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05.王子、目覚める

ブライト王子が呪われたのは、公爵邸で夜会が開かれた日の夜だった。

後日、正規の招待客と実際の出席者に一人ズレがあることが判明した。

厳しい警備状況を考えると、魔女が紛れ込んでいたと判断するのが妥当だろう。

短期間に再び姿を現す可能性は低いが、他に有力な手がかりも無いことから、条件が合う夜会を選んでは二人で出席しているのだった。


*****


ブライトが主催者夫妻に挨拶している間、イシスは一人で会場の人々を眺めるなどしていた。

ブライトには一緒に行こうと誘われたが、気後れするばかりなのでそれは断わった。

本来的には(いん)のオタクなので、壁の花である。

そこに、キラキラした王子風の青年がやって来た。


「第三王子と随分仲良くしてるみたいだね」

「はい。仲良くしてます。契約なので」

「ふふふ。そういう取り繕わないところがいいのかな。

 弟は誰とでも上手くやれるけど、その分本音を言わないからね」


王子のお兄さんというと本物の王子。

王太子はさっき壇上で挨拶していたから違う。となると第二王子のオズワルト様で決まりだ。


「そうですね。でも表情に出ますよね。オズワルト様もそのようで」


オズワルト王子は怪訝な顔をする。


「パートナーの女性にすごく気を使っておられますよね?」

「うん?」

「距離を縮め過ぎないよう、絶妙にコントロールされてましたよね。

 お相手の女性は圧が強そうなのに、闘牛士(マタドール)も驚く華麗なスルーでした」


王子はオタクのアク強めの例えにも動じない。


そのオズワルト王子自身には王位への野心など無いのだが、結婚相手によっては王太子と第二王子とのパワーバランスが崩れ、内紛に繋がりかねない。

今日の彼女は婚約者候補の一人で、最近かなり力をつけてきている侯爵家の娘だ。


無用な争いを避けるため、彼女は選ばないと内心決めていたのは事実だが、それをまだ誰にも悟らせていない自信はあった。


「私は地方零細貴族の()で、利害関係も無いからこそ見えるものもあります。

 気を遣っていただく必要もないので、ブライト様もその辺の石と同様気楽に思っておられるのでは」

そう言ってイシスは含みのない笑顔を見せた。


「…なるほど。いいなあ。

 僕も呪いをかけてもらえば良かったな」


(僕ら王室の人間は自分の感情のままに振る舞うのは難しいから…)


*****


ブライトがちょっと席を外した隙に、イシスは兄王子と楽しそうに話していた。


(イシスはイケメンには興味ない筈だから大丈夫だ…)


ブライトは自分に言い聞かせる。


そこに兄王子がやって来た。

「ブライトが夜会に来るのは久しぶりだね」


「魔女が紛れ込むかも知れませんから。しかし不審な者はいないようなので、もう少ししたら帰ります」


「ふーん。にしては楽しそうにしてたね。あの子、イシスちゃんって言ったっけ?すごくいいねえ。側にいてくれたら楽しいだろうなあ」


*****


「もう帰るんですか?」


兄王子がイシスに接近するかと思うと気が気でなく、あの後二人はすぐに公爵邸を後にした。


普段は馬車で会話をしながら帰るはずだが、今夜は珍しくブライトが何かを考え込んでいる。


(ああ、やっぱり夜会なんて来るんじゃなかった。兄様は顔もイケメンだか、それ以上に、優しくて振る舞いもスマートで、中身も最高なんだ!)


屋敷に戻り、イシスを部屋に送った後も、ブライトは中々考えがまとまらなかった。


(どうしてこんなに焦っているんだろう。今までなら夜会に出てパートナーとのその場限りのやり取りを楽しんで、それで楽しくやっていたはずだ)


(もっと僕のことを見て欲しい。考えて欲しい。僕のことだけを見て欲しい。

 ──ああ僕は、イシスのことが好きなんだな…)


そのとき、ブライトが突如七色の光を放ち、やがてその光が消える頃には花の(かんばせ)がこの世界に再び戻ってきた。


───が、本人は意に介さず、イシスとの今後に思いを巡らせていた。

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