第十二話【ロストファクター】(一)
ここ最近忙しくて中々執筆の時間が取れませんでした。
秋って色んなイベントが目白押しですよね。
出来れば3ヶ月で完結まで書きたいのですが、出来るか分かりません。
無機質な白い蛍光灯が照らす執務室で、章吾は眉間に皺を寄せる。エアコンの規則正しい音が静寂な室内の中でひときわ存在感を放つように聞こえていた。
「そういう事なので宜しくお願いします。もう一度言いますが、これは決定事項です」
黒いスーツに身を包んだ偉そうな中年男性が淡々とそう言うと、執務室を後にする。バタンとドアが閉まった音が聞こえると章吾は張り詰めた糸が切れたように執務室のソファに腰を下ろした。
「飛渡本部長、大丈夫ですか?」
白衣を着たDSIの職員が心配そうな表情で章吾の様子を伺うと、章吾は少しだけ笑みを浮かべた。
「いやー、中央の人の相手は何度やっても慣れないねえ」
「そんな事無いです。本部長の優しさに付け上がってるだけですよ。いつも高圧的なんですから」
職員が不満げに言った言葉に章吾は苦笑いをすると、ローテーブルに中央の男が持ってきた資料を置く。職員がそれを手に取り少しだけ目を通した後顔を上げた。
「大丈夫ですよ飛渡本部長、何かあったらこれは自分が引き受けます」
「いやしかしそれでは」
「貴方は優しい。それが弱点になる時もありますが、貴方の最大の武器だと自分は思います」
章吾が心配そうな表情で職員を見るが、職員の決心は揺るがなかった。
「貴方は何があってもあの子達の味方でいて下さい。こういうのは自分の仕事です」
静かな執務室に職員の声が響く。章吾はその言葉に是を唱えず、もう一度資料に目を向けた。
色々調べたであろう神話や伝えられた話の資料の中に、明日香の顔写真が貼り付けられた資料が混ざっていた。
ロストの大量発生から五日が過ぎた。慌ただしかったDSIも今は少しだけ落ち着いており、夏特有の強い日差しがDSIの施設を照らしている。
明日香が保護室のドアをがちゃりと開けると、身支度を整えた誠司が出迎えた。
ロストになってしまった影響で身体が思うように動かなくなっていたが、どうやらそれも治ったようですっかり元気になっていた。
「体調大丈夫?」
「もうすっかり良くなった。心配かけて悪かったな」
誠司の言葉に明日香は微笑みながら首を左右に振り、一緒に保護室を出た。
先日応援に来てくれた各支部のセイバーも交えて大事な話があると章吾から言われていて、先程全員本部に着いたと受付から連絡が入り、二人はセイバー達が集まる会議室に向かった。
途中明日香の足が止まりそれを誠司が訝しんで振り向く。
「どした?」
何か言いたそうな雰囲気を察知して誠司が首を傾げると、明日香は少し間を置いていつも通りの淡々とした口調で口を開いた。
「……飛渡さんに聞いたの。誠司の過去」
それは先日誠司がロストになってしまった原因の一つである過去、誠司にとっては思い出したくないかもしれないが、それでも大事な実の母親との思い出の過去だ。
「うん、俺も父さんから聞いた。明日香に話したって」
「そっか……」
「それがどうかしたか?」
「……ううん、ただ誠司に伝えておこうと思って」
明日香は誠司の顔色を伺っていたが、そこには必要な感情だけが感じられた。
大事な過去を保護者とはいえ第三者から聞いた事に少しでも負い目を感じているのだろうか。気にしなくても良いのにと思った誠司は口を開く。
「俺の方こそ悪かったな、覚えてないとはいえ、お前に怪我させちまって」
「え?」
唐突に今話してた事と違う事を話されて明日香は戸惑うが、話してる内容が彼が先日ロストになった時の事だと言う事に気付き明日香は少し苦笑いをする。
