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第九話【風と刃の援軍】(二)

 容赦なく切り込んでいく少年の切っ先をロストが躱していく。切断された腕が再生し始め、即座に両腕をガトリングに変形させると少年に狙いを定めた。

 

 轟音と共に弾丸の嵐が放たれる。しかし少年は動じなかった。刀を構えたまま、まるで舞うように身体を動かす。

 左から、右から、上から――あらゆる角度から襲い来る弾丸を、少年は一つ残らず刀身で弾いていく。

 

 キィン、キィン、キィンと金属音が連続して響く。弾丸の軌道が手に取るように分かるとでも言うように、少年の刀は寸分の狂いもなくそれらを迎撃していた。

 ロストの攻撃が止んだ瞬間を少年は見逃さず、地面を蹴り、一気に敵との距離を詰める。 刀を上段に構え、ニードルが見える心臓部目掛けて振り下ろした。

 

 しかしロストは攻撃の瞬間、身体を横に捻って回避する。刀はロストの胸を浅く切り裂いただけに終わった。 少年は素早く間合いを取り直し、再び刀を構えた。屋上に緊張が走る。

 

「……美琴、聞こえるか?」

『……ザザッ、ザー…………』

 

 少年が無線に向けて呟くが、そこから聞こえるのは砂嵐だけだった。

 

「ちっ、やっぱり電波障害か」

 

 少年が舌打ちをしてロストを睨みつける。

 ロストの腕が変形し、ガトリングから鋭利な刃に変わる。それでロストが少年目掛けて刃を振り下ろし、少年が刀で防御する。

 

 両者一歩も譲らぬ中、ロストがもう片方の腕のガトリングを少年に向けて撃つ体制になり、少年が後ろに跳んで距離を取った直後弾丸が放たれる。

 咄嗟に少年は避けたがその弾丸は背後の明日香目掛けて飛んで行った。

 

「くそっ!」

 

 少年が焦ったように振り向いた視線の先、明日香の目の前で突風が吹き思わず目をつぶる。

 明日香目掛けて飛んできた弾丸が高い金属音を立てて何かにぶつかり弾け飛んだ。

 

 突風が止んで明日香がおもむろに目を開けると、目の前に二丁の鉄扇を盾の様にして構えたポニーテールの少女がロストの攻撃から庇うように立っていた。

 

「奏! こっちは任せて!」

 

 少女が叫ぶと少年は頷き、再びロストに向かって行く。 少女がそれを見届けると明日香の傍に駆け寄ってきた。

 

「遅くなってごめんね。よく分からない結界に囲まれてて動けなかったの」

「けっ、かい……?」

 

 その言葉に明日香が辺りを見回すと、屋上が白い煙のような物で覆われていたことに初めて気が付いた。

 

「無線で連絡してたんだけど応答が無かったから、奏が強行突破したんだけど、無事でよかった」

「そ、う……?」

「あの子の名前、雨宮奏あまみや・そう。私は神崎美琴かんざき・みこと、神奈川支部のセイバーよ」

 

 そう言って少女、美琴はにこりと微笑んだ。 高校生くらいだろうか、明日香達よりも歳が上のような見た目で落ち着いた雰囲気で、明日香は少し安心感を覚える。

 

「ありがと、ございます……わた、しは……っ」

「無理しなくていいわ。明日香ちゃんでしょ。誠司くんもいるって聞いたんだけど……」

 

 美琴が辺りを見回すが、誠司の姿が確認出来ず訝しんだ。それにより明日香の中でロストの正体が確信に変わる。

 奏とロストの方へ目を向けながら明日香は静かに口を開いた。

 

「……多分、なんですけど…………あのロス、トが……」

「……それは確かなの?」

「私も、最初はわからなか、った、けど……でも……多分、その可能性が、高、い、です……っ!」

 

 苦しそうに話しながら明日香は身体を起こそうとしてよろめき、それを美琴が支える。

 明日香の言葉に美琴は眉をひそめて奏とロストを見る。 ほぼ互角の戦いをしているがやはり一人でロストの相手は荷が重いようだ。

 

「ちょっと行ってくるわ。大丈夫、明日香ちゃんの事は守るから」

 

