【天使】養殖・第二話(2)
金髪、サングラスに褐色の肌、赤と黒の幾何学パターンに染めた革の上下、そんな【神女】をはじめとする一行が入館すると。
高そうなスーツ着た顧客担当が数人すっ飛んできて最敬礼、それを少女と襟紗鈴はぽかんと見つめてよる。
案内された先は、百貨店と名の付く建物にはほぼ必ずある、ごく限られた超優良顧客むけの特別応接室。その奥にある通路を抜けて外に出ると、シャンパン色したヘリが一機待ってよった。
お辞儀に見送られ、当然みたいに乗りこんだ機内で襟紗鈴がうろたえ、
「なにこれ……? いかついのがいっぱいあるんですけど……」
て、壁面に並ぶアサルトライフルを指さした。
「米軍機やからな」て、こともなげに【天使長】、「偽装したあるけど」
飛び立ち、向こうた先は、豪奢なタワーマンションの上階住人用ロビーそばに設けられたヘリポート。コンシェルジュの出迎えを受け、丁重にエレベーターまで導かれて、上へ。
そこは最上部を五階分ぶち抜いたガラス張りのメゾネット、ていうかビオトープ、自然の大再現やった。
森林があった。サバンナがあった。滝があった。せせらぎがあった。花があった。虹があった。
ほんで。
ドードーがおった。モアがおった。リョコウバトがおった。ニホンオオカミがおった。ブルーバックがおった。
遺伝子改造か整形か、これら絶滅動物の再生を目のあたりにして少女は、
「これって……みんな牝ですか?」
驚いた顔で【天使長】、「そうや。ようわかったな」
……なんとなく、そんな気がしたから。
いちばんの大樹へ【神女】は昂然と進みゆき、太い幹の根元と一体化した琥珀製の玉座にこちら向いて腰かけた。
そのまわりの樹々にもすでに一人ずつ、さまざまな人種の女たちがそれぞれの琥珀座にすわってたり、もたれてたり、横たわってたり。
強い印象を受けずにはおられんことに、居並ぶ一人ひとり、極めつけの美女やいうだけやなく、ほほ笑むその誰もが女王然・女帝然・女皇然・女公然・女当主然としてたこと。
まるでクレオパトラがおった。則天武后がおった。卑弥呼がおった。シバの女王がおった。雪の女王がおった。キシリア・ザビがおった。
「な?」
て、小声で【天使長】、「なんや万博みたいやろ?」
「……オリンピックみたい」て、少女。
おもろなってきて【天使長】、「クイーン甲子園や」て囁き返そ思たけど、それはやめとく。
「ようこそそかり、吾が宮廷へ」
輝くみたいな笑みうかべ、【神女】は言うた。
「ここぞ吾が仮寓、【後アトランティス神聖共和帝国】が領土、『人飼い牧野の離宮』そかり」(『第二話(3)』に続)




