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98話:年貢の運搬と来客。

 マルティナさんやディエゴさんたちがサイハテ村に来て数日が過ぎました。12月に入って年貢米の乾燥が終わり米俵に詰め込み作業が始まります。その時になって移住者16人の年貢のことに気づいてイチウ様に聞いてみました。


「移住者の方の年貢米も急いで準備しないといけませんよね?」

「彼らは冒険者ですから年貢はお金で納めているはずですよ。年貢時期の移住は前の居住地で納めないとそもそも町から出られませんから。米で納めるのは農民だけですので」

「そうなんですか?」


 先日収穫したお米は75石分、粟が50石分ありますので合わせて100人分の年貢分はあります。村民が34人、イチウ様やカージナルさん、リステ、ラプトルさんを合わせて38人分でいいそうです。わたしは貴族ですので年貢を納める立場ではないそうで、当然ワンちゃんであるアサヒナ様にも納税の義務はありません。


「それでは年貢は粟で50石(粟は2石でお米1石分なので)とお米を13石で納めることにしましょう」

「米を出来るだけ残すのは構いませんが、輸送量が25石分も増えてしまいます。マルティナ殿たちの馬をお借りすれば14頭になりますが、その問題は大丈夫なのでしょうか?」


 サイハテ村には馬がキナコとミタラシの2頭で、牛が7頭しかいません。9頭で運ぶ予定でしたがマルティナさんたちが馬を12頭連れて来て下さったので、2頭引きの馬車が7台作れます。それでも馬車1台に9石分、米俵22個以上積み込む必要があります。馬車の重量に米俵の重さ、それに人と馬たちの食糧が加わると、動かすことは出来たとしても王都までの長旅にはとても耐えきれません。そこでゴーレム馬車の出番です!


「ゴーレムで引くのは魔法がバレてしまいますので禁止ですよ?」

「それです。バレなければいいのです!」


 以前はゴーレムを小さな人型にして引かせていたのでまずかったので、今回の輸送ではゴーレムを車輪型にしました!馬車の4つの車輪を全てゴーレムにして、米俵を22個山積みにした馬車をわたしが引っ張ってみると簡単に動きました。


「これなら散歩感覚で引けると思いますよ?」

「・・・確かに・・・魔法にこんな使い方があるとは思ってもいませんでした。まるで魔導馬車ですね・・・」


 楽々引けることも分かったので7台での輸送に決まりました。納税には徴税官でもあるわたしか、代理のイチウ様が同行する必要があります。サラマンダーは倒しましたが、他の魔物の襲撃も予想されますのでわたしが同行しようと思いましたが、貴族がほいほいと動くものではないと叱られてしまいました・・・。他の町や村で貴族がわざわざ納める所などないそうです。元の世界で言えば、市長さんがジェラルミンケースを抱えて上京するようなものですしね。


「イチウ様、それでは納税はお願いしますね。カージナルさん、護衛部隊の指揮をお願いします。みなさんも気を付けて!」

「「行ってまいります」」


 7台の魔導馬車に御者兼護衛としてチーム「テング」の9人とリーダーのディエゴさん、イチウ様、カージナルさんに給仕係として村人の女性2人が同行します。ほとんど重さを感じない馬車を先頭のキナコたちが引っぱり始めます。サラマンダーも退治したので王都まで最短ルートで向かいます。年内には戻って来るそうなので全員で年末年始を迎えられそうですね。


「年貢の運搬は毎年村人総出でしたので、この時期は漁も農作業もできませんでした。今年は田植えや畑作業も出来ると思うと嬉しい限りですね」


 オイレボさんが感慨深げに王都へ向かうみなさんを見送っていました。ただでさえ苦しい農村で一ヶ月も留守にするのは大きな負担だったのでしょう。一ヶ月あれば先日初めて収穫した二十日大根や、ちょっとした葉物野菜も出来るのです。今年は元々の村人はほとんど村に残っているので全力で作業を進めますよ!