「それはもう気にしてないって、一昨日言ったじゃん」
「そういえばそうだったな。でもまあ、そういうことだよ」
誠司の言葉に明日香は首を傾げる。
「それどういう」
「いやこっちの話。そろそろ行こうぜ、あまり待たせたら悪いだろ」
言葉の意図が読み取れず訝しむ明日香を他所に、誠司は再び歩き出す。
明日香は気になりつつも誠司の後を追った。
会議室の扉を開けると「お、やっと来たな」と一人の背の高い短髪で後ろ髪が少し立っている青年が二人に声をかけた。
明日香にとっては初めて見る顔だったが、誠司の様子を見るとどうやら既に面識があるようだった。
青年の右隣、会議室の入口方面に沙夜より少し歳上に見える小さな少女が座っていて、反対側、会議室の奥には杏が座っていた。そして杏の向かいの席からがたりと音がして目を向けると、美琴が立ち上がって明日香の方へ来た。
「明日香ちゃん! 怪我はもう大丈夫なの?」
「えっと、はい、もう大丈夫です」
「良かった〜」
美琴は安堵し明日香にぎゅっと抱きついてきた。美琴とは先日のロスト救出の際に明日香は面識があったが、誠司は無かったのでその様子に少し戸惑っていた。
「美琴、とりあえず改めて自己紹介したらどうだ? 明日香と誠司だけじゃなく、お前たちも私以外ほぼ初対面なんだろう」
杏が声をかけると美琴は少し恥ずかしそうに苦笑いして席に戻った。その時美琴の左隣に奏が静かに座っていた事に気付いた。
明日香と誠司が席に着いたところで男性が口を開く。
「じゃあ俺らからな。DSI千葉支部所属、綾瀬和真だ。誠司とはこの間軽く挨拶したな」
「同じく、DSI千葉支部所属のセイバー、綾瀬空美や。うちと和真、こう見えて兄妹なんやで」
和真と名乗る男性の隣で前髪を左右に分けて後ろに流し、耳の上で束ねた少女が元気よく自己紹介をする。
和真の言葉に誠司が軽く会釈をすると、次は私たちがと美琴が話し出した。
「DSI神奈川支部所属、神崎美琴です。明日香ちゃんとはこの間会ったわね」
美琴が明日香ににこりと微笑みかけ、明日香も誠司と同じように会釈する。そして美琴が隣に座る奏に「ほら、奏も」と声をかけると、奏は面倒くさそうに顔を上げて口を開いた。
「DSI神奈川支部所属、雨宮奏」
ぶっきらぼうにそれだけ言うと腕を組んで目を逸らした。杏以外の双方が自己紹介をした所で明日香と誠司は立ち上がった。
「DSI東京本部所属、白崎明日香です」
「同じくDSI東京本部所属、飛渡誠司です。先日はここ東京のロスト救出の応援に来て下さり、ありがとうございました」
そう言うと誠司は頭を下げ、続けて明日香も頭を下げた。
「そんな畏まらなくて良いって。困った時はお互い様だ」
「元々セイバーの人数は少ないからね。一人で救出活動なんて杏姉さんぐらい強くないと出来ないもの」
「杏さん、あの時ロスト三体も助けたんやって! しかも一人で。うちもあの時少しだけ一人でロスト追いかけてたけど、やっぱり和真がおらんとしんどかったわ」
「だから、あの時一人でロスト救出に行ったお前たちは度胸がある。誇りに思っていいと俺は思うぜ」
和真、美琴、空美がさほど気にした素振りもなく言い切った言葉に二人は目を見開いて顔を上げる。三人は一片の曇りもない笑顔で、杏も落ち着いた笑みを浮かべている。
それを見た二人は緊張が少し和らぎほっと一息を入れた。
その丁度場の空気が和んだ所で再びドアが開き章吾が入ってくる。
「お、皆揃ったようだな。自己紹介は出来たかい?」
「ああ、ちょうど今終わった所だ」
「そうか、そしたら私から本題に入らせてもらおう」
章吾がにこやかに笑いながら演台に立つ。
全員がそれで席に着くと章吾が話し出した。
続きは12時に更新します。




