要なことを伝え忘れてた罪悪感を覚え肩を竦めた。


「すみません、本当はすぐに話すべきだった重大な事なのに」

「明日香ちゃんは悪くないわ。あの時は色んな事が重なりすぎてたんだもの」

「明日香、今はその事は気にしなくていい。それよりも思い出せる範囲で良いから話してくれないか?」


 章吾の言葉に明日香はまっすぐ前を見て口を開いた。


「誠司と決めてた合流地点に向かってる時です。背後から突然襲われて、ギアを構えて振り向いた時見知らぬ男がいて……その男と一緒にいたんです」

「男と子ども……明日香、その男がどんなやつだったか覚えてるか?」


 話を聞いた誠司がふと顔を上げて明日香を見た。

「確か……金髪で帽子かぶってて、ギター持ってた。それで紅葉ちゃんのこと、マスターって呼んでた」


 当時の状況を思い出すように明日香は言葉を紡ぎ、そしてある事に気付く。


「そうだそれでロストが……ロストになった誠司が来て、それ見た男が“マスターの最新作”って言ってた!」


 それを聞いた誠司はがたりと音を立てて立ち上がり叫んだ。


「そいつだ! あの時助けを求めてる男がいたんだ。確かいとこを探してるって……、それで子どもがいて声をかけたら、そいつが俺の胸に何か刺してきたんだ! やっと思い出せた!」


 興奮した様子で話した誠司のそれを聞いた和真は、腕組みしながらははっと失笑した。


「どうやら本部長達が立てた仮説は正しかったようだな」

「そのロストファクターの子どもと一緒にいたという男は初耳だけど、無関係では無いでしょうね」

「ああ、おそらく他にも仲間がいると考えて良いだろう。少なくともロストファクターと呼ばれる子どもにつき一人はいそうだ」


 和真に続き美琴、杏がそれぞれの見解を話し、空美がスライドに映された画像を数える。


「てことはつまり、この子ども達の他にその男の仲間が、あと五人いるってこと?」

「少なくとも、男含めて五人いるのは確定だろうな」


 和真の訂正に空美はうわぁーと嫌な顔をする。ロストだけでも厄介なのに、それを裏で操作してる自分達と敵対する可能性のある勢力の存在などいたとしても考えたくないのだろう。


「それで、その子ども達は今どこに?」


 それまでの流れを傍観してた奏が口を開くと、明日香と誠司から聞かされた新たな真実に呆気に取られていた章吾が我に返ってその質問に答える。


「あ、ああそれなんだが……実はそれが本題なんだ。この子達は今、行方が分からなくなっていて、桐原理人は捜索願いが出てる事が三日前に確認されている」


 章吾が再びタブレットを操作すると先程の画像が全て消え、ひとつの建物が表示された。


「ただし街中の監視カメラを確認した結果、この廃病院の近くで姿を消したのではないかと私たちは見ている」

「なんか、いかにもって感じの建物だな」


 うっそうとした緑に囲まれた白い建物を見て、誠司が苦笑いする。


「実はこの建物なんだが、どうやら普通の人間には結界か何かの干渉があるみたいで中に入れないんだ。昨日本宮さん率いる埼玉支部の現地対策班が試してみてくれたんだが……」

「私は難なく入る事が出来たんだが、他の職員がはじかれたように追い出されてな。試しにドローンだけでも入れるか操作してみたんだが、何らかの電磁波が出てるようで入った瞬間故障してしまった」

「つまり中に入ることが出来るのは、俺たちセイバーだけって事か?」


 章吾と杏の話を聞き和真がそう聞くと、二人とも恐らくだが、と首を縦に振る。


「だが本宮さんはセイバーの中でもずば抜けて戦闘能力が高い貴重な戦力だ。そのまま一人で中に入るのは危険だと思ってね。そこで君たちにお願いがある」


 章吾は改まって明日香達の方に向き直った。


「先程和真君が言ったように、この建物の中に入れるのは君たちセイバーだけのようだ。このような決断をするのは心苦しいが……、飛渡誠司、白崎明日香、雨宮奏、綾瀬空美。君たちにこの建物の中に入り、行方不明になった子ども達を探して欲しい」

続きは16時に更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