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友達にお金を貸したけど、返してくれないから催促した

作者: 宮野ひの

「……ごめん。先月カフェで立て替えた1,000円、いつ払ってもらえるかな?」


「あっ。忘れてた」


 つぐみは、しまったというような顔をした。ゆっくりと自分のカバンに手をかけて、財布を取り出す。


「もっと早く言ってくれたら良かったのに」


 上目遣いで私を見て、古銭入れから500円玉を2枚取り出す。そのまま私の手に置くものと思っていたけど、つぐみは手を引っ込めたり、前に出したり、余計なフェイントを加えた。


「……何?」


「いや、面白いかなって思って。……そんな怖い顔しないでよ」


 無意識のうちに、目つきが悪くなっていたのかもしれない。


 だけど、人から借りたお金で遊ぶなんてーー。私の中の許せない部分が反応していた。


 そういえば、つぐみから謝られていない。ごめんと言ったのは、お金を貸した私の方だ。何故、お金を返してもらう方が下手に出ないといけないんだろう。


 そんな私も、何故こんなにも、つぐみに腹を立てているのかわからなかった。対等な友達同士だからこそ、雑な態度を取られることが許せないのかもしれない。


 つぐみと遊ぶ約束をした今日だけど、もう家に帰りたくて仕方なかった。このまま午前から午後にかけて一緒にいなくてはならない。笑顔で振る舞えるだろうか。


「……なんか急に黙っちゃったね」


 つぐみがヘラヘラと笑う。場を明るくしようと努めているのかもしれないけど、私は愛想笑いすら返すことができなかった。


 私だったら友達にお金を借りたら、できるだけ早く返す。会う機会が作れないなら、電子マネーで送金する手段を選ぶ。


 友達に貸しを作ったまま、のほほんと日常を過ごすことなんてできない。こういう価値観だから、つぐみのやり方が受け入れられない。


 自分が許せないことを、友達がしていた場合、ーー許せるかと思っていたが、案外腹が立つことに気づいた。


 だけど、空気を悪くしている原因が私にあるのも事実だ。とりあえず笑え笑え笑え。


 口角を無理に上げたら、つぐみが、とんでもないものを見たというような顔をした。今にも吹き出しそうにも見える。


 あぁ、もう駄目だ。子どもっぽいと思われても良いや。


「ごめん。今日は楽しく遊べそうにないかも。帰っても良い?」


 ついに言ってしまった。


 何時間も我慢して一緒に過ごすのが耐えられず、遊びの約束を突然キャンセルしてしまった。


 きっと共通の友達に私の悪口を言うかもしれない。……別にどうでも良いや。今は一人になりたかった。


「えっ……」


 つぐみが動揺する。不意を突かれたような顔をした。


 私は人に流されることが多く、自分の意思で何かを断った経験も少ない。だからこそ、つぐみは違和感を感じたのかもしれない。予想外の反応をされると、人は固まるものだ。


「……ごめん。怒らないで。本当にごめん。き、今日は私がランチ奢るから。ねっ? 機嫌直してよ」


 すがるように、私の両腕を掴む。


 つぐみは、明るく元気で、のらりくらりとした性格をしている。今まで、こんな一面は見たことがなかった。


 ぞくっと胸を震わす感覚がした。血が湧き上がるような興奮を覚える。


「……別にそこまでしてくれなくても良いよ。私の方こそごめん。ちょっと、そこのベンチで休んでいい? 疲れちゃった」


「うん」


 数十メートル先に、木製のベンチがあった。


 私が先にベンチに向かうと、後からつぐみもついてくる。


 この感情はなんだろう。自分が誰の目も気にせずに、思った通りに振る舞えたことに対する感動なのかな。やけに気持ちもスッキリしていた。


 もう家に帰るしかないと思っていた予定が、こんな形で立て直すなんて思ってもみなかった。


 私が先に二人がけのベンチに座ったけど、つぐみは立ったままだった。隣に座ろうとしない。思いがけず見下されるような構図になった。


「つぐみも、隣に座って」


「……わかった」


 素直に従ってくれた。


 とりあえず、つぐみとは、対等な関係でいられるようにしたいな。お金の貸し借りも、あまりしたくない。


 そう思いながらも、私は先ほどの興奮を、もう一度味わいたかった。


 いつも私がつぐみに振り回されている構図が逆になっていた。私が怒ると、つぐみがすがるような目で見てくることってあるんだ。


 無言の間が続く。何か話した方が良いかなと感じるところ、グッと堪えた。


 つぐみが私の顔を覗いてくる。笑ってしまいそうなところ、腕で顔を隠して、頭を抱えるポーズを取った。


「どうしたの?」


「……」


 私はまるで3歳の子どものように、駄々をこねているのかもしれない。だけど、今日くらいは良いよね。


「ごめん。ちょっと目をつぶるね」


 そのまま黙っていれば良いものの、沈黙に負けて返事をしてしまった。


 ……つぐみが空気を読まずスマホを触り出したら、目を開けよう。


 そう思っていたものの、隣で動き出す気配は一切なく、ずっと見られている気がした。


 ここまで来ると、最初怒っていた気持ちも薄れて、どういう結末に持っていけば良いかわからず困ってしまった。


 私の未知なる領域。慣れないことはするもんじゃないなと思いつつ、とりあえず頭を抱えたポーズのままでいた。

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