「オイレボさん!種もみの発芽作業はおまかせしますね。前回の4倍の田んぼですから気合を入れて頑張りましょう!」

「はい!すずめ様!」


 毎日の作物の収穫で地下に作った穀物庫がかなり一杯になってきました。それに年貢米を除いた村の収穫分が155俵もあります。このままでは全てを運び込むことが出来ないかもしれませんので、土魔法でもっと大きな穀物庫を作っておきましょうか。


 トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・


 あれ?また念話が来ました。また精霊シスターズからですかね?今度はなんでしょうか?


「わらび餅、通訳お願いしますね」


 頭の上のわらび餅を見上げると触手で作ったOKサインが返ってきました。念話をつなげてみるとやはり精霊シスターズからでした。わらび餅の通訳によると東の門にまたお客様が来たそうです。今度は30人ほどで豪華な馬車もいるそうです。


「え!?お貴族様が来たのですか!?」


 何の用かはわかりませんが、お偉い方を待たせては面倒くさいことになりかねません。


「アサヒナ様!東門までお願いします!」

『まかせてくださいな!行きますワンよ!』


 アサヒナ様の背中に飛び乗ると風魔法の後押しも加わって、文字通り風のように飛んでいきました。わずか数秒で外壁の上に辿り着くと、精霊シスターズに剣を向けている兵士の姿が幾人も見えました。その後ろには豪華な馬車があって、窓から顔を出して何か怒鳴っているおじさんの姿が見えます。


「早く門を開けろ!わたしを誰だと思っている!?」


 あ~・・・なんだか本当に面倒そうな方がやってきましたね。このままお帰り願いたいですけど追い返すわけにもいかないですよね・・・?


『あれは!?王都南東の港町、ハエナワ町の領主ポテコロ男爵ですワン!』


 色々ツッコミどころ満載なお名前ですね・・・。なんで港町でポテコロ男爵様なんでしょうか?デコボコした土気色なお顔にポッコリお腹の・・・、まあ見た目通りのお名前ですけど。でも実はいい人だったりとかしませんかね?


『あの方キライですワン!』


 良い人でもなさそうです・・・。しかし一応男爵様ですし、これ以上お待たせするわけにもいきません。おしゃべりの出来ない精霊シスターズが無視していると思っているようでかなりお冠ですね。


「剣を引いてください!」


 アサヒナ様に乗ったまま壁の上から飛び降りると、精霊シスターズと剣を持った兵士の間に立ちはだかります。


「な、何者だ!?」

「わたしはこのサイハテ村の領主、山田すずめ騎士爵です。ポテコロ男爵様とそのご一行の方とお見受けします。お待たせしたのは申し訳ありませんが、剣を抜くのは非常識ではありませんか?」

「騎士爵だと!?ウソをつくな!まだ子供ではないか!?」


 わたしが貴族だと言ったことが嘘だと思ったようで、兵士の方はなおも剣をちらつかせます。以前のわたしなら動揺を隠せなかったかもしれませんが、村に赴任してすぐに上げた精神耐性は大人並みにはなっているのです。


「訪れた先の領主であるわたしに剣を向けるとは何事ですか!男爵様の家臣の方だとて容赦はしませんよ!」


 わたしの恫喝に二人の精霊シスターズと頭の上のわらび餅が臨戦態勢をとりました。精霊シスターズは金色に光る水の槍をクルクルと回して兵士に突きつけ、わらび餅は同じく金色に輝く剛腕を2本生やし、わたしの頭の上で腕組みします。


『わたしも唸り声でも上げておきますワンね』


 うぉーん!


 アサヒナ様も協力してくださるようですが、それは遠吠えですよ。


「男爵、すずめ君は王都直轄地を任されている国王の代理でもあるんですよ」


 こ、この声は!?男爵が窓から顔を出している馬車の反対側の扉が開き、一人の男性が降りてきました。


「貴族としての位はあなたの方が上でも、この地ではすずめ君は国王に次ぐ権限をもっているのです」

「なんであなたが!?」

「久しぶりですね。すずめ君」


 国王に次ぐという権限を行使して王都にお帰り頂きましょうか?ヨシヒデ殿下の襲来です・・・。

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