 そう言って美琴は明日香に微笑むと、奏の所目掛けて走り出した。


 

 ロストのガトリングが唸りを上げる。奏は先ほどと同様に弾丸を弾き続けるが、ロストも学習していた。

 左右から交互に攻撃を仕掛け、奏の動きを制限しようとしたその時、屋上に突風が巻き起こり、ロストの弾丸の軌道が大きく逸れる。

 

 奏が振り返るや否や、美琴の二丁の鉄扇が天からロストに振り落とされる。ロストは咄嗟に避け、二人から距離を取った。

 

「ごめん、遅くなった」

「大丈夫だ、問題ない」

 

 奏が答えながらもロストをじっと見続ける。 奏との攻防戦で僅かに体力を消耗しているのか、ロストの動きは最初より鈍くなっていた。

 

「あいつは?」

「大丈夫、今は無事よ。だけどその、あのロストが……」

 

 美琴が言い渋るが、奏は特に気にしたふうもない様子で、なるほどと呟く。

 

「やっぱりあのロスト、もう一人の東京本部のセイバーか」

「……確信は無いけど、そうみたい。一気に畳み掛けた方が良いわ」

「だな。持久戦は意味無さそうだし」

 

 奏が淡々と答えると同時に、再びロストに向かって駆け出した。

 今度は美琴の風が奏の背中を押し、その速度は先ほどの倍近くになっている。

 ロストが両腕を刃に変形させ、奏を叩き切ろうとする。しかしその瞬間、美琴が右手の鉄扇を大きく振るった。

 鋭い風の刃がロストの腕を襲い、その軌道を逸らす。奏はその隙を縫ってロストの懐に潜り込んだ。

 

 ロストが左腕を鞭のような形状に変化させ、奏を薙ぎ払おうとする。だが美琴が両手の鉄扇を同時に振るうと、奏の足元から強烈な風が吹き上がる。

 奏は風に乗って高く舞い上がり、ロストの攻撃をかわした。

 

「今よ!」

 

 空中から振り下ろされる刀。しかしロストは腕をガトリングに戻し、上空の奏を狙う。

 美琴の鉄扇が描く円弧と共に、弾丸を遮る風の壁が現れた。弾丸は全て風に呑まれ、奏に届くことはない。

 

 着地した奏は即座に横薙ぎに刀を振るう。ロストが後方に跳躍して避けようとした瞬間、背後から突風が襲った。

 

「逃がさないわよ!」

 

 バランスを崩したロストに向かって、奏が渾身の突きを放つ。刀の切っ先がロストの胸のニードルを深く貫いた。


 

「……すごい」

 

 奏と美琴の見事な連携を見た明日香が思わず声をこぼす。無駄のない攻撃が的確にロストにダメージを与えていき、極力ロストを苦しませずに戦う。 二人の戦いはまさに理想のセイバーの戦い方だった。

 

 明日香は眉間に皺を寄せて拳を握る。

 自分は今まで誠司とどのようにロストを救出してきただろうか。無駄な動きでロストをいたずらに苦しめていなかっただろうか。二人の戦いを見て学ぶ事が多く、同時に反省する事も多かった。

 

 いつの間にか弓は水晶のコアに戻ってしまっていて、ロストの救出の支援すら出来なかった。

 ニードルを壊されたロストが力なく倒れ、黒いモヤに包まれていく。その中心から気を失った誠司が姿を現した。

 

「誠司……!」

 

 やっぱり誠司だった。どうしてロストになったかは今はどうでもいい。一刻も早く明日香は誠司のそばに行きたかった。 誠司は明日香にとって、セイバーとしての相棒だから。

 

 鉛のように重くなった身体を起こし立ち上がり、一歩、二歩と足を進めるが、ぐらりと視界が揺れて暗くなる。

 美琴がこちらを見て血相を変えて駆け寄ろうとした所で明日香の意識は途絶えた。

奏と美琴も学生の頃に出来ていたキャラです。

こちらも小説には起こせてなかったのでやっと出してあげられたという気持ちで感慨深いです。

書いててご都合主義展開多いかなと思いましたが、私の死生観的に創作の中ぐらい希望があっても良いと思ってるので開き直ることにしました。

一応理論的な矛盾は極力消してるつもりなので、はい。

